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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第五章◇進行中】  作者: かみながあき
第四章◆中等部二年生編(前期)

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十一話◆持つべきものは

それにしても、ヒューゴ……マジかぁ

 

 

 初めて"ダリルさんに会わない選択"をしたあの日から、僕はまた、研究にのめり込む日々へと戻っていた。

 

 人工魔石の徹底的な調査と、『感情・イメージによる術式構築理論』のブラッシュアップ。

 作業自体は楽しいし、時間も忘れられるけど。

 

「はあぁぁぁ…………」

 

 定期的に襲ってくる"逃げ"という自覚が、大きなため息となって現れていた。

 

 

「アシェルさま、大丈夫ですか? またあの時みたいに、ため息ばかりつかれてますね……」

 

 隣から聞こえたニールくんの声に、そういえばここは学園だったなと思い出す。

 僕は、彼の柔らかい金茶の髪をわしゃりと撫でながら、視線を逸らして曖昧に笑う。

 

「……ごめんね、心配かけて。まあそのうち大丈夫になるから」

 

 その言葉は、事実というよりは願望だったけど、思いの外僕自身の心に沁みた。

 

「それならいいんですけど……確かにボクじゃ頼りないですもんね……!」

 

 拗ねた口調でぷくっと頬を膨らませるニールくん。

 相変わらずハムスターなんだよなぁ……。

 

「拗ねないでよ、ニールくん。きみはちゃんと……その……一緒にいるだけで、心を軽くしてくれてるんだからさ」

 

 そんな風に笑いながら、撫で続けていたら。

 頭上から伸びてきた手にガシッと腕を掴まれた。

 

「おいアシェル。いい加減にそれをやめろ」

 

 振り返ると、なぜか苛立った様子のヒューゴが立っていた。

 

「あ、ヒューゴくん。それにブレインくんも、おはようございます」

 

「ああ……ニール、おはよう」

「ニールくんもアシェル様も、おはよっスー!」

 

 ヒューゴが僕の腕を掴んだまま、普通に挨拶が交わされる。

 地味に痛いんだけどな……。

 

「おはよう二人とも。ねえ、ヒューゴ。ちょっと痛いんだけど……」

 

「……いつまでも初等部気分のまま、気安く撫でるお前が悪い。ニールも、少しは拒絶しろ」

 

 ……うむ、完全にごもっともである。

 ポイと投げ捨てられた腕をさすり、ちょっとだけバツが悪いような気持ちになる。

 

「えっと……ボクは、もう慣れちゃったんで、ぜんぜん平気ですよ?」

 

「それならよかった、のかな? ごめんね、ニールくん……」

 

「良くはない……!」

 

 ニールくんの言葉に、彼を不快にさせてたわけじゃなかったと安心していたら。

 少し語気を強めたヒューゴの声が、ざわめく教室の中でも響いた。

 

 なんだ? なんでヒューゴはこんなに怒ってるの?

 

「あー…………ねっ! そうだ、アシェル様! 今日久しぶりに寮の部屋、遊びに来ないっスか!?」

 

 妙な緊張を切り裂くように、ブレインくんの明るい声が響く。

 空気が変わったのは助かるけど――

 

「お誘いは嬉しいけど、ごめん。僕はいま研究に……」

「来い」

 

「え…………?」

 

 研究に時間を使いたいから。

 そんな"断り文句"をヒューゴの端的な言葉に遮られた僕は、ぽかんと口を開けて呆けてしまった。

 

「……アシェル様、最近ヤバいっスよ? 自分じゃ気付いてないかも知れないけど、ちゃんと息抜かないと」

 

「あ……」

 

 ごめん、と呟いたら。

 ブレインくんは、いつかみたいに「だからすぐに謝るのやめてって言ってるじゃないスかー」と笑っていた。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 そして、放課後になって。

 

「待って! 待ってよ、逃げないから。そんな引っ張らないでもちゃんと歩くからさ……!」

 

 僕は腕を掴まれて、強制連行さながらに……ほとんど引きずられるようにして歩かされていた。

 "せめて自分で歩かせて"とわめく僕に構わず、ヒューゴは無言で僕を引っ張り続ける。

 

 そんな時。

 

「ヒューゴ! ちょっとだけ止まってほしいっス」

 

「ブレインくん……!」

 

 やっぱりブレインくんは優しい!

 なんて染み入っていたら。

 

「…………よっし。これでオッケーっス! じゃあ行くっスよ!」

 

 ブレインくんは、腕を掴まれたままの僕のローブの胸元に、訪問者用の寮章を取り付けると、再びヒューゴにゴーサインを出してしまった。

 

「えっ、ウソ!? そりゃないよブレインくん!」

 

 抗議の声を上げると、ブレインくんは太陽みたいないつもの笑顔でニカッと笑った。

 

「まーまー! アシェル様。今日のところは、オレらに付き合って下さいっス!」

 

 そんな風にして、僕は二人の部屋まで問答無用で連れて行かれたのだった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

「……で? 最近のお前は一体なんなんだ?」 

 

 着くなりベッドの縁に座らされて。

 両側を二人に固められながら、ヒューゴがいきなり核心をついてくる。

 

「う……。なんなんだって、言われても……」

 

 左右のどちらにも逃げ場がないので、膝の上でギュッと握った自分の手を見つめる僕。

 

「ヒューゴ……やめるっスよ。いくらアシェル様が不気味なくらいに研究尽くしで、そのくせ暇さえあれば無意識にニールくんにベッタリだからって、いきなりそんな言い方は良くないっス!」

 

「え…………えぇ……?」

 

 なにそれ、僕そんな感じだったの……?

 

 …………いや、自覚はある。多少は、だけど。

 それにしたって、そんな"不気味"で、"暇さえあればベッタリ"だなんて、そんなこと――

 

(………………ある、な……?)

 

 

「あっ…………ごめんなさいっ! オレ、全然こんなこと言うつもりじゃなかったんスよ!」

 

 どうやら、わざと現実を突きつけたわけじゃなかったらしい。

 ブレインくんは慌てて謝ってくれたけど、多分、どう見えてるのか早めに知れてよかった。

 

「なんか、ほんとにごめんね。心配かけちゃって」

 

「……全くだ」

 

「あー……。アシェル様? ヒューゴは別のとこでイラついてるだけなんで、そこまで気にしなくていいっスよ?」

 

 ヒューゴの短いけれど急所をついた返事に、ほんの少しだけ、チクリと胸が痛んだけれど。

 ブレインくんが何かをフォローするように付け足した。

 

「別のとこ?」

 

「っ、まー細かいことはイイじゃ無いっスか! ほら、お悩み相談会始めましょっ?」

 

 パンと手を打ち鳴らして、ブレインくんがこの場を仕切る。

 何かあっても、空気が重くなり過ぎないように気遣ってくれて、いつも助けられてるんだよなぁ。

 

「…………お悩み相談会、ねぇ……? どこまで話していいものか、まずそこに悩んじゃうな」

 

 なんだか気が抜けてきて、思わず漏れた本音に、ブレインくんが苦笑いする。

 

「アシェル様って、ホント自分の限界分かってないタイプっスよね……。あっ、別に責めてないっスよ?」

 

 一呼吸おいて、彼は続けて口を開いた。

 

「オレら、アシェル様の悩みだったら……。どんなことでも真剣に聞く準備、出来てるっスから」

 

 ちょっとだけ照れたように笑いながら、それでもわざわざ恥ずかしい言葉でも伝えてくれて。

 

 僕はその優しさに、甘えてみることにした。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

「………………なんか、思ってたより生々しい話で、正直ちょっと面食らってるっス……」

 

 あの日の"夢からの暴走"と"その後の逃避"について、ぶちまけたあと……。

 ようやく喉の渇きに気が付いた。

 勢い任せに告白したけど、やっぱりそれなりに緊張していたみたいだ。

 

 お葬式かな? っていうくらい沈黙が続いて、ようやくブレインくんが言葉を発した。

 

 なんか、ごめん。いやマジで。

 

「……ごめんって! ほんとはこんなの、誰にも話すつもりなんてなかったんだよ……!」

 

「いやあ…………聞いたオレらが悪かったっスよ」

 

 気まずい静寂が破られた勢いに乗っかって、僕が慌てて謝罪と言い訳を口にすると。

 ブレインくんは、顔を赤くしながら、バツが悪そうに小さく頬を掻いた。

 

「……それに、オレだって、そんな時もありましたし………………」

 

「え?」

 

「…………へっ!? うわあああぁぁあああッ! いっ、今のは、忘れて下さいっス……!」

 

「ごめん。ムリかも……」

 

 泣きそうになってるブレインくんと、申し訳ないけど"自分だけじゃ無い"ことにちょっとだけ安堵してしまった僕。

 

 ぎゃーぎゃーと騒いでいると、それまでじっと様子を眺めていただけのヒューゴが口を開いた。

 

 

「そうか……。起き抜けに"ああ"なっている時があるのは、割と普通の事なんだな」

 

「ヒューゴ……!?」

「ばかっ! ヒューゴ、これ以上その話題を引っ張るのはやめるっスよ……!!」

 

 驚いた僕とブレインくんの声が重なる。

 

 さっきの暴露話をどこまで理解していたのかは分からないけど。

 ヒューゴは恥ずかしがる様子もなく、いつもどおり淡々としていた。

 

「…………ねぇ。それって、どう"処理"してるの?」

 

 僕が興味本位で聞いてみると。

 

「処理? いや、早朝の鍛錬中には自然におさまっているが。お前達の言うように、何らかの処理をした方が良いものなのか?」

 

 曇りの無い瞳に見つめられて、なんだか一気に恥ずかしくなってくる……。

 

「…………え……。ヒューゴ、もしかして、したことないんスか……?」

 

 ブレインくんが、信じられないものを見るようにヒューゴを見つめる。

 僕も同じ気持ちだけど……。

 

「……何をだ? よく分からんが……これといって対処をした事は、無いな」

 

 衝撃のひとことに、ヒューゴが辺境伯家でどうしてそれほどまでに溺愛されているのか、なんとなく分かった気がした。

 

 その後もみんなで(主に僕とブレインくんが)自爆して、思いっきり笑って。

 沈み込んでたのが馬鹿らしくなってきた。

 

  やっぱり、一人で悩んでても碌なことにはならないよなぁ。

 なんて、あらためて思った僕だった。

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(やけにヒューゴが目立つ章ですね……?)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆期間限定 夏休みイベント☆

 週3回(火・木・土 20:00)更新中です!

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