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澄清の翼  作者: 幸桜
第1章 サバイバル
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仮説

 

 ──── 〝予測〟────


  空に於いてこの技能が特に威力を発揮するのが見越し射撃である。

  見越し射撃とは、射撃の時点で未来の敵機の動き方、自機の動き、気象条件を基に、敵の予測未来位置に向けて射撃する方法である。


  実際、この技能に頼り過ぎていたため、分析する暇がない格闘戦での射撃の腕が最底辺。

  分析する暇がある遠距離射撃の腕は一級品。という何ともアンバランス技術向上をしてしまったのは、今日の彼の課題点である。



  何にせよ、この技能を応用すれば、洞窟内での位置情報取得は最初のみで事足りる。

  それでも確認のために一応の情報取得は行う事はあるが、その回数は少ない。



  更に進軍は続いている。


  隼人が通る道は、山の中心付近まで届き、一旦はメインの坑道に繋がっていた。

  しかし、敢えてそちら側にいかずとも壁一枚を隔てた脇道として、隼人が歩いてきた横道は続いている。


  坑道は山の中央から、大きく螺旋状に緩い上り坂を形成していた。

  地図によると、この坑道は最上階のフロアまでの進軍を可能としているようである。


  脇道への移行の際、隙間から小さな線路が見えた。

  おそらく、採掘した鉄を運ぶ為のものなのだろう。


  線路の表面が天井の電球に照らされ、鈍く光っている。

  脇道より少し高い天井。弱い電球の光は闇に慣れた隼人の目を強く刺している。



  ……なんだ?



  その光景に何故か本能的な違和感を感じる。

 

  自然と人工物の不釣り合いさからであろうか。

  一度答えを出すとそうであるような気はする。


  再度その光景を覗くが、不審な物は見つからない。



  あまり、留まるのも得策ではないか。



  分からない違和感に後ろ髪を引かれる思いであるが、侵入者の身である以上、誰にも見つかるわけにはいかない。


  一旦の妥協案に縋り、今のところは坑道からの視界範囲を離脱する。


  脇道への扉は岩の影でベニヤ板で隠されている。

  板の表は年季の入った見た目であるが、裏は新品同様の綺麗さがあった。

  おそらく、訓練用の〝小物〟の一つなのであろう。


  小さな所での手抜きに、教官たちの多忙さが垣間見える。



  教官の人情────発見の容易化のため?────を感じつつ、もう一押しの偵察を決定し、足を踏み出す。


 

 脇道の壁は薄く、ところどころで坑道からの光が漏れている。


  脇道にも照明があるのかもしれないが、残念ながらそのスイッチは見つかっていない。

  頭より1メートルほど上方の天井には、ガラス製の電球が埃を被っている。



  まぁ、そもそも電気など付けようものなら侵入した事がバレてしまう為、関係ないことではあるが……



  ここで警戒度を上げる。

  いや、正確には一極集中型の警戒を、拡散型の警戒に変えた。と、言うのが正しいかもしれない。

  坑道からの光によって既に視界は確保されていた。

  周辺への集中を弱める事で、より広範囲への意識集中が可能になっている。



  ふと、大きな風の流れを感じた。

  隙間風の程度ではない。もっと量が多く、明らかに勢いがある。


  地図に記されているのは螺旋状の道のみ。

  そこに、今感じているものがあるようには思われない。



  ────北の方角


  その方角に風を感じる。そこに間違いはない。隼人の位置情報は未だ機能を保っている。


  一応、初期装備の地図には山の北側は崖と記されている。


  しかし、初期の降下の際、山の影に隠れ、それを実際に目にしたわけではない。



  確認のしがいがありそうだ……。



  冷静な偵察兵の顔が、数瞬にして無邪気な少年のものへと変わる。


  隼人の足が早まる。

  軽やかな足取りは第三者から見るとスキップをしているようである。

  しかし、その実、彼が足をつけた地面は全て平らな部分である。


  一歩一歩ごとに足場を選んでいるのだ。


  地面からの跳ね返りを最大限に受け取るスキップは、多少の岩肌など加速の妨げにはならない。


  どれくらい続いたか、その終わりは突然である。

  彼の動きが止まった、彼の前にあるのは一つの鉄製の扉。

  明らかに後付けされたであろうそれには鍵がかかっている。


  隼人はそこに至るまでに複数の分かれ道を通過していた。

  風の流れが循環しているため、他の分かれ道を進んでいたら、何度も同じ場所でさ迷うこととなったであろう。


  その為、普通の人間なら、その過程でその通路を意味の無い、ただ時間を使わせるだけの演出と考える。


  この通路の設計者にとって隼人のような技術をもった生徒が来ることは想定外だったのであろう。

  いくら、〝予測〟に比べたら取得者が多いと言っても、前提条件の『暗闇や洞窟等の空間に慣れている』は現代の学生にとっては厳しい所があるだろう。


  ドアには鍵以外のロックは行われていない。



 つまり、「破壊可能だ」。少年の顔がさらに無邪気に笑う。



  顔つきを変えても彼の思考は冷静である。彼は一つの仮説をたてていた。


  その証明には扉の向こう側を見るのが一番早い。


  数歩扉から離れ、意識を右足に集中させる。

  少しずつ、身体を小さくしていくイメージで、力を凝縮させていく。


  ────フッ


  短い息遣い、それと物質が風を切る音。それに次いで盛大な破壊音が鳴り響く。



  最初に感じたのは光。

  次に眼下に広がる緑。ここは山の中腹あたりであるはずである。

  真下へと続いているのは崖。


  そしてその麓。そこにあるもの、それが隼人の仮説を証明していた。


  いや、正確にはそれは更なる情報を隼人へともたらした。




 そこにあるのは────────

 

 

 

 




 

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