二話◇降って湧いた舞台
ダリルさんの眼鏡になりたい……
中等部になって一週間が過ぎた頃には、新校舎にも慣れてきて、周りの浮き足だった空気もだいぶ落ち着いてきた。
座学での授業の範囲は、ぶっちゃけすでに自主学習で学び終えてしまったところばかりだった。
でも、改めて先生方の話を聞くのもおさらいになるし、教科書には載っていない余談なんかが聞けたりするのも楽しかった。
『偉大なる空間魔法の巨匠であるレオ・マクウェは、一説によると、ある日突然姿を現した異界の者だという見解がある。また彼は、亜空間収納の魔道具に並々ならぬ熱意を注いでおり、今でも幾つか現物が保管されている。だが、保管されたそれらの芸術品のような魔道具はごく一部の例外であり、彼の作る収納魔道具のその大半は、半円型の白い巾着のような形をしていたという……』
この話を聞いた時は、授業中なのに思いっきり吹き出しそうになって咽せてしまった。
それってほぼ間違いなく、あの四次元のポケットをモチーフにしてるよね?
名前もマクウェじゃなくて幕上さんで、本当に転移者だったんじゃ無いだろうか……。
なんて、驚くべき新発見があったり。
そんな感じで、今のところ授業をつまらなく感じることはないかなぁ。
現状の不満といえば、高等部と中等部という「校舎の壁」によって、ダリルさんに会う機会が極端に減ってしまったことだ。
(今じゃ、たまたま見かけることなんて、もう無いに等しいもんなぁ…………)
そんな中、ダミアン先生が僕に突然のチャンスを与えてくれた。
「アシェル・ガルブレイス君!君のこの『感情・イメージによる術式構築理論』の基礎骨子は中等部の課題としてだけ扱うには余りにも勿体無い!高等部の教授陣にも目を通してもらい、より発展的な研究をサポートしてもらおうではないか!」
僕は純粋に嬉しい反面、展開の速さに戸惑ってしまったけど。
ダミアン先生の狂気にも近い熱意の前には、『辞退』という言葉を口にするのは不可能なことだった。
そうして僕は、高等部の教授陣や、各教授が推薦した優秀な生徒たちが集まる『研究発表会』の席で、中等部の代表として発表する機会を与えられた。
◇ ◇ ◇
発表会場となったのは、高等部の講堂だった。
会場の空気は、中等部では感じたことのないヒリつくような緊張感に満ちていた。
ここにいる生徒たちは、王侯貴族や大貴族の子息、あるいは特待生として選ばれた者たちだけだという。
僕が普段目にしている同世代の生徒たちとは、比べるまでもないほどに……この場にいる彼らは、別格の落ち着きと威厳をまとっていた。
見渡してみても、中等部の生徒は僕ひとりだけのようだった。
事情を知っている教授たちはともかく、上級生たちには僕が異物に見えるんじゃないかと少し不安になったけど。
ダミアン先生と連れ立って入ってきたおかげなのか、どうやら彼の奇行の一部として映っているようで、特に目立っている感じでもなかった。
軽く周囲を確認しようと巡らせた僕の視線は、吸い寄せられるように、ある一点で固定される。
「…………ダリルさん……それに、カーティス兄様」
そこには見慣れた……でも普段よりも大人びて見える横顔があった。
兄様もダリルさんも、学園の中でも抜きん出た実力派のはずだから。
(確かに、二人がこの場に居ない方がおかしいもんね……)
見つめ過ぎて視線を感じたのか、ダリルさんは僕に気づいて静かに微笑んだ。
なんだかその姿は、屋敷でタルトを食べながら僕の話を聞いてくれた、いつもの優しいダリルさんとは異なっていて。
白いシャツに、格式ある濃紺のブレザー、そして最近たまに見かけるようになった上品な金縁眼鏡。
単に制服が違うだけじゃなく、彼のまとう空気そのものが違って見えた。
(眼鏡のダリルさん……かっこいい。中身はずっと可愛らしい人のままだけど……)
ダリルさんのすぐ隣に座るカーティス兄様も、僕を見てわずかに目を見開いたあと、そっと微笑んで目礼をしてくれた。
そんな兄様も、やっぱり屋敷で見る兄様とはどこか違っていて。
二人の姿は、努力を重ねて得た実力と自信に満ちあふれた、もうすぐ成人して大人の仲間入りを果たす……そんな高等部の生徒そのものだった。
◇ ◇ ◇
発表会は成功だった。
僕の発表した理論骨子は高等部の先生方にも驚きをもたらしたようで、「今からでも高等部で教鞭をとるべき逸材だ」なんて畏れ多い賛辞までいただいてしまった。
(……まだ、机上の空論の域を出ないんだけどな……)
少しずつ人が減っていく中、ダリルさんとカーティス兄様が二人並んで僕の傍まで歩いてきた。
「アシェル。素晴らしい発表だったね。ガルブレイスとして国家への貢献に繋がることも、もちろん称賛すべきではあるけれど……。それ以上に、僕は一人の兄として、君のこれまでの努力が本当に誇らしいよ」
「カーティス兄様……。えへへ……ありがとうございます」
兄様は慈しむような眼差しで、僕に最高の褒め言葉をくれた。
その手放しの賞賛に、嬉しいけれど照れて口端がむぐむぐ動いてしまう。
続けてダリルさんが口を開いた。
「アシェルくんっ、発表お疲れ様!まさか中等部に入学してすぐに、合同研究発表の場に現れるなんて……本当にびっくりしちゃったよ。それに、発表も本当に素晴らしくて………………すごく、頑張ったねぇ、アシェルくん……」
話しながら感極まったように瞳を潤ませたダリルさんは。
もう普段通りの、柔らかな雰囲気をまとったいつものダリルさんだった。
「うん…………ありがとう、ダリルさん。僕、本当に頑張りました。だけどまだ終わりじゃないから。これからも、今まで以上に頑張るつもりです……!」
一日でも早く、あなたの隣に並ぶために。
最後の言葉だけは、音に乗せずに飲み込んだ。
どことなく甘ったるいような、くすぐったいような気持ちを持て余していたら、兄様が小さくため息をつく音が聞こえた。
「また君は…………ねえダリル?毎度のように兄を差し置いて泣くのはやめようね?」
「まっ、まだ泣いてないよ……!」
なんとも言えない注意をする兄様に、微妙な反論をするダリルさん。
そういえば前にもそんなこと言ってたなぁと思い出す。
(確かにダリルさんって、結構涙もろいよなぁ…………え、可愛い……ほんとすき……)
そんなことを考えてぼんやりしていたら、突然声を掛けられた。
「おお!アシェル・ガルブレイス君、こんな所に居たのか。もう高等生達と交流をしているとは!ん?なんだ、カーティス・ガルブレイス君とフローレス君ではないか!成る程成る程」
一区切りつくまでが長い先生の言葉は、なかなか口を挟むタイミングが難しい。
兄様は慣れているのか、すんなりと合間に声を掛けた。
「キャンベル先生。先生がアシェルをこの場に呼んでくださったんですね、ありがとうございます」
「うむ?礼を言われる筋合いは特にないと思うが、まあいいか。君達も明らかに突出した実に素晴らしい生徒であったが、君の弟は!本当に周りと群を抜いている!ああ、時間が勿体無いな。中等部に帰るぞアシェル・ガルブレイス君!」
話の途中で突然帰ろうとするダミアン先生に、僕は慌てて静止の言葉をかける。
「えっ、待ってくださいよ、ダミアン先生……」
「アシェル……!?」
「…………うそ……どうしよう…………」
なぜかカーティス兄様が、僕以上に慌てた様子でダミアン先生と僕の顔を見比べている。
ダリルさんも、顔を青ざめさせて狼狽えていた。
(えっ、なに?いま何があったの?……二人ともどうしたんだろう……)
「………………アシェル、キャンベル先生をファーストネームで呼ぶ事は……」
「なんだそんな事か!構わん、構わんのだよカーティス・ガルブレイス君。彼は既に私の共同研究者の一人なんだ!故に私を何と呼ぼうと許しなど要らんのだよ。さあ今度こそ帰るぞアシェル・ガルブレイス君!」
ダミアン先生の言葉に、兄様とダリルさんはぽかんとしていた。
うん、僕もぽかんだよ……。
正直なにがなんだか分からないまま、僕は来る時と同じように、半ば引き摺られるようにして中等部の校舎へ戻る羽目になった……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(ダミキャンのキャラが濃すぎて困ります……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。
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【 SYSTEM MESSAGE 】
2-7:学園の友人たち の update 申請を受諾。
5-2:その他・フレーバーキャラ の unlock 申請を受諾。
ーー 現在処理中••• ーー
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