一話◇新たなはじまり (★新規表紙)
前書きでご挨拶するのは第一話以来でしょうか。
作者のかみながです。
早いもので【乙兄】ももう第三章に突入となりました。
アシェルくんもようやく中等部生になったことで、
ここからクソデカ感情タグの本領発揮……と言えたら良いのですが、
矢印は育ちつつ『じれじれ』タグも本気を出して参ります。
ぜひ引き続き、このじれったいラブコメもどきをお楽しみくださいませ☆
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★新規表紙イラスト★
王国歴八三二年、四月。
僕とアリシアが、揃って中等部の門をくぐったのは、春の初めのまだ冷たい風が吹く日だった。
十三歳になった、産まれてすぐに儚くなるはずだった"悪役令嬢の双子の兄"である僕。
こと、アシェル・ガルブレイスは、真新しい制服に身を包んで期待を胸に抱いていた。
この三年間で、僕の身長はダリルさんに追いつくほどに伸び、声も低く落ち着いたトーンに変わった。
ありがたいことに、元がアリシアと同じという事は、容姿にも大変恵まれているので……。
少し真面目な顔をしているだけで、「知的でカッコイイ」なんて言われることも増えてきたりして。
(……でも僕は、ダリルさんにこそ言われたいっ!)
三年間の努力に裏打ちされた自信は、僕のまとう雰囲気にも変化をもたらしているのかもしれない。
門をくぐり、広大な中等部のキャンパスを見渡す。
そこは初等部のエリアとは空気からして異なっているように感じられた。
初等部が「学びの場」であるなら、中等部は言ってみれば「才能を競い合う戦場」そのもののようだ。
「アシェル、何をしているの?早く行きましょう」
「…………うん。行こう」
隣に立つアリシアも、もう以前の可愛らしい様相のままじゃなかった。
社交界(という名のお茶会)で磨かれた圧倒的な優雅さと、研ぎ澄まされた知性を感じさせる美しい淑女。
そんな言葉が似合う今の彼女は、遠い記憶で見たひとりぼっちの悪女よりもずっと優しい顔をしていた。
◇ ◇ ◇
クラス分けボードの前に到着すると、既にいつもの顔ぶれが揃っていた。
フェリクス、クロードとシャロン嬢。
それにヒューゴと、ブレインくんに、ニールくん。
結局初等部の四年間でも、全員Aクラスのままで過ごしたから、心配はしてなかったけど。
それでも、みんなの名前がAクラスの欄に揃っているのを見ると、改めて嬉しくなる。
彼らもまた三年間でそれぞれに成長していて、研究に没頭していた僕にとっても、それはいい刺激になった。
「アシェル。お前、また背が伸びたんじゃねぇか?ほんとどうなってんだよ……」
教室までの道すがら、クロードが呆れたように言う。
「確かにまた伸びたけど、そう言うクロードの方が高いよね。なんならヒューゴが一番大きいけど?」
僕は反論しながら、後ろを歩くヒューゴたちのグループに少しだけ視線を向ける。
さすが辺境を守る辺境伯家門の血筋だ。デカい。マッチョじゃなくてスマートだけど。
「研究ばっかやってたくせに、俺やヒューゴと変わらねぇくらい伸びてんのが不思議だって言ってんだよ。殿下もそう思うでしょう?」
「ぼくに振るなよ…………それには確かに多少の理不尽さを感じるが。アシェルの目標とそのための努力を思えば、仮に主神が多少の依怙贔屓をしたのだとしても、納得は出来るぞ?」
フェリクスは苦笑しながらも、そんな風に言ってくれて。
嬉しいけど、ちょっとだけ照れ臭かった。
教室に入ると、担任の先生らしき人が、白衣姿で壇上に立っていた。
眼鏡の奥の瞳は爛々と輝いていて、まるで実験の成功を目前にしたマッドサイエンティストのような熱を帯びている……。
全員が着席するのを待っているんだろうか。
無言で佇むその姿に、生徒達は戦々恐々としながらも席につき始めた。
クラスメイト達も、初等部からほぼ変わらないメンツだったから。
席順にも大きな変化は無くて、時間はそれほど掛からなかった。
満足そうに目を細めた白衣の人物は、大きくひとつ息を吸い込んだ。
「よーうこそ、中等部へ!私はダミアン・キャンベルだ。初等部のぬるま湯から抜け出した諸君には、徹底的に『魔法の真理』を追求してもらうぞ!理論なき魔法使いなど、そんなモノはただの術者だ!」
僕は、その教師の異様な熱気に、いろんな意味で鼓動が早くなった。
ヤバい人に遭遇してしまったかもしれない……。
そんな微かな恐怖も感じたけれど、それ以上に――
この場所こそが、僕の「感情・イメージによる術式構築理論」を表舞台に立たせるための、最高の研究室になるんだと直感した。
◇ ◇ ◇
ダミアン先生の熱狂的な挨拶を聞きながら、興奮するクラスの様子をよそに、僕はふと中等部の校舎の向こう、遠くに見える高等部の校舎に目を向けた。
(ダリルさんはいま、あの校舎の中にいるんだよね…………遠い、なぁ……)
物理的な距離でいえば、初等部の頃よりもずっと遠くなってしまった。
初等部と中等部だった頃なら、校舎は違っても同じエリアにいられたのに……。
高等部だけは特別というか、それぞれの敷地の境界は塀で囲われていて、完全に独立した別の建物のようになっている。
その境界塀が、まるで『中等部生と高等部生』という僕とダリルさんの決定的な立場の差を可視化したもののように思えてしまった。
(僕がいま、中等部一年生で…………ダリルさんは、高等部二年生)
頭の中で、簡単すぎて考えたくもない計算が走る。
ダリルさんが学園自体を卒業してしまうのは、あとたったの二年後だ。
"初等部在学中に理論の骨子を確立する"という目標は達成したけれど。
「対等な男性」として彼の隣に立つというもう一つの目標を、同じ学園生でいられる間に成就させようと思うのなら…………残された時間は、驚くほど短かった。
しかもダリルさんは四歳も年上で。
卒業後に、いつまでも婚約者が決まらないままでなんて、いてくれるわけがない……。
突然押し寄せてくる現実が、この焦燥感が、僕を立ち止まらせそうになった。
そんな時。
「やあ!アシェル・ガルブレイス君だねェ?君の論文、拝見したよ。あれは!実に!素晴らしい!」
ダミアン先生が僕の席の真隣に立ち、興奮を抑えきれない様子で僕の肩を掴んだ。
その手は、ぼんやりしていた僕の意識までも一瞬で呼び戻した。
「え、論文……?もしかして、クラス分けテストの裏に走り書きしてしまった、メモのこと……ですか?」
「そうそれだ!各教科分集めるのには実に苦労したものだよ。あれは!もう、中等部三年間の必須課題である『独自の魔法理論による論文完成』としてそのまま提出してもまるで問題ないレベルまで突き詰められているのではないのかね!?」
「えっと……あの……」
キャンベル先生の迫力に、僕はろくに言葉を挟むことすら出来ずにうろたえる。
「君は!入学時点で既に、卒業課題にも等しい論文のその骨組みを、ほぼ完成させている。しかもその発想は前例がないものときた!まったく、メイジー・ボールドウィン女史から話は聞いていたが、これほどとは!」
おそらくこれがデフォルトなんだろうけど……。
荒ぶる先生は、クラスメイトの視線など気にも留めず、僕を品定めするように、あるいは実験対象を見るかのようにじっくりと観察する。
周囲は何事かとざわつき始めたけれど。
その中で、アリシアだけは「さすがアシェルね」と誇らしげに目を細めた。
僕の隣では、ニールくんが先生に怯えて涙目になっていた。
「あ、あのっ!……その、理論についてはこれからもっと検証を重ねていきますので……」
「謙遜は不要だ!君の理論は、中等部のカリキュラムを遥かに飛び越えている。我々教師陣は、君をただの生徒としてではなく!一人の有望な共同研究者として扱うことになるだろうね!」
先生のその言葉は、僕にとって最高の賛辞だった。
大人達を相手に、それも一流の研究者である人達に対等に扱ってもらえるなんて。
きっと、魔法使いとしても研究者としても、この上なく名誉なことだろう。
そんな過剰とも思えるような賛辞によって、頭の中で鳴り響いていた「二年」というカウントダウンの音は徐々に小さくなっていく。
クリアになった思考は、僕に大事なことを思い出させた。
(…………そうだ。時間を無駄にして嘆くのはやめるって、あのとき決めただろ。それに……)
恋は人を盲目にするとは、本当に的を射た言葉だなと思う。
ダリルさんが絡むとすぐに視界が狭くなってしまう僕には、特にそうだ。
少しでも早く同じフィールドに立って、ダリルさんに対等な存在として意識してもらえる自分になってみせる……!
この気持ちからは、絶対にブレるつもりはないけど。
全ての中心に『恋』を据えるのは、何か違う気がした。
これまでの三年間は、それだけを目標にしていたけど。
これからの三年間は、あらゆる物事を吸収して、自分を成長させるためにも、もっとちゃんと学生生活も楽しんで過ごしてみよう。
そんな新たな決意を持って、僕の中等部での生活が始まった。
ナンバリングありの、第三章の一話目でした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(全ての中心に『恋』を据えるアシェルくんが何か言っていましたね……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。
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【 SYSTEM MESSAGE 】
2-5:コールマン伯爵家 の update 完了。
3:影の住人たち の update 完了。
4:学園の職員 の update 完了。
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