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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第四章◆進行中】  作者: かみながあき
第三章◇中等部一年生編

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十四話◇青い約束

ずっといてほしい、けど……

 

 過剰圧縮の事件がきっかけでダリルさんが僕( たち )の『監視役』になってから、数日後のこと。

 301号研究室にダリルさんが定期的に顔を出すようになったのは、僕にとって絶好のチャンスだった。

 

「アシェルくん、今日は魔力の制御に問題ない? 無理はしてないよね?」

 

 研究中に現れるダリルさんは、いつも僕の体調を気遣ってくれる。

 それが監視という名目であっても、僕にとっては最高の『特別扱い』だった。

 

「はいっ! ダリルさんが見に来てくれるおかげで、僕、すっごく頑張れてます!」

 

「…………いつも頑張ってるくせに」

 

 僕が満面の笑みで答えると、ダリルさんは小声でなにか呟いて、きゅっと眉を寄せていた。

 

 クラウスは呆れたような顔をしていたけど、ゼノはまるで「よかったな」とでも言っているような優しげな顔を向けてくれた。

 いや、当社比だけどね?

 ほんの少しだけ目元が緩むというか。

 なんか最近、ゼノの乏しい表情の変化が分かるようになってきた気がする。

 

 僕はもう、わざわざ意識して毎日「大好きです!」という直接的な告白はしなかった。

 荒ぶると普通にポロッと出ちゃうけど。

 ダリルさんが僕の監視役になった今、言葉なんかよりも「ダリルさんの隣にどれだけ自然に僕の居場所があるのか」ということのほうがずっと大事に思えてきたから。

 

 休憩時間には、僕の方からダリルさんの研究室を訪れることも増えていた。

 

「ダリルさんっ。僕らの研究でこんなデータが出たんですけど、もしかしたらダリルさんの『内包魔力の無意識下における発動の抑制』の研究にも役立つかもしれません!」

 

 そう言って、例の人工魔石のデータや魔力制御の感覚を共有したりなんかもして。

 

「いつもありがとう、アシェルくん。そうやって気にかけてくれたり、わたしの研究にも関心を持ってくれてるの、嬉しいよ」

 

 ダリルさんはそんなふうに笑ってくれたけど。

 僕は少しでも彼の役に立てることが本当に嬉しかったし、魔法理論だって真剣に好きだから、研究棟で過ごす時間は幸せすぎて怖いくらいだった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 ある日の午後。

 僕は渡したいものがあって、ちょっと緊張しながらダリルさんの研究室を訪れた。

 

「ダリルさん。あの、これ……あなたに持っていてもらいたくて」

 

 言いながら僕は、あのとき生み出してしまった青い人工魔石をペンダントに加工したものを、手のひらに乗せて差し出した。

 加工といっても、ペンダントトップ用の石座の形状を魔石に合わせて作ってもらっただけなんだけど。

 

「え、これって……まさかあの時のアレ?」

 

「はい。あの時の結晶です。ペンダントにしてみたんですけど、シンプルだし結構いい感じだと思いませんか?」

 

 ダリルさんは軽く目を見開いてペンダント……というより魔石を見つめていた。

 

「ね、ねぇ……。これは言ってみれば、とんでもない密度の……アシェルくんの魔力そのものなんだよ? おそらくストックとしても使えるはず。わたしなんかより、きみ自身が持っていたほうが……」

 

「っ、それならなおさらダリルさんが持っててよ。ダリルさんに何か……あって欲しくないけど! もし何かあった時、迷わずその魔力を全部使ってでも無事でいて」

 

 もしものときに僕の魔石でダリルさんのピンチを救えるっていうのなら、幾らでも生成したい。言わないけど。

 

「ダメだよ、そんなの。使うとしたらアシェルくん自身のために使わなきゃ……」

 

「イヤですよぉ。それにこの石、僕の魔力とも微妙に繋がってるっぽくて。ダリルさんが持っててくれたら、ずっと近くに居てくれてるみたいで…………僕、もっと頑張れる気がするんです!」

 

 ゴリ押しする僕の言葉に、ダリルさんの頬が微かに赤くなって。

 眼鏡の奥の瞳が揺らいだ気がした。

 

「…………き、みは、またそういう…………。分かった。わたしが預かるよ。つ、ながってるっていうなら、きみの監視にも役に立ちそうだし……」

 

 ダリルさんはそう言って、最終的には青い魔石を受け取ってくれた。

 監視目的でもなんでもいい。

 別にペンダントとして使ってくれなくてもポケットの中でも、ダリルさんが持っていてくれる事に意味があるから。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 そんな魔石の受け渡しから数日後に、お久しぶりのフェリクスがやってきた。

 

「やあ! 研究狂い達、進捗は……………おや、フローレス殿も来ていたのか」

 

 フェリクスは、僕たちの研究室でデータ整理をしていたダリルさんを見てニヤリと笑った。

 

「フローレス殿がこちらの研究室にいるなんて珍しいな。……いや、最近ではそう珍しい事でもないのか? 貴殿がアシェルの『監視役』に志願したと聞いてはいたが、まさか本当だったとは」

 

 フェリクスの言葉に、ダリルさんはほんのり頬を染めながらもキリッとした顔で向き直った。

 

(ねぇ……。カッコよくて可愛いとか反則じゃないですか!? こんなの好きになるしかないんだけど?)

 

 このひとはいったい何回僕を恋に落とせば気が済むのか、なんて……。

 勝手に沼にハマっている自覚は、あるにはある。

 

「……フェリクス殿下、これは研究において極めて重要な事柄です。アシェルくんの魔力は異質で危険なようですから、万一にも暴走などが起きないように、監視は必要かと」

 

「はは、分かっているさ。しかしあれだな。貴殿が活動拠点を移しかねない程にまで、アシェルを気にかけているとは。まるで……」

 

 フェリクスはわざとらしく言葉を区切って、僕とダリルさんの顔を交互に見ながら、含みのある笑顔を浮かべた。

 フェリクスの揶揄いに耐性のないダリルさんは、完全に動揺してしまったみたいで、眼鏡のブリッジを押さえながら僕たちから顔を背けた。

 耳まで真っ赤だった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 夏季休暇も残りわずかとなった頃、僕たちは研究発表会に向けての最終調整に追われていた。

 

 クラウスは理論構築の最終確認、フェリクスは騎士団から提供されたデータをまとめて。

 それぞれが着実に、自分の役割を果たしていく。

 ダリルさんの"監視"は、僕らの研究におけるセーフティネットとなり、僕がつい危険な実験に走りそうになるのを抑えてくれていた。

 

 発表会の日が近づくにつれて、僕らだけじゃなくて、研究棟全体の活気が増していった。

 みんな結実の日に向けて最後の仕上げを始めているんだ。

 

 僕の『研究棟で過ごすダリルさんとの特別な時間』も、夏季休暇と共に終わりへと近付いていく。

 

 発表会での成果ももちろん重要ではあるんだけど。

 いざ魔法理論と向き合ってみると、結果や評価よりも「最後まで知りたい」「証明を完了させたい」という気持ちの方が大きくなってしまうのが、研究者のサガというやつで。

 

 だけど今回はそうもいかない。

 僕らの研究もダリルさんの研究も、ちゃんと評価を得るところまで欲張りたい。

 

 ……だからこそ僕は。

 

「ねぇダリルさん。もう検証実験は終わって、あとは文書だけに専念するよ」

 

「そうなの……? それは……安心、だけど……」

 

 なんとなく、納得のいかないようなダリルさん。

 やっぱり好きだなあ…………僕のこと、ほんとによく知ってる。

 

「意外でしょ? 僕も自分でそう思ってますよ」

 

「じゃあ、どうして? 満足いくまで実験しないなんて、アシェルくんらしくないよ……?」

 

「ふふ! ですよね? ……だから、もちろん実験は続けますよ。発表会が終わった後にですけど」

 

 ぱち、と大きく瞬いたあと、ダリルさんはにっこりと笑った。


「なんだぁ、そういうこと? びっくりしちゃった」

 

「うん、だからね。ダリルさんの任務も完了! もう僕の監視は要らないから、思う存分あなたの研究だけに専念してくださいね」

 

「あ…………」

 

 戸惑うダリルさんにさらに告げる。

 

「もし僕の文書作成がダリルさんより先に終わったら、雑用でもなんでも手伝いに行きますね!」

 

「あ、ありがとう?」

 

 

 その後ダリルさんは、困惑したまま隣の研究室へと帰っていった。

 見送りを終えた僕は、自分の担当分の仕事に取り掛かる。

 

 絶対にダリルさんより先に終わらせて手伝いに行くんだ。

 僕に時間を取られたせいでダリルさんが納得のいくものを出せなくなったら、自分で自分が許せないから。

 

 一緒に居られて浮かれている場合じゃなかったけど、それでも一緒に居られて嬉しかった。

 だから、この夏の思い出に後悔を残さない為にも、僕は自らダリルさんを解放してあげなきゃいけなかった。

 

 長い息に雑念を乗せてを吐きだしたあと、僕は無心で頭とペンを動かした。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(魔石を押し付けるのは重いよ、アシェルくん……!)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。

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