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: 4p.

殺風景の空間。


その半分は、点滅によって境界線を引いているかのよう。


影は人の形をしているが、()()()()()()()


袖をまくり、シミだらけのワイシャツは乱れ、長ズボンの先は裸足。


骨と皮だけで成り立っているその体は、壁から伸びる枷によって、両手の自由を失っていた。


痩せこけた頬、干乾びた口は、歯をむき出して開いたまま。


ボサボサに荒れた長髪の奥に潜む怪しい眼光は、こちらを向いている。


そう、その眼は、()()()()と同じ不気味な瞳をしていたのだった。


「くそッ、哭戎種ってやつかよ――ッ!?」


その時、突如ドアが閉まり、(かんぬき)の重い金属音が部屋中に響いた。


「はッ!? おいッ!!」


ベンは慌てて戻るが、ドアはビクともせず、必死に叩いて訴える。


「オッサンッ!! 何の真似だッ!? 開けろッ!!」


「悪いな、ここで死ぬわけにはいかねェんだ。

後任せた」


「はあッ!? ふざけ――ッ」


その時、ベンの体は、得体の知れぬ引力によって壁に叩きつけられ、全身強打した。


()ッ、がッ…」


床に倒れ込むが、すぐさま体勢を立て直し、銃口を向けて発砲。


「あ"ァァァァァッ!!」


ヤケくそで引き金を引き、慣れない反動で照準は多少ブれてしまうが、数発は肩や胸に命中し、哭戎種の甲高い悲鳴が鼓膜に響く。


命中した部分から蒸気が発生し、引きつった表情を浮かべている。


声を張りすぎたのか、相手は乾いた咳をし始める。


どうやら乖燠製のゴム弾は、本当に効果があるようだ。


カチッ、カチッ――。


「ちィッ!!」


勝機が垣間見えた途端、弾切れの合図に焦り、マガジンを抜く。


胸のホルダーから、慌ててストックのマガジンを取り出すが、次の瞬間、目に見えぬ斬撃を肩から斜めに食らい、その勢いでリアムに激突してしまう。


「がはッ!!」


その拍子にマガジンを手放してしまい、マガジンは、回転しながら床を滑走、ベンから遠ざかってしまった。


「くッ、そッ…」


痛みに耐え、なんとか起き上がるために、左腕に力を入れる。


すると、また見えぬ力によって体を引きずられ、ついに哭戎種の元へと到着する。


「ひッ!」


近くで見ると、あの時のトラウマが鮮明に蘇ってくる。


強引に上体を起こされ、彼の肩を掴んでは、飢えた獣の如く傷口から流れる血を舐め始めた。


「うッ、ううッ」


舌はひどく乾燥しており、まるでヤスリで傷をこすられている感触だった。


その時、哭戎種の目が見開き、いきなり彼のTシャツを引き裂いた。


露わとなった胸には大きな古い傷跡があり、それをじっと目に焼き付ける。


「キッ、サマ…、何者ダ」


がなりの効いた声で尋ねられ、苦し紛れの唾を吐く。


「さあなッ、俺が知りたいよッ」


哭戎種にかかった唾は、ゆっくりと頬を伝うが、一切動揺を見せない。


むしろ徐々に傷がふさがっていく過程を間の当たりにし、そっちに興味が湧いたようだ。


「キッ、サマ――」


やがて、鎖につがれた右手を伸ばし、細い指で古傷を差し示す。


()()()()()()()()?」


「…はッ!?」


哭戎種の発言に、ベンは一瞬思考を停止してしまう。


「ちょッ、何言って――!?」


「見エナイ…、欠ケテル…」


その時、突然、哭戎種の右手が弾かれた。


哭戎種が叫ぶと、ベンを拘束していた力も解かれ、脱力感で床に伏せた。


何が起きたのか首を後ろに向けると、自然と笑みがこぼれた。


そこにはMK23を構え、銃口から硝煙をたぎらせている彼が立っていた。


「ご苦労、下がっていいぞ」


リアムは、指で軽く血を拭い、帽子をかぶり直しては、起き上がるベンに声をかける。


「はッ! 遅ェよ!」


ベンは悪態をつきながらも、急いでその場から離れると、リアムの逆襲が始まった。


哭戎種に弾丸の雨を浴びせ、その間にスタングレネードを放る。


まばゆい閃光に哭戎種は思わず目を閉じ、視界が戻った時には手遅れだった。


いつの間にか彼が目の前に立っており、乖燠製の粉末を含んだ水をかけられた。


ジュゥゥゥゥゥ――。


「ギャァァァァァッ!!」


哭戎種の体から蒸気が立ちこもり、天井に向かって悲鳴を上げる。


リアムは動じることなく次の手に移ろうと裏ポケットを探る。


その時、哭戎種から衝撃波が放出され、リアムは至近距離で食らってしまい、吹き飛んでいった。


「うぐッ!!」


壁に激突し、背中を強打。


短い悲鳴を漏らすも、歯を食い縛ってうずくまる。


すると、急に地鳴りが起こり、蛍光灯の点滅が小刻みになっていった。


壁にも亀裂が入り、哭戎種は怒りの咆哮をリアムに浴びせると、口を開けたまま顎を外しだした。


「おっと、こいつはッ――」


危険を察知したリアムは、膝に力を入れるが、ビキビキと軋んでうまく立てない。


「まずいッ」


小鹿のように足が震え、冷汗が流れた次の瞬間、哭戎種のこめかみに弾丸が命中した。


頭が勢いよく反れた途端、一筋の軌跡が壁をえぐった。


リアムは、顔を上げると、グロックの引き金を引いたベンの姿があった。


ベンは、先ほどのマガジンを拾い、装填し終えていたのだ。


哭戎種の目がギョロッとこちらを向き、怒号を放った途端、グロックを連射する。


そして一旦射撃をやめ、横に飛び込むと、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「お前ッ、まさかッ!?」


それを目にしたリアムは驚愕し、ベンに尋ねる。


「ああ、()()()()()


そう、ベンはこの短時間で霊圧が視認できるようになっていたのだ。


相手の両肩から血色の悪く、細長い腕が生えており、指が4本あった。


おそらく、先程の謎の引力の正体はこれだったのだろう。


哭戎種がベンに標的を変えたあの時、右手に霊力が集中し、形成された塊が飛んできたのが目に写ったのだ。


直撃を無事回避した彼の急激な成長スピードに、リアムが戸惑う中、ベンは再度引き金を引く。


何発もの特性ゴム弾が鬱陶しく感じたのか、灰色の腕を伸ばし、ベンを薙ぎ払おうとする。


しかし、彼は焦りつつも寸前に避けていく。


一定の距離を保ちつつ、連射を続けるが、またもや同じ轍を踏むこととなる。


「ッ!! ヤベッ!!」


弾数の終わりを告げられ、哭戎種はその隙を見逃さなかった。


灰色の細長い指から鋭利な爪を剥き出し、便を捉えるため猿臂(えんぴ)を伸ばす。


ベンは咄嗟に身構えるが、いつまでも何も起きないことに気がつき、恐る恐る顔を上げると、驚くべき光景を目の当たりにした。


「ッ!?」


彼の前に現れたのは、服が乱れ、髪が荒れ、やつれきった子供、女性の霊が10人も立ちはだかっていたのだ。


ベンは絶句し、言葉が喉に詰まってしまう。


哭戎種の灰色の手は、彼女達の前で止まっており、ベンは、一体何が起こったのか理解できず、この状況にただ混乱してしまった。


「…ケッ、退ケヨッ」


哭戎種は動揺しているのか、声を震わせている。


「退ケッテ言ッテルデショ!!

私は帰ルンだッ!! 絶対ニ生きて彼に――」


何やら激しく訴えている中、段々人間の声色に近くなっていく。


しかし、彼女達は何も反応せず、生気の無い表情で立ち竦んでいる。


「その前に、まずはシャワーを浴びないとな」


その時、リアムがいつの間にか哭戎種の前におり、手には十字架を持っていた。


その十字架は銀でできており、中心に乖燠石が埋め込まれている。


長いチェーンを手に何重も巻きつけ、十字架を哭戎種の額に当てた途端、悲鳴と共に蒸気が噴出した。


「キャァァァァァッ!!」


痙攣し、やがて哭戎種特有の瞳が白目と変わる。


蒸気が完全に出なくなったところで、ガクンと首の力が抜けた。


しばらく沈黙が続き、ベンは、怖々とリアムに尋ねる。


「終わった、のか?」


「まあな」


リアムはそう呟き、十字架をしまうと、霊達にも異変が起こった。


霊体が粒子となって、徐々に人の原型を留められなくなり、何故かベンの元へと吸い寄せられていったのだ。


本人も何が起きているのか理解できず、動揺を隠せないが、ただ分かることといえば、害は無いということと、かすかに心地良さがあるということだった。


すると、1人だけベンを横目で伺っている少女に気付いた。


「ッ! お前…」


ベンも何かを察して言いかけたが、少女も周りと同様に粒子へと変わり、彼の中へと入っていく。


やがて、この部屋に立っているのは2人だけとなり、静寂が空間を支配したのだった。



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