種の恥アンリの繭の森
「種の恥アンリの繭の森」
光差し込まないはずの地下森林に火の手が上り
明るくなっていた。
森中の木々の隙間から空。
地下でない箇所が見え始めていた。
地下だけでない、巨大な峡谷に造られた森だったのだ。
空からは大量の矢が降り注いでいる。
幻覚の矢とその中に紛れた見えない矢。
一つ一つが確かな攻撃力。そのくせ回避困難。
降っていたのはそれだけでなかった。。
隕石。
この憎たらしい矢が雨ならば、この隕石は特大の雹。
木々を貫き、打ち倒し、森林ごと破壊してしまっても構わないとばかりに
大地に激突し、地を抉る。
天から降る雨と雹は森も放火魔も一緒くたに叩き潰す意図を持って
破壊を森にもたらした。幾千の騎馬の足音。啜り泣く声。
化け物の咆哮が森中に木霊する。
異常であった、この状態は。
森が焼ける匂い。煙、火の粉散らす音。
爆散していく木々や岩に殺気と死が混ざりあっていた。
ーーマンフリード・アダムス
この光景はとてもこの世のものではないと
マンフリードは思った。
散々そのようなものは見慣れてきたつもりでもだ。
ひょっこりと現れた怪しげな少年を案内役にし、
桃色の髪の乙女騎士と逃げていた。
途中から少年に森から抜ける手順を踏まされて、おかしいとは思っていた。
意味不明な手順だった。
ー迷いの森の仕掛けを解かなきゃ、ここからは出れないんだよ。
少年は言った。確かにこの森の抜け方が分からない。
だがお前は、誰だ? 子供はミュータントの敵だと言った。
恨みがあると。
しかし、何かやらされているという感覚。
勘だったが、少年がミュータント共の敵なことだけは理解できた。
だから手伝った。
敵の敵は何とやら、と言う事だ。
しかし、そこで少年の身に纏う気が禍々しくなっていった。
その「森から出るための手順」をする度に。
4つほどだろうか、手順を踏んで。
途中で手伝いを放棄。抗議する怪しげな子供の顔面を爆発させるつもりで
霊拳をぶち込んだ。子供はドロドロの肉片となり飛散、その飛散した肉片が
素早く集まって肉人間のように変わり逃げた。
アレは一体何だったのか。妖魔の類か。
知らないが、それからすぐにこの事態になったのだ。
あれの祟りなのか。それともまた違うものか。
だが隕石で思い出すのは、フリーダムの街。
瞬く間にあの街を滅ぼしたのも隕石だった。S・スピーシーズ。聖種。
調査では確か…… 無限の矢とこの世のものでは無いもの達の啜り泣く声。
偶然とは思えなかった。奴らが奴らの領土を攻撃している?
恐ろしい力。広範囲殲滅型の超級の能力者、もしくは兵器やらシステムがあるはず。
(流石に無差別すぎるだろ、と言うことは逆にここに聖種の高位能力者はやってこない?)
(この無限の矢と隕石だけ気を付けて、出口を地道に探せばいけるか?)
燃える樹海の中。巨大な何かが樹海を移動しているような音。
啜り泣く声や、火の粉、騎馬の足音ではない。
大樹の隙間、巨大な蛇が見えた。
一匹だけでは無い、が何匹いるのかは分からなかった。
樹々の隙間から、樹々の上から蛇の頭部や、体の一部が見える。
この森の樹々並みに大きい。
蛇の全長は不明だが60m以上は優にあるだろう。
空から落ちる矢はこの巨大な蛇の化け物に
優先的に軌道を変え降り注いでいるようだった。
その蛇達は、矢弾を受けながら空に向かって
怨むような目をしていた。
蛇が動くと地響きの如き這いずる音。
何故か、この巨大な蛇の目はあの少年の目を思い出させた。
地面が盛り上がると蛇はその他の蛇と繋がっているのが露わに。
ヒュドラであった。
伝説の生き物。多頭の巨大蛇。
少なくともマンフリードはそう認識した。
おいおいこの化け物、かなりデカいぞ、いくらこの俺でも…
いよいよ、この森から逃げ出したくなる。
怪物退治の英雄譚などは好きではあるが、
今この状況でそれをやるのはごめんだった。
それにこの森は危険が多すぎた。
横を見ると桃色の髪の騎士ミシェルも同意見のようだった。
そして怪物は更に増える。
半人半馬の怪物。外套の下に鎧。
森中に響く足音の中心にいる男だった。
無数の弓矢を天から注ぎ、隕石を落とす怪物。
ミシェルと二人。咄嗟に隠れる。
マンフリードの数多の危険を乗り越えてきた経験が、
この半人半獣の怪物は
多頭の蛇を殺しにきたのだと、理解する。
ヒュドラの目が一斉に変化。負の感情そのままのような眼が更に歪み、濁る。
冷静さを失ったように威嚇。蛇の身体がのたうち回り、毒の瘴気を発生させる。
あたり一体の樹々、花草が枯れていく。
その男の他にも上空から竜。これも巨大な生き物だった。
しかしそれでもヒュドラの方が倍では済まないほど大きい。
首の一本一本がドラゴンよりも大きいのだ。
半人の怪物が右手を挙げ、2本の指をくいと地に向けた。
星降らし。人間大の隕石が一つヒュドラの首を弾き飛ばしたが、
首は一体の巨大大蛇となって
森の中を蠢いて進み、巨樹を登り上空の竜に食らいつこうとする。
ドラゴンが破壊の息吹を吹きつけて高度を上げる。
ヒュドラの首は丸焼きされる前に、木々の隙間に逃げる。
火傷を負ったヒュドラの首が呪詛のような怨念の霊気を周囲に撒き散らした。
呪毒の息吹。その代償のように
身体がみるみる枯れミイラのように首の一つが乾いた。
ミシェル・パーカーは樹木の影に潜みながら、
この怪物同士の戦いを最後まで見守る気はない。
逃げる機会を待っていた。そしてそれはそろそろだと思った。
準備が多少前倒ししたにしろ整ったのだ。
つまりまずは偽装し、そしてこの大脱走のルートを作ってくれている
仲間に迎えにきてもらう。
Scare Crow当主ルーベン・ナイトレイの。
【英雄】の高弟の一人としてマンフリードをここから脱出させる
役を自ら買って出たのだ。役目を果たさねばならない。
腰から水袋を取り出し、その中の液体をマンフリードに与える。
「おい、何だよこれ。いや、説明しろって!」
何やらアゴ男がいうが気にしてられなかった。
金髪のアゴの体に液体が染み渡っていく。
男の全身が、ミシェルの能力を受け入れる準備を始めたのだ。
「偽装」開始。ミシェルの体の表面が波打ち、変化し出す。
みるみるうちに小さな木に成った。
そしてマンフリードの姿もたちまち薮に変わる。
(Mogura!)
心の中でミシェルが仲間の名を呼んだ。微かな思念の合図を地中に送る。
その合図とともに地面が隆起し、小さな木と薮の直ぐ横に穴が空いた。
マンフリードをミシェルが無理やり穴に押し込める。
狭いトンネルが地中に出来ていた。地上から10m下くらいだろうか。
匍匐前進でしか進めなそうだった。
そこでマンフリードが見たものは人間サイズのモグラのような魔獣。
それがやってきて挨拶するようにこちらを見て手を上げた。
今度はトンネル内をくるっと回った、
モグラの足についているロープが2本。
それをミシェルと掴む。とモグラが腹ばいでスイスイと泳ぐように
進んでいく。
穴の道は狭く、互いに四つん這いになってモグラに引っ張ってもらう。
ダクトの中を通る潜入者や、逃亡者の気分だった。
実際にそうであるが。
モグラは随分早い、自転車などよりは早いのは間違いない。
進んでいくと巨大モグラは途中の2股の道でどこかへ行くらしく。
今度はミシェル誘導するように、前になって進んでいく。
マンフリードは訳もわからずに進んだ。
ミシェルとは抱き合うような形で引っ張られていて少しはいいことがあるな。
などと思い、軽口をきいた。
ーなぁ、アンタ。中々いい女だな!
ここから生きて帰れたら一緒に手合わせ…がっ!
膝蹴りを喰らう。
とほほ、と項垂れながらもマンフリードはこの女に感謝した。
この能力なら逃げられるかもしれねぇ。
希望が少し見えてきた。
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ミシェル・パーカー
型 乙女騎士
サブ モンスター・マイスター
怪物使いの呼吸 偽装師の右手 痕跡消去 乙女の聖剣
怪物ーmogura、スライムのレモン、寄生種シャパーチャ
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