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悪役令嬢にはなる気もならせるつもりもありません  作者: まる


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「王都が壊滅状態?」


眠らずに馬を走らせてきたというその騎士団の隊長は、足に大きな怪我を負っていたらしい。それをどうしたか尋ねる前に、必死の形相で国王陛下に会わせてくれ、どうかわが国を救ってくれ、とうわごとのように繰り返すその隊長に、門番が一大事なのではないかと考え、すぐに辺境伯に取り次いだ。

取り次がれた辺境伯が話を聞くと、王都に魔物が出たことが判明した。王都は壊滅状態、どうにか隙を見て自分が馬に乗ってここまで来た。国王とは連絡が取れず、国民は家の中に、騎士団は地下に逃れた。誰も何もできない間に王都は壊滅状態に陥った、とのことだった。

お兄様にフィオレ様のことを報告しようと執務室を訪ねてすぐにその知らせが入り、お兄様は執務室を飛び出して、貴族たちを緊急で招集した。私は私でフィオレ様にすぐに知らせに行き、フィオレ様を会議に加えるように進言した。魔物の数は十を超え、群れと言っていいと思われる、とお兄様が発言をしたその瞬間、会議室は重苦しい雰囲気になった。ノムルタハ王国の同盟国として、ヴァラスはノムルタハを見捨てるわけにはいかない。でも、兵を派遣してしまえば我が国の守りが手薄になってしまう。こうやって会議をしている間にも、魔物はわが国を襲うかもしれない。その沈黙を破ったのはお父様だった。


「自分の国を疎かに、他国を助けるわけにはいかないだろう。私は王都に、エリオルは辺境領に、兵士は王都の守りを助けさせよう」

「辺境領にお兄様だけですか」

「ファジータ、お前は」

「ノムルタハ王国の王都に参ります。同盟国としての務めを果たさなければ」


私がそう発言すると、一部の貴族からため息が漏れた。王女が行って何になる、と言う私の力を知らない貴族のため息だ。私も私で覚悟を決めなければならない。


「国王陛下、私がノムルタハ王国を救えたら、欲しいものがあります。それをどうか私にください」

「ファジー」


お父様は私の力を知っている。そしてひた隠しにしていた理由も知っている。お兄様よりも私の方が魔力量が多いと周りに知られたら、お兄様が何を言われるかわかりもしない。私の方が国王に相応しいのではないかという貴族も出てくるだろう。国王になんてなりたくない。なりたいものは小さい頃から一つだけだ。


「ゆるそう」

「国王陛下」


咎めるような声音でお父様を呼んだのはお兄様だ。私一人を行かせるわけにはいかないと思っている。


「ファジーと騎士団の何人かをつけよう」

「必要ありません。邪魔です」


私の言葉に今度はお父様がため息をつく。誰かを守りながら戦うのは疲れる。もしも一緒に連れて行くのなら、私と同じくらい魔法に長けた方が良い。


「騎士団員にはお前を王都まで送り届けたら、すぐに辺境領に戻るように言おう」

「お心遣い痛み入ります」

「国王陛下、ファジー王女殿下だけでは」

「大丈夫だ」


大丈夫だ、ともう一度お父様が繰り返す。その決定にそれ以上異を唱える貴族はいなかった。異を唱えて、ならばお前が領の兵士を連れて救援に行けと言われるのが怖いから、と言うのもあるだろう。私の力を知っている貴族は元から異存はないはずだ。


「諸侯は、領の兵士に戦闘の準備を。国民には家から出ないように伝えろ」

「わかりました」

「緊急の知らせがあれば伝令を、それでは」


その言葉で貴族たちが椅子から立ち上がる。私も急がなくてはならない。会議室から出ると不安そうな顔のニルヴェルが廊下で待機していた。


「ニルヴェル、ノムルタハ王国の救援に向かうから、シャツとズボンを」

「お嬢様」


ニルヴェルが悲鳴にも似た声で私のことを呼んだ。結い上げていた髪の毛の髪飾りを乱暴にとる。


「ニルヴェル、私は大丈夫よ」

「でも」

「大丈夫」


その髪飾りをニルヴェルに渡すと、泣き出しそうな顔だった。私のことを幼い頃から育ててくれたニルヴェルにとっては、胸が引きちぎれるように辛いに違いない。そう思うと、私も泣きそうになった。


「お嬢様、私も行きます」

「ダメよ」

「お嬢様」


ニルヴェルが私のことを呼んで、それから覚悟を決めたように走り出す。必要なものは用意してくれるだろう。髪飾りをとった髪の毛が背中に広がる。何日かかるかわからないから食料も持っていかなければ。でもここからノムルタハ王国の王都まで馬車で五日はかかる。そうこうしているうちに、ノムルタハ王国の国王が死んでしまいかねない。その手は使いたくなかったけど、やるしかないのかもしれない。


「ファジー」

「お兄様、ノムルタハ王国まで馬車で五日かかります。転移魔法を使います」

「転移魔法だと」

「はい」


並走して歩くお兄様にそう言うと、顔がいっそう険しくなった。転移魔法はその名の通り転移する魔法だ。ただ扱いが難しくて、物を転移させたことはあっても自分が転移したことはない。うまく使わないと体の一部が元の場所に置かれたままになってしまう。怖くて、自分に使ったことはなかった。


「だが、それは」

「ノムルタハ王国の国王が死ねば、国は立ち行きません」


自室に入り、本棚から魔導書を抜き取る。うまくいかなければ自分の体がバラバラになる。わかっていてもやらなければならない。頭の中で想像しながら、ニルヴェルが用意してくれていてシャツに着替えるためにドレスを脱ぐ。乱暴に脱いでも今なら許されるだろう。お兄様が私に背を向けたまま、認めるわけにはいかない、と言った。


「転移魔法を自分に向けて使ったことはないのだろう」

「ありません。でも、やらなければ」

「認められない」


お兄様の言葉に思わず微笑んでしまう。他国よりも自分の妹の命が大事だと言ってくれているのだ。ありがたいことだ。


「お兄様、国を任せます」


私がそういった瞬間、扉が勢いよく開かれた。



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