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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第五章◇進行中】  作者: かみながあき
第五章◇中等部二年生編(後期)

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十一話◇穴埋めオンパレード

身から出た錆って、こういうことだよね……

 

 

 訓練場の空に飛ばされてから数日後。

 クロードとの遊びが中等部内で噂になってしまったせいで、僕はいま各方面からじっとりとした視線を向けられていた。

 

 まず、昼休憩には――

 

 ◇    ◇    ◇

 

 定例男子会よろしく、サロンで各々好きに過ごしていた時のこと。

 コン、コン、と指先で机を鳴らして視線を集めたフェリクスが、徐ろに口を開いた。

 

「お前たち……二人だけで随分と楽しそうな事をしていたらしいなあ?」

「そうなんですよ! 今度殿下もやります? 俺が飛ばしてアシェルが受け止めれば良いよな!」

 

「う……うん」

 

 フェリクスの不機嫌に気付かないクロードは、のんきに笑っているけど。

 目の奥が笑っていないロイヤルスマイルに、僕は内心冷や汗をかいていた。

 

「あのさフェリクスっ。僕だって、いきなりクロードに引きずられていっただけで、言ってみれば被害者なんだよ? わざとフェリクスを除け者にしたわけじゃ――」

 

「まあ……そうだろうな」

 

 僕の言い訳を遮ったフェリクスは。

 スッと笑みを消したかと思うと、徐々に無表情からむすっとした顔へと変わっていく。

 

「しかし、だ。普段は研究漬けのお前が、たまにクロードと派手に遊んでいるのは知っているぞ?今回が初めてじゃない」

 

「……それは、まあ…………はい」

「なあアシェル。もしかして、殿下って怒ってるのか?」

 

 珍しくクロードが言葉の真意を読み取りかけてるのはすごいんだけど、それは『今じゃない』よね?

 あんまり小声になってないし、頼むから黙っててほしい……。

 

「ぼくは別に怒っているわけじゃない…………が。次は、呼べ。分かったな? クロード、アシェル」

 

 あれ。意外とクロードの発言のお陰で、フェリクスにしては遠回りせずに結論が出たのでは。

 いつもだったら、もっとじわじわチクチクと迂遠に突っついてくるのに。

 

「はい!」

「でもフェリクスって、忙しいんじゃ……」

 

 相変わらず事態を真には飲み込まないまま、元気いっぱい明るい返事をするクロードとは対照に。

 僕は思わず現実的な意見を返してしまった。

 

「っ、誘うことに意味があるんだ! 返事は"はい"しか認めない……」

 

 いつも余裕綽々といった体裁を崩さないのに……フェリクスが声を荒げるところなんて、もしかすると初めて見たかもしれない。

 彼自身にも自覚があるのか、耳の先を赤くして、バツが悪そうにフイと視線を逸らした。

 

(実際の状況がどうとかは置いといて、素直に感情で返すべきだったんだ……。クロードじゃなくて、僕の方がバカじゃないか……)

 

「そっか……うん。ごめん、フェリクス。今のは完全に失言だったよ」

 

「……許す。それで、返事は?」

 

 謝罪をすんなり受け入れてくれたフェリクスは、顔を背けたまま視線だけで僕を見る。

 僕は今度こそ言葉を間違えないように、慎重に口を開いた。

 

「次からは…………突然連行されない限りは、ちゃんと声かけるよ」

 

「うむ」

 

 まだ少し不満が残っていそうだったけど、ようやくフェリクスが小さく笑みをこぼした。

 これでひと段落。と思ったとき――

 

「アシェル。俺にも思う所がある」

 

「え、ヒューゴ……聞いてたの?」

 

 それまで無心で防具の手入れをしていたと思っていたヒューゴが、突然声をかけてきた。

 てっきりこっちの会話なんて気にしていないと思っていたから、ちょっと面食らってしまった。

 

「思う所って、な、なに……?」

 

「お前は軽く返事をしておきながら、結局は夏季休暇中に寮に来ることはなかったな。ブレイン……と、ニールが、寂しがっていた」

 

「えっ……? あっ、あの時の……!?」

 

 イデア合宿目前の、クロードに怒られた日に……。

 確かにブレインくんの声を幻聴で聞いたような、という、薄ぼんやりとした記憶を思い出す。

 

 

『アシェル様ー! 今年も休暇の後半は、寮に遊びに来るっスかー!?』

『うん……』

 

『じゃあまた、オレが家から戻ったら連絡入れるんで、先にもう寮章の申請だけ入れとくっスね!』

『うん……』

 

(幻聴じゃないじゃん……しかも僕、返事しちゃってるし……! うわ……サイテーだ)

 

 気付かないうちに約束をすっぽかすという悪行をしでかしていたことに、頭を抱えたくなる。

 僕が青くなっていると、クロードがフォローのつもりなのか、声を上げた。

 

「なんだお前……またやったのか? なあヒューゴ、こいつが『うん』しか言わないときは、あんま真に受けない方がいいぜ?」

 

「それは今回分かった。ブレインにも言っておく」

 

 事実なだけに、余計に居た堪れないんだけど。

 どうやら僕は本当に研究とダリルさんのことになると視野が狭くなるらしい。

 

(……って、これ前にも思ったんだっけ……はぁ。成長出来てなくて、イヤになるよ……)

 

「ごめん……ほんとごめん。二人にもまた、ちゃんと謝るよ……」

 

「ああ、そうしてやれ。それはそれとして、俺個人としてもお前に言いたいことがある」

 

「……まだなにか……?」

 

 そろそろ自分の不甲斐なさにダメージが限界なんだけど、聞くしかないんだ。

 何を言われても甘んじて受け止めよう。

 そう決めた僕にヒューゴが零したのは、予想していたのとは違う角度の不満だった。

 

「魔法障壁での鍛錬の話だ。そんな方法があるなら、俺にも一言欲しかった」

 

「…………うっ、ごめん……」

 

 内心、『あ、そっち?』と安堵したのも事実だけど。

 強さを追い求めてストイックに励むヒューゴには、自分の知らない未知の鍛錬法ではしゃぐクロードの話は、確かに面白くなかっただろうな。

 

 今度ヒューゴの鍛錬にも付き合う約束をして(クロードとは遊びだったけど)、その場はなんとか丸く収まった。

 

 ◇    ◇    ◇

 

 そして、放課後。

 帰り支度をしながらブレインくんとニールくんに声をかけて、あらためて少し時間をもらった。

 

「アシェル様、めずらしっスね。今日は爆速であっち(研究棟)行かないんスか? 最近ずっとぼんやりしてるかダッシュかの二択だったのに」

 

「う、うん」

 

 ブレインくんの他意はないけどストレートな物言いに、僕ってそんなイメージなんだと刺さるものがある。

 でもここでめげてる場合じゃないから。

 僕は二人にも、無意識に返事をして、結果約束を保護にしてしまったことを謝った。

 

 二人の反応は、それぞれ全然違っていた。

 

「あー……ね? いや、オレも強引に誘っちゃったみたいで悪かったっスよ! それにちゃんと見てたらアシェル様が上の空だったって、分かったはずですし」

 

(優しいっ……優しすぎるよ……。ブレインくんって、本当にお日様みたいだよなぁ……)

 

 もしかすると僕が知ってる人の中で、ダリルさんの次に優しい人かもしれない。

 そしてニールくんは。

 

「……アシェルさまが忙しいのは分かってますので、大丈夫です。……でも、アシェルさまに渡すはずだったお土産は、ヒューゴくんに二つあげちゃいましたから……!」

 

「そ……そうなんだ。えっと、ごめ、ごめんね?」

「あれ? ニール君、お土産ってたしか……」

 

 僕が戸惑いながら追加で謝罪をしている横で、なぜかブレインくんも困惑しているようだった。

 少しのあいだ、三人でお互いの顔色を窺っていたけれど。

 

「……うそです、ちゃんとあります。どうぞ、アシェルさま」

 

 そう言って、餌を溜め込んだルナリスみたいに片頬を膨らませたニールくんは、僕に綺麗な羽根飾りのオーナメントを手渡してくれた。

 

「これって…………。えと。ありがとう、ニールくん」

 

 怒っているフリだけだったらしいニールくんは、僕がお礼を言うと照れたように笑った。

 

「ウィシュラの羽根です。露天で見つけて……四人分、買っちゃいました」

 

「ここの紐んトコの色が違うだけで、お揃いなんスよね〜?」

 

 『ねー!』と声を揃えて笑う二人が眩しくて、僕は羽根飾りを傷めないように、でも、ほんの少しだけ強く握った。

 

「ありがとう。大事にするよ」

 

 幸運を司るとされる鳥、ウィシュラの羽根。

 こんなにも大切に思ってくれている友人たちを、同じように大切に出来ていなかった僕には、過ぎた贈り物だったけど。

 この羽根飾りをくれた気持ちに見合うように、もっとみんなとの時間も大事にしていかなきゃと、やっと気付けた僕だった。

 

 

 ……次の日になって、クラウスから『知人の犬と主人の話の続きなんだけど、聞いてくれる?』と言われたのは、申し訳ないけど丁重にお断りしておいた。

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(ゼノ×クラ回避できてよかったね……アシェルくん!)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。

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