13話 会いたくないやつとはすぐに会う
徳は佐助と別れた後、城下町へ繰り出していた。自身の噂を確認するためだ。現状にうじうじしていられない。行動しなければ何も解決できないというのが徳の考えだ。生い立ちも起因しているのか、徳はたくましい女子だった。
名護屋城の城下町はとても栄えている。一つ一つの店をしっかり見て回るのでは、一日では足りないほどだ。以前大まかな店については政宗に案内してもらっていたが、一人で歩くのは少し心細い。いや、正確には一人ではなく、猫の姿の厘を抱えての探索なのだが。
「――流石は妖の姫と言うべきか。妖を抱いての散歩か?」
その時、聞き覚えのある耳障りな声が聞こえてきた。嫌な予感がして徳は声のした方をゆっくりと振り向く。そこにいたのは、茶屋の外椅子に腰かけて優雅に茶をすすっている、滅紫の小袖を身に着けた、濡羽色の長髪を背に流している男。
「っあんた!よくも私のファーストキスを!!」
徳は吉明の存在を確認すると、腕に抱いていた厘を放し吉明の胸倉につかみかかった。
「相も変わらず手癖と口の悪い女子よ。」
「おい!貴様!吉明さんに何をする!!」
「うるさい!私はこいつと話があるのよ!よくも私の前に平然と顔を見せれたわね!」
気にしてないとは言っても怒りはある。徳がぐらぐらと吉明の胸倉を揺らしながら文句を言っていると、その横で藤四郎がピーピー喚く。
「そなたら五月蠅いぞ。周りを見てみよ。注目の的だ。」
徳がハッとして周囲を見渡す。周りの人々がこそこそと徳らの様子を見ながら話をしている。
(…絶対、このことも噂のネタになるよ…。)
徳はうんざりしながら吉明の襟を放す。
「そういえば面白い話を聞いたぞ。武将と侍女の身分違いの恋らしい。聞いてはいかぬか?」
にやりと笑いながらそう言う吉明に徳は黙ってしまう。
茶と菓子は私が馳走してやろう。と、何を考えているのか、自身の隣を促す吉明。徳は警戒しながらも、今まさに徳が知りたかった噂についての話題だ。背に腹は代えられないと思い吉明の隣に腰を下ろす。
「…前のこと、許したわけじゃないですから。」
「どのことだ?殺そうとしたことか?それともそなたの唇を奪ったことか?」
「なっ…!そういう言い方しないでくださいっ!口から力奪ったことについてです!!」
「殺そうとしたことは別に良いのか?」
「…それも、ありますけど、あなたはあれが仕事だったわけですから…。やり方には賛同できませんけどね。」
「…そうか。」
「…。」
以前会った時と比べてどことなく丸くなった様子のある吉明に、徳は戸惑うのと共に警戒が薄まってしまう。
「…なぜ肥前国に居る?よもやこんなにも早く再開するとは思わなかったぞ。」
「それは私の台詞です。…こんなところで何してるんですか。」
「ただ依頼があっただけだ。最近この近辺で地鳴りが多いらしくてな、調べてくれと言われたのだ。」
「調べる?あんたたちって妖退治が本業じゃないの?」
「…人々の安寧のために天変地異の原因を探ることも我々の仕事だ。それに妖が関わっているのなら駆除までするのだが。それ以外にも祈祷や呪術もやっているぞ。まぁ、私には妖駆除の依頼の方が多いがな。」
シャーッ
猫姿の厘が吉明に牙を見せた。
「…最近はそなたの考えも悪くはないかなと思い始めている。」
牙を向けている厘を膝の上に乗せ撫でて落ち着かせていると、吉明から思いもよらない発言が飛び出した。
「え?」
「…っ!貴様のせいで吉明さんが妖に情を向けるようになってしまったんだぞ!この猿娘!どうしてくれるんだ!」
「藤四郎。そなたは黙れ。」
吉明は丸くなったが、藤四郎は明らかに以前に増して口が悪くなり、徳へ嫌悪感むき出しにしている。
「あぁそうだ。噂の話であったな。実に愉快な話ぞ――。」
吉明が再びにやりと笑い、徳へ視線を向けた。
「あれ?佐助さん?」
「鈴…。」
徳と別れた後、一方の佐助は真田陣屋の中に入れずにいた。自身の主人に何と伝えればいいのか悩むも、いい案が思い浮かばなかったのだ。
「今日はもうお帰りですか?」
「あー、うん…。朝一城に行ってからすぐに帰ってきたよ。鈴も早いね。」
「はい。今日は午後から非番になったので、徳姫様に会いに行こうかなと思って…。」
「あー…、姫さん今いないよ。城下町に行くって言ってた。」
「え!?お一人でですか!?徳姫様がお一人で城下へ出られるなんてっ、なんでそのまま見送ったのですか!不埒な者らが群がってしまいます!…私、探してきますっ!」
「ちょ、ちょっと待って鈴!」
厘が一緒についているためそういう心配はない。むしろ先ほどの話を聞く限り、鈴と徳が一緒にいる方があらぬ噂が立ってしまいそうだし、徳は噂の詳細を知りたく出ていったのだ。鈴が傍に居ると徳の作業の邪魔にしかならないだろう。
「大丈夫!陣屋の管理者と一緒だから!」
それに、佐助も止めたのだ。自分が情報収集はすると。しかし、如何せん徳だ。出来ることは自分でしたい。
佐助も噂について調べに行きたいが、まずは自身の主への報告が先だ。だが、なんと報告すればよいのやら…。
「なんだ…、良かった…。一人で出ちゃったのかと心配しちゃいました…。」
「…鈴は姫さんのこと好きだね。」
「はい!とても優しくって、お美しくって、同じ人間とは思えないぐらい素敵な方です!」
「…そうだね…。」
(やっぱり、女の子同士の話には口出しできないしなぁ…)
徳のことが本当に好きだと伺える笑顔で話す鈴に、しばらくは徳と鈴を見守るしかないと思う佐助だった。
「よし!鈴、良いところに来た!主様の機嫌をとってちょうだい!」
「へっ!?幸村さん?」
「そうそう。入った入った。」
佐助は気を入れ直して鈴の背を押し、しばらく入れなかった真田陣屋の中へ入っていった。




