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6話:旅は続く


「ありえない!! なぜ弓があの距離から届く!!」


 草原の丘の上に陣地を敷いた騎士団の部隊長が唾を飛ばしながら叫ぶ。


「分かりません!! しかもやたら命中率が高い上に鎧を貫通します!!」


 彼の部下が報告を上げるが無視して、眼下を注視する。

 

 騎兵が銃を構えて村へと突撃しようとするが、銃の射程距離に入る前に何十と飛んでくる矢が行く手を阻み、中々近付けなかった。歩兵達は盾を構えて進むものの、矢がいとも簡単に盾や鎧を貫通してくるので、すぐに後ろへと下がってしまう。


「くそ! 大砲を使え!!」


 本来は、攻城戦に使う物で、決してあんなチンケな村に使う物ではないが……部隊長は唇を噛みながら苦渋の決断をした。


「大砲用意……放て!!」


 腹に響く轟音と共に砲弾が発射され、放物線を描き、村へと着弾――するはずだった。

 しかし砲弾は村を覆う不可視の壁に阻まれ、跳ね返り、牛歩の速度で進む歩兵達の列へと落ちた。

 歩兵達が爆発によって吹き飛ばされた。


「ありえない!! なんだあれは!!」

「分かりません!! 大砲が効きません!」

「ええいこうなったら俺自ら斬り込むぞ!! 貴様らも続け!!」


 そう言って部隊長は馬に乗って、ロングソードを掲げて走り出した。


「たかが狩人の矢を恐れるでない!! 我に続け勇猛なる帝国騎士団の猛者た――うわああ!!」


 銃音が響き、馬の足下の地面へと命中。驚いた馬が跳ね上がり、部隊長が背中から飛ばされてしまった。


 ありえない。どこから撃ったか分からないが、そんな射程距離の銃は帝国だって持っていない。そんな事を考えながら部隊長は地面へと叩き付けられた。そして顔を上げると――眼前に何本もの矢が迫っていた。


「や、止め――」



 結局帝国騎士団はこの日、犠牲者を多数出したものの、ついぞアミスラ村を攻める事が出来ず退却していったのだった。


「うおおおおおお!! やったぞ!!」

「見たかよあの帝国騎士団が手も足も出なかったぜ!!」

「砲弾が飛んできた時はひやひやしたが……流石はミネルヴァ様の加護」

「うむ……」


 正直、ミネルヴァにも、なぜここまで出来たのか分からなかった。アーミスの加護があったとはいえ、矢があれほど遠くにしかもあの威力を持って飛ぶなど本来ありえない。更にいくら都市守護の神である自分の加護を得た村だからといって、砲弾をああやって弾くのはあまりにおかしい。


「神の加護って、本来天界から人へと授けられる物ですよね? それがこの場にいるミネルヴァ様から直接授けられたせいで、力が強化された……って仮説を立てたんですけど……どう思います?」


 エミーリアの言う通りかもしれないとミネルヴァは思った。だが、結局のところ何も分からなかった。


「まあ……村も守れたし、帝国騎士団もここまでやられたらもう来ないだろう」

「来たとしても何度でも追い返してやりますよ! その為にもミネルヴァ様への祈りは欠かしませんとも!」


 すっかり元気になった村長が力こぶを作りながらそう宣言した。


「我が村は未来永劫にミネルヴァ様に祈りを捧げる事を誓い、アーミス様とミネルヴァ様の神殿を守り続けましょう!」

「ああ……よろしく頼む。祈りがある限り私の加護は続くだろう」

「では……お前ら! 宴の準備じゃ! 聖女エミーリア様と我らが神ミネルヴァ様をもてなすのだ!!」


 こうしてミネルヴァとエミーリアはその日、夜遅くまでアミスラ村の祝祭と称した宴に参加したのであった。




 夜。

 村長の家にある客室のベッドで、エミーリアとミネルヴァが横になっていた。ベッドは二つあるが、なぜかエミーリアは一緒に寝ると言ってきかなかったので、渋々ミネルヴァは了承した。

 

 二人とも薄い生地で出来た寝間着を着ており、さほど広くないベッドなので、密着せざるを得なかった。


「ミネルヴァ様」


 エミーリアがミネルヴァの手を握りながらそう話しかけた。既にランプは消しており、部屋は暗い。まだ外では若い村人が酒を飲んで騒いでおり、その楽しそうな声が微かに聞こえてくる。


「ん? なんだエミーリア」

「結果的に村は救えて、ミネルヴァ様の信仰が増えて良かったなあと思いまして」

「そうだな。アーミスの神力が混ざったのは予想外だが……」

「ふふふ、ミネルヴァ様、気付いていないかもしれませんが、髪、少しだけ伸びていますよ?」

「そうなのか? 自分では分からないな」

「きっと信仰が増えたおかげですよ。それでね、あたし考えたんです。今、この大陸中でこの村と同じような事が起きています。帝国は神への信仰は古き時代の遺産で、全て破壊すべきだと言っていて、あたしにはそれが許せません。だから、ミネルヴァ様と共に大陸各地にある聖地を巡礼して、加護を取り戻すのはどうかって」

「なるほど。私が元々あった神の神力を取り込んで、自分の加護と合わせて授け、信仰を増やすと」

「そうです! そうすれば、いずれ、大陸中の人々がミネルヴァ様を信仰するようになるのです!」


 エミーリアがキラキラとした目でミネルヴァを見つめた。

 ミネルヴァとしては、特に自分の信仰を増やしたいと強くは思っていない。だが、天界の神々から勝手に見放されたこの下界を救うにはそれしかないのかもしれないと、エミーリアの言葉を聞いて思ったのだ。


「私の信仰を増やすのはともかく、今日のようなやり方で人々を救うのは良いかもしれないな」

「でしょ!? じゃあ決まりですね! 聖地を巡り、各地にある神の力を取り込んで、アルティメットミネルヴァ様を完成させてこの世界を支配しましょう!!」

「いや、支配はちょっと……」


 ミネルヴァが顔を逸らせると、彼女の上へと馬乗りになったエミーリアが笑みを浮かべた。


「冗談ですよ……さてと……ミネルヴァ様!!」

「うわああ!!」


 エミーリアが突然、ミネルヴァの豊かな胸へ顔を押し付けてきた。


「柔らかすぎる……ここが天国か……ああ、凄く良い匂い……あたしこれも持って帰るぅ」

「こら、エミーリア、離れるんだ!!」

「絶対に嫌です……」

「匂いを嗅ぐな!」


 赤面しながらバタバタと暴れるミネルヴァとエミーリアのじゃれ合いはそのあと夜遅くまで続いた。


 翌日。


「行ってしまわれるのですか、エミーリア様、ミネルヴァ様」

「ええ。次の聖地が危機に晒されているかもしれません」

「そうですか。どうか良き旅路を……ささやかながら、これは村を救っていただいたお礼です」


 見送りに来た村人達代表として村長がズシリと重い革袋をエミーリアへと渡した。


「これは……金貨ではないですか! いけません。これは村と神殿復興の為に使ってください!」

「良いのです。それらについては元々アーミス様に捧げる為にずっと置いてあった物です。ミネルヴァ様達に使っていただける方が金貨も幸せでしょう」

「そうか……ではありがたく頂くとしよう。さあ、行こうかエミーリア」

「はい! ミネルヴァ様!」


 革袋を受け取ったミネルヴァとエミーリアは仲良く手を繋ぎ、アミスラ村の村人達に盛大に見送られながら、次の聖地を目指す。


 こうして一人と一柱の旅は続いたのであった。



キリが良いので、ここで一旦完結にさせていただきます。

またいつの日か続きを書きたいと思っています!


ここまで読んでくださりありがとうございました!

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