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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第四章◆進行中】  作者: かみながあき
第三章◇中等部一年生編

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【Past Day 4 】安堵とざわめき ーSIDE Darylー

やっぱり綺麗な色……

 

『誰にでも秘密はあって、それを無理に暴かなくても大事な人は大事なまま、ずっと好きでいられる』

 アシェルくんがそんな言葉をくれてから、三ヶ月くらい経った頃のことだった。


「あ、あの……聞いてください、ダリルさんっ」

 

 いつものように、書庫で三人で過ごす週末の午後。少し頬を染めたアシェルくんが、どこか緊張しながら話し始めた。

 

「多分なんですけど、僕の回路奇け」

「わっ!まっ、まってアシェルくんっ……」

 

 急に『回路奇形』についての話が始まり、カーティスに打ち明けるのを先延ばしにしてしまっていたわたしは、アシェルくんの言葉を慌てて遮ってしまった。

 

「………………とっくに忘れているか、わざと約束を反故にしているのかのどちらなのかと思っていたよ」

 

 カーティスの怒りに満ちたその声に、冷たい手に心臓を掴まれたような錯覚がした。

 

 必死に言葉を重ねて、言い訳と謝罪をしたけれど、それだけじゃカーティスの怒りは治らなくて。

 わたしは全てを明らかにする覚悟を決めるしかなかった。

 

 アシェルくんの『体質』が本当は病気で、それはほとんど知られていない難病だということや、その回路奇形という病を治療するために、クリスタのお守り……聖魔力が込められた魔石が必要だったこと。

 

 急に色んな情報を明かされて戸惑うカーティスに、アシェルくんは初めに言いかけたという言葉を告げた。

 

「多分、僕の回路奇形は完治したんだと思います」

 

 期待と不安で気が気じゃないわたしたちに、アシェルくんが続きを話してくれた。

 

「クリスタ嬢のお守りの石……だと長いので仮に聖魔石って呼びますね。まずこの聖魔石の色なんですけど、治癒が発動して魔力を消費するたびに少しずつ色が薄くなっていったんです。でも最近はずっとここから色が変わらない……つまり、持っていても治癒が発動しなくなったんです」

 

 わたしが呆然としていると、カーティスは「それだけで完治というには根拠が薄い」と言った。

 そんなカーティスの言葉にアシェルくんは……。

 わざと危ない実験をして完治を確かめた、と明かす。

 

 恐慌状態に陥ったわたしとカーティスを落ち着かせるために、アシェルくんは《淡光(ルミネ)》を使ってみせた。

 彼の指先に灯る小さな光は、言葉以上に全てを物語っていた。

 

 本当に、治ったんだ。

 

 そう理解したとき、わたしはアシェルくんを抱き締めて泣いていた。

 驚いた彼が叫び、なんだか一瞬眩しくなったけど、わたしはそれを気にしている余裕はなくて。

 

 カーティスに引き剥がされてからも、溶けていく苦しみと罪悪感、そして込み上げる嬉しさと安心と愛おしさ…………ぐちゃぐちゃな心が叫ぶままに、ただ泣いていた。

 

 生まれた時から、ずっと病気で……苦しかったよね。

 ごめんね……だけどもう本当に病から解放されたんだ…………。

 よかったね、アシェルくん。

 

(だいすきだよ、生まれてきてくれてありがとう。生きていてくれて本当にありがとう。出会ってくれてありがとうね……)

 

 言葉にならない思いは涙として溢れ続けていた。

 滲む視界には、まるでホタルの群れみたいなアシェルくんの《淡光(ルミネ)》の光があふれていた。

 

 

 そうだ、魔法が。

 

 いつも目を輝かせて魔法書を読んでたアシェルくん。きみの大好きな魔法を、これからはたくさん使えるようになるんだ……。

 

「よかっ、よかったねえ、アシェルくんっ……」

 

 わたしの口から漏れたのは、小さな子供みたいな泣き声だった。

 なんだかわたし、アシェルくんの前で泣いてばっかりいる気がする……。

 

「ダリルさん……ありがとうございます。本当に、いろいろ。心配してくれて、救ってくれて、泣いてくれて……ありがとう」

 

「どうして君が一番泣いてるんだ。お陰で僕はちょっと冷静になってきたよ…………」

 

 そんな二人の言葉に、わたしは泣き過ぎてひどい顔のままで笑った。

 

「えへへ…………ごめ、ごめんね……涙、止まんなくて」


 二人から何度もお礼を言われたけど、クリスタの力がなければわたしにはほとんど何も出来なかったと思う。

 だけど、カーティスが「思う存分喜びを表現していい」と言ってくれたから、わたしはずっとアシェルくんを抱き締めていた。

 

 奇跡のようにうまれて運命に逆らって生き延びた、大切な彼の存在を確かめるように。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 アシェルくんが「命を救ってくれたお礼に」と綺麗なカフスボタンをくれたのは、あの日わたしが号泣してしまってから少し経った頃だった。

 

 本当にわたしにこれを貰う資格があるのかな……。

 そんな気持ちもあったけど、好意が嬉しくて受け取った。

 そのとき、彼の袖口にも色違いのカフスが付けられているのが分かって。

 

「あ、これってアシェルくんとお揃いなんだね」

 

 何気なく呟いた言葉に、アシェルくんは思ったよりも過剰な反応をした。

 

 アシェルくんはたまに、とっても早口なすごいマシンガントークを繰り広げるんだけど、わたしに聞き取れるのは半分くらいかな?

 聞き取れた情報を整理すると、どうやらこのカフスは『魔道具』だったらしい。

 

 魔道具なんて高価なものはもらえない、そう言って返そうと思ったんだけど……。

 アシェルくんがあんまりにも露骨にしょんぼりしちゃうから、わたしは思わず「新品じゃなくてアシェルくんのお下がりが欲しい」と言っていた。

 

 実際にわたし的には、最初にくれたのも綺麗だったけどアシェルくんの瞳にそっくりな色のカフスの方が好きだったし。

 

 袖口を見るたびにアシェルくんのことを思い出して、ほっこりしそう。

 そんな下心もありながら、わたしはアシェルくんのお下がりのカフスボタンを貰った。

 

 アシェルくんを見ると、なぜか顔を真っ赤にして、何か言いたげにオロオロしていた。

 どうしたのかな、と思ったけど…………わたしはある可能性に気が付いた。

 

(そういえばこの世界って、婚約者同士とかがお互いの色の小物を身に付ける習慣…………あるんだった)

 

 どうせわたしは結婚とかする予定もないし、そう見られても困らないけど…………アシェルくんは……。

 

 いや、でもまだ幼いし!そのうち違う色のカフスに変えたりするんじゃないかな……?

 

 

(…………あれ?なんか今、チクっとした……?)

 

 なんとなく胸が痛くなった気がしたけど、それは一瞬で。

 わたしは気のせいかな?と思いつつ、ちょっとだけ病気とかじゃないよね……と心配になった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 数日後、わたしとアシェルくんのカフスの色に気がついたカーティスが、昼休憩のテラス席でわたしを問い詰めた。

 

「それで?どうして君が元々アシェルのものだったカフスを付けているんだい?」

 

「えぇぇ…………魔道具だって聞いて、そんなの畏れ多くて新品でもらえないなって、思って……」

 

 笑顔の裏に圧を感じるカーティスに、おそるおそる事情を話す。

 わたしだって最初から狙って交換したわけじゃないもん……!

 

「はぁ……。君って本当に、そういうところ、僕はいい加減どうかと思うよ?」

 

「どういうこと……?」

 

 説明を終えたわたしに、カーティスは大きなため息をついてそんなことを言った。

 そういうところってよく分からないけど、たぶん何か怒ってる。

 

「ダリル。もしもがあったら責任を取ってもらうって言ったこと、覚えてる?」

 

「え?う……うん…………」

 

「君が深く考えずに取った行動で、取り返しのつかないことになるというのもあり得るんだ。もう少しちゃんと自覚を持って欲しいね……」

 

 カーティスの言葉は、もう完治したけれどアシェルくんの過去の『回路奇形』のことを思い出させて……。

 わたしは、治りかけた傷跡をまた抉られるような痛みを覚えた。

 

 黙ったままのわたしをカーティスはどう思ったのか。小さく息を吐いたカーティスは、突然妙な話題を切り出した。

 

「ねえダリル。君だってそろそろ婚約の話くらい出ているだろう?だから……」

 

「…………婚約なんてしないよ。ううん、そうじゃなくて……きっと出来ない」

 

 身体は男性で、中身はほとんど前世の"わたし"なのに、どうしたってまともな恋愛なんて……。

 カーティスの言葉を真っ向から否定すると、彼は困惑した瞳でわたしを見た。

 

「え?それは、どういう意味なんだ…………」

 

 戸惑う親友に、わたしは心の中の秘密を少しだけ打ち明けることにした。

 前世のことは話せないけど、わたし自身、彼にはこれくらいは知っていてほしかったのかもしれない。

 

「カーティスだから話すけどね、わたし…………女性も、男性も、そういった意味で好きになれる気がしないんだよね……。もしかしたらわたし、ずっと独り身のままかも」

 

「え…………?君は、何を言って…………」

 

 カーティスは瞳を揺らしながら、なにか真剣に考え込んでいる様子だった。

 途中まで言いかけた言葉を飲み込み、わたしの言ったことをどうにか理解しようとしてくれているようだった。

 

「……こんなんじゃ跡取り失格でしょ?だから、伯爵家はクリスタに……妹に継いで欲しいと思ってるって、両親にも話してあるんだ」

 

「君は………………君もそんな悩みを抱えていたんだね……。何か力になれることがあったら、ちゃんと話すんだよ?」

 

 さらに言葉を重ねたわたしに、カーティスはそんな風に言ってくれた。

 

 彼はもう、最初に怒っていたカフスのことも忘れたように、ただわたしを心配してくれていた。

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(ダリルさんは今後も泣かされる予定です……)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。

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