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悪役令嬢にはなる気もならせるつもりもありません  作者: まる


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騎士たちに責められても悪いとは思えなかった。私が騎士たちを優先して治したいと進言しても、国王や貴族たちはそれを許さなかっただろう。私だけのせいにされるのは理不尽だと思ったけれど、結局力を誰に使うかは私が決められたのだから、私のせいなのかもしれないと思って黙っていた。それにすごく疲れていた。一週間近くベッドの下で生活したのだから疲れていない方がおかしい。自分に治癒の魔法はかけていたけれど、精神的に辛い一週間だった。騎士たちから離れて座り込むと、ファジータ王女殿下が近寄ってくるのがわかった。


「あなたでしょう。フィオレ様の箱に魔法をかけたのは」


そう言われて、動揺してしまう。嘘はつけなさそうだと思ったし、今更そんなことで嘘をついても仕方ないような気がした。私たちが楽な方へ流れたツケは国民や貴族の命によって払われてしまった。次に起こるのはもしかしたら民衆の暴動かもしれない。


「そうです」


そう答えるとファジータ王女殿下は私の隣に座った。


「フィオレ様の言うことが気に食わなかった?」

「いえ、でも邪魔でした」

「正直者ね」

「彼女が正しいことなんて、みんなわかっていたと思います。みんな愚かだったけど」


私がそう言うとファジータ王女殿下がため息をついた。ノムルタハ王国の愚かさに呆れたのかもしれなかった。


「その報いは充分受けたのではないかしら」

「そうでしょうか。これからだと思います。国民は許してはくれないでしょう」


ファジータ王女殿下がこちらをむく。私の表情を読もうとしているのだろうけど、正直な気持ちだ。国民は許してくれない。暴動が起こり、革命が起これば、私に残されているのは斬首だろう。その前にどこかに逃げてしまいたい。私の力を使えばそれくらいできるかもしれない。そう考えていると、耳をつんざくような鳴き声が聞こえた。それは私がベッドの下で何度も聞いた声だった。


「来たぞ!」


誰が叫んだのかはわからない。ファジータ王女殿下はその声を聞くとすぐに立ち上がった。


「危なくなったら地下へ!」


そう言ってファジータ王女殿下が玉座の間を出ていく。あっけに取られて見ていると、ヴァラス王国の騎士たちが地下へ、と誘導しているのが聞こえた。それに慌てて近寄る。


「王女殿下が」

「大丈夫です。我が国で最も強いのは彼女だ」


そう言われて私も地下への扉に押し込まれる。気色ばんだ様子を見せる騎士たちも一緒に押し込まれた。後からやってきた両陛下や貴族、そして王太子も地下へと入ってくる。

最も強いのが彼女って何、と思いながら真っ暗な闇の中で、私は体を自分の両手で抱え込んだ。同じ魔法を使うものとして格が違うんだろうと思って、そしたら笑いが込み上げてきた。誰にもバレないように息を吐いて笑いを消化する。


「何よ」


聖女だと祭り上げられていい気になっていたけれど、隣国には聖女にも英雄にもなれる人間がいたのだ。顔を上げても闇しかない。隣にいるのが誰かもわからない中で、私は天井を仰いだ。あーあ、と声にならない声で言う。

あれが王女の器なんだろう。魔物が来たとわかれば、一人で飛び出していく。ベッドの下に潜り込んだ私とはまるで違う。


「王女殿下は」

「大丈夫です。ご安心ください」

「もしも王女殿下に何かあれば、ノムルタハ王国とヴァラス王国の間に溝が生まれてしまう」


不安げにそう言う王陛下をヴァラスの騎士たちが宥めているのが聞こえてくる。それでも言い募る王陛下に、辛抱強く対応している。ヴァラス王国に見放されてしまえば、ノムルタハ王国は復活できないだろう。王は王でいられなくなるばかりか、国自体がなくなってしまうかもしれない。王陛下の不安はもっともだ。


「邪魔になるから一緒に戦うなと王陛下から申しつけられております」

「それは」

「彼女が我が国の最大の戦力だと言うことです」


ヴァラス王国の騎士の言葉に、王陛下が黙ったのがわかった。その沈黙に王陛下も彼女の力を知らなかったことが伺えて、ヴァラス王国は彼女の力を隠していたのかと驚いた。彼女の力を誇示すれば、外交も有利に運べただろうに。


「どうかご安心を」


騎士がそう言い含めて、王陛下は完全に沈黙した。ヴァラス王国が魔物が襲来していると知って、王女殿下を送ってくれたのは、確実に未来の王妃の祖国を見捨てるわけにはいかないという理由が入っている。確実に対抗できる人物を送ってくれたのだ。


「結局、いなくなっても彼女頼みか」


つぶやいた言葉は思ったよりも大きく響いた。真っ暗闇の中に響いた言葉は、私の声だとわかっただろうか。いや、こんな声、王宮に入ってから出したことがない。私の言葉に反応したのか、王陛下がまた口を開く。


「エズスト公爵令嬢は」

「ノムルタハ王国までの道を、的確に指示していただきました。祖国を頼みます、と」

「そうか」


王陛下の言葉に後悔の色が滲んだ。フィオレ様が的確に指示してくれていなかったら、もしもフィオレ様がこの国なんて滅んでしまえと思って、別な道を教えていたら。この中の何人かは死んでいただろう。

そこまで考えて大きなため息をつく。これが終わったらもう少し真面目に働こう。教会で聖女としての仕事を全うしよう。



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