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「このクソ野郎ッ!!」
ベンは声を荒げ、キャンベルの胸ぐらを掴む。
「おいおい、専門外なんだから当然だろう?」
眉間にしわを寄せて睨みつけるが、動じる様子はなく、むしろヘラヘラしていた。
哭戎種を祓った後、痩せこけた女性を解放し、部屋の外にいたキャンベルに施錠を解いてもらったのだ。
「やめろ、そいつは腐っても警察だ」
後から出てきたリアムが、女性を担ぎながらベンを制止させる。
ベンは歯を剥き出し、まだ言い足りないようだったが、キャンベルへの怒りを抑えて手を離した。
「――ッ、クソがッ!!」
「はッ! そういうことだ」
キャンベルは、ベンの態度にあざ笑い、襟を正す。
「んで、お前の読みが当たったってことか?」
「おそらくなッ」
リアムは、女性を壁に寄りかかるように座らせる。
「それじゃ、後は頼むぞ」
「あ?」
「大元を叩いたわけだし、後始末は警察の領分だろ」
「リストは!?」
「それもお前の仕事だろ」
そう言ってキャンベルに背を向け、階段を目指す。
「おい、行くぞ」
呼ばれたベンはキャンベルを残し、彼の後をついていった。
――屋敷の外に出た2人は、新鮮な空気を吸って一息つく。
しばらく風の音で静寂をごまかしていたが、リアムが穏やかに口を開く。
「あの子達が気になるか?」
ベンの気持ちを察したのか、遠くを見つめながら尋ねるが、返事は返ってこない。
「お前の想像通り、この屋敷のどこかに埋められてんだろ。
疳之虫を制御できなかった者の末路、お前がいずれ対峙するであろうローラも最終的にああなる可能性がある。
それはさておき――」
話が変わった途端、彼の問いにおよそ予想がついていた。
「心臓が無い、というのはどういうことだ?」
的中したベンは、Tシャツの襟を下げて見せた。
すると、胸の辺りに大きな古い裂傷がわずかに顔を出しており、沈黙していた口をようやく開いた。
「…ガキの頃、教会の倒壊に巻き込まれて、その時にできた――、と周りから説明を受けただけで、それ以上のことを知らない」
襟を正し自身の右肩を強くつかむ。
「自分のこと何も知らないとか、マジでありえないだろ…」
意気消沈し、言葉を失ってしまう。
タバコをケースから咥えて取り出し、火をつけようとするが、オイルが切れたのか、うまく着火しない。
そこへリアムが自分のライターを差し出しては、ベンは、彼の配慮に戸惑いながらも、その火に近寄り、タバコを吸うことができた。
すると、今度はリアムが手を出して催促してきたので、仕方なくケースを渡し、そこからタバコを1本取られてしまった。
「確かに、俺も長いことこの稼業をやってはいるが、どの種族であっても心臓無しで生きている人間なんて聞いたことが無い。
ましてや、霊子を吸収する能力ってのもな」
リアムが一服しながら、先ほどの現象を振り返ると、ベンは憂鬱になり、深いため息を吐く。
「あれも無意識か?」
「ああ、ただ、分かったことがある。
あれは、オレの中での何かを埋めてくれたというか、 少し満たされた感じがした」
自身の言葉にハッとし、引きつった笑みを浮かべる。
「はッ、ははッ、治りが早いといい、哭戎種の言ってた通りだとしたら、本当にオレは、化け物なのかもしれない」
ベンの自虐発言に、しばらく黙考するリアム。
「――人生ってのは、予期せぬ理不尽の連続だ。
頼んでもいないのにいきなりやってきて、今まで積み上げたものを壊していく。
ただの盗っ人だったお前は、たった一晩で、たった1人の少女によって、命と引き換えに腕1本犠牲になった挙句、この世界に関わざるを得なくなってしまった。
これを若いうちに経験したとなると、かなり衝撃的だろう。
だがな――」
リアムは、パトカーのドアに寄りかかり、煙を吐いては話を続ける。
「――失くしたものばかり考えても、時間は進む。
なら、この現状どう打開するか、これから先、どう対策していくか、前向きに考えていくしかない。
それでも気持ちの整理がつかないって時は、神は自分を恐れてるって思えばいい。
オレがあまりにも最強的存在過ぎて、このままだと容易に世界征服されてしまうから邪魔してるんだろう?
ってな」
最後のオチに、ベンは、つい笑みがこぼれてしまう。
彼なりの慰め方に、少し気分が晴れたようだ。
その時、キャンベルがご機嫌斜めで屋敷から出てきた。
「クソッたれ!! とんだ無駄骨だった!!」
女性を背負いながら悪態をつき、パトカーの後部座席を開けて気を失っている彼女を乱暴に放り込む。
「その様子だと、お目当てのものは無かったのか」
「畜生がッ!! 一体どこにやりやがった!!」
「ここに無いんだとしたら、2択しかないだろ」
証拠隠滅か、持ち去らわれたか――。
荒れるキャンベルに対し、リアムは呑気にタバコを吸っている。
「――ッ、クソがッ!!」
キャンベルは吐き捨ててパトカーに勢い良く乗り込み、怒りに任せてドアを閉める。
リアムは、タバコをピンと指で弾き飛ばし、屋敷の前で立ちつくむベンに一言。
「行くぞ、ベン」
「ッ!」
そのセリフに反応した時には、彼は助手席のドアを開け、車内に片足を入れていた。
ベンは、初めて名前で呼ばれて拍子抜けてしまうが、鼻で笑い、タバコをブーツで踏み潰す。
「おいッ、置いていくぞッ」
キャンベルに窓から声を張り上げられるが、ベンは、清清しい気分でパトカーへと歩いていったのであった。




