恋心の暴走【SIDE Asher】※R15版
本話には 一部 ※ R15 程度の性的描写 ※ が含まれております。
苦手な方は、そっとブラウザバックでお戻りください。
※なお、ムーンライトノベルズにて、R18描写を含む[乙兄◆アシェルくんの限界突破部屋【R18差分】]も公開しております。
興味のある大人の方は、タイトル検索等で探していただければ幸いです。
クロードの天才的なアドバイスから(物は言いよう)人工魔石についての新たな着想を得た僕は、気づけばまた研究にのめり込んでいた。
考えるほど、あの石の色の違いが"意味のある現象"にしか思えなくなってきたんだ。
「僕のはダリルさんが持ってるから、クロードの魔石を調べてみるしかないよね?」
思わず口にしながら、手にした赤橙の魔石をじっと見つめる。
例の勲章の恩恵で、また研究棟の301号室を借りているんだけど、今度は僕ひとりだし独り言が漏れててもまあ気にしない。
もしかしたらダリルさんに会えるかも……なんて期待したりもしたけど、そんなに上手いこと出来た世界じゃなかったみたい……。
まだ実際に会った時の心構えなんか出来てないくせに、残念がる気持ちだけは一丁前な僕だった。
「…………今は、そんなことより研究だ! 集中しよう! 忘れよう! ……今だけ」
独りごちて気合いを入れると、新しく持ち込んだ設備で、徹底的に検証を始めた。
◇ ◇ ◇
「やばい…………楽しすぎる……」
器具を使って調べたところ、本当にクロードの魔石からは『火属性と土属性の魔力』が高濃度で検出された。
それに加えて、他の属性も少量検知できたけど、やっぱりこの"色"はそういうことなんだと分かった。
(どうしようかな? ダリルさんに"魔石ちょっとだけ返して"って言うのも、なんだかなぁって感じだし。でも、人工魔石の構造と魔力の偏りがもっと詳しく知りたいし………… 前みたいに、もう一回だけ…………過剰圧縮して、再現してみる……?)
頭の中で、手順が勝手に再生される。
霧みたいな魔力を集めて、極限まで圧縮して、ギリギリまで温度を上げて……。
ほんの一瞬だけ光点が走って、魔力が結晶化する、あの瞬間。
――はいっ、ダメぇぇぇ! 却下です!僕C、ここで否決します!!
……そうだよ!? だめだめすぎるよ!
そんなことしたら、自分の研究もあるのに監視役まで買って出てくれたダリルさんに、どうやって顔向けするっていうの?
まただ……熱中しすぎて、ちょっと馬鹿になってきてる。本当にこのクセどうにかしないと……。
とりあえず、ちゃんと心に刻んでおこう。
二度と、結晶化の"再現実験"なんて、考えちゃダメ!
「……よしっ。余計なことは考えないで、調べられる範囲で限界まで分析しよう」
そう言って、器具のスイッチをカチリと入れた。
そして、今度は無心で作業をして――
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
「アシェルくん……やっとこっちまで来てくれたんだね……」
耳朶をくすぐるような優しい声色に、僕は手元の器具から視線を外し、勢いよく振り返る。
「だっ、ダリルさんっ!? どうして……」
そこには、会いたくて仕方なかった優しいあの人が、どこか憂いを帯びたような顔で佇んでいた。
僅かに蜂蜜色にかかる、伏せ気味の長い睫毛が……なんだか切なかった。
「どうしてって……ひどいよ。わたしは、アシェルくんが会いに来てくれなくて淋しかったのに」
「……っ……!?」
どくり。と、鼓動が跳ねる。
信じられない気持ちと、期待と高揚とがとめどなく押し寄せる。
ゆっくりと、一歩ずつ丁寧に僕に近寄るダリルさん。
さっきの言葉に打ち震える心が、どこか現実味のないこの状況を、否定することを拒んだ。
「ねぇ。そんなに、忙しかった?」
しなやかな指先が、そっと僕の頬に触れる。
たったそれだけのことなのに。
胸が、頭が、あまりにも熱くて苦しい。
「が、がんばってただけで……っ、そんな、いそがしくは……っ」
「アシェルくん……」
甘やかな声で名前を呼ばれるたびに、じくじくと中心に熱がこもり、膝の力がゆるんでいく。
呼び方が優しすぎる。
僕が欲しい声を、欲しい形で、まるで全部知っているみたいに……。
「わたしのこと、忘れてたの? だめだよ。いつも一番に思い出して、忘れないでいてくれなきゃ……」
「わ、忘れるわけ、ない……っ!」
僕は思わず言い返していた。
脳で咀嚼するよりも心が先に反応して、自分でも驚くほど必死な声になってしまった。
ダリルさんが、そっと笑う。
いつもの静かな笑顔じゃなくて、ほんの少し、縋るような影がある微笑み。
そんなアンニュイな雰囲気も、今の僕には違った刺激にしかならなかった。
「じゃあ……ちゃんと、見て?」
するりと手を取られ、胸の辺りに導かれる。
淡く脈打つダリルさんの鼓動が、体温が、手のひら越しに伝わってくる。
それだけで、胸の奥が焼けるほど熱くなった。
「ほら……わかる? アシェルくんの声を聞いたら……こんなふうに、乱れちゃうんだよ……」
「……待ってよ、ダリルさん…………こんなの、もう心が追いつかないっ、むり、無理だから……」
苦しくて、弱い拒絶を口にするけど、本心じゃないのは僕が一番分かっていた。
はやく手を離さなきゃとは思うのに、指先はまるで言うことをきいてくれないし……。
こんなふうに触れたままじゃ、もう長くは耐えられそうにもないのに、それでも離れたくなかった。
「……どうして、もっと早く来てくれなかったの?」
ごく近くで囁かれた言葉は、僕を責めているようでいて、その実とてもか弱い甘えのように聞こえた。
息が頬にかかるほどの距離で、そんな風に言われて、くらくらととろけて呼吸が浅くなる。
「あ、あなたが……忙しいかと、思って……っ」
「嘘だよ。アシェルくん……わたしのこと、避けてたでしょう?」
「そんな、ことは……」
「だぁめ。ちゃんと本当のこと、言って?」
どうしてこんなにも、甘くて優しすぎて……ずるい言い方するの?
本音なんか話したら、僕の気持ちが全部バレちゃう。
それなのに……言いたくないのに、何もかも話したくなっちゃうじゃんか……。
(だめだよ、言っちゃ……絶対だめ……!)
理性が叫んでるのに、心が全部ひっくり返っていく。
「ねえ、アシェルくん」
すべらかな指先が、そっと僕の顎を持ち上げて視線を絡める。
ゆらりゆらりと蜂蜜色の奥が揺らめいていた。
「アシェルくんは、わたしのことが好きなんでしょう? それなのに……どうして、こっちを向いてくれないの……?」
「そ、れは……っ」
「ほら……」
かすかに触れた、唇のすぐ近く。
ダリルさんの手が僕の頬を滑るたび、どうしてか触れられていないところまで、触られたみたいに熱が走って――
「……わたしのことが好きだって、わたしの心まで欲しいんだって、ちゃんとアシェルくんの言葉で聞かせて? それか、もっとちゃんと、態度で示して?」
そう言って微笑んだダリルさんは、自身の唇にちょんちょんと人差し指を当て、静かに瞼を閉じた。
ごくりと喉が鳴って。
僕はおそるおそる目を瞑りながら、彼の指し示した場所へとそおっと顔を寄せた。
心臓はとっくに限界で、もうはち切れそうだった。
思考なんて溶けて、何もかもが"ダリルさん"でいっぱいになる。
そして――
触れ合った温もりにいろいろと限界突破しそうになったその時。
気づいてしまった。
(ヤバい! このままじゃまた…………!)
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
「…………っ、うぁああっ……!」
研究室の机に突っ伏した状態から、飛び起きるようにして目が覚めた。
またこんな夢…………ダリルさんへの想いを自覚したあの時以来、だな……。
まだドキドキしてる。それどころか、ヤンチャ盛りが元気にグッモーニンしちゃってる…………。
「…………ダリルさんは、あんなこと言わない……」
分かってる。そんなこと、僕が一番分かってるよ。
でも、だからこそ余計に、夢の姿が衝撃的すぎて頭から離れなくて。
――アシェルくんの声を聞いたら……こんなふうに、乱れちゃうんだよ……
脳裏に生々しくこびり付いた偽りの声に、ズキズキと痛むのは胸だけじゃなかった。
「……っこんなんじゃ、集中なんて出来ないよ……」
頭ではダメだと理解していても、焦げ付いた思考回路じゃまともな判断なんて出来そうもなくて。
僕は、歯止めなんて効かない思春期の暴走に手を出してしまった。
◇ ◇ ◇
「…………最悪だ。ほんっっっとに最悪だ……」
おひとりさまで暴走した僕は、いま死ぬほど罪悪感に苛まれていた。
あの時は、夢から覚めたらすでに手遅れで、意図的なものではなかったけど。
今回は、明確に自分の意思でダリルさんを汚してしまった……しかも複数回。
「……ばかっ! あほ! おたんこなす! …………僕はお猿さんか……!?」
そういえば猿ってこの世界にもいるのかな…………って、そんなことは今どうでもいいんだよ!
「…………ほんと何やってんだよ……」
ぐすりと鼻を啜って、こぼれ落ちた涙に気付く。
一度自覚してしまうともうダメだった。
後から後から流れてくる雫を止められない。
「……う…………ごめんなさい、ダリルさん……でも僕、ほんとにあなたのことが、好きなんだ…………」
涙で罪を洗えたらいいのに。
……でもきっと無理なんだ。
だって、こんなに苦しくて辛いのに、同じような夢を見たら……僕はまたこうしてしまうんだ……。
「うぅぅうぅ……」
ぐっと唇をかみしめて、袖口で声を塞いで、熱が引いた部屋でしばらく泣いていた。
コン……と、控えめなノックの音が聞こえた気がしたけど、鍵を開けて確かめる気にはなれなかった。
14歳の僕は、痛くて苦い恋をしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(思春期まっさかりなのは致し方なし……!)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
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週3回(火・木・土 20:00)更新中です!




