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21話 鈴

「え?…帰ってきてない…?」




 鈴の居場所がダメなら、宿舎はどうかと、吉明(よしあきら)に名護屋城の侍女宿舎へ渡らせてもらった徳。そこで鈴を呼び出してもらったが、同室であるという侍女から伝えられたのは、鈴はまだ城から帰ってきてないというものだった。

(…鈴ちゃん、城から直接大谷陣屋に来てくれたんだ…。でも、…いったい今何処に居るんだろう…。)


「…あの…、」

「…?」


 徳が鈴の行方について考えていると、目の前の侍女2人のうち、髪の短い侍女が緊張した面持ちで徳へ声をかけてきた。


「…鈴をいじめるの、やめてください…。」

「ちょっと!あんたっ…!?」

「…!」


 侍女の訴えを、頬にそばかすのあるもう一人の侍女が顔を真っ青にして止める。


「だってっ!…姫様だかなんだか知らないけど、これじゃぁ鈴が可哀そうだよ!!」

「あんた!自分の命が惜しくないの!?」

「でもっ!…徳姫様は伊達様もこんな美丈夫をもお相手にされてるのに、なんで思い合っている真田様と鈴を引き裂こうとするんですか!それに…、鈴があなたに何をしましたか!?昨日だって、鈴の着物が切り刻まれてました!あなたの指示なのでしょう!?」






――…はいー!?…突っ込みどころ満載なんですけど!!!


(でも、待って…――)









「…鈴ちゃんの着物が引き裂かれてたって?」

「…っ…、は、はい…。」

 徳が顔を下に向け、低い声でしゃべりだしたからだろうか。威勢の良かった侍女はおびえた様子で返事をしてきた。その横に居る侍女は、もはや顔色が悪いどころの騒ぎではない。

「…もしかしたら、私のせいかもしれない。…教えてくれてありがとう。」

「え…?」

「…帰りましょう、吉明(よしあきら)様。」

「…もうよいのか?」

「はい。鈴ちゃんが居ないのなら意味ないので。」

「…え、…ちょ、ちょっと、お待ちください…っ!これ以上鈴にっ…!」

「あんたやめなっ!」

「……鈴ちゃんを守ってあげてください。…それじゃあ、お邪魔いたしました。」

「え…、」


 髪の短い侍女が何か言いたげだが、徳は笑顔の返事だけを返し宿舎を出る。それに吉明(よしあきら)が続いた。


「そなたはだいぶ嫌われておるな。」

「うるさい。どっかの美丈夫さん。」

「…そなた、私がこの美貌と実力でどれほど世間で注目されているか分からんようだな。」

「興味ないです。」

 侍女らが吉明(よしあきら)のことを美丈夫と言っていたことに衝撃を受けたが、今はそれよりも徳は怒りが強かった。


「…吉明(よしあきら)様、あなた噂での私って、鈴ちゃんに泥水をかけたり、残飯をかぶせたりって言ってましたっけ?」

「あぁ。そうだな…。でも、そなたは身に覚えがないのであろう?」


(…身に覚えはない。でも、さっき身に覚えのないことだけど、鈴ちゃんは着物を切り刻まれたって言ってた…。もしかして、噂の出来事は本当に鈴ちゃんの身に起こった出来事なの…?)

 徳はいつも笑顔で陣屋に訪れる少女を思い浮かべる。辛いことなど一切起って無いかのように、一日の出来事を楽しそうに話してくれる鈴――









「……あんの腐れ狸…。」

「おい…。口が悪過ぎるぞ。」

(―――私と信繁様の婚約を破棄させたいからって、鈴ちゃんを巻き込む必要まであった!?)


「…あの狸の言いなりになるっていうのも癪なんだけど…。」

(でも、信繁様と鈴ちゃんを結ばせたいのは私も同じ…。)





「…。」

「…。」

「…はぁ…。鈴ちゃん探す…。」

(…もう、悪役令嬢になりたくないとか、今はどうでもいい。――鈴ちゃんと話がしたい…)


 徳は、傷つけてしまった唯一の友達のことを考え、宿舎を離れた。


















「…鈴、大丈夫?」

「…うん…、ごめんね。…はは、…びっくりしちゃったよね…?」

「良いのよ、無理して笑わなくって…。」

「…でも、どうしたの?泣いて帰ってくるなんて…。また姫様にいじめられた?」

「…ち!違っ!」

 その発言を聞いて鈴は目を見開いて頭を思いきり振る。その拍子に鈴の目に溜まっていた涙がこぼれた。

 鈴の反応を見て同室の髪の短い侍女と、そばかすのある侍女は視線を合わせる。

「…。」

「…実は、さっきね、徳姫様、ここに来てたの。もう帰っちゃったけど…。」

「え!?と、徳姫様がっ!?」


 鈴を探しに宿舎を後にした徳らだったが、実は徳らが訪れた時から鈴はずっと侍女宿舎の中に居た。

 泣きながら宿舎の自室へ帰り、部屋の隅で膝を抱いてスンスン泣いていたのだ。


「こ、こんなところまで来ていただいたなんて…。どうしよう、私…。」

「ねぇ、鈴。本当のこと言って。徳姫様にいじめられてるんじゃないの?」

 髪の短い侍女は、鈴の両肩を掴み、まっすぐ鈴を見つめ質問する。

「違う!!本当に違うの!徳姫様は、身分の低い私にも、すっごく優しくってっ…!」

「怖くて庇ってるとかじゃなくって?」

「そんなんじゃないっ!…本当に、お優しい方なの…。それなのに、私…。」

 再び泣きじゃくりだした鈴に、同室の侍女らは困った表情で再びお互いの目を合わせた。

「…ごめん、鈴。実は私、さっき徳姫様に文句言っちゃったんだ…。」

「え?」

「鈴のこといじめるな、信繁様を奪うなって。」

「え!?な…!?」

「…そしたらさ、あんたのこと、守ってやりなって帰っていったの…。」

 その発言を聞いて鈴は目を見開き、涙が止まる。

「…え…。…徳姫様…。」

「私、罰せられる覚悟で言ったんだよ…。それなのにさ、文句を言った私に対してすんごい綺麗な笑顔浮かべて帰っていったんだ…。」

「…うん。すごく美しかった…。なんだか、噂の印象と違うっていうか…。」

「そ。…私、すごい失礼なこと言っちゃったかなって…。」

 侍女二人は先ほどの徳の様子を思い出したのか、髪の短い侍女は、申し訳ないという顔を浮かべてはいるが、二人とも頬をやんわりと赤らめながら話す。その様子を見て、鈴はなんだかめそめそ泣いている自分が馬鹿らしくなってきた。


 徳には関わった人を魅了する何かを持っていると、鈴は本気で思っている。鈴は、徳が容姿だけでなく、中身だってすごく素敵な人物だと知っている。そんな徳に、悪いうわさが立ち、人々が誤解している原因は誰なのか…。


 そして、思わずその場から逃げてしまった鈴だが、徳が鈴の恋を本気で応援していたのは身をもって感じているし、徳が悪気があって鈴へ婚約のことを隠していたわけではないと鈴自身分かっているのだ。分かっていたのに、気持ちが追い付かず、その場から逃げてしまった。


 ――それに、信繁の気持ちにだって…



「…私、…けじめつけてくる。」

「「え?」」

 先ほどまで眉を八の字にし泣きじゃくっていた顔に、光と強い意志が宿った。鈴はその場で勢いよく立ち上がり、目元の涙を雑にぬぐう。

「私、幸村さんのこと好きだけど、徳姫様のことも大好きなの…。―――今度は、私が応援したいし、助けたい…!」

「…なんか、良く分かんないけど…。うん。行ってらっしゃい。」

「暗くなる前に帰ってきてね。」

「分かった!」

 鈴は髪紐を解いて、ぼさぼさになった頭を結い直す。

(…徳姫様…。こんな立場にしてしまってごめんなさい…。…逃げてしまってごめんなさい…。)


 鈴は駆け足で宿舎を出て、まずは真田陣屋へ向かう――








「鈴殿。」








「え…?」

「…そなたが鈴殿だな?


…真田信繁殿と大谷徳殿の件で話がある。ついてこい。」



 意気込んでいた鈴だが、宿舎を出てすぐに見知らぬ男に声をかけられた。紺の肩衣袴(かたぎぬばかま)を着た、なんだか威圧的な男だ。


「…私、ですか…?」

「来い。」

 普段信繁らがフレンドリーだから忘れそうになるが、武士と町人の身分の差は大きい。町人は武士に逆らえない。急いで真田陣屋へ向かいたかった鈴だが、真田陣屋とは真逆の方角へ進んでいく武士に着いていった。


 鈴は前を歩く武士の背中を警戒しながら見つめる。たどり着いた場所は静かな竹林の中だった。茂った葉でやや暗く、日が当たらないためか少し肌寒い。

 鈴は居心地が悪いため、早く男の前から立ち去りたいが、なかなか男は話を切り出さない。


「…あのー…。」

「お前は真田信繁殿と仲が良く、恋仲目前らしいな。」

「え?…誰がそんなことを…?」

「誰でも良かろう。




――…お前のことを徳川様が援助なされる。真田信繁と婚姻を結べ。」



「…え…?」


 ざわざわと竹の葉が風に揺れ大きな音を出す。鈴は目の前の男が言った言葉が理解できなかった。

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