表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第五章◇進行中】  作者: かみながあき
第四章◆中等部二年生編(前期)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/100

十二話◆短縮できるのは、詠唱だけ

呪いの手紙のほうがまだマシまである……

 

 

 三人でバカやって、少し気分が晴れた僕は。

 来週から始まる夏季休暇の前には、絶対にダリルさんに会いに行かなきゃ、と気合を入れていた。

 

(…………でも。その前に……)

 

 一つだけ、すぐにでも確認しておかなきゃならないことが出来てしまった。

 

「はあ……」

 

 一人きりの自室で、隠す必要のない息を吐く。

 机の上に置かれた"小さな包み"を眺めて、嫌すぎるけど……僕は仕方なくそれに手を伸ばした。

 

 "アシェル・ガルブレイス様"……と。

 僕の名前が記された、その簡易的な包装を剥がした瞬間。

 

「…………うっ」

 

 ふわりと甘すぎる匂いが鼻を掠めて、僕は反射的に顔をしかめた。

 

 

 そこから出て来たものは、二つ。

 

 一つは、押し花が施された"しおり"。

 そしてもう一つは、控えめな淡い緑色の封筒だった。

 

「どこからどう見ても、手紙…………だよなぁ。ぱっと見は、普通の……」

 

 封蝋のされていない封筒を開けて、中身を検める。

 どうやら、手紙以外のものが仕込まれているわけではなさそうだった。

 

 折り畳まれた紙面をひらくその前に、僕は事の次第に思いを馳せた。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 寮の部屋からそろそろ帰ろうと、支度を始めたとき。

 ヒューゴが何かを思い出したように、声を上げた。

 

「そういえば、アシェル」

「なに? そろそろ僕、帰るよ?」

 

「ああ、それは分かってる。だがその前に。これについて、何か知らないか?」

 

 ヒューゴが差し出してきたものは。

 

 初めて魅了の危険性を垣間見た、あの時――

『お前が受け取るまで……俺は……席には座れない……』

 そう言って、ヒューゴが渡そうとしてきた、"あの"包みそのものだった。

 

「うわ……完璧に忘れてた…………!」

 

 口の端が引き攣りそうになりながら、その危険物を凝視する。

 

「やはり、お前の物なのか。ここに名前が書いてあるしな」

 

 知りたくなかった情報を告げるヒューゴは、そのままさらに説明を重ねた。

 

 ヒューゴの体感としては、"知らない間に自分のポケットに入っていた"そうだ。

 記憶、抜け落ちてたもんね……。

 

 ヒューゴはそれを、単純に『僕の物』として解釈していた。

 

 ヒューゴが、一度ならず二度も魅了魔法にかけられた……という事実。

 それを、ここまで本人にはずっと教えずにいたのに、わざわざ事情を説明する気にはなれなくて。

 

 結局僕は、怪しげな代物を"僕の物"として引き受けるしかなかった。

 

 ◇    ◇    ◇

 

 思い返した事で、ますます嫌気がさしてきたけど、意を決して手紙を読む。

 

 そこには。

 予想外に整った字で、控えめそうな文章が綴られていた。

 

 

『 アシェル・ガルブレイス様

 

 先日は、親切にして頂きありがとうございました。

 

  お優しいアシェル様にとっては、

 何気ない事だったのかもしれませんが、

 わたくしにとっては、かけがえの無い

 大切な思い出になりました。

 

  わたくしが誰なのか、あなたはきっと

 お分かりにはならないでしょうね。

 

  それでも、わたくしは

 アシェル様をお慕いしております。

 

  どうか、まずはお手紙だけでも

 読んで頂けたなら、それだけで十分です。

 

  もしもお返事を頂けるのなら、

 わたくしがこの手紙を託した

 アシェル様のご友人の方にお渡しください。

 

  色良いお返事をお待ちしておりますわ。

 

    あなたを慕う R.D. 』

 

 文字を追うごとに、ぞくりと怖気が走った。

 

(っ、なんなんだよ、これ…………まるでデタラメじゃないか……!)

 

 微かに震える手で、手紙をぐしゃりと握りしめる。

 

 一見すると可憐なラブレターのようにも見えるそれは、何もかもが不気味だった。

 

 ……まず、前提から間違っている。

 ハンカチの件は、僕の善意なんかじゃなくて、レイナに半ば無理やり拾わされたようなものだ。

 しかもその際に、あいつが僕に魅了をかけようとした事も分かってる。

 

 僕に直接働きかけるのが難しくなったからなのか。

 その後に、二度にも渡って、大事な友達に手を出しておいて……。

 "この手紙を託した"、だって?

 

 

「…………《火よ》」

 

 短く告げて、魔力を込める。

 

 迷いや苛立ち……あらゆる感情を乗せた炎が、手の中の紙を灰塵に帰す。

 

 一瞬にして燃え尽きたそれは、どこかに火を移すこともなく消え去った。

 僕の沸き立ちそうな怒りだけを、その場に置き去りにして。

 

 部屋に残った鼻につく匂いを一掃したくて、僕は辺りに清浄の魔法をかける。

 

 残された、押し花のしおり。

 落ち着いてから精密に調べようと思うものの、今は見るに耐えず、乱雑に引き出しに押し込んだ。

 

 普段開けることの少ないその段は、雑多な小物の物置みたいになっていた。

 その隙間に、チラリと見えた薄桃色の封筒。

 

 目にした途端、かつて受け取ったあの優しさが胸に広がっていく。

 憤りに飲まれかけていた思考は止まり、急速に熱が引いていった。

 

 代わりに、チクリと罪悪感が胸を刺す。

 

 ――いつか。

 かならず言葉を返すから、それまではどうか臆病な僕を許してほしい……。

 

 記憶の中の、今よりも歳上な彼女(ゲームヒロイン)の姿を思い浮かべて、心の中で謝罪する。

 

 僕は、同じ色彩を持つ恋しい人に、無性に会いたくなった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 翌日、放課後になると同時に僕は立ち上がった。

 勢いが良すぎて、隣のニールくんがびくんと肩を跳ねさせていた。

 

 フェリクスやクロードも、何か言いたげにこっちを見ていたけど。

 ごめんねと心の中だけで謝って、急いで荷物を纏めていく。

 今日はもう、一秒でも早く向かいたかったから。

 

「…………よしっ。それじゃ、みんな。また明日ね!」

 

 個別に挨拶する時間も惜しんで、教室を飛び出す。

 ちらっと確認したみんなの視線は、呆れたようなものが多かったけど。

 それでも、どこか温かかった。

 

(アリシアには、昨日怒られちゃったけど……)

 

 実は、寝る前にまた図書室でアリシアと顔を合わせた時に。

 やらかした自覚から挙動不審になってしまって、レイナの置き土産のことがバレて……。

 みんなに情報を共有する前に、手紙を焼却処分してしまったことで、ちょっとだけお小言をもらってしまった。

 

(Kは別に怒ってなかったし、Jなんか、"やるじゃん"とか言って、また爆笑してたけど…………)

 

 最終的にはアリシアも、『気持ちは分かるから、もういいわ』と言ってくれたけど。

 次があるなんて思いたくないけど、万が一そんなことがあれば……。

 今度は衝動的になりすぎないように、気を付けなきゃいけないな。

 

 

 そんな事を考えながらも、足だけはずっと、研究棟へと急いでいた。

 

 自分自身で勝手に距離をあけて、寂しくなって。

 傷付けたかも、なんて、そんなの聞いてみないと分からないのに。

 

 今ではもう。

 あんな都合の良い"夢の人"なんて比べ物にならないくらい、"本物のダリルさん"に会いたかった。

 

 

 息を切らして研究棟の三階まで駆け上がると、いつもの302号室の扉の隙間から、温かな光が漏れているのが見えた。

 

(やっぱり、ダリルさんはここに居た……!)

 

 ここまで全力で走っておいて、今日は研究室に来てない……とかだったら。

 また301で、ヤケみたいに研究にのめり込むしかないところだった。

 

 呼吸を整えて、乱れた服を直す。

 心臓はまだ早鐘を打っていたけれど、それは走ったせいだけじゃなかった。

 

 最後があんなだったから、合わせる顔なんてないはずなのに。

 それでも「会いたい」という欲求が勝ってしまった自分の浅ましさに、少しだけ苦笑する。

 

(……まずはちゃんと謝らなきゃ。嘘をついたことも、不用意に頼ってしまったことも……)

 

 ノックをする手が一瞬ためらったけれど。

 

 一度、深く息を吸って、僕は意を決して扉を叩いた。

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(クリスタちゃんへのお返事……いつになるのやら)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆期間限定 夏休みイベント☆

 週3回(火・木・土 20:00)更新中です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ