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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第五章◇進行中】  作者: かみながあき
第四章◆中等部二年生編(前期)

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85/100

恋心の暴走【SIDE Asher】※R15版

本話には 一部 ※ R15 程度の性的描写 ※ が含まれております。

苦手な方は、そっとブラウザバックでお戻りください。


※なお、ムーンライトノベルズにて、R18描写を含む[乙兄◆アシェルくんの限界突破部屋【R18差分】]も公開しております。

興味のある大人の方は、タイトル検索等で探していただければ幸いです。

 

 

 クロードの天才的なアドバイスから(物は言いよう)人工魔石についての新たな着想を得た僕は、気づけばまた研究にのめり込んでいた。

 

 考えるほど、あの石の色の違いが"意味のある現象"にしか思えなくなってきたんだ。

 

「僕のはダリルさんが持ってるから、クロードの魔石を調べてみるしかないよね?」

 思わず口にしながら、手にした赤橙の魔石をじっと見つめる。

 

 例の勲章の恩恵で、また研究棟の301号室を借りているんだけど、今度は僕ひとりだし独り言が漏れててもまあ気にしない。

 

 もしかしたらダリルさんに会えるかも……なんて期待したりもしたけど、そんなに上手いこと出来た世界じゃなかったみたい……。

 まだ実際に会った時の心構えなんか出来てないくせに、残念がる気持ちだけは一丁前な僕だった。

 

「…………今は、そんなことより研究だ! 集中しよう! 忘れよう! ……今だけ」

 

 独りごちて気合いを入れると、新しく持ち込んだ設備で、徹底的に検証を始めた。

 

 ◇    ◇    ◇

 

「やばい…………楽しすぎる……」

 

 

 器具を使って調べたところ、本当にクロードの魔石からは『火属性と土属性の魔力』が高濃度で検出された。

 それに加えて、他の属性も少量検知できたけど、やっぱりこの"色"はそういうことなんだと分かった。

 

(どうしようかな? ダリルさんに"魔石ちょっとだけ返して"って言うのも、なんだかなぁって感じだし。でも、人工魔石の構造と魔力の偏りがもっと詳しく知りたいし………… 前みたいに、もう一回だけ…………過剰圧縮して、再現してみる……?)

 

 頭の中で、手順が勝手に再生される。

 霧みたいな魔力を集めて、極限まで圧縮して、ギリギリまで温度を上げて……。

 ほんの一瞬だけ光点が走って、魔力が結晶化する、あの瞬間。

 

 

 ――はいっ、ダメぇぇぇ! 却下です!僕C、ここで否決します!!

 

 ……そうだよ!? だめだめすぎるよ!

 そんなことしたら、自分の研究もあるのに監視役まで買って出てくれたダリルさんに、どうやって顔向けするっていうの?

 

 まただ……熱中しすぎて、ちょっと馬鹿になってきてる。本当にこのクセどうにかしないと……。

 

 とりあえず、ちゃんと心に刻んでおこう。

 二度と、結晶化の"再現実験"なんて、考えちゃダメ!

 

「……よしっ。余計なことは考えないで、調べられる範囲で限界まで分析しよう」

 

 そう言って、器具のスイッチをカチリと入れた。

 

 そして、今度は無心で作業をして――

 

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

「アシェルくん……やっとこっちまで来てくれたんだね……」

 

 耳朶をくすぐるような優しい声色に、僕は手元の器具から視線を外し、勢いよく振り返る。

 

「だっ、ダリルさんっ!? どうして……」

 

 そこには、会いたくて仕方なかった優しいあの人が、どこか憂いを帯びたような顔で佇んでいた。

 僅かに蜂蜜色にかかる、伏せ気味の長い睫毛が……なんだか切なかった。

 

「どうしてって……ひどいよ。わたしは、アシェルくんが会いに来てくれなくて淋しかったのに」

 

「……っ……!?」

 

 どくり。と、鼓動が跳ねる。

 信じられない気持ちと、期待と高揚とがとめどなく押し寄せる。

 

 ゆっくりと、一歩ずつ丁寧に僕に近寄るダリルさん。

 さっきの言葉に打ち震える心が、どこか現実味のないこの状況を、否定することを拒んだ。

 

「ねぇ。そんなに、忙しかった?」

 

 しなやかな指先が、そっと僕の頬に触れる。

 たったそれだけのことなのに。

 胸が、頭が、あまりにも熱くて苦しい。

 

 

「が、がんばってただけで……っ、そんな、いそがしくは……っ」

「アシェルくん……」

 

 甘やかな声で名前を呼ばれるたびに、じくじくと中心に熱がこもり、膝の力がゆるんでいく。

 呼び方が優しすぎる。

 僕が欲しい声を、欲しい形で、まるで全部知っているみたいに……。

 

「わたしのこと、忘れてたの? だめだよ。いつも一番に思い出して、忘れないでいてくれなきゃ……」

「わ、忘れるわけ、ない……っ!」

 

 僕は思わず言い返していた。

 脳で咀嚼するよりも心が先に反応して、自分でも驚くほど必死な声になってしまった。

 

 ダリルさんが、そっと笑う。

 いつもの静かな笑顔じゃなくて、ほんの少し、縋るような影がある微笑み。

 そんなアンニュイな雰囲気も、今の僕には違った刺激にしかならなかった。

 

「じゃあ……ちゃんと、見て?」

 

 するりと手を取られ、胸の辺りに導かれる。

 淡く脈打つダリルさんの鼓動が、体温が、手のひら越しに伝わってくる。

 それだけで、胸の奥が焼けるほど熱くなった。

 

「ほら……わかる? アシェルくんの声を聞いたら……こんなふうに、乱れちゃうんだよ……」

 

「……待ってよ、ダリルさん…………こんなの、もう心が追いつかないっ、むり、無理だから……」

 

 苦しくて、弱い拒絶を口にするけど、本心じゃないのは僕が一番分かっていた。

 

 はやく手を離さなきゃとは思うのに、指先はまるで言うことをきいてくれないし……。

 こんなふうに触れたままじゃ、もう長くは耐えられそうにもないのに、それでも離れたくなかった。

 

「……どうして、もっと早く来てくれなかったの?」

 

 ごく近くで囁かれた言葉は、僕を責めているようでいて、その実とてもか弱い甘えのように聞こえた。

 息が頬にかかるほどの距離で、そんな風に言われて、くらくらととろけて呼吸が浅くなる。

 

「あ、あなたが……忙しいかと、思って……っ」

「嘘だよ。アシェルくん……わたしのこと、避けてたでしょう?」

 

「そんな、ことは……」

「だぁめ。ちゃんと本当のこと、言って?」

 

 どうしてこんなにも、甘くて優しすぎて……ずるい言い方するの?

 本音なんか話したら、僕の気持ちが全部バレちゃう。

 それなのに……言いたくないのに、何もかも話したくなっちゃうじゃんか……。

 

(だめだよ、言っちゃ……絶対だめ……!)

 

 理性が叫んでるのに、心が全部ひっくり返っていく。

 

「ねえ、アシェルくん」

 

 すべらかな指先が、そっと僕の顎を持ち上げて視線を絡める。

 ゆらりゆらりと蜂蜜色の奥が揺らめいていた。

 

「アシェルくんは、わたしのことが好きなんでしょう? それなのに……どうして、こっちを向いてくれないの……?」

 

「そ、れは……っ」

「ほら……」

 

 かすかに触れた、唇のすぐ近く。

 ダリルさんの手が僕の頬を滑るたび、どうしてか触れられていないところまで、触られたみたいに熱が走って――

 

「……わたしのことが好きだって、わたしの心まで欲しいんだって、ちゃんとアシェルくんの言葉で聞かせて? それか、もっとちゃんと、態度で示して?」

 

 そう言って微笑んだダリルさんは、自身の唇にちょんちょんと人差し指を当て、静かに瞼を閉じた。

 

 ごくりと喉が鳴って。

 

 僕はおそるおそる目を瞑りながら、彼の指し示した場所へとそおっと顔を寄せた。

 

 心臓はとっくに限界で、もうはち切れそうだった。

 

 

 思考なんて溶けて、何もかもが"ダリルさん"でいっぱいになる。

 

 

 そして――

 

 触れ合った温もりにいろいろと限界突破しそうになったその時。

 

 気づいてしまった。

 

 

(ヤバい! このままじゃまた…………!)

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

「…………っ、うぁああっ……!」

 

 研究室の机に突っ伏した状態から、飛び起きるようにして目が覚めた。

 

 またこんな夢…………ダリルさんへの想いを自覚したあの時以来、だな……。

 まだドキドキしてる。それどころか、ヤンチャ盛りが元気にグッモーニンしちゃってる…………。

 

「…………ダリルさんは、あんなこと言わない……」

 

 

 分かってる。そんなこと、僕が一番分かってるよ。

 でも、だからこそ余計に、夢の姿が衝撃的すぎて頭から離れなくて。

 

 ――アシェルくんの声を聞いたら……こんなふうに、乱れちゃうんだよ……

 

 脳裏に生々しくこびり付いた偽りの声に、ズキズキと痛むのは胸だけじゃなかった。

 

「……っこんなんじゃ、集中なんて出来ないよ……」

 

 頭ではダメだと理解していても、焦げ付いた思考回路じゃまともな判断なんて出来そうもなくて。

 

 僕は、歯止めなんて効かない思春期の暴走に手を出してしまった。

 

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

「…………最悪だ。ほんっっっとに最悪だ……」

 

 おひとりさまで暴走した僕は、いま死ぬほど罪悪感に苛まれていた。

 あの時は、夢から覚めたらすでに手遅れで、意図的なものではなかったけど。

 

 今回は、明確に自分の意思でダリルさんを汚してしまった……しかも複数回。

 

「……ばかっ! あほ! おたんこなす! …………僕はお猿さんか……!?」

 

 そういえば猿ってこの世界にもいるのかな…………って、そんなことは今どうでもいいんだよ!

 

「…………ほんと何やってんだよ……」

 

 ぐすりと鼻を啜って、こぼれ落ちた涙に気付く。

 

 一度自覚してしまうともうダメだった。

 後から後から流れてくる雫を止められない。

 

「……う…………ごめんなさい、ダリルさん……でも僕、ほんとにあなたのことが、好きなんだ…………」

 

 

 涙で罪を洗えたらいいのに。

 ……でもきっと無理なんだ。

 

 だって、こんなに苦しくて辛いのに、同じような夢を見たら……僕はまたこうしてしまうんだ……。

 

 

「うぅぅうぅ……」

 

 ぐっと唇をかみしめて、袖口で声を塞いで、熱が引いた部屋でしばらく泣いていた。

 

 

 コン……と、控えめなノックの音が聞こえた気がしたけど、鍵を開けて確かめる気にはなれなかった。

 

 

 14歳の僕は、痛くて苦い恋をしていた。

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(思春期まっさかりなのは致し方なし……!)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆期間限定 夏休みイベント☆

 週3回(火・木・土 20:00)更新中です!

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