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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第五章◇進行中】  作者: かみながあき
第四章◆中等部二年生編(前期)

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十四話◆窓を開けて ★

あらためて、魔法が使えるようになって良かったなって思う

 

 待ちに待った翌日!

 僕は授業中もずっと、ダリルさんとの"約束"のことばかり考えていた。


 帰り支度の最中に気付いたんだけど。

 そんな状態でも、機械的に授業の板書は全部ノートに書き留めていたらしい。

 

 でも。

 自分でもよく分からないうちに、研究についての思考が至るところに書き散らしてあって。

 しかも中には『僕が現在自覚している以上の見解』まで綴られていて、上の空の間に何があったのか、余計な謎が生まれてしまった。

 

(なんだろう、これ……。もしかして、"無意識下の変化"……だったりするのかな……?)

 

 よく分からないけど、悩むのはダリルさんに会ってからでいいや。

 そんな雑な結論を出した僕は、とりあえずノートも適当に鞄に突っ込んだ。


「……ねぇ。随分と浮かれているけど、流石に泊まりがけになんて、ならないでしょうね?」

 

 忙しなく支度をしている僕に、アリシアが声を潜めて尋ねてくる。


「泊まりって…………あのさ。僕一人でなら時間も忘れちゃうかもだけど、ダリルさんが居るのにそんなの許してくれるわけないでしょ……」

 

「それならいいけど。この前みたいに、連絡も無しに帰って来ないのは、もうやめなさいよ?」


「……う……うん。ごめん」

 

 うっかりうたた寝をして、"やらかして"しまったあの日のことだろう……。

 自分でももう忘れたいから……事情を知らないから仕方ないとはいえ、出来ればそっとしておいて欲しい。

 

「……っ、じゃあ……みんなまた明日!」

 

 「おう」とか「あまり無理はするなよ」とか、みんなの短いけど温かい言葉を聞きながら。

 昨日に引き続き、僕は急いで教室を後にした。

 

 なんてったって、今日は『ダリルさんからの頼まれごと』なんだから。

 張り切らないわけがない!

 

「……今日捕まったらほんとシャレにならないから、絶対にダミアン・キャンセルしないとね…………よっ、と!」

 

 そんな独り言を漏らしながら。

 僕はあたりに誰もいないことを確認すると、手近な窓を開けて飛び降りた。

 

 こんな事して大丈夫かな?なんて、ほんの一瞬だけためらったけど、どうしても気が急いてしまった。

 

「……《風羽(フェザー)》!」

 

 風魔法で着地を補助して、三階から一気にショートカットを決める。

 さすがに日常的にやろうとは思わないけど、今日だけはRTA(タイムアタック)気分で急いだっていいよね、なんて。

 

 やっぱり屋外は暑いけど、いつもより爽やかに感じる風を浴びながら、僕は研究棟まで駆けていった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

「ダリルさんっ、来ました!今日も大好きです!」

 

「わっ、アシェルくん!? ……い、いらっしゃい……?」

 

 浮かれすぎて、ノックも忘れて飛び込んでしまった僕に、ダリルさんがびくっと跳ね上がる。

 やらかした……。

 今のは完全に僕が悪い。

 

「ご、ごめんなさいっ。ノック忘れて……」

 

「……いいよ、ちょっと驚いただけだから……」


 そっと自分の胸に手を当てながら、苦笑いで許してくれるダリルさん。

 ごめんなさい、ダリルさん……。

 びっくりして飛び上がるの、なんか猫みたいで可愛かったです。

 

「今度から、ちゃんと気をつけますね……」

 

「ふふっ。じゃあ、そうして?」


「はいっ。もしまた忘れたら、叱ってください」

 

「大袈裟だなぁ…………って、アシェルくん汗かいてるね……。またここまで走って来たの? そんなに急がなくてもいいのに……」

 

「え、いや……これは……」

 

 早く会いたい気持ちが抑えきれなかっただけです。

 ……とは言えなかった。

 

「もうだいぶ暑いんだから、あんまり無理しないで。……はい、これ。それと、今日は熱いのはやめて、アイスティーにしておこうね」

 

 これ、と言って、ハンカチを差し出してくれるダリルさん。

 僕は、自分のハンカチがあるけど、黙ってそれを受け取った。

 

(やばいやばいやばいやばい……ハンカチすらいい匂いする……!)

 

 額の汗を拭いながら。

 ふわりと漂ってくる甘い花のような香りに、眩暈がしそうになる。

 

 僕がオロオロしている間に、ダリルさんはもうお茶の準備を始めていた。

 あまり広くない室内に広がる芳香に、少しずつ心が落ち着きを取り戻していく。

 

「……あの。ハンカチ、洗ってからお返ししますね……」

 

「え? うん……そうだね、そういうものだよね」


 ちょっと不思議な返事をするダリルさんに、ほんの少しだけ違和感を覚えたけど。

 でも、どこがどう変なのかはよく分からなかった。

 

 ポケットに突っ込むのは何か違う気がして、借りたハンカチをそっと鞄に仕舞う。


 そのあとは。

 ほとんどやる事は残ってなかったけど、少しだけお手伝いをして、ふたりでお茶の準備をした。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

「どうですか? ここまでで、分かりにくかったところとか、あります?」

 

 昨日話したようなイデアの説明を、今度はできるだけゆっくりと噛み砕いてダリルさんに話した。

 合間にもたまに質問されたりしたけど、改めて説明が不十分じゃなかったかどうかの確認をする。


「うん…………頭では、理解できたと、思う」

 

 自信なさげに答えるダリルさん。


(え? 頭で理解できたんなら、それってもう完璧なんじゃないの? ……ダリルさんは、なにが気に掛かってるんだろう……)

 

「どこが引っかかってるんですか?言ってくれれば、もっとちゃんと説明できるかもしれません」

 

「あ……ごめんね。引っかかってる……とかじゃ、ないんだ。ただ、ちょっと気持ちの面で受け止めきれなくて……」

 

「気持ちの面……ですか?」

 

 なんとなく気まずい空気になりかけて、このままじゃ良くない流れになりそうだと思った。

 ダリルさんが言いにくそうにしていることに、踏み込むつもりはないから。

 僕は、漂い始めたモヤモヤを払うために、ある提案をすることにした。


「ねぇダリルさん。まずは一回、イデアに入ってみませんか?」

 

「……え?」


 僕の提案に、ダリルさんは一言だけ声を漏らしたあと、時間が止まったかのようにフリーズしてしまった。

 そんな彼に、僕はわざと空気を読まずに、明るく笑ってみせる。

 

「"習うより慣れよ"ですよ、きっと。実際に見てみれば、案外すんなり受け止められちゃうかもですよ?」

 

 なんともいえない沈黙が続く。

 耐えきれずに、僕が紅茶に手を伸ばそうかと考え始めたとき。

 

「…………うん。やってみる」

 

 ダリルさんが、戸惑いの中にも確かな決意を滲ませて、頷いた。

 

 優しくて、涙もろくて。

 そして、見た目によらず、とても芯の強いところがあるダリルさんは。

 普段は可愛らしさにばかり目が行くけど、たまにとんでもなく格好良い……。

 

「好きです」

「……えっ……!?」


「や、間違えました。…………やりましょう! イデアに入って、見てみましょうよ。僕も全力でお手伝いしますから!」

 

 思わず漏れた本音を誤魔化すように、勢いに任せて言い切る。

 ダリルさんは、またしばらくぽかんとしたあと、ふっと表情を和らげて笑った。

 

「ふふっ。ありがとう、アシェルくん。初めてだから、分からない事だらけだけど…………やり方、教えてくれる?」

 

「はいっ。もう、全部任せちゃってください!」

 

 つい、食い気味で答えてしまう。

 ダリルさんに教えを請われる日が来るなんて、夢みたいだ。

 

 ずっと、追い付きたくて、必死で背中を追いかけていたはずなのに。

 少しずつでも、僕らの関係も対等に近付いているのかな。

 なんて、ふわふわとした喜びが胸を満たしていく。

 

「今からもうやってみますか?」

 

 ニヤけそうになるのを堪えて、頑張って普通に見せようとする僕。

 ダリルさんは、「うーん……」と、何かを考え込んでから、おもむろに口を開いた。


「……それなんだけどね。アシェルくん、先にこの魔石の解析のほう、やっておかない?」

 

「へ? 解析ですか……?」

 

 予想外の言葉に、間の抜けた声が出てしまった。

 僕としてはどっちでもいいんだけど。

 ダリルさんは、早く自分の研究を進めたいはずなんじゃないのかな。

 

「うん。別に、これをそのままアシェルくんに返して、好きに解析してもらっても良いんだけど……」


「なにか問題でも?」


「……アシェルくん、持ち帰ったらまた徹夜みたいなことしちゃうんじゃないかな、って。ちょっと心配で……」

 

 ダリルさんのその懸念は、あまりにも的を射すぎていた。

 なんと答えたものかと悩みつつ、何か返事をしなきゃと口を開く、けど。

 

「…………ええ……っと……」

 

 ダメだ。図星すぎて、返す言葉が見つからない。

 それ以上の言葉を紡げない僕に、ダリルさんは困ったように眉を下げた。


「……余計なお世話かもしれないけど、ごめんね?そういうわけだから、ここで、一緒に解析しよう……?」

 

「……っ、いえ! 余計なお世話だなんてありえませんからっ! ぜひ一緒にやってくださいっ」

 

 ホッとしたようなダリルさんと、ふたりでなにか出来ることが嬉しい僕と。

 温度差はあっても、確実に平均温度が上がっているような感覚に、なんだか叫び出したい気持ちを抑えるのに大変だった。

 

 

 

 

 

 

_______

 


挿絵(By みてみん)

 

 

____

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(これからもしょーもないとこにガンガン魔法使っていってほしい……)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆期間限定 夏休みイベント☆

 週3回(火・木・土 20:00)更新中です!

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