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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第四章◆進行中】  作者: かみながあき
第三章◇中等部一年生編

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十一話◇綿飴とタルト

それにしたって罰が重すぎない?

 

 夏季休暇に入ってから、時間の経過が本当にあっという間で。

 気が付けばもう二週間が過ぎていた。

 

 高等部の研究棟は、想像していたよりも騒がしかったけれど、ある程度の防音が施されているから気が散るほどうるさいということもなく。

 僕たちの301号室とダリルさんの302号室は、いつも夜が近づいてくるまで明かりが灯っていた。

 

 四年前の『ダリルさん独占夏休み計画』から進歩しているのかは分からないけれど。

 僕は心機一転、『夏休みアピールラッシュ作戦』を着実にこなしていた。

 

 研究にも全力で取り組みつつ。

 毎朝研究棟に来たときと、閉館前の帰るとき……あとは、一応チャイムが鳴らされている昼休憩の時間には、必ずダリルさんの部屋に挨拶をしに行った。

 もちろん一日一回の「大好きです!」も忘れない。

 

 ダリルさんは最初こそ露骨に戸惑っていたけれど。

 僕が研究中は真面目なこと、そしてクラウスが「アシェル君のそれは、フローレス殿への挨拶のようなものなんだね」と妙に納得してくれたおかげで、だんだん慣れてきたようだった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 ある日。僕たちの研究テーマである『魔力圧縮の効率化と安定的な上限』は、理論の壁にぶつかっていた。

 

「アシェル君。君のイメージで魔力を圧縮するところまではいい。だけど、この後の『上限』の設定が、どうしても論理的に成立しない……」

 

 クラウスが真面目な顔で告げて、首を捻る。

 僕は――

 魔力を操作する感覚は掴めているのに、それをうまく言葉で表現できないことに少し苛立っていた。

 

「うーん……僕の感覚だと、魔力って、『わたあめ』みたいなものなんだよね。最初はフワフワで大きいけど、これをギューッと凝縮して固めていく感じで。魔力圧縮の場合だと、どうにも凝縮しすぎて限界を超えると『固い砂糖の塊』になるだけじゃなくて弾け飛んじゃうみたいだけど。クラウスの理論の不足部分は、この『ギュッと固める』ときの圧力の計算なんだと思うけど……」

 

「わたあめ?が何かは分からないけれど、砂糖の塊って…………アシェル君、それはどういう意味なのかな。僕は論理的な裏付けが知りたいんだ……」

 

 クラウスは理解できないようだったけど、僕はこの「わたあめ凝縮理論」でしか、この現象を説明できなかった。

 ここへ来て、転生者ゆえの僕の「異質さ」が浮き彫りになり始めた瞬間だった。


 お互いにもどかしさを抱えた僕たちは、その日は少し気まずい時間を過ごした。

 このまま平行線が続くようなら、僕はガルブレイスのお抱え魔道具師であるグウェインさんに『綿飴製造機』を魔道具として依頼することになるかもしれない…………。

 いや、むしろそれはそれでアリなのかも?なんて事を思ったりした。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 僕は研究に没頭する一方で、ダリルさんのこともずっと気になっていた。

 ダリルさんは、僕たちの賑やかな研究とは違って、いつも一人で静かに研究を進めていたから。

 

(……僕に聖魔石を送ってくれたあの時も。一人で悩んで、クリスタ嬢への罪悪感に苛まれてまで、僕の病気を治してくれたような人なんだ。またなにか一人で抱え込んでないと良いんだけど……)

 

 なんだか心配になってきた僕は、昼休憩のチャイムが鳴ると同時に街まで出かけて。

 有名店のタルトをホールで二つ買って、急いで学園へと戻った。

 一箱は自分たちの研究室に置いて、もう一つの箱を持ってダリルさんの研究室を訪ねる。

 

「ダリルさん、休憩しませんか?これ、『研究の効率が五割増しになるタルト』ですっ」

 

「アシェルくん……タルトにそこまでの効力は、無いと思うよ……。それに、私はきみのチームメンバーでもないのに、そんな気遣いは……」

 

 やっぱりというかなんというか。

 どうにも疲れが溜まっているように見えるダリルさんは、やんわりと差し入れを拒絶しようとする。

 僕は胸の痛みを気合いで堪えながら、精一杯明るく振る舞った。

 

「……っ、ダリルさんが先に、休憩しようねって、僕にタルトをくれたんだよ?僕のは手作りじゃないけど…………それに、ダリルさんが頑張ってるのを見ると、僕も頑張ろうって思えるから。いつもやる気をもらってるんだから、ダリルさんは僕の研究にめちゃくちゃ貢献してくれてます……!」

 

 僕がちょっと強引にタルトの箱を渡すと、ダリルさんは小さくため息をつきつつも受け取ってくれた。

 このタルトの差し入れは、数日後には午後の日課として定着して、僕たちの短い会話の機会を増やした。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 多忙なはずのフェリクスは、僕の予想よりも頻繁に、週に一度くらいの間隔で研究棟に現れた。

 

「やあ、研究狂い達。ぼくもちゃんと己に課せられた仕事をこなしているぞ」

 そんなセリフとともに、僕に紙束を手渡してくる。

 

 フェリクスは、騎士団に話を取り付けて、訓練のスキマに魔力圧縮の実験を取り入れてもらったらしく、その詳細なデータを僕たちに提供してくれた。

 おかげで、僕たちの『安定的な上限』に関する理論の検証母数が大幅に増えた。

 

「フェリクス、本当に助かるよ!いつもありがとね」

 

「……うん。名前だけの参加など、名誉どころか恥でしかないからな。お前達の力になれる事があって良かった」

 

 そう言ったフェリクスは、耳の先を赤くしていた。

 

(なんなんだよこの王子…………たまに出る『うん』は可愛すぎるからやめろ、うむって言え!)

 

 心の中で理不尽に罵倒されているとは知らないフェリクスが帰ったその翌日。

 僕が微妙に手順がややこしい実験に取り組んでいた、その時だった。

 

 研究室のドアが、いつものノックの音とは違う、乱暴な音と共に開かれた――

 

「アシェル・ガルブレイス君!見つけたぞ!何故君は研究員バッジに応答しないのだ。まさか壊れたとでも言うまいな?まあいい、仮にも壊れていたとしてもすぐに新しい物を持たせれば済むだけの事!」

 

「ひぃっ!だ、ダミアン先生……!?」

 

 そこに立っていたのは、目を血走らせたダミアン先生だった。

 研究員バッジはわざと音量を絞って聞こえないようにしていただなんて言える訳がない……!

 

「君の魔力操作の感覚がどうしても必要な実験がある!さあこっちへ来なさい!私の研究室へと共に参ろうではないか。なあに君にとっても勝手知ったる場所だろう。頼むよアシェル・ガルブレイス君、この研究は完成すれば君の『感情・イメージによる術式構築理論』程では無いにしろそれなりに歴史を動かす程度の意義あるものと成るだろう!」

 

「いやっ……あの、ちょ…………まっ、待ってくださ――」

 

 抵抗する間もなく、僕はダミアン先生に攫われていった。

 あとには呆然と見送るだけのクラウスとゼノ、僕が取り組んでいた実験器具、そして隣室から聞こえるダリルさんの静かな作業音だけが残された……。

 

(うぅ……。これってもしかして……いくら心の中とはいえ、理不尽にフェリクスを罵倒した罰なの……?)

 

 引き摺られながら、ついそんな事を思った僕だった。

 

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(ダミアン・キャンセルが発動しました……)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。

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