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ノムルタハ王国の復興は思ったよりも早かった。王城は壊滅状態だったが、国民にそれほど被害が出なかったのが不幸中の幸いだった。恐れていた暴動も起こらず、亡くなった貴族の穴は他の貴族が埋めることでなんとか国としての機能を取り戻している最中らしい。それでも、魔物への恐怖心は簡単には消えないだろうし、完全に国としての機能を取り戻すまでには時間がかかるだろう。そんな最中、お兄様とフィオレ様の結婚式が執り行われることになった。これは誤算だったが仕方のないことでもあった。私に何かあれば、エリオルが国を取り仕切ることになる。その時に王妃が不在では、とお父様が言ったことが全ての始まりだった。また、ノムルタハ王国からフィオレ様に非公式ではあったが謝罪があった。申し訳ないことをしてしまったというノムルタハ王国の国王に対して、フィオレ様は私のことなど気になさらないでくださいとの返事を返したらしい。彼女が悪女、不吉な女と呼ばれていた問題が解決し、さらに彼女がノムルタハ王国で唯一まともな意見を言っていたと言うことを聞いたお兄様がフィオレ様に感心しているのがわかった。そしてさらに私がお父様にノースとの結婚を強請ったこともお兄様とフィオレ様の結婚式が急がれる一因になった。功績は充分にあげたはずだ、ノースと結婚させて欲しいと言うと、お父様は大きなため息をついて、ついにとられたな、と言った。表向きにノースがなんの功績もあげていないのに王女を娶ることはできないから、ノムルタハ王国の魔物の討伐は二人で行ったことにされた。
「フィオレ様」
白いドレスを纏ったフィオレ様は目を見張るような美しさで、お兄様はこんなに綺麗な女性を娶れて幸せだと思った。フィオレ様に結婚式前に話がしたいと部屋に呼ばれて、私は今ここにいる。結婚式まであと少し。教会で誓いを宣誓し、国民の前に出る。フィオレ様の控室は人払いがされているのか誰もいない。午前中の光が部屋には降り注いでいて、白いドレスを着ているフィオレ様は聖女のような神々しさだ。そのフィオレ様が椅子に座ったまま、私に頭を下げる。
「本当にありがとうございました。ファジー王女殿下がノムルタハ王国に行ってくださらなかったら、私はいまだに悪女と呼ばれていたでしょう」
そう言われて私は微笑む。ノムルタハ王国を救わなければとも思っていたけど、ノースとの結婚のために功績をあげたかったことも事実だ。全てが全て他の人のためではない。だからフィオレ様にお礼を真っ直ぐに伝えられるとモゾモゾと居心地が悪くなる。あのあと、お兄様はノムルタハ王国に出向き、これからも支援を続ける代わりに、フィオレ様の名誉を回復すること、貿易をヴァラス王国の有利なようにすることを条件として提示した。ノムルタハ王国はその条件を飲むしかなかった。私が魔物を退治したことによって、ノムルタハ王国はヴァラス王国に頭が上がらなくなってしまった。国としても利があると踏んだから私を派遣したのだ。全てが全て人のためではない。居心地が悪く感じている私の前で、フィオレ様は優雅に微笑む。
「滅んでしまえばいいと思ってました」
「…」
「自分の国なんて滅んでしまえばいいと思っていました」
フィオレ様の正直な気持ちに驚いてしまう。何も言えずにいる私に、フィオレ様が困ったような顔をした。フィオレ様の手には花嫁が持つ花束がある。その花はフィオレ様自身が選んだ花だ。その花言葉は希望。希望という花言葉を持つ花を選んだフィオレ様はきっと、将来いい王妃になるだろう。
「でも、国が助かって安堵しました。そして謝罪も受けることができました」
フィオレ様がそう言って花束をぎゅっと握りしめる。国王からの謝罪の前に聖女マリーからの手紙も届いていた。何が書かれていたかは知らないけれど、マリーはきちんと謝罪をしたのだろう。それでフィオレ様の心が少しでも慰められているといい。
「本当にありがとうございました」
そう言って頭を下げた彼女に、私は慌てる。私も私利私欲のためがなかったといえば嘘になる。だから私も誰にも言っていなかった秘密を打ち明けることにした。小さい頃からずっと願い続けていた秘密だ。フィオレ様なら受け止めてくれる気がした。
「ノースと結婚したかったんです」
「え」
「どうしても結婚したかった。だから功績が必要でした」
フィオレ様が顔を上げる。私が微笑むと、フィオレ様も微笑み返してくれた。
「私も自分のためでした。なのでお礼は結構です」
そう言うとフィオレ様が手を口に当てて笑う。私もそれに釣られて笑ってしまった。楽しそうに笑うフィオレ様は私が見たフィオレ様の中で一番可愛らしかった。
教会での宣誓は厳かに行われた。神官長が神に祈る間、私は二人のことをこっそりと見ていた。フィオレ様の隣にいるお兄様は緊張しているように見える。フィオレ様はいつもの微笑みだ。二人が並んでいると絵になる。美しい絵だ。
「それでは、馬車へ」
この後は国民へのお披露目が行われる。馬車で移動する二人の後ろを私も馬車でついていく。お父様とお母様の間に乗せてもらうことにした。街はお披露目が行われることで綺麗に飾り付けされている。フィオレ様が持っていた花の花言葉は希望。フィオレ様が選んだ花だ。右手をそっと振る。これくらいの魔法ならいいだろう。地面についたら消えてなくなる魔法の花。
「花だ!」
「神様も祝福してくれているのよ」
空から急に振ってきた白い花も、この二人に対しての神の祝福だと思ってもらえたようだった。お父様とお母様がこら、と言ってきたけれど、二人とも笑顔は崩れていない。降りしきる花にフィオレ様が顔をあげて、後ろを振り返って微笑んでくれる。それにお辞儀で返した。
「お兄様、幸せそう」
お兄様は馬車に乗り込むと、緊張がほぐれたようでフィオレ様に何かを話しかけて二人で笑い合っている。その様子はきっと国民に安心感を与えるはずだ。国王と王妃が仲のいいことが一番大切だ。
「エリオルが幸せそうでよかったわ」
「本当だな」
私を挟んだ二人が笑い合う。間に乗せてもらうことに抵抗はあったけれど、乗せてもらってよかった。二人に挟まれたまま、私は我慢できなくなって、大量の花を降らせて怒られた。




