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泣いた理由? 俺が美しかったからだ  作者: 塚上


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第十九話 二人だけの世界?

「おはよう阿井さん」


「お、おはよう月城さん」


 まだ多少の固さはあるが、敬語はなくなり挨拶や世間話くらいなら慣れてきた阿井。二人が朝会話する姿はA組では日常的な風景になりつつあった。


 教室の前の方で本を読む内気な女子が阿井のイメージだった。最近はクラスの人気者と接点のある文学少女といったイメージになりつつあるらしい。……ついでに変人優等生の連絡窓口でもある。


 月城の第一目標は阿井や藍川と仲良くなることだが、二人の立ち位置も最近気になっている。幸いにも孤立しているわけではないが、クラスの輪の外側にいるのも事実だった。


「文芸部の活動は順調?」


「うん。楽しいよ」


 好きな作品について語り合ったり互いの小説を読んで感想を言い合う。友達同士ならそれで終わるが、執筆活動を始めた阿井からすれば、全てが参考になるとのことだ。部に行く度に発見があり面白いらしい。


「そういえば」


「?」


「阿井さん、連絡先交換しない?」


「……」


 さっきまで普通に会話していたのに、急にフリーズする阿井。変なことを言ったつもりはないが。


「どうかした?」


「わ、私と連絡先交換?」


「? そうだけど」


「て、天下の月城さんと⁉︎」


「だからそれやめて!」


 同じ高校生だと何度も言っているが、中々認識を改めてもらえない。……心の距離を縮めるのは難しい。


「クラスメイトと連絡先交換なんて普通だよ」


「都市伝説かと思ってた」


「現実だから」


 一体どんな世界で生きてきたら連絡先交換が都市伝説になるのか。


「私以外にも登録してあるよね? それと同じだよ」


「お父さんとお母さん、おじいちゃんとおばあちゃんくらいかな」


「……そっか、高校生になってスマホデビューならこれからじゃないかな?」


 咄嗟にフォローする月城。今のは良かった。口には出せないが阿井の性格なら仕方ないかもしれない。


「? 中学から持ってたよ? 友だちがいなかっただけで」


「重い重い」


 首を傾げる阿井は不思議そうにしている。何で本人に自覚がないのか。寧ろ月城の方がおかしいのか。


(あれ? 家族や身内だけ?)


 相方がいるだろうと口に出そうとした時、一人の男子生徒が現れる。別の世界から出てきたかのようなキラキラオーラを纏っている。


「おはよう、阿井紬。それから…………」


「まだ覚えてないのッ⁉︎」


 藍川はどうやら今日も絶好調らしい。こんな扱い月城には経験がなかった。


「藍川君。月城さんだよ」


「そうか。まだホームルームまでは時間がある。ゆっくりしていくといい」


「違うクラス前提で会話が進んでるよ……」


 いつになったら認識してくれるのか。せめてクラスメイトだとは思ってほしい。


「藍川君。一応同じクラスの月城彩乃です。よろしくね」


「そうだったのか。阿井紬の別クラスの友人だと思っていた」


「そ、そんな……月城さんが私なんかの友達だなんて恐れ多いよ」


「……この会話、ツッコミ役が私しかいないんだけど」


 コミュニケーションには自信があったが、二人独特の世界を前に押され気味である。……でもここで狼狽えないのが月城である。仲良くなる為にも二人をもっと知らなければならない。


「話を戻すけど、阿井さん連絡先交換しようよ。良かったら藍川君もどうかな?」


「悪いが見ず知らずの人間に個人情報は渡さない主義だ」


「だから藍川君、月城さんはクラスメイト。見ず知らずじゃないでしょ」


(ガードが堅い……)


 普通逆なんじゃないかと思うが、月城を置いてけぼりにして会話する阿井と藍川。


「月城さんだよ? 地元で有名な美少女なんだよ? お願いしても普通もらえないんだよ」


「有名だと? 俺は知らないな」


「藍川君はもっと周囲に関心を持つべきだと思う」


「俺は常に俺に関心を持っている」


「哲学かな?」


 ……不味い。現状は月城が空気のような扱いになっている。人気者の月城が二人を前にすると脇役みたいだ。


「噂ではファンクラブもあるらしいよ。こんな美少女なんだから当然だよね」


「……ないからファンクラブ。実は阿井さんディスってない?」


 美少女を連呼されても嬉しくない。というかネタにされているように感じるのは気のせいか。

 

 ふと視線を感じる。とてつもないイケメン——藍川が月城を凝視していた。普段見られることはよくあるが、ここまでは中々なく変に緊張してしまう。


(ちょっと……これは恥ずかしいよ。新手の拷問?)


「ふむ。一定レベルの容姿であることは認めよう——だが俺の方が美しい」


(上げて落とされた⁉︎)


 もう知っている。藍川という人物はお世辞を言ったりはしない。努力を重ねた月城だが藍川には敵わないと理解している……だから話題を無理矢理変えた。


「難しいこと言ってないで、連絡先交換するよ」


 あたふたする阿井からスマホを拝借してメッセージアプリの友達登録をする。勢いに任せて藍川とも友達になる。そのまま三人のグループチャット(仮)を作成してしまう。……完璧な立ち回りである。


「ほへぇ、月城さんの連絡先が……これは藍川君?」


「そうだ。美しいだろう」


 追加された友達とグループチャットを見て阿井がおばあちゃんのような反応をする。……ん? まるで藍川のアイコンを初めて見たかのような言い回しに疑問を抱く。


「二人はアプリでも会話してるんじゃないの?」


「ううん、連絡先知らないし」


「知らないな」


「……ここにきて衝撃の事実」


 普段の様子から連絡を取り合っているものだと勘違いしていた。


「だって必要なかったし……」


「同じクラスだからな」


「なるほど」


 月城は頷く。そして少しだけ意地悪く笑った。


「てっきり二人だけの世界を楽しんでるのかと思ってた」


「⁉︎⁉︎⁉︎」


「た、楽しんでないよ!」


「そうだったのか?」


「何が⁉︎ 藍川君は黙ってて!」


 阿井は分かりやすいくらい動揺している。これは先程までの意趣返しである。


「この様子だとグループチャットも知らないのかな?」


「何だそれは?」


「私知ってるよ。クラスのみんなが招待されるグループがあるんだよね? 中学の時もみんな楽しそうだったな」


「終わってるなこの二人」


 藍川は相変わらず我が道を行くスタイルで阿井は悲しすぎる。


(……二人の社交性を高めよう。これは私にしかできないよ)


 方針は確定した。先ずは二人と仲良くなりたい。これは打算的な理由ではなく月城がそうしたいと思ったから。その一方で周囲との交流を図ってほしい。せっかくの高校生活。話す相手が一人だけというのも悲しいだろう……いや、阿井と藍川はそれでもいい?


「ふふ、連絡先ありがとね。じゃあそろそろホームルーム始まるから」


「ああ、気をつけて帰るといい」


「席に戻るだけだから!」


 まだ認めてくれない、というよりは認識してくれないという方が正しいか。阿井はスマホを眺めてうっとりとしている。……早く更生させないと。


 鈴木先生が教室へ入ってくる。


 スマホの画面には新しく増えた二人の名前。それを見て月城は小さく笑った。


(うん。今日は少し前進できたかも)


 そんなことを思いながらホームルームの準備を始めた。

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