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3話 妖の本質

「主様ー。何してるんですか?」


 三者三様、頭に疑問符を浮かべた状態で見つめ合っていると、風呂を終えたのか、髪が濡れ、いつもとは違った印象の佐助が音もなく現れた。


「「「…。」」」

「…あれ?…なんか間が悪かった?」

「いや…、――。」


「徳様ー。そろそろ部屋に…――、あれ?みんなこんなところで集まってどうされた?」

「千代…、」

「…?…あ…、もしや、間が悪うございましたか…?」

 千代がぎくしゃくと徳を見つめながら尋ねるが、さすが兄妹。リアクションが同じである。



「菊介、今まで誰も徳に対して妖の本質については説明しなかったじゃないか。知らなくても当然だよ。」

 すると、急に屋根からぴょんと飛び降りてきたのは妖狐の弥彦であった。胸に白猫を抱いての登場だ。すると…――



「シロっ!」

「にゃーー!!」

 佐助の歓喜の声に、白猫が弥彦の胸を蹴って腕の中から放れる。


「シロー…!会いたかったぞー!」

「にゃー…!」

 佐助の腕の中でゴロゴロと甘えるシロ。佐助とシロの様子に衝撃を受ける弥彦と千代。


「なっ…!シロは俺に一番に懐いてると思ったのに…。」

「佐助兄さまっ!?今日私に会った時はそこまで喜んでくれなかったではないですか…!」

「え…?」

「おいっ!おっさん!シロを返せっ!」

「シロー!佐助兄さまに甘えてもいいのは千代だけなのだぞっ!!」

「…おい…、お前ら静かに…――、」

「あっ!シロっ!」

 ギャーギャーわーわー騒ぎまくった末、シロは我関せずと庭の奥へと一人逃げてしまった。


「おっさんのせいでシロがー!」

「弥彦っ!佐助兄さまはおっさんではない!まだ若いのだっ!」

「…おっさん…。」

「佐助、五月蠅い。黙れ。」

 信繁がまっすぐに佐助を睨む。


(…な、何でおれーっ…!?)

 佐助が冷や汗を流しビクッと固まるが、その横にいた千代と弥彦も信繁の圧に口を閉じた。


「はぁ…。それで、陽の妖とは何のことだ?」

「それについては、私が説明しましょうか?」


 何処からともなく声がかかる。すると、先ほど固まった佐助だが、今度は違った意味で口元をひきつらせて徳らの背後を見ながら動かなくなった。

 疑問に思った徳と信繁が背後を振り向く。



「賑やかな声が聞こえたので、麦茶とつまみを持ってまいりましたよ。ですが、皆さん、夜ですからお静かに。」

 持ってきたと言っているが、何も見えない。いや、そもそも身体が無いから分からない。

 ろくろ首の梅が顔だけぷかぷかと闇夜に浮かびながらやってきたのだ。


「う…、梅…、慣れない人が見たらびっくりするから、その現れ方は止めたほうが良いかな…。」

「え?…まぁっ!私ったらっ!早く皆様へお持ちしたい一心で、気持ちが浮き立っちゃいましたっ。」

「…いや…、気持ちがって言うか…、頭が…――、え?どうなってんの…?」

「あら?忍さん、私の身体に興味がお在り?」

 梅の首がさらに伸び、佐助の身体にとぐろを巻く。


「え!?いやっ…!」

「んもうっ!先ほどからっ!佐助兄さまは千代の兄さまなのにっ!」

「…おい、話が進まん。」

「梅、さっきの話だけど…。」

「あら、そうでしたわ。…私から説明させていただきますね、徳様。」

 佐助に巻き付いたまま、梅が徳の方へ顔を向け、目じりを下げて微笑んだ。








「それで…?陽の妖って?」

 移動することなく、その場で夜涼みをしながら徳らの会話は続く。相変わらず月は明るく縁側を照らしている。ホトトギスが夏の訪れを伝えるように、何処からともなく鳴き声を響かせ、木々のざわめきと相乗して耳に心地よい。

 鈴は早めに就寝したようで、この場に居ないのが申し訳ないが、梅が運んでくれた羊羹をほおばりながら、視線は梅に集中する。


「はい。…妖には陽と陰がございます。陽と陰は反発し、陽と陽、陰と陰は惹かれ合う。」

「皆がとくのこと好きなのは、とくが陽の妖の中でも妖力が強いからなんだよ。」

 縁側に寝そべりながら行儀悪く羊羹をつまむ菊介が口をはさんだ。


「妖力が何か関係があるの?」

 徳は寝転んでいる菊介の両脇に手を入れ、無理やり身体を起こす。

「妖同士は、同じ属性だと、より妖力が強いものに惹かれるのです。妖力が強い妖も、妖力が弱い妖に対して好意的になりますが、妖力が弱い妖が妖力の強い妖へ向ける好意とは桁が違います。」

「え?」

「俺らは、徳が死ねって言ったら、喜んでそれを遂行するよ?それぐらい徳のことが好きなんだ。」

「いやいやいやっ!そんなこと言うわけないでしょーっ!!??」

 徳は弥彦の発言に目を見開いて驚く。


「そういう徳だから俺らは余計に徳が大好きなんだけど、俺らにとっては徳の命令は絶対だ。」

「命令だなんて…。」

「気づいておりましたか?徳様は一度も妖たちに命令をしたことが無いのですよ?」

「怒られることは何度もあるけどね。」

「そう。だから余計に俺らは徳に付いていくんだ。」

「…妖力がまぁまぁ強い妖であれば、徳様の命令に背くことは出来ます。しかし、やはり本能では背きたいとは思わないのですよ。本能と感情がぶつかると言いますか…。」

「…。」


(…なんかこわい…、冗談でも下手なこと言わないでおこう…。)

 徳はドキドキと変な汗を流しながら、自身の行動を戒める。


「…じゃあ、もしかして、みんな私の言うこと聞いて人々を襲わないようにしてくれてるの…?依頼で来る人間を襲っている妖は私のお願いを聞いてくれない妖力の強い妖ってこと?」

「いえ……、…多分それは陰の妖の仕業ではないかと…。」

「陰の妖…?」


 惣無事令(そうぶじれい)が施行され、それと同時に徳は妖らにも人を無暗に襲わないよう御触れをだした。それがどこまで功を奏したのかは不明だが、始めの頃に比べればだいぶ妖総奉行所へ来る依頼の数はだいぶ減った。

 ちなみに、妖へも人間との諍いで困っていることがあれば奉行所を頼る様にと伝えたため、妖からも依頼が来たが、驚くかな人間と妖の依頼の比率は3:7だった。思ったより人間よりも妖の方が困窮しており、徳は嘆いた。


「陰の妖の頭が人間界を好まないのです。なので、陰の妖はほとんど人間界にはいません。しかし、それがすべてではないため、人間界に住まう陰の妖ももちろんいるのですが…、そ奴らが人間を襲っているのではないかと…。」

「…何か理由があるの?…人間を襲う…。」

「きっと、陰の妖の頭が人間嫌いだからではないでしょうか…。」

「え?人間嫌い…?」

「はい。彼が人間を嫌っているのは有名ですから…。だから彼は人間界に居ないのです。」

「…そうなんだ…。」

「――…少し、口をはさんでも良いか?」

 話を聞いていた信繁が、静かに言葉を発した。


「陰と陽の妖は反発すると言っていたが、もし陰の妖と陽の妖が出会うとどうなるんだ?」

「これと言って大事にはなりませんので、心配されなくても大丈夫ですよ、信繁様。お互いが出会えば、妖力の弱い相手だと居心地が悪いだけですが、相手の妖力が強いと畏怖を感じてしまいます。」

「では、陰と陽の妖が出会ったとしても、戦闘にはならないということだな…。」

 信繁がほっとした様子でため息を吐いた。


「はい…。妖力が強ければ強いだけ、妖は理性が生まれます。なので、無暗な戦闘にはならないでしょう。ただ…――」

「…?」

「意見が相違し、お互いが憎しみ合うようになれば、陽の妖と陰の妖の戦争になりえます。」

「え?」

 徳は顔が青ざめる。


「まぁ、徳様に限ってその様なことにはならないと思いますが。」

 にこっと梅は徳を向いて微笑む。

(いやいやいや、フラグが立っちゃうからそういうのやめてっ…!)


 徳はひきつった顔で笑顔を返した。



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