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異世界帰りの元勇者な従妹と同居することになりました ー世間を知らない彼女をお世話しますー  作者: すなぎも


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12/21

第12話 賑やかな友人

 職員室前で明日香と別れ、俺はそのまま教室へ向かう。まだ朝の校舎は静かだ。普段より早い時間だからか、廊下を歩く生徒も少ない。


 教室にはもう数人の生徒が来ていた。朝練終わりらしい男子が机に突っ伏していて小休憩をとり、女子の何人かは教室の真ん中あたりで話している。


 俺の席は窓際の一番後ろだ。


 鞄を机の横にかけて、椅子に座る。窓の外を見ると、校門の方から少しずつ生徒が増え始めていた。


 あの人数の中を俺と明日香が歩いていたら、絶対に面倒なことになってただろうな。よかった、ぎりぎり早く家を出れて。


「あっ、西条来た」


 教室の真ん中から、聞き慣れた声がした。


 そちらへ視線を向けると、女子二人と話していた相沢玲奈と目が合う。


 金髪のロングヘアー。毛先までまっすぐ落ちるストレートで、朝の光を受けるとさらりと光る。制服は少しだけ着崩していて、ブレザーの前は開けたまま。赤いリボンも緩い。


「ごめん、席戻るね」


 相沢は友達との会話を切り上げ、自分の席へ戻ってきた。


 相沢の席は俺の一つ前。椅子に座るなり、背もたれに腕を乗せて、こちらを振り返る。


「おっす~」


「うっす」


「で、早速なんだけど……。見た?」


「何をだよ」


「なにって。『異世界から帰還した従妹の元勇者は美味しそうに俺のご飯を食べる』の最新話」


「なっ、なんだそのタイトル」


「なんだそのタイトルって、むしろなに? どしたん、急に。いつも話してるじゃん。アニメの話し」


 相沢が疑うように俺の顔を覗き込んでくる。


 いかん、あまりにもアニメのタイトルが明日香の境遇と被ってるせいで、思わずいらない誤魔化しをしてしまった。


 週明けは相沢と週末に見たアニメの感想をだらだら言い合う。そんな当たり前の日常を、いきなり俺がとぼけだしたらそれは変な感じにもなる。


 っていうかなんだそのアニメタイトル。まんま明日香過ぎるだろ。タイミングが悪すぎる。


「どしたん西条、体調でも悪いん? それとも誰かに見られてたから誤魔化してくれたとか?」


 相沢は教室を見渡す。


 相沢は自分がオタクだということを内緒にしている。俺もたまたま知ってしまっただけで、『なんで相沢みたいな女子がオタクに?』と初めは戸惑った。


 今ではこうして教室の隅でこそこそアニメの話しをしているが、周りに広めるつもりはないらしい。


 そのお陰で誤魔化せそうだけど。


「ちょっと視線を感じたからな。一応、誤魔化しておいた」


「そっか。ならありがと」


 言いながら、今なら大丈夫でしょ、と確認をとり。


「で、見たの?」


「今週は忙しくて見れなかった。悪い」


 普段通りに言ったつもりだったが。


「忙しい、ねぇ……」


 相沢がねっとりとした視線をこちらに向けて来る。


 なにか感じ取られたか、もともと思うところがあったのか。どちらにしろ、絶対になにかある時の顔だ。


「俺にだって週末が忙しい時もある」


「そうだけど。その忙しかった理由ってさ」


 相沢はにやりと笑う。


「銀髪の美少女と関係してるの?」


 ……初めからその話がしたかった。と言わんばかりのニヤ付き方だ。


 にしても早い。もう明日香の噂が広まってるのか。こういうのが嫌だから、早い時間に登校したのに。明日香が寝坊さえしなければ。なんて言ってもしかたな。


「朝練組が見たってさ。西条がめちゃくちゃ綺麗な見知らぬ女子と一緒に登校してたって」


「まあ。それは事実だ」


「マジなんだ。女っ気のない西条が美少女と登校なんて……。そりゃ週末も忙しくなるか。あたしみたいにアニメ見てる暇なんてないか~」


 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら俺の机に身体を乗せて来る相沢に。


「それとこれとは話は別だ」


「あっ、そうなの? そんな感じ? へぇー」


 否定はしておいたが、全く信じてない返事である。


「それで、なに? 彼女? 彼女ができたん?」


「なんで彼女をいきなり学校に連れて来るんだよ。おかしいだろ」


「それはあれでしょ? 芸能人が収録に彼女を連れて来る的なあれ」


「俺は芸能人じゃないし、学校を収録だとも思ってない」


 相沢は俺をなんだと思ってるんだ。


『可愛い彼女を自慢しに学校まで連れてっちゃおー!』


 なんてすると思ってるか。そんなことしたら普通に停学になるわ。 


「じゃあなに? なんで西条が美少女を?」


「逆になんだと思う?」


 問い返すと、相沢は大きく瞬きをした後、嬉しそうに口元を緩めた。


「なるほど……。そうきますか、西条伊吹」


「ちょっとアニメ口調っぽくなるの止めろ」


 相沢は嬉しそうに笑った後、顎に手を当て探偵の様に喋り出す。


「まず前提として、西条は顔が広くない。休み時間は自分から騒ぎに行かないし、放課後も用事がなければすっと帰る。かといって陰キャ全開ってわけでもなくて、話しかければ普通に返すし、グループ作りでも余ったりしない。意外なんだけど」


「なんの説明だよ。あと意外とは余計だ」


「ボーっとしてる様に見えて、困ってる子がいたら声かけてるし、かと言ってそこまで踏み込まない。料理部にちゃっかり入ってたりするところを合わせてみると、意外とママみがあるとあたしの中で囁かれていたり、いなかったり」


「囁かれてるわけねえだろ。俺にママみなんてものはない。料理部も幽霊部員でほとんど行ってないしな」


「以上を踏まえて、西条が朝から綺麗な女子と登校していたという事実。彼女ではないと即答したこと。これはつまり、転入してきた幼馴染みの初登校に付き合った、突然わいて出た記憶喪失の少女を保護した、異世界から来た勇者に助けを求められた、お忍びで月からやってきたホームステイお姫様の面倒を見ることになった。このあたりが妥当だと、名探偵相沢玲奈は考えます」


 ない眼鏡をクイクイと動かして、得意げに胸を張る相沢。


「後半の方いるか? 絶対にありえないだろ」


 まさか異世界から来た勇者をピンポイントに当てて来るとは。いくら相沢がアニメ脳だとしても、末恐ろしい奴である。


 念のため否定を入れると。


「はぁー……。西条は頭が固いね。だからモテないんだよ」


 なぜかディスられた。


「余計なお世話だ。どっから異世界と月が出て来た。考察と関係ねえじゃねえか」


「だって昨日のアニメも異世界から勇者帰還しました系だったし、流れが来てんじゃん。むしろ一番熱くね? 余波ヤバいんだけど」


「お前の思考が一番ヤバい」


 俺の返事に、相沢は溜息を吐いてから。


「まあ現実的に考えるなら幼馴染みの転入っしょ。西条の性格的に、よく知らない女子をナンパして登校するとは思えないし。親から頼まれて面倒見てただけ。そんな感じでどう?」


 相沢は勝ち誇ったように俺を見る。


 本命は外れ。ただ、妄言に近い予想が当たってる。


 なんて言ったら、さすがの相沢も驚くだろうな。


「探偵ごっこは終わったか?」


「正解かどうか教えてよ」


「すぐにわかる」


 予鈴が鳴った。ホームルーム前のチャイムだ。


 教室にいた生徒たちが席へ戻っていく。相沢も前を向くかと思ったが、まだこちらを見続けていた。


「前向け。答え合わせの時間だ、迷探偵相沢玲奈」


「はいはい。……西条が教えてくれてもよかったのに」


 少し拗ねた声を出しながら前を向く相沢。その直後、担任が教室に入ってきた。


「おはよう。はい、静かに、静かに」


 担任の声に、教室が静かになる。


 ただ、今日はいつもより少し空気が違った。早く来ていた生徒はすでに明日香の存在に感づいている。ちらちらと教室の扉の方を見ているやつが何人かいるようだ。


 担任は出席簿を教卓に置き、いつも通りの表情で口を開いた。


「今日はホームルームの前に、みんなに紹介する人がいる」


 教室がざわついた。


 相沢が俺の方へ少しだけ顔を向けて、小声で言った。


「西条」


「なんだよ」


「予想、あたってたらご飯おごってよ」


「どの予想だよ」


「異世界から来た勇者に助けを求められた」


 笑みはない。真剣な目つきでこちらを睨む相沢。


 心臓が跳ねたが、顔には出さない。俺はわざとらしく鼻を鳴らして笑う。


「理由は?」


「銀髪美少女ったらやっぱ異世界っしょ!」


「黙って前向け。オタクがバレるぞ」


「いたっ」


 椅子を蹴って前を向かせる。


 まったく……。この野郎、朝から心臓に悪いんだよ。賭けなら手堅く、転入してきた幼馴染みって予想しろよ。アニメ脳なんだか勘が鋭いのか。勘弁しろ。


「はいはい。静かに」


 担任が教室の扉へ視線を向ける。


「じゃあ、入ってきて」


 扉が開いた。


 その瞬間、教室の空気が止まった。


 白いシャツに、きちんと整えられたネクタイ。紺色のブレザー。皺ひとつないスカートと、膝上までの黒いニーソックス。銀色の長い髪は朝に直した寝癖もなく、風に靡いて後ろに流れる。


 背筋を伸ばし、落ち着いた足取りで教卓の横まで歩いていく。その立ち姿は、普通の編入生というより、どこかの式典に出る代表みたいに凛としていた。


 明日香の視線が教室を見渡す。


 そして、窓際の一番後ろにいる俺と目が合う。


 ほんの少しだけ、明日香の目元がやわらぐ。


「……うわ」


 その瞬間、前の席から低い声がした。


「マジもんの美少女じゃん、えっぐ……。ごり押せば西条にご飯奢ってもらえるくない? あの容姿なら異世界って感じするし」


 絶対に認めねえよ、そんなの。そもそも明日香は日本生まれだっての。


 心の中で相沢に突っ込んでいると、担任が黒板の前で明日香の隣に立った。


「今日からこのクラスに入る、神谷明日香だ。みんな仲良くしろよ」


 教室がまた少しざわついた。


 明日香は一歩前に出る。


「神谷明日香です。日本に来る前はヨーロッパの田舎町にいまました。日本語は、読み書きはまだ不慣れですが、会話はギリギリ……。難しい単語を使わなければ出来ます。よろしくお願いします」


 挨拶をして、頭を下げた。


 そんな明日香を見て。


「綺麗……」


「日本語うまくね?」


「そりゃそうだろ。名前はもろ日本人なんだから」


「剣とか似合う顔付してんねえ。コスプレさせたらかなり場えそう」


 一人だけ毛色が違う感想を言いながら、振り返る相沢。


「魔法とか使えそうじゃね? あれだとやっぱ勇者が似合うかも。胸が大きいからシスターも捨てがたいけどね」


「黙って前向いてろ」


 毛色が違うぶん、こいつが一番、厄介な相手になるかも入れないな。

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