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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第五章◇進行中】  作者: かみながあき
第四章◆中等部二年生編(前期)

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84/100

九話◆これだから脳筋は……

解せぬ……!

 

 あれから、一週間ほどの月日が経った。

 

 レイナによる被害はそれ以上起こることもなく、連日の騒ぎからは考えられないほど嘘みたいに静かになった。

 まあ、僕がみんなに改良カフスを配ったことで、魅了による事件が"起こらなかった"んじゃなくて、"起こせなくなった"だけかもしれないけれど。


 ヒューゴもすっかり普通に戻ったものの、僕を見るたびに微妙な顔で尋ねてくるようになった。

 

「……なぁ、あの日俺は何をしていたんだ?やはりお前に、何か迷惑をかけたんじゃないのか……?」

 

 あんまり気にするものだから、教えてあげた方が良いのかとも思ったけど、やっぱりあんなの知らない方がいいよね。


「……ヒューゴは、おかしな精神干渉魔法をかけられて、ちょっと意識が混濁してただけだよ。ダリルさんがすぐに治療してくれたから、ほんと気にしないでいいよ」


 そう言うと、ヒューゴは納得しきれないみたいな顔をしながらも、ようやく引き下がってくれた。

 うん、嘘は言ってない。というか……僕は(すぐバレる的な意味で)あんまり嘘がつけないみたいだから。

 

 ……まあ、それはそれとして。


 レイナ問題はひとまず収束したと見て、ヒューゴの魅了も完全に拭えた今――

 僕の胸には、ぽっかりとひとつの大きな穴が空いていた。


 ダリルさんに会いに行くための、"公的な理由"がなくなってしまったから。


 そりゃあもちろん、会いたければ行けばいいじゃないって話なんだけど……。

 あの時、ダリルさんがあんなに辛そうな顔をしていたのに。

 僕はヒューゴのことでいっぱいいっぱいで、ちゃんと気づけなかった。

 

 きっと、僕が身勝手に頼ってしまったことで、あの人の何かの傷を開いてしまったんだ。


 どうして、僕はあんなふうに縋ることが出来たんだろう…………ダリルさんの手だって、震えていたのに。


 最後には笑ってくれたけど、冷静になってから思い返すのは。

 僕らを見て怯えるように揺れていた、あの蜂蜜色の瞳のことばかり。

 

 こんなだから、どれだけ会いたくても自分だけのために会いにいく勇気は、まだちょっと出なかった。


「…………会いたいな」

 

 さすがの僕Cも、今回ばかりは反省モードでしょんぼりしてるみたいだった。

 

 

(はーぁ……。平和なのが一番なんだけど……なんか、こう……張り合いが無いというかなんというか……)


 気持ちがなかなか浮上しないまま、放課後の教室でぼーっと窓の外を眺めていたら──


「おい、アシェル」

 

 不意に肩を小突かれて我に返る。

 

 振り向くと、クロードが少しだけ不満そうな目で僕を見ていた。

 怒ってるって言うよりは、なんだか珍しく気を遣ってる感じがした。


「な、なに?」

「今日の放課後、ちょっと付き合えよ」

 

「え? どこに?」

「いいから来いっての」


 戸惑う僕にはお構いなしに、それだけ言い残してスタスタと歩いていくクロード。


 ……なんだろ。


 クロードの意図は、いまいち分からなかった。

 でも僕は、胸の穴にちょっとだけ、ほの温かい風が入った気がした。



 ◇   ◇   ◇



 クロードに連れてこられたのは、よくみんなで集まっている裏庭だった。

 

 たまに光魔法の付与(お手入れ)に来ている月涙草も、とても元気そうに揺れている。

 クラウスとゼノ、また二人で様子見に来てたのかな。


 そんなことを考えていたら、少し前を歩いていたクロードが振り返る。

 

「アシェル。あれ、どうなったんだよ?」


「え? あれって……どれ?」


 何かあったっけ、と思い出そうとしていたら、クロードが痺れを切らしたかのようにほんの少し声を荒げた。

 

「あれだよ! なんか出来ちまった赤っぽい石! お前が預かるって言ったんだろ?」


「あっ」


 あの人工魔石的なサムシング! 魅了騒動ですっかり忘れてた……!


 ポケットを探ると、魔道具袋の内側に入れておいた小さな包みが見つかった。


「あった……! ごめんクロード、ちゃんと持ってた」

 

「おう。お前がほぼずっとそれ持ってたのは分かってんだけどよ……」


「そうなの?」

 

 クロードにしてはやけに歯切れが悪い。

 それに、"持ってたことは分かってる"って……クロードも自分の魔力と人工魔石とのつながりを感じられるってことみたいだ。

 

「それ、結局なんだったんだよ? わたーめのやつはなんかバッジとか色々対策出来たんだろ? 俺も絶対つけろって言われてるし」


「うん……まあ。ぶっちゃけ、それクロードのために生まれたリミッターだからね……?」

 

「俺のため? なんで?」


 不思議そうに首を傾げるクロード。

 そんな彼に、僕は大事なことを話すために、じっと視線を逸らさずに向き合った。


「あのね、クロード。リミッターについて説明する前に、まずは精神世界の話をしようか」


「……せいしん……せかい?」


 きょとんとしたクロードの顔がちょっと可愛くて、思わず口元が緩みそうになる。


「うん。『精神世界と魔法の発展』って言う本に出てきた《精神(イデア)》っていう呼称から、僕は精神世界のことを"イデアフィールド"って呼んでるんだけど。イデアについて、話しておこうと思って」

 

「…………俺に理解できるやつか?」


「どうだろ……クロードみたいな感覚型の方が、案外すんなり受け入れられそうな気もするけど……」


「まあいいや。お前が必要だと思うんなら、聞くだけ聞くよ。分かんなくても文句言うなよ?」


  

 素直すぎるクロードにちょっと笑ってから、僕は《精神世界(イデアフィールド)》についての説明を始めた。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

「……ふーん。つまりその"なんとか"ってのは、心ん中そのものって感じの世界なんだな? そこでなんかすると、こっちの現実にも影響する……? から、あの石は"そこから生まれたもん"ってことなんだな」


「そうだね。そんな感じの解釈で間違ってないよ」


 実際には、イデアは仮想現実みたいな場所で。

 そこは魂や魔力の根源でもあって、イデアで起こった変化は現実にも影響を及ぼす……そんな感じの説明を『クロードにも分かりやすく』説明したつもりなんだけど、ちゃんと通じたみたい。

 


「通常の魔力圧縮では、やり過ぎても負荷に耐えられずに砕け散るだけで、結晶化はしないんだ。僕の場合は、『イデアの中』で魔力圧縮しすぎて魔石が生まれちゃったんだけど……。クロードは感覚が良すぎるから、無意識にそこに片足突っ込んじゃったんだと思うよ」


「はぁ!? お前もあの石ころが出来たことあったのかよ……!」


「……まあ、ね。僕の魔石ときみの魔石で色が違うのも、これから研究していきたいと思ってるけど……。今はその話は置いておこうね」


 正直なところ、僕自身もイデアのことを『完全に』分かってるわけじゃない。

 でも、分からないなりにずっと感じてる事もある。

 

 イデアはただの心象世界じゃなくて──もっと根源的な、魔法の『法則そのもの』に触れる場所な気がするんだ。

 いろんな可能性を感じるイデアの真相に、僕はもっと近づきたい。


 でも、今は。

 

「イデアの中ってさ、自分自身の『本来の内包魔力』が全て自在に扱える感じなんだ。普段僕たちが使えるのは、その中の半分程度なんじゃないかな」


「げっ、そんなに違うのか!? やべぇな、イデア……」

 

「そう。クロードみたいに無意識に片足突っ込んじゃうような人は、扱いを間違えると本当に"やばい"んだよ」

 

 ごくりと喉を鳴らすクロードに、ちょっと脅かし過ぎたかな……と笑う。


「魔力圧縮するときに、ちゃんとリミッターバッジさえ付けててくれれば大丈夫だから。もう無闇に結晶化することも無いし、安心して」


「お、おう。お前が言うんなら、大丈夫なんだな」


 ちょっとビビってたくせに、僕の言葉ですぐに顔色を良くするクロード。

 なんだか照れ臭いような、呆れてしまうような、不思議な感覚になる。

 

(…………ほんっとにクロードってば、素直すぎてたまに心配になるよ……)


 そこがクロードの良いところでもあるんだけど。

 

「うん、大丈夫!」

 

 苦笑いを抑えながらそう言うと、彼の気持ちは完全に切り替わったようだった。

 

 

「そういやさあ、お前もその魔石できたんだろ? さっき色がどうとか言ってたの、ちょっと見比べてみようぜ!」


「えっ? いや、あの…………僕の魔石は、色々あって、手元にはもうないんだ」


 ダリルさんの胸元にペンダントとして輝いていますからね!

 とは言えない。いや、言ってもいいんだけど、言わない。


「そうなのか? ……ま、いいや。俺のは赤っぽかったけど、お前のはどんなだったんだ?」


「うん? ああ、僕のは青色だったよ。なんか、青といっても濃い青とか水色とか、あと薄く金色っぽいのも混ざってて、なんか複雑な色してたけど……」


 ずっと青色の魔石って呼んでたけど、実はそうなんだ。

 メインは青色だし、間違ってはいないからね。


「ふーん…………。俺思ったんだけどさ、それってなんか、俺らの得意な属性の色っぽくねぇか?」

 

 

「え…………」

 

 

 はぁあぁああああぁぁあっ!?


 …………なんなの!?

 これだから『感覚一点突破型超大天才』はさぁぁぁあっ!?

 

 確かにそうかも。

 クロードが得意なのは"火属性"と"土属性"。

 僕は"水"と"風"と、病気が完治してからなぜか"聖属性"も生えちゃったから、本当にそれっぽい……。

 

 

「おい、アシェル? どうした――」

「クロード! ありがとう、君のおかげで研究が捗りそうだよ……!」


「…………おう……?」

 

 よく分かってないクロードにお礼を言いつつ、ちょっと悔しかったからバンバン背中を叩いてみたけど。

 クロードにはちっとも効いていなかった。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(野生の直感には勝てないよ……)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


__

*告知

【乙兄◇夏休み特別企画】として

8月25日の更新分までの期間は、

『火・木・土の20時』の週に3回更新をさせていただきます!


ということで、次回はイベントで生えた木曜更新の初回、7月23日(木)です。


五ヶ月ぶりくらいのR15の話数ですが、

お付き合いのほどよろしくお願いいたします……(小声)

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