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プロローグ:白銀の剣と、漆黒の絶望

雪が降っていた。

 かつて二人で駆け回った、故郷の村に降るような優しい雪ではない。

 世界の終わりを告げる、魔力を帯びた凍てつく白だ。


「……ようやく来たわね、カイル」


玉座の間。

 崩れかけた天井から差し込む月光を浴びて、彼女——アリスは立っていた。


聖剣『エクスカリバー』が放つ眩いまでの光。

 かつて俺が「似合っている」と笑った、あの頃のままの澄んだ瞳。

 けれど、彼女が纏う空気は、幾万の魔族を屠ってきた「人類の守護者」としての冷徹なものだった。


「ああ、来たよ。アリス。君を止めに」


俺は右手の黒剣を構える。

 人々に「魔王」と蔑まれ、忌み嫌われ、それでも手に入れた闇の力。

 すべては、この瞬間のために。


「止めに? 面白いことを言うのね。世界を滅ぼそうとしている『魔王』が、世界を救う『勇者』を止めるなんて」


アリスが小さく笑う。

 その足元には、彼女が守るべきはずだった王国の兵士たちの死体が転がっていた。


世間は知らない。

 聖剣に選ばれた勇者は、魔王を倒すたびにその精神を「神」に侵食され、やがて人間を掃除すべき「不純物」と見なす裁定者に成り果てるということを。


彼女を救う方法は、ただ一つ。

 聖剣の契約主である彼女を、この手で殺すことだけだ。


「カイル、覚えている? 小さい頃、二人で約束したこと」

「……ああ。どちらかが道に迷ったら、全力で殴ってでも連れ戻す、だったな」

「ふふ、そうね。……手加減はしないわよ。今の私は、神の代行者なんだから」


一歩。アリスが踏み込む。

 光の速さで振り下ろされる聖剣。


俺は漆黒の魔力を爆発させ、それを迎え撃った。


キィィィィィン!!


火花が散り、衝撃波が玉座の間を粉砕する。

 視界が白と黒に染まる中で、俺たちは互いの武器をぶつけ合いながら、言葉にならない想いをぶつけ合った。


(ごめんな、アリス)


俺の心臓は、もう半分以上が魔族の核に置き換わっている。

 彼女を殺した後、俺もまた生きてはいられないだろう。


(君を孤独にさせた、俺の弱さを許してくれ)


「さあ、カイル! 私を殺して見せなさい! それとも、あの頃みたいに私に泣かされるつもり!?」


叫ぶアリスの頬を、一筋の涙が伝ったのを俺は見逃さなかった。

 彼女もまた、抗っていた。

 神の意志に、運命に。


交差する刃。

 重なる記憶。

 

 これは、世界で一番幸せだった幼馴染の二人が、世界で一番残酷な結末へと辿り着くための——最後の喧嘩だった。

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