第1話:聖剣が、君を殺す前に
「カイル。……悪いけど、ここでお別れよ」
王都の門前。
かつて一緒に土にまみれて遊んだ幼馴染、アリスは冷たい声でそう言った。
彼女の腰には、選ばれし者しか手にできない『聖剣エクスカリバー』が輝いている。
一方で俺の手にあるのは、村の鍛冶屋で作ったなまくらな剣だけだ。
「アリス、本気か? 魔王軍の領土はここから先だ。俺がいなきゃ、誰が荷物を持って、誰が野営の準備を——」
「そんなの、魔導具があれば済む話だわ。カイル、あなたはもう『勇者パーティ』の足手まといなの」
アリスの背後に立つ聖騎士や魔導師たちが、蔑むような視線を投げてくる。
「おいカイル、聞こえなかったのか? 『無能』は大人しく田舎に帰れってことだよ」
……ああ、そうか。
世界を救う「勇者」になった彼女にとって、ただの幼馴染である俺は、もう守るべき弱者でしかないのだ。
「……わかった。邪魔をして悪かったな」
俺は背を向け、歩き出した。
アリスの、どこか悲しげに揺れた視線には気づかないふりをして。
——だが、俺にはわかっていた。
彼女の背中で脈打つ、あの聖剣の「おぞましさ」が。
俺の固有スキル『鑑定眼・深淵』。
誰もが「神の祝福」と称えるあの聖剣の真の姿を、俺だけは見ていた。
【聖剣エクスカリバー】
特性:精神寄生・神格化
効果:持ち主の感情を燃料として魔力を生成する。最終的に持ち主の自我を消滅させ、神の依代(器)として再構築する。
(……あんなものを使い続ければ、アリスは「人間」じゃなくなる)
彼女は、自分を犠牲にして世界を救おうとしている。
そして王国は、彼女が心を失うことを知っていて、それでも「便利な兵器」として使い潰そうとしている。
俺は王都を離れ、森の奥深くへと向かった。
向かう先は、人類が足を踏み入れてはならないとされる「禁忌の領域」。
「待ってろよ、アリス」
俺は地面に手を突き、ドロリとした漆黒の魔力を呼び起こす。
聖剣に対抗できるのは、この世界にただ一つ。
神に背き、呪われた力として封印された「魔王」の座だけだ。
「光の勇者として君が死ぬくらいなら——俺が魔王になって、君をその呪いから解き放ってやる」
五年後。
世界に「漆黒の魔王」が誕生したという報せが届いた時。
それが、彼女との最後の戦いの幕開けだった。




