7
朝起きて、ぼんやりした頭でフィオレ様のドレスを選ばなくては、と思った。
「ニルヴェル、フィオレ様の部屋に案内して」
「お嬢様、その前にお髪をとかしませんと」
そうね、と言いながら椅子に移動する。まだ半分頭は寝ているけれど、しなくてはならないことは山積みだ。フィオレ様のドレスを選んで、装飾品も選んであげないと。少ないようなら私のを貸して、お父様とお母様への挨拶の時は見すぼらしく見えないようにしてあげたい。フィオレ様の銀色の髪には、お兄様の瞳の色の金色は似合うだろうか。そう考えていると、ニルヴェルが髪を整え終えたのがわかる。
「お嬢様、ドレスを選んでください」
「ニルヴェルに任せるわ。フィオレ様より目立たないのがいい」
ニルヴェルがそれを聞いて、侍女に何かを言いつける。その侍女がドレスを持ってくる間に、ニルヴェルは私の装飾品選びにかかってくれた。くあ、とあくびをするとニルヴェルがお嬢様、と咎めてくる。部屋の中でくらいいいじゃない、と言いたくなるけど、それが外で出ないとは言えないから私は首をすくめて見せた。
「こちらにしましょう」
ニルヴェルが選んでくれたのは深緑のドレスだった。ボリュームがそんなにないのがいいな、と促されるままに袖を通す。化粧は自分ですることにしている。なぜかと言われれば、顔を触られるのがくすぐったくて我慢ならなかったからだ。ニルヴェルがドレスが汚れないように布をかけてくれる。
適当に色をのせて、口紅だけを慎重に選んだ。明るすぎず、強すぎないのがいい。
「ニルヴェル、フィオレ様のところへ行くわ」
「朝食はどういたしますか」
「フィオレ様と食べましょう」
了解はとっていないけれど、フィオレ様に会った時にお父様とお母様にギョッとして欲しくない。それに、フィオレ様の身辺を整えるのは私に一任されたと勝手に思っている。それなら、王城に入ってからはより一層、フィオレ様の周りに気を使わなくては。部屋から出ると、窓から中庭が見える。
お兄様が朝から中庭にいるのを見つけて、目を凝らすと、庭師と何かを話している。庭師が何かを言うと、お兄様がそれに頷く。あれは、花を贈ろうと思っている。
「ニルヴェル、うまくいきそうね」
「でもお噂があります。その事実を確認しなくては」
「そうね」
ニルヴェルが心配するのももっともだ。その辺もきちんと探りを入れよう、と思っているとフィオレ様の部屋の前についた。約束をしていない訪問だから、部屋の護衛が視線をあちこちへと彷徨わせている。どうしたらいいか迷っているのだろう。
「ニルヴェル」
「先に入りますね」
ニルヴェルが先にコホン、と咳払いをして部屋から顔を覗かせた侍女と何かを話す。侍女が慌てて引っ込んだ後、すぐにどうぞ、と言われて扉が開かれた。
「ごきげんようフィオレ様」
フィオレ様の部屋は当然ながら貴賓室で、豪奢な作りになっている。重厚な作りの調度品の中で、フィオレ様はより一層儚げに見えた。まだドレスに着替えていなかったらしく、寝着のままだ。それでも迎え入れてくれたのは、緊急の要件があると思ったのか、それとも。
「このような格好で大変申し訳ありません」
「いえ、ドレス選び、難しいでしょう」
そう言うと、フィオレ様はコクリと頷いて見せた。ドレス選びでつまづくのは当然だ。どんな雰囲気なのかも他国にくるとわからないだろう。
「ドレス、青いものにしましょう。フィオレ様の瞳の色」
私が選ぶと、フィオレ様は何も言わずにうなずく。装飾品を、と侍女に声をかけると、フィオレ様についてきた侍女が箱を持ってきて恐る恐ると言うように開いて見せてくる。入っているのは指輪が一つに、首飾りが一つだけだった。
「私のをお貸ししましょう」
そう言うとニルヴェルがすぐに箱を差し出してくれる。その中から、金色の宝石がついているものを選ぼうとしてやめた。フィオレ様が金色の宝石を付けるのは、お兄様に贈られたものがいいだろう。お兄様にそれとなく伝えておこう。
「これにしましょう」
青い宝石がついたものを選んで差し出すと、フィオレ様は困惑したような顔になった。いつも微笑んでいらっしゃるのに、意外と顔に出やすい方なのかもしれない。仲良く慣ればなるほど、他の表情も見られるだろう。
「お借りするわけには」
「お兄様の婚約者です。お兄様に似合う女性でないと、王家が恥をかきます」
そう言うとフィオレ様はいつもの貼り付けた笑みに戻る。それを残念にも思ったけれど、しょうがない。
「では準備ができたら朝食へ。ご一緒しましょう」
「ぜひ」
その声に微笑んで私はフィオレ様の部屋から出る。部屋から出るとため息が出た。
「ニルヴェル、装飾品も少なかったわね」
「そうでございますね」
指輪一つに首飾り一つとは、信じられないと言ってもいいくらいだ。様子を見にきてよかった。ドレス選びも、この国に来たばかりではなかなか選びづらいだろう。侍女は基本的には良家に縁がある者ばかりだけれど、両陛下に挨拶する日のドレスなんて、わかっている侍女のほうが少ない。バロンがついてくれればいいけれど、バロンがついてしまうと王城を取り仕切るものがい無くなってしまう。
「やっぱり王城になれるまでは私が身の回りのことをさせてもらうわ」
ニルヴェルにそういうと、ニルヴェルは複雑そうな顔をして頷いた。まだ信頼ができなくてもおかしくはない。これからフィオレ様を知っていくしかなさそうだ、と思った。




