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11話 協力

「姫さーん。元気にしてた?…あれ?鈴?」

「…なんだ、鈴はまだいたのか。」



 夕暮れ時、空に星がちらほら見え始めた頃、佐助と信繁が大谷陣屋へやってきた。


「幸村さん!佐助さん!お二人もどうしてこちらへ?」

「今日からあそこの陣屋で過ごすことにした。そのついでに寄ってみただけだ。」

「…そうなんですね…。」

 何を思ったのか鈴が少ししゅんとした様子を見せたため、徳は焦った。


「鈴ちゃん!そろそろ帰らなきゃいけない時間だよね?信繁様に送ってもらったら?」

「え!?そ、そんな、幸村さんもお仕事終わりで疲れてるでしょうし!」

 徳の提案に頬を赤らめてあわあわとする鈴。鈴の先ほどの話によると、まだ鈴は信繁に気持ちを伝えていないらしい。信繁自身が鈴のことを幼馴染としてしか認識していないため、気持ちを伝えるタイミングを見計らっているとのことだったが、徳からしたら信繁が鈴を特別視しているのは明らかなのだから、早く告ってしまえばいいのにと思ってしまう。



「…別に、俺は構わないが…。」

「いやいや、ここは俺に指示してよ主様。何のために俺がいるのさ。」

 それもそうだ。従者を差し置いて、主が人を送り届けるということは普通はおかしい。しかし、ここは信繁にお願いしたい。徳は佐助の腕を引き寄せた。


「佐助さん!ちょーーーどっ!千代のことで佐助さんに話したいことがあるんです!」

「へ?」

「は?」

 主従二人が同じタイミングで疑問符を発した。


「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってね、姫さん!千代のことはちゃんと聞くから、腕は放してっ!」

 佐助が何やら顔を青ざめて焦りながら徳の手を放そうとするが、徳は佐助の腕をしっかり掴んで放さない。

「なので!少しだけ佐助さん借ります!信繁様!鈴ちゃんをお願いしても良いですか!?」

「……。」

 勝手に従者を奪い見送りを指示したためか、信繁の表情が少し怖いが、徳は構わず続ける。


「さぁ!佐助さん!どうぞこちらへ!」

「いや!お願い姫さん!放してっ!」

 バタバタと焦っている佐助を無視して、徳は屋敷内へ佐助を引きずり込む。仕事帰りの信繁に申し訳ないと思いつつも、鈴へ協力すると言ったばかりだ。初めが肝心である。



「と、徳姫様、佐助さんへのお話って何でしょうね…?」

「…。」

「…幸村さん?」

「…いや…、行くか。」

「はい…。」

 残された二人は気まずい空気があったが、信繁は鈴を促した。


 道中鈴は信繁を盗み見る。暮れの薄暗い景色の中で見る彼は一際綺麗だ。男に対して綺麗というのもなんだが、その文字がしっくりくる。サラサラな栗色の髪を風になびかせ、長いまつ毛に覆われた瞳はまっすぐ前を向いている。ただ歩いているだけなのに、何をしていても絵になる彼からやっと視線を外し、鈴は今日一日の出来事を信繁に話しだした。ドキドキと高鳴る胸を悟られないように話をするが、表情には出てしまう。一層鈴の笑顔は輝いていた。






「ふぅ。行ったかな…?」

「いや、マジでやめてよ姫さん。おれまだ死にたくないし…。」

「へ?」


 信繁らが敷地から出たのを確認し、徳は一仕事を終えたように息を吐いた。勝手に引きずり込まれた佐助は疲れた様子で徳を見つめる。

「…姫さん、何考えてんの?仮にもあんた主様の婚約者でしょ?…良い訳?旦那になる人がほかの女の子と二人っきりで。」

 確かに佐助の指摘はもっともだ。しかし、どう説明すればいいのか分からない。自分が悪役令嬢にならないように動いているなど伝えても、佐助からしたら意味の分からないことだろう。


「はぁ…。鈴と何を話したのか分かんないけど、主様の妻になるのは姫さんなんだから…。」

「…っ…。」

「それとも何?主様との婚約は姫さん的には不本意ってこと?」

「いや、そうじゃなくって…。」

 佐助の話し方からして、佐助は鈴の気持ちを知っている。その気持ちを応援したいと言ってしまえば信繁との婚約が嫌だと言っているようなものだ。しかし、信繁との婚約は大谷にとっても越前にとっても、この上ない話なのだ。


「…信繁様だって、鈴ちゃんのことが…。」

「…ん?」

「いえ、なんでもないです…。」

「…はぁ。(面倒なことになったなぁ…。)」

 佐助は徳の様子を見て、ため息を吐きながら後ろ頭を掻いた。











◇◇◇◇◇


「送ってくださってありがとうございます。」

「いや、別に構わないが、次からは遅くなる前に帰れ。」

「はい…。」

 信繁に注意され、鈴は嬉しそうな表情から一転、しょんぼりとする。しかし、別れ際に暗い表情ではいけない。鈴は気持ちを入れ替えて信繁に話しかける。

「明日も徳姫様のもとへ行かれるのですか?」

「…あぁ。多分な。屋敷も近いし、顔を出してから城へ向かう。」

「では!私も朝向かいます!」

「別に、合わせなくてもいいんだぞ?」

「いえ、私も徳姫様が心配なので…。」

「そうか。…昨日出会ったばかりなのに、随分と大谷の姫に懐いているな。…まぁ、彼女は人を惹きつける何かがあるしな…。」

 信繁は徳のことを思い出し、優しく微笑みながら言葉をこぼした。

「…そう、ですね…。あの、信繁様は…。」

「…?」

「いえ、やっぱり何でもないです…。」

「…?…寒いからもう入れ。身体が冷えてしまうぞ。」

「…はい。…では、また明日。」

「あぁ。」



 信繁にせかされ、宿舎の中に入った鈴は、玄関から動けずにいた。先ほどの信繁を思い出す。信繁が徳を思い出して笑う笑顔は、いつも以上に柔らかく、いつも以上に綺麗だった。


「…信繁様は…、徳姫様のことが…。」


 鈴は一人、静かに呟いた。








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