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31話 呉越同舟(2)

「おいっ!野本の山よっ!!聞こえてんのかっ!?」


 太郎坊が叫ぶが、野本山からの返事は聞こえてこない。



「っチッ!…よりによって久しぶりの目覚めで、山自体も自己制御できてないのかよ!」

「太郎坊っ!どうすればいいのっ!?」

「話ができないならしょうがないっ…!」


 太郎坊と二郎坊は野本山の火口を降り、溶岩がブクブクと気泡をあげている場所で叫ぶように会話をしていた。叫んでいるのは苛立っているわけではなく、煙や蒸気、ガスなどで視界が悪く、様々な音が鳴り、通常の音量だと会話が成り立たないからだ。





「…どうするって…、こうするしかないんだよなっ…!」



 問いかけられた太郎坊はぼそっと呟き、徳から送られてくる妖力を右手へ集めていく。それを見た二郎坊も見様見真似で同じように右手へ妖力を集める。




「…二郎坊っ!潜るぞっ!」

「えっ!?太郎坊っ!?」



 叫ぶと同時にぐつぐつと煮えかえっている溶岩へ太郎坊は飛び込んだ。二郎坊は一瞬遅れをとったが、太郎坊へ続いて溶岩の中へ飛び込む。



(…あち!…流石に、熱いよっ!太郎坊っ!!)

(我慢しろっ!!)


 太郎坊へ一蹴された二郎坊はとりあえず、口を閉じる。火山耐性があったとしても、溶岩を泳げばさすがに熱を感じる。しかし、熱さなど感じていないかのように太郎坊は溶岩の中をどんどん深くへと潜っていく。



(…見つけた…っ!)



 高温の光を放つ溶岩の中、一層光を放つ四角いクリスタルの様な山の核。太郎坊はそこへ右手に溜めた徳の妖力を解き放つ。



(二郎坊っ!お前もこいつに妖力を浴びせて力を抑えこめっ!!)

(わっ!分かったっ!!)



――ゴォオオオオオオ



 二郎坊が妖力を放った瞬間、山の核が大きく拍動し、今まで静かだった溶岩が山の外へと勢いよく押し流される。


(わぁっ!!)

(…!?…まずいっ…!!)


 流れに飲まれ、溶岩と共に山頂まで押し上げられそうになった二郎坊を、太郎坊が手を伸ばして捕まえる。


(…このままじゃ吹き出しちまうっ!…早く収まれっ!!)


 二郎坊を片手に、右手を核へ伸ばし、再び妖力を流し込む。


(…いい加減静まりやがれッ!!)









――キーン…











































 妖力の消費が激しい。徳は天狗二人を心配しながらも、消費を補うようにそれ以上の妖力を送り続ける。


(…お願いッ…太郎坊、二郎ちゃん…、頑張って…。火砕流が城下に届く前にっ…!)

 妖力を送るにつれ、体力を奪われるような身体の重さを感じる。しかし、そんなこと気にしていられない。妖力の消費が激しいということは、太郎坊と二郎坊が噴火を静めようと頑張ってくれている証拠だ。

  

「…姫。」


 信繁に呼ばれ、徳は顔をあげる。すると、当たり前だが、抱きしめられているため、信繁の綺麗な顔が目の前にあった。


「…大丈夫か…?」

「……平気です。」


 気づけば額が汗ばみ、頬を汗が伝っていた。その汗を信繁が手でぬぐう。


「…無理はするな。…それに、城下のことは大丈夫だ。佐助が上手いことやるだろう。」

「……はい…。」


 徳の焦りを察したのか、信繁が穏やかな声でフォローを入れる。優しい彼は「人々を救えるかは、お前が妖力をどれだけ注げるかにかかっている」などとは言わないだろう。

 しかし、これは徳が言い出し、太郎坊と二郎坊を、信繁を巻き込んだのだ。自分が根をあげるわけにはいかない。


(…絶対成功させて見せる…!)


 徳は瞳を閉じる。彼らの消耗していく妖力を、尽きないように、自身の身体にあるだけ…――。




――ドクン…――


――ドーーーーーンッ!!


 

 徳の中の何かが大きく収縮したその時、山が大きく揺れた。


「…え…?」

「…っ!?」





――ゴオォオオオオオオォォォ!!!


 揺れたと思ったのも束の間、火口に吸い込まれる勢いで突風が吹き荒ぶ。信繁が、咄嗟に鞘ごと引き抜いた刀を地面に突き刺し、徳の身体をより一層ぎゅっと強く抱きしめた。徳はバッと山頂の方角を見る。


(…妖力の消耗が収まった…?)


 結界の外で、煙が渦を巻くように木々を巻き込みながら山頂へ飛び込んでいく。


(…いや、これ風じゃない…!)




(――…山に吸い込まれてるぅっ!?)

































「…どちらが先だと思う?」

「…え?」

「私らが燃えるが先か、噴火が止まるが先か…。」



 佐助は白けた目で、静かに隣で山を見つめている吉明(よしあきら)へ視線を送った。その横で弟子だという少年がピーピー吉明へ何かを訴えているが、吉明(よしあきら)は気に留めずに山のある方角を見ている。

 今や結界の外は闇だ。火砕流に覆われてそんなに時間は経っていないが、吉明(よしあきら)が補った注連縄(しめなわ)は徐々に燃えだしている。彼の注連縄(しめなわ)が燃え尽きれば、あとは佐助が作った結界しか残らない。自身の主がチャクラを注いで強化してくれたが、やはり、近くに居ないと効力は落ちてしまう。

 火砕流がいつまた新たに吹き出すか分からない。この場所を任されてはいるが、考えれば考えるだけ不安が募るのが正直なところだ。





「――…噴火が止まるのが先に決まっています…。」




「「…。」」

「…徳姫様を信じてないんですか?」


 可愛らしい鈴の凛とした声が男二人を黙らせた。

 二人の視線が小さく可愛らしい少女へ向くが、疑うことを知らない純粋そのものな澄んだ瞳が、真正面から受け止めている。



「…あはっ…。…そうだね…。……後で主様に怒られそうだ…。」

「…では、私もそれに賭けてみようか。」

吉明(よしあきら)様っ!危険だと判断したら安全な地に渡りましょうってば!」

「…。」

「…吉明(よしあきら)様ぁー!!」








――ドーーーーーンッ!!


――ゴオォオオオオオオォォォ!!!





 

 佐助が気合を入れなおしたその時、大きな音と共に地面が大きく揺れ、力の波が結界にぶつかった。大きな力が結界をミシミシと音を立てて壊し始める。



「…!?…鈴っ!!」

「藤四郎っ!来いっ!」


 遂に結解が崩れた。それと共に山へと向かって突風が勢いよく吹き荒ぶ。


「…なんだこれっ!?」


 足が浮いた鈴を捕まえ、目の前の光景に目を疑う。燃え尽きた家屋や木々を取り込みながら、火砕流が勢いよく山頂へと吸い込まれているのだ。




「と、徳姫様っ…?」

 


――ドーーーーーンッ!!




 火砕流が全て山頂へ吸い込まれると同時に、再び地面が大きく揺れた。

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