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悪役令嬢にはなる気もならせるつもりもありません  作者: まる


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玉座の間から廊下に出ると、割れた窓から入ってきている鳥型の魔物が見えた。別段怖くはない。それに雷を落とすと、すぐに絶命したのがわかった。群れで来ているのだろうと検討をつけて、廊下から中庭に出る。空を飛んでいる魔物に次々に雷を落とす。よく見えないな、と思ったから使ったことがない魔法を使うことにした。飛行魔法はずっと使ってみたかったけど、使えなかった魔法の一つだ。目立ちすぎる。魔力の出力を誤ったのか、ものすごい速度が出てしまう。少し緩めて、魔物が飛んでいる高度まで上がった。


「見えた」


あれが親玉かもしれない。一際大きな魔物が私を見つけてこちらに真っ直ぐに飛んでくる。慌てて横によけて突進を避けると、自分が笑っていることに気づいた。ああ、私、楽しいんだ。力を制御せずに使えることが楽しい。

周りの魔物に雷を落としながら、目は親玉から背けない。親玉は空中で急旋回をしたかと思うと、私の方へもう一度、今度は口を大きく開けて向かってきた。


「危ないじゃない」


その口の中へ向けて火炎を放射する。痛かったのか、起こったように見えるその親玉に、雷を落とすと、他の魔物は一撃で退治できたのに、その魔物は落ちていかない。やっぱり特別頑丈にできているのだろう。それどころか私に向かってその長いしっぽをムチのように振るってきた。すれすれのところでかわすと、肩のところが少しだけ切れた。治癒魔法をかけるほどでもないけど、やっぱり痛くてこちらも腹が立つ。腹が立ったので、立て続けに雷を落としてみるけど、上手によけられて当たらない。しょうがない、私が囮になるしかない。この魔物が食べようとした瞬間に特大のを落とそう。そう決めて空中に滞在していると、下から声が聞こえた。


「ファジー!!!!」


その声に私の全身に緊張が走る。どこ、と視線を彷徨わせると、四つ足の大きな獣が王城の前にいた。ずっと走ってきたのだろう。ところどころ汚れている。可愛い私の大きな獣。そう思った瞬間、親玉の口が大きく開いて私を飲み込もうとする。


「邪魔しないで。私の可愛いノースが悲しむでしょう」


右手に剣を召喚して、口を真横に胴体まで切り捨てる。真っ二つになって落ちていく親玉と一緒に、私もノースのところに落ちていく。四つ足の姿から慌てて人型に戻ったノースが私を受け止めようと右往左往する。そんなことしなくても私が怪我をしないこと、よく知っているのに。右往左往してくれているのが嬉しくて、両手を口に当てて笑ってしまう。ノースはとても可愛い。


「ノース」


落下速度を緩めると、ノースはしっかりと抱き止めてくれた。お姫様抱っこだ、と喜ぶ私とは裏腹に、ノースの瞳には涙が溜まっている。それを見て、びっくりさせてしまったことを後悔した。


「死んでしまうかと」

「死なないわ。まだ結婚してないもの」


思い切り抱きしめられて、私もノースの首に腕を回して抱きしめ返す。私の大きな可愛い獣。お父様にねだりたいものはノースだけだ。ノースとの結婚を、ノムルタハ王国を救ったことのご褒美にもらおうと思っていた。純粋にこの国を救いたいと思ったのもあるけれど、私にも打算があった。


「ノース、どうしてここへ」

「あなたが王都へ向かったと聞いて、いても立ってもいられなくて」

「危ないでしょう」

「父上と王太子殿下に許可はもらってきました」

「そうじゃなくて」


ノースの身に何かあったらどうするんだ、と思ったけれど、茶色の瞳に見つめられて何も言えなくなってしまった。ノースは私のことをおろす気はないらしい。それをいいことにもう一度ぎゅっと抱きしめると、ノースも抱きしめ返してくれた。


「ノース、私、ノースと結婚するわ」

「俺はまだ功績を上げていません」

「私が上げたもの」

「でも」


ずっとノースのお嫁さんになりたかった。小さい頃からなりたいものは一つだけ。小さい頃のノースはまだ自分の力をうまく制御できずに、人型になったり四つ足になったりと忙しかった。私に挨拶に来てくれた時も、四つ足の姿になってしまって、しょんぼりしていたのを覚えている。私からすればその四つ足の姿は可愛らしかったけれど、ノースは先祖返りのせいで心無い言葉をぶつけられたりもしただろう。力を制御できない私と、四つ足の姿になって自分の身を自分で守れるノースは必然的に一緒にいる時間が増えた。そんな時、私の力が暴走してしまって、そこらじゅうが緑一面になった。そんな中、ノースは四つ足の姿になって、私の体を尻尾で守ってくれた。おうじょでんかのことはおれがまもります、そう言われて私はその尻尾の中で大声で泣いた。私の恋に落ちた瞬間だった。そして私が自分の力を制御できるようになったきっかけでもあった。


「ノース、そろそろ私、魔物を退治したって言いにいかなくちゃ」

「すみません」


私の言葉にノースが私のことをそっと地面におろす。王城の中に入って、地下に続く扉を開けると、そこには人がいなかった。もう少しおくかしら、と思っていると、ノースが顔を顰めているのがわかる。


「私が行きます。王女殿下はそのまま上にいてください」

「どうして」

「地下は危ないでしょう」

「さっき行ったから大丈夫よ」


ノースは私の力のことを知っても、私のことをずっと心配してくれている。それが嬉しくて、わざと危ないことをしたことも何度もある。怒られるのが嬉しかった。だってそうでもしないとノースは私に素顔を見せてくれなかった。歳を重ねるについれて、自分たちの身分の違いがわかるようになっていった。ノースと結婚する、と口に出せて言えたのは、本当に幼い頃だけだった。

地下に向かって、魔物は退治しました、と声をかけると人が動く気配がした。


「出てきてください」


そう言うと、先頭を歩いてきたのはヴァラス王国の騎士だった。ノースを見て、その彼がニヤリと笑う。どうやらノースとは既知の間柄らしい。


「来ると思ってましたよ」

「言うな」

「王女殿下、お疲れ様でした。お怪我は」

「何もないわ」


ヴァラス王国の騎士のもう一人がそう尋ねてくれる。それに頷いていると王陛下が階段を登ってきた。


「なんと感謝すればいいか」

「感謝は後程、お兄様に」


そう言うとノムルタハ王国の国王が頷く。ここでの感謝はいいから物で示せと言っているのだ。その交渉をするのは私よりもお兄様の方が適任だ。お兄様はノムルタハ王国が差し出せるものを知っているだろう。最後に出てきたのはマリーで、マリーは私をみると大きなため息をついた。


「フィオレ様に謝ります」

「そうしてあげて」


背後で王陛下と貴族が話し合い始めているのがわかった。これくらい魔力を使っても魔力切れにならないと言うのはいい成果だ。私が大きく伸びをすると、騎士の一人が、お帰りになられますか、と尋ねてきた。


「そうね、これから先はお兄様の方が必要じゃないかしら」


そう言うと、馬車を取ってきます、と言って騎士たちが出て行こうとする。それに防護壁の魔法をかけておいた。驚く騎士たちに、一応ね、と言うと頷いて王城を出ていく。


「流石に少し疲れたわ」


そう言ってノースの肩に頭を乗せる。ノースは何も言わなかった。



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