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澄清の翼  作者: 幸桜
第1章 サバイバル
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隼人の技術

  5日目 昼過ぎ

 マップの最北にそびえる山、その東側にある小さな村に人影があった。


  彼の手に握られているのは、一枚の紙。土で茶色に汚れ、あちこちに虫食いが見られるそれは、その古さを強調している。



  3日目の夕刻、光の中に姿を消した戦士。

  彼は再度、表への進出を果たしていた。

  しかし、その戦いに無傷という訳にはいかず、腹、背中には傷を受けていた。


  二箇所の重りは、判定がかすり傷程度だったためか、それ程重いものではない。

  それでも、身体のバランスを崩すのには十分な重さであり、敵側からして見れば〝一矢報いた〟と言ったところであろう。



  第二十小隊の初期スタート地点でもあるこの場所。

  人影────隼人が紙を見つけたのは、村で一番大きな家の地下部屋であった。


  隼人がその部屋に辿り着いた(というより、地下への扉が開けっ放しだったリビングを見つけた)時には、部屋の中央に空の大きな木箱が置いてあった。


  その大きさは丁度大きめの銃が一つ入る程度であり、また、似たようなものを最近見た経験から中身の予想はできた。


  部屋は暗く、灯となるものは無かったが、幼い頃から山を駆け抜け、なんちゃって傭兵をしてきた隼人の目は夜目に強い。


  数分も経てば、目は部屋を散策するのに支障はない程に慣れた。


  〝先客〟は木箱を見つけるので精一杯だったのか、それともそもそも部屋を散策する必要さえ感じなかったのか。

  いずれにせよ、部屋に目立つ荒らされた形跡はなかった。


  書斎として使われていたであろうこの部屋に家具は少なく、机と椅子がワンセット、それに本が数冊入った本棚が一つあるだけであった。


  紙があったのは机の引き出しの中。隠した側からして見れば箱の中身と同じく回収される狙いがあったのであろう。


  それが実際は別々の人の手に渡るのだから面白い。


  訓練と言えど、教官たちの〝シナリオ〟と〝現実〟の違いからは、過去の〝大戦〟と同じく、その不完全さを教えてくれる。



  村から見た山はさながら崖の様相を呈している。

  そこから頂上までは登頂までの最短ルートであるのだが、垂直の道はそれを選ぶのを許さない。


  しかし、その分かりやすい道は、本命の道を巧妙に隠していた。


「このあたりか……?」


  長い間続いた地図との経て、隼人は壁の一箇所へと辿り着く。


  村に近い事もあってか、山の東側は比較的木が多いようである。


  それらの木に隠れるようにして人が1人入れる程の穴は空いていた。


  【鉱山 横道】


  穴の入口付近、木の根と草に隠されるようにして、古びた木の板が転がっている。


  数十年は経っているであろう、その元立て札は、地図、そして地下室で得た情報に確信をもたらした。


  廃墟化した村、近くにそびえる山、更にそこには拠点として機能出来るだけの〝何か〟がある。

  仮説は立てていた。


「では、探索と行きますか」


  誰に伝えるわけでもない。敢えて言うなら、自分に言い聞かせるように呟く。


  俺が侵入する通路は、メインとなる坑道とは違う。

  おそらく、この鉱山には、似たような横道が複数作られているのであろう。

 

  俺の持つ地図に記されている横道は一つ。

  〝ゲーム的要素〟の観点で見てみるのであれば、地図一つにつき、一つの横道が記されていると見れる。


  山の頂上付近には、広い空間があり、そのすぐ上────地上に家の表記がある事から、そこが敵の拠点だと予測するとして……。



  思考はこれまでだ。確定情報として、敵の拠点が山である事に間違いはない。


  今回は偵察だと割り切ってしまえば、その分リスクは半減する。

  敵を前に血の滾りを抑えられるかは微妙である。しかし、後に控える確実な舞台を思えば、この余興も楽しめるというものである。



  舞台────それには、役者が必要である。


  頭に浮かぶ彼女たち、そして親友。


  彼女たちとの合流はまだ早い。一度離れた以上、手ぶらで戻るのは隼人の漢が許さなかった。



  足を踏み入れた。深い闇を見て、今更ながらに灯を欲しくなる。



  仕方ない……



  幸いにも、足の裏は硬い感触を脳に伝えている。

  それに、放置されていても元々は普通の通路である。ある程度の舗装はされていると思えばより気は楽になる。




  ────歩くこと15分


  入口からの光は遠に消え、近くに光源は一つもない。

  しかし、隼人の眼はある程度、通路の作りを把握していた。


  足の裏に構える硬い感触、掌を撫でる横の岩肌、主に後方と前方からやって来る風。

  人は存在するだけで、常に情報を受信している。


  それらに既に暗記した地図を照らし合わせる。


  ある程度、暗闇や洞窟等の空間に慣れているものなら、必ずと言って良い程に取得している技能である。



  隼人と零達の庭であった森は闇夜の経験場として十二分な成果を発揮していた。

  まぁ実際、この暗闇の技能が夜の森への侵入を禁止する教えを破り、度々の違反行為により培われたものであるのはご愛嬌である。


  ……隼人としては、その教えさえも悪ガキ共を自主訓練させるじいちゃんの策と睨んでもいるのだが、それを認めるのも癪なので、その考えは自分の中だけに留めている。


 

  しかし、その技能と併用している技能は、おいそれと取得している者がいる技能ではない。


  隼人が動く度、その位置情報は更新されている。

  ここで、前者の技能のみを取得している場合、一定時間経過ごと、もしくは地形の変化(曲がり角など)ごとに再度位置情報を割り出さなければならない。


  しかし、隼人にはその必要がなかった。



  彼が〝澄清の翼〟の資格を持つ理由────彼は〝予測〟する能力に長けていた。

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