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「――どこにあるんだよ。
たく…」
キャンベルは、棚の本を引き抜いた途端、ほこりが気管に入ってしまい、咳き込んでしまう。
3人は、1階の書斎を調査しに訪室。
重厚感のある机の上に葉巻きの入った木箱と灰皿。
本棚には、ギャングにとって無縁そうな本がずらりと並列し、絵画が何点も壁に飾られていた。
4つの席がテーブルを囲み、巨大なカーペットにトランプが散らばったままだった。
「押収したものの中に暗号化されてたやつとかあったんじゃないのか?」
リアムは絵画を外し、額縁の裏に目を通しながら尋ねる。
「いや、それらしきものはなかったし、どうやら連中はアナログ派だったようだ」
「ああ、そういうことか…」
キャンベルの発言で察し、肩を落とすリアム。
「はッ!? どういう意味だ?」
「連中は、情報を盗まれぬよう徹底していたってことだよ。
パソコンを所持していなかったし、スマホは、リーダーに預けて無線で連絡を取っていたんだと。
徹底ぶりからして、帳簿には相当やばい上客が載っているとみた」
ベンは、キャンベルの説明でようやく理解した。
「…つまり、アンタが命狙われるリスクが高いってことだよな?
どうして、そこまでして――?」
本を何冊も机の上に積み重ねる彼に問う。
「坊主、人間ってのはな、“力”を欲しがるものなんだよ。
金、情報、権威、そして暴力――。
これらを持つことで、周囲との差をつけて屈服させることができるんだ。
力があれば、後ろ指を指されても気にすらなくなる。
道を歩くのにわざわざ蟻を気にするか? しないだろう?
そういうことだ」
キャンベルは、渋い表情で顔を背け、手についた埃りを払う。
「…要は、オッサンは臆病だってことか?」
「ぶッ! ははははッ!!」
「あッ!?」
黙々と作業していたリアムが、ベンの発言に吹いてしまった。
「おい、何でそうなる!?」
「だって、その言い分だと、自分が傷つかないためにリスクを減らして、心に余裕を持ちたいってことだよな?
ってことは、オッサンは案外――」
「おいッ、ガキッ!! 言葉に気をつけろよ!?
グラハムッ、テメェもだッ!! いつまで笑ってやがる!!」
キャンベルは、動揺しながら2人にキツく指摘する。
「キャンベルッ、1本取られたなッ」
笑いをこらえるリアムに舌打ちをし、冷静を予想うため木箱を開ける。
「ガキッ! いつか痛い目に合うぞ!
ッたく――」
葉巻きを拝借し、一緒に入っていたシガーカッターに触れた瞬間、キャンベルは硬直する。
「どうした? キャンベル」
リアムが彼の異変に気づくと、キャンベルは、木箱を手探りし始め、葉巻きを全て取り出し、底板を外した。
すると、彼は不敵な笑みを浮かべ、2人の顔を見合わせる。
底板の下には、1本の鍵とそれを通す穴があったのだ。
笑みが止まらないキャンベルに、2人は徐々に期待が増していく。
キャンベルは、その鍵を穴に刺し、ゆっくりとひねる。
その時、ベンの足元から何かが外れた音がした。
3人は、互いに何度も表情を伺う。
「…まさか」
一斉に椅子とテーブルをどかし、湿気を吸った重いカーペットも剥がすと、白く重厚感のある扉が姿を現した。
「ビンゴォ!!」
「マジか…」
キャンベルは興奮のあまりガッツポーズをし、ベンは唖然として言葉がうまく出てこない。
そんな中1人だけ温度差があり、その場でしゃがみ込んで扉に触れ始めた。
「どうした?」
「もしかすると、これは乖燠製かもしれない」
リアムの発言で一気に空気が変わり、2人は動揺しだす。
「はッ!? ってことは――!?」
リアムは真剣な目つきで銃を抜く。
「用心に越したことはないが、気を引き締めろ」
その言葉の重みに緊張感が漂い、2人も銃を手に取った。
リアムとキャンベルで扉の取っ手をつかみ、慎重に開けていくと、そこには、深淵へと続く階段があった。
脇にスイッチを見つけ、それを押した途端、蛍光灯によって明かりが灯った。
皆、銃を構え、リアム、キャンベル、ベンの順で階段を降りていく。
部屋自体は単純で、コンクリートの壁に覆われており、中心にテーブルと椅子、その下には、床と繋がった2つの鎖の枷。
そして、その先には乖燠製のドアらしきものがあり、閂でしっかり閉ざされていた。
「なんだ、この部屋…」
キャンベルが恐る恐る口を開き、銃を下ろすと、ベンもつられて銃を下ろした。
「これは…」
リアムは、テーブルを前に言葉を失い、2人も気になって近寄ってみる。
そこには、アルファベットが刻まれており、コインが1枚置かれてあっただけだった。
「なんだ、こいつは」
「“ウィジャ盤”だ」
リアムがテーブルの正体をボソッとつぶやく。
「ウィジャ盤って、あのオカルトの?
なんで、そんなもんが…」
「おそらく、疳之虫を強制的に覚醒させるためだろう。
「はッ!? そんなこと出来んのかよッ!?」
ベンは衝撃発言に耳を疑う。
「疳之虫は覚醒するのに個人差がある。
幼くして力を発現する者もいれば、発現せずに一生終える者もいる。
だが、ウィジャ盤を使用すれば、人間の奥底に眠る疳之虫とコンタクトを取ることが可能なんだ」
「マジかよ…」
「ただ、この方法はあまりにも危険でな、宿主の負荷が大きすぎて、失敗すると自我が崩壊し、体を乗っ取られ、人ではなくなってしまう」
「どうして、わざわざそんなことを…」
リアムは、ベンの素朴な疑問に答えられず、ただ、テーブルをじっと見つめて黙考していた。
「つまり、連中は悪魔崇拝をしていたってことだろ?」
「でも、それにしては、あまりにも質素というか、雑すぎやしないか?」
「さあな、これから祭壇とか魔法陣でも作る気だったんだろ」
キャンベルの結論に、ベンが意義を申し立てる中、リアムの頭にある説が浮上してきた。
「…兵士を作っていたのかもな」
「はッ!? 兵士ッ!?」
リアムの突拍子な発言に、ベンは思わず過剰に反応してしまう。
「攫ってきた女、子供をここで儀式を行い、疳之虫を刺激させ、強引に目覚めさせる。
成功した者を高値で売り飛ばし、ボディガードとして傍に置いておく。
もし、命を狙われた場合、傍から見たら愛人か子連れにしか見えないから都合が良い」
「なッ、なるほどな」
「または、殺し屋やスパイとして標的の懐に潜り込みやすい。
これほど優秀な兵士はいないだろ」
リアムの憶測に、2人は愕然とし言葉が詰まった。
「まあ、ここで妄想を語ってても仕方がない。
それに――」
リアムは、怪しげな扉を首で指し、 銃を構える。
「まだあるみたいだしな」
そう言うとキャンベルも臨戦体制を取り、ベンも溜め込んだ唾を飲み込む。
キャンベルが閂を外し、重いドアを開け、リアムが早速と部屋に突入していった。
ベンも後に続いて中に入った次の瞬間、風と共に鈍い音を感じた。
反射的にそちらを向くと、そこには、見覚えのあるシルエットがあった。
「…はッ!?」
それは、つい先ほどまで会話していたリアムの姿だった。
「おッ、おい――ッ!?」
リアムは、雑巾のように床に倒れて身動き1つもせず、それどころか頭部から血を流していた。
一体何が起こったのか、状況が理解出来ずにいると、奥の方で蛍光灯が点滅してるのに気がついた。
ゆっくり顔を上げると、不規則な照明の下で静かに深く息をする影があり、それは、こちらを見つめていたのだった。




