5話 悪魔女史と白鳥通り / ノートン・ヒューズ・ウォーカーは休めない
ANKH・R 白鳥通り
また風の動きが変わる。
振り向きざまに鞭を振るう。****
仕留めきれなったが、手応えはそれなり。
次でトドメを刺すつもりで、音と大気の動きに注意を払い、果たして傀儡
にはあるかわからない神経を集中させる。
耳が足音を捉える。足音の数が増えていた。
おそらく今3体の鰐頭に囲まれている。
一体は手傷を負わせた。
鞭を2本切り離し地面に落とす。
空のマガジンも地面に落として新たな弾倉を装着して鞭を装填。
切り離し地に落とした鞭が霊蛇に変化し動き出す。
本物の蛇同様に熱を感知、一体の鰐頭の足に噛みつく。
近くの空気が揺らいだ!
「そこか。」
瞬間、鞭を迅速に叩きこむ。
反応し鞭を精確に繰り出し目標に当てるまでに0.1秒以下。
この鞭の射程内ならば凄腕のガンマンの如き早打ちで対処出来る。
今のは確かな手応え、致命傷だろう。その予想を肯定するかのように
透明化を維持できずにエイリアンが地に倒れ伏した。
もう2匹。
霊蛇が踏みつけられた。瞬間、
先ほどのように鞭を放つと頭蓋骨を破壊、敵の頭部が3分の1吹き飛んだ。
最後の敵に霊蛇が噛みついて魔毒を送り込む。
ケンナズ・ホーンテッド・アパートメント前
未だに領土内に異物があるような感覚が無くならない。
鰐頭たちは大体倒したと思うが……
いや、感じている異物はあのエイリアン達じゃない。何か別物だ。
上? 視線を上に動かすと
アジトの窓から誰かがこちらを見ている。光が反射してよく見えない。
正式な手順を踏んでアジトのカギを開け中に。
あの花瓶がない……
階段を上がり窓際を見る、とマケンナの傀儡。
窓際の茶色いピアノに向かって座っていた。
鍵盤蓋は開いておらず、紙とペンが置かれている。
「マケンナか?」
こちらに背を向けながらペンの先端をコココッコッコと
鍵盤蓋に軽く突く。
タイプライターが出すような音、リズムに似ていた。
その音が意味を持ち始める。
思念での会話か。
コココッコッコ
(どうして、カードを使って入ってきて、くれないの?)
「違うやり方でも入れたからだな。」
コココッコッコ コココ
(デモ、この家を育てて、欲しいのに……)
「それは……」
突然壁際のスタンドライトが倒れた。
大きな音とともに電球が割れ、床に部品が散らばった。
コココ ココ コココッコッコ
(大事なコトなの… また、再開してくれる?)
「ああ、考えてみる。」
コココッコッコ
(ありがとう、今日からお願い)
マケンナ人形は立ち上がり、
角のソファに戻って動かなくなった。
…恐らく、今のが怨霊使い。******
部屋の調度品もマケンナの私物が少ない。今ここは奴の空間?
多分マケンナは完全に主導権を奪われてはいないはずだが…
まさか正しい手順で扉を開けても
怨霊使いの空間になるとは。油断していた。
のんびりやれると高を括っていたことに気づく。
問題はこいつ、怨霊使いをどうするかだ。
そこまで弱っているのか、こいつは?
いや、ちょっと待て。怨霊使い…
泥がかかっている霊。
もしかしてこいつの能力、怨霊を集めて文字通り使う力?
そうか、こいつ多くの怨霊をレゾを操るのに使用していたんだ。
それをジョンに倒された、操る怨霊のストックが少ない……
そしてここで自分で怨霊を集めるほどの力はない?
大っぴらには出来ないとか、いやそれは私を騙せば出来るかもしれないな。
マケンナ自身が中に何かはいてもハッキリとわかっていないようだった。
派手に動きすぎるとマケンナに抵抗される?
いや、待て。そもそも、いつからマケンナの中に潜伏していたのか。
怨霊使いの本体は? 本体はレゾか、マケンナにやられた?
マケンナは怨霊使いについて何も言わなかった。
彼女はレゾに裏切られたと言った。
ということはレゾが最初にやられた。
怨霊使いはレゾに返り討ちにされた?
なら順番としてはまずレゾを乗っ取ろうとしたが、反撃される。
このとき本体を失ったか、何かされた。
が、レゾ自体は怨霊に憑りつかせて操ることに成功。
レゾを使ってマケンナを殺害。いや操る以外にも憑りつけるのかも。
ん? もしかして体を乗っ取りたかったが、マケンナを殺してしまった?
レゾの身体は何だっけ、生きながらにして死んでいるとか……
殺しても主導権をうまく奪えなかった?
頭がこんがらがって来た。休もう。
自然と傀儡休息カプセルが目に入った。新しく取得したANKH・Rの施設。
ソファの近くに作成できた。
それより怨霊使いの奴は私が気づいていることに気づいてないんだよな?
気付いてたら、休んでいる場合じゃないぞ。
まぁ、大丈夫か。
人間じゃなくなった者同士で化かし合いをしながら一つ屋根の下なんて
質の悪い冗談みたいな状況だ。
とにかくこいつを弱らせていこう。
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暗黒教団 本流 首都 SINシティ 罪都
パンデモニウム
要塞とも無骨な城とも見える建築物。
がSINシティにおける最高権威パンデモニウムであると
SINシティ市民は認識する。
同時にパンデモニウムは暗黒教団のエリートのみが
立ち入りを許されている区画だとも認識される。
万魔殿。
それは街であり、要塞であり、城であり、教会であり、特別区でもあった。
人口12万を要するSinシティの中心にあり数千人が居を構える。
パンデモニウム、中央区本棟。
像が並ぶ廊下。大きさは人間ほどのものが多いが姿かたちはまちまち。
共通するのは、そのどれもが邪な存在であることを主張しているかのような造形。
悪を信奉するカルト教団に似つかわしい廊下を30代の男が歩いている。
明るい茶髪は短めに、無造作に整えられていて
体系はスラッとしていて、黒いスーツをスマートに着こなしている。
真面目そうだが、影のあるような顔。
ハンサムであるが、美男子というよりは
大人の男という雰囲気。
無精ひげと目の下の隈から憔悴具合が伺えた。
その男がそれ自体が芸術作品のような巨大な扉の前に立つと
高級教団兵が儀式的な敬礼とジェスチャーをしてから
これまた仰々しく扉を開ける。
* * *
男は、早くしてくれ! と怒鳴りつけてやりたいのを
こらえるのに必死で男は泣きそうになった。
ノートン・ヒューズ・ウォーカーは
只々疲れていた。
疲れ、悲しみ、苛立ちを制御しながら
部屋へ足を踏み入れると
黒髪の長髪、色白の男が玉座に座っていた。
痩せこけていて、今にも倒れそうなほど覇気がない。
精神力のみで意識を保っているかのようだった。
―よく戻って来てくれた、ノートン。
本当に。……君だけが頼りだ。
「もったいなきお言葉、堕天主様。」
―魔女との戦いからは上手く撤退できたか?
何を? 上手く? 仲間の多くを失って。
散々であった。命からがら逃げ伸びて、撤退せざる終えなかっただけだ。
気遣いの言葉にすら精神を揺さぶられるほどに内心では穏やかではいられなかった。
「はい、報告をはじめます。」
「南方大陸東部で通称【魔女】と呼ばれる女の率いる勢力
『WITCHERY』と武力衝突しました。
結果本流幹部4名死亡。全てネフィリム化していたものです。
魔女と共にいた勢力のリーダーの男には勝利。始末しました。
その後、男の勢力残党は魔女の配下に。」
―うん、そこまでは聞いている。
「続けます。私、ノートンが羽化に成功。
死亡したカリムのゾンビ軍を引き継ぎ魔女と交戦しましたが…
魔女側が優勢であり続けました。これ以上は抗戦不可と考え、
この南方の地からは手を引いて帰還しました。
申し訳ございません。」
―かまわない、君で無理なら、尚更。
それにその魔女は強い。我らの最高幹部7名のうち4名も下した女。
むしろ君一人でよく戦い続けた。流石ノートンだ。
幹部最強とはいえ、君に全て押し付けて、こちらこそ無理させている。
しばらくはゆっくりと、パンデモニウムで英気を養ってくれ。養生してくれ。
ねぎらいの言葉を掛けられた後
パンデモニウム内にある自身の屋敷へと帰還。
気心知れた親しい部下たちに迎え入れられ、
蝋燭しかない薄暗いダイニングで共に食事をとる。
我が家ではこのダイニングがお気に入りだった。心が安らぐ。
と言っても薄暗い場所は大体好きで、
彼の屋敷は大体薄暗い。部下に話しかけて報告を促す。
「ノートン様、たった今戻って来たばかりです。 お休みの後のほうが良いのでは?」
「休みながらでも聞けるさ。 俺が魔女と戦っていた間みんなで集めていた情報を報告してくれ。」
では、と言って部下の男が報告を上げる。




