三話◇気になる二人 ★
本物だぁ……
あの研究発表会があった日。
家に帰ってから、カーティス兄様に色々と事情を聞いた。
どうして兄様やダリルさんがあんなに取り乱したのか、その理由を。
どうやらダミアン先生は、基本的にファーストネームで呼ばれることを嫌っていて、それは教師陣や高等部内では周知の事実だったようだ。
ダミアン先生の声が大きいこともあり、あの場に居た多くの人が『何と呼ぼうと許しは要らない』という宣言を聞いていて。
僕は知らないところで一躍有名人になってしまっていたらしい……。
そんな『ファーストネーム事件』と同時に、僕の理論研究自体も広く認められることとなった。
以来、僕の学生生活は、一気に研究と授業の二極化が進んだ。
座学は程よく楽しめるし、実験は狂気的に面白かった。
思った以上に充実した中等部生活の始まりから、ひと月ほど経ったある日。
中等部一年Aクラスの教室は、半端な時期に突然現れた転入生によってざわめいていた。
「静粛に!今日から諸君らに新しいクラスメイトが加わる。隣国からの転入でこのAクラスに来たという事は、優秀な人材である事は明白だ!それを歓迎しない道理など何処にも有りはしないと!諸君らもそう思う事だろう。さあ、新たな生徒たちよ、胸を張って名乗りたまえ!」
相変わらずものすごくクセの強いダミアン先生に促され、二人の生徒が教壇に立つ。
一人は、青色がかった銀髪に黄金色の瞳を持った、穏やかな美青年。
そしてその傍らに、錆色の髪に鋭い深紅の瞳を持った青年が、控えるように立った。
(うわーっ、ついに来た!コモハナ攻略対象のクラウスと従者のゼノだ……!)
僕は思わず身を乗り出す。
目の前の二人は、純粋に乙女ゲームを楽しむつもりだったはずの数多の女性たちをも、薄い本の沼に叩き落としたとされる……例の主従だった。
(…………いや、まあ、僕は知らんけど。妹がね?そう、前世の妹が!)
もし本当に『そう』だったら、同性同士のカップルのお手本になってくれないだろうかなんてそんなことはちょっぴりしか……。
なんて、どこに向けているのか分からない言い訳をしている間に、自己紹介が始まった。
「今日からこの学園で学ばせていただく、クラウス・キングズリーと申します。慣れない異国での生活となりますが、どうか皆さん、よろしくお願いします」
クラウス王子は、穏やかで、誰に対しても当たり障りのないような笑みを浮かべている。
王権争いを避けて遊学に来ているという設定通り、周囲に壁を作っていることが、その完璧な笑顔から窺えた。
続いて、従者のゼノが深々と頭を下げた。
たしか彼は僕たちより二歳年上で、クラウスの傍にいるために中等部一年生として編入してきたって設定だったはず。
「私はクラウス王子の従者、ゼノです。王子の身の回り一切をお世話させて頂いております。一生徒という立場よりも従者としての務めを優先させて頂きますので、何卒ご理解下さい」
(ゼノって、わざわざ同じクラスに入って……。学園内でまで王子の世話がしたいなんて、相当愛が重いタイプなのかな……。それともクラウスの要望だったとか?)
ゼノの表情は一切崩れない。だけどクラウスが動くたびに、ゼノの鋭い紅い瞳も無意識に彼を追っていた。
その視線は忠誠心というよりも、保護とか執着に近いもののように見えた。
「キングズリー王子、ようこそグランディールへ」
転入生の挨拶が済んだ途端。
僕の斜め前に座っていたフェリクスが、静かに立ち上がって王族としての挨拶を述べた。
ふたりの王子様は、表面的な友好国としての礼儀正しさで、にこやかに微笑みあっていた。
ダミアン先生は、異国とはいえ王族のクラウスがいるにも関わらず、二人の席の配置などまるでお構いなしのようで。
「視力に問題が無いのなら座席など大した意味を持たん。空いた席に好きに座ると良いだろう。さあ早く座りたまえ」
そんな風に、急かすように着席を促した。
クラウスとゼノが選んだ席は、僕のいる中央列三列目の通路を挟んですぐ隣、窓側三列目の席だった。
…………うん。ニールくんと反対側の僕の隣の席、最近ずっと空いてたんだよね。
ダミアン先生が事あるごとに僕の隣にやってくるからだと思う。
というか、そうであってほしい。
(まさか隣に座るなんて思ってなかったけど……これは観察?というか、交流のチャンスかも)
僕の、研究以外の『学園生活を楽しんで色んな経験を積む』という目標を達成するのに。
異国から来たクラウスたちと交流を深めるっていうのは、うってつけだと思うんだよね。
うん。ありよりのありな気がしてきた。
授業中。
僕はノートを取りながら、左隣のゼノとその奥に座るクラウスの様子を、横目でチラリと盗み見る。
クラウスがほんのちょっと咳き込むと、ゼノは音もなく水を差し出して。
当然のようにそれを受け取った王子は、少し飲んで、またゼノに返す。
その後も、ふとクラウスの筆が止まった瞬間に、ゼノは静かに別のペンを差し出したりしていて……。
僕からすれば『今のなに?』って感じなんだけど、二人は言わずとも通じ合っているようだった。
(ゼノの献身ぶりがすごい……え、いつもこんななの?これってもう愛じゃん…………クラウスからすればこれが普通なんだぁ……)
これが薄い本を厚くする主従か、なんて。
つい観察に熱が入ってしまったところで、ニールくんが僕の肩をつんつんと突ついて、小声で注意してくれた。
「アシェルさま……ノート、そろそろ前半の板書消えちゃいますよ……」
「……っ…………ありがと、ニールくん」
本当はそこまできっちりノートを取らなくても問題はないんだけど。
授業中にあまりにも上の空なのは良くないから、注意してくれて助かった。
授業が終わって休み時間になると、僕は意を決してクラウス王子に話しかけてみた。
「キングズリー王子、こんにちは。僕、アシェル・ガルブレイスといいます。ええっと……あそこの、フェリクス王子の隣の席にいるのが、双子の妹のアリシア・ガルブレイスです」
僕が話しかけると、クラウス王子は穏やかな笑顔で返してくれたけど。
ゼノは鋭い警戒の視線を僕に向けた。うーん、番犬だ。
「ガルブレイス…………侯爵家の。ご挨拶痛み入ります、僕のことはクラウスと呼んでください。双子なんですね。アリシア嬢といえば、確か、フェリクス王子の婚約者の方ですね」
「ご存知でしたか。僕のことも気軽にアシェルと呼んでください。よろしければ、放課後に図書館や学園の裏庭など、色々な場所を案内させていただけませんか?」
ゲーム時と学年は違うけど……。
僕は攻略ノートの序盤イベントを再現するように、クラウス王子の興味のありそうな場所へと彼を誘った。
クラウス王子は少し戸惑った様子を見せたけど。
彼が心の奥底では「信じることが出来る友人」を求めるていることを、僕は知っていた。
「……ええ、もちろん。アシェル君の申し出は、本当にありがたい。ぜひお願いします」
最後には外面用の笑顔に戻ってしまったけど。
クラウスと約束を取り付けることに成功した僕は、これからどうやって仲良くなろうかなあと考えていた。
番犬ゼノの静かな威嚇には気付かないふりをした。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
(ついに攻略ノートのあの二人が……!)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。
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【 SYSTEM MESSAGE 】
2-7:学園の友人たち の update 完了。
5-2:その他・フレーバーキャラ の unlock 完了。
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