第7話:逃げ場なき王都、裏切り者たちの断末魔
王宮広場は、銀色の閃光と漆黒の闇がせめぎ合う、地獄の釜底と化していた。
「ぎ、あああああッ!? 足が、俺の足が……ッ!!」
カイルに足を撃ち抜かれた貴族たちが、石畳の上を這いずり回る。彼らが後生大事に抱えていた金貨の袋は破れ、ぶち撒けられた黄金はカイルが歩くたびに闇の炎で黒く溶けていった。
「……アリス、早く殺せと言っているだろう! 無能め、この役立たずがッ!!」
一人の老貴族が、震える手でアリスの背中を突き飛ばした。
聖剣の過負荷で意識が混濁しているアリスは、その衝撃で無様に膝をつく。その瞬間、彼女の白い項に刻まれた聖剣の紋様が、さらに深く、皮膚を割るように発光した。
「——誰を、役立たずと言った?」
カイルの声が、大気を震わせる重圧となって広場に響いた。
カイルの影が生き物のように伸び、アリスを突き飛ばした貴族の首を、逃げる間もなく締め上げる。
「が、は……ッ!? 放せ、放せええッ!」
「……この女は、君たちのために心を捨てた。君たちのために、人間であることさえ諦めかけている。……それに対して、君たちが報いたのは、罵倒か?」
カイルの瞳に、暗い愉悦の色が混じる。
彼は男をゴミのように、広場に集まっていた避難民(平民)たちの前へ放り出した。
民衆の目には、絶望と、そして自分たちを捨てて逃げようとしていた貴族たちへの、煮えくり返るような憎悪が宿っていた。
「……彼らに、お前たちの『罪』をすべて話してある。さて、素手の人間が何百人集まれば、一人の貴族をバラバラにできるかな?」
「やめろ、やめてくれえええええッ!!!」
男の悲鳴が、民衆の怒号にかき消される。
アリスはその光景を、膝をついたまま、虚ろな瞳で見つめていた。
自分が命を懸けて守ってきた「世界」の正体が、醜い罵倒を吐く貴族と、血に飢えた獣のように彼らを貪る民衆。その境界線が、彼女の中でドロドロに溶けていく。
(……ああ、もう、何も……いらない……)
彼女が思考を放棄し、守るべきものを失ったその瞬間。
主の「心の喪失」を待っていた聖剣エクスカリバーが、歓喜するように脈動した。
「カ……イル……殺して……。私を……止めて……」
一筋の涙がこぼれ落ちたが、それは聖剣から溢れ出した白銀の奔流に焼き切られ、蒸発する。
アリスの背中から、肉を裂き、骨を砕いて、真っ白な光の翼が「強制的に」突き出していく。それはもはや勇者の翼ではなく、主を飲み込んだ「神の触手」だった。
「……間に合わなかったか」
カイルは、眼の前で浮遊する「それ」を見て、苦く毒づいた。
数秒前まで泣き崩れていた少女の姿は、もうない。
膨大な光の質量に呑み込まれ、空っぽの器となったアリスが、機械的な動作で聖剣を振り上げる。
「……これがお前の正体か、クソったれな『神様』よ。——アリスを返せ」
カイルは漆黒の外套を翻し、神の化身と化した幼馴染へと、決死の跳躍を見せた。




