第16話 Clerk(いつもお世話になってます)
これは、ある一人の事務員にしてギルド長にして優秀なエリートにして、ただ一人の女の子の追憶である。
「はい、ではそちらでお願いします。あ、アンニちゃん!その資料はこっち!ああ!すみませんお待たせ致しました。ようこそ、ギルド森林最奥支部『木漏れ日』へ」
新しい場所での仕事は山積みだった。ただでさえ一からギルドを創り上げるだけでも重労働なのに、森林の開拓・整備・実用化の業務とその業者の管理、それらを進めるためにパーティーの呼び込みと任務の効率的な消化。
「…忙殺…」
「死なないでください支部長〜〜!!」
「大丈夫よアンニちゃん……私この仕事が終わったらあの人と幸せになるの……」
「それ死んじゃうやつですよ支部長〜〜!!
ていうか相手いたんですか支部長〜〜!!」
「……いないよ……いないけど……、今の私の恋人は休日だよ!!」
「…切実…しかも疎遠じゃないですか〜〜……」
「すみませーん。ちょっと問題が起きちゃってー」
「あ〜〜…」
「…自然消滅…か……」
同時複数処理の能がなかったらとっくの昔に壊れていたかもしれない。
そんなことに関わらず、出会いというのは、いきなりやってくる。
「すみませーーーん」
「はい只今!……お待たせ致しました!本日はどうされました?」
(……あれ?見たことない顔だ……)
「雇ってくれませんか?オレらのこと」
「………………はい??」
最近はギルドに出入りする人も増えたし、この辺りに住んでいる人だって増えてきた。それなのに誰も見たことも聞いたこともない、いきなり現れてパーティーを名乗るその人たちは、チグハグな面子でとてもまとまりがあるようには思えない。
「……怪しい」
「新しく来た人たちですか〜〜?」
「そう…。だって誰も知らないのよ!?あの人たちのこと!こんな狭いコミュニティでそんなことあり得る!?でも碌に素性も明かさないし……こんな辺鄙な場所に仕事を求めて来るし!!」
「素性も明かせないからこんな辺鄙なとこに来たんじゃないんですか〜〜?」
「そんな鋭い考察求めてないのよアンニちゃん!!」
「理不尽な〜〜……」
「あんな小っちゃい…………小っちゃくて可愛い双子の女の子引き連れてマモノの討伐任務って!!そんな危ないことさせる奴に良い奴なんかいないのよ!!」
「ほんとに小女好きですよね〜〜」ボソッ
「小っちゃくて可愛い女の子は!!人類を挙げて!!守護るべきなのよ!!!!」
「地獄耳〜〜。そんな幼女嗜好人類嫌ですよ〜〜」
「とにかく!何か裏が……特に他人には言えない後ろめたいことがあるなら……!そんな怪しい人たちうちには…………
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……
なんの音?」
ドガッシャァァンッッッ!!!!!
「あ〜〜〜…………。任務達成しました」
「……そうですか。お帰りなさいシリトさん。ところで…… “アレ” ……なんとかしてくださいね」
「……青空ですか?」
「ええ、本来見えるはずのない青空を晒してる建物の上部です」
「……成功報酬でなんとか……」
「足りません」
「じゃあぁぁ………………新しい任務ください」
それから、私の中で彼らの評価が「怪しい人たち」から「変な人たち」に変わるのはあっという間だった。
・とんでもない難易度の任務をなんでもないように受ける
・なのに誰でもできる簡単な任務も見境なく受ける
・その全ての任務を解決している
・その全ての任務でトラブルを起こしている
・なので全ての任務で損害付きの解決をする
変であることの項目は、挙げ出したらキリがない。
今まで何度怒りながらその名を呼んだか……。
「シリトさぁん!!?」
「シリトさん!!」
「シリトさん!?」「シリトさ〜ん…」「シリトさん……!!」「シリトぉぉ!!」
「シリトさん!やっと見つけましたよ!また問題を起こしたんですか!?」
「えぇ〜〜〜……オレじゃないですよアイツらです」
「責任の所在はシリトさんにあるそうですよ」
「押し付けられただけの尻ぬぐいなのに……」
「もう!!シリトさんたちが来てから散々です!!」
…………。
「…嘘です。本当は、シリトさんたちと出会うずぅっと前から…………散々です」
「…珍しいですね。カーラさんが弱音なんて」
「シリトさんたちを見てるとなんだか……上手くいかなかった過去を思い出しちゃうんです。
…………忙しさで誤魔化してた事実を。
さっきはリーダーなんて押し付けられただけ…なんて言ってましたけど、実際、あのパーティーをまとめられるのはシリトさんだけですよ」
「これまた珍しい。褒め言葉を貰えるだなんて」
「本音ですよ。でも……半分不思議なんです。
言っちゃ悪いですけど…………気にしてたらごめんなさい、シリトさんには能がないでしょう?でも、シリトさんの周りには覆せないほど圧倒的な能を持った人たちがいる。
それでもシリトさんは羨んだり妬んだりせず、それどころか頼られる存在になってる。私はそれがなんというか…………信じられないんです。私は自分と実力が違う人たちと上手く付き合えませんでしたから」
「カーラさん……」
「まあ、私は実力がある側でしたけど」
「そういうところじゃないですか?」
(そうは言っても…………エリート故の孤独……ってやつか……。
カーラさんの力量は付き合いの浅い俺でさえ分かる。アンニちゃんは新人でも腕は立つ方だろうけど、カーラさんと比べれば天と地の差だ……。
かけ離れた実力は親近感を奪い崇拝か嫉妬を生む。そのどちらも根っこにあるのは劣等感だから。でも、カーラさんはひたむきに努力するタイプだから、それを心地よいと感じられることはないだろう。
カーラさんと周りとでは、満点が何点かが違うんだ。100点満点の人間の中に1,000点満点の人間がいる。その感覚の違いが生む不和…………)
「カーラさん。解決法をお教えしましょうか」
「……分かるんですか……?」
「『相手の気持ちに立って考えましょう』。
『相手が何を考え何を欲しているかに気を遣いましょう』。
人に…………『人に優しくありましょう』、です」
「…………驚きました。まさかそんな…………そんなありきたりな綺麗事を言うだなんて」
「はははっ!!綺麗事は嫌いですか?」
「嫌い……というよりも、実行不可能ですそんなこと。それはあくまで心の在り様、悪く言えば自己満足の類であって、解決に至らないことが多くあります。
特に私は……相手の気持ちを慮るのは苦手です。そこにリソースを割くのは早々に諦めました」
「ああどおりで」
「はい?」
「いえなんでも。…………でもねカーラさん。
それでも綺麗事は吐かなきゃダメです。そんなことを言える精神でなきゃダメなんです。綺麗なものを目指さないと、綺麗なものにはなれないのだから。
“怒り” “恐れ” “悪意” “狂気” …………人を傷付ける感情というのを、人は数え切れないほど持っています。ましてうちの連中なんか、人類単位で滅ぼせる能力も持ってるときたもんだ。
だからこそ優しくあるんです。だってそうでしょ?人の感情の中で唯一、優しさだけが、人を救える感情なんですから!!」
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あれから私は、どれだけ優しくなれただろう。
頭の一部を、体の一部を、心の一部を、贈るみたいに誰かに遣う。
そんなことで、どんな凡人も誰かを救える存在になれるだなんて、そんな都合のいい世界、あまりにも見たことのない世界だった。
でも…………、あなたたちは見たことない世界を見せるのが得意ですもんね?
ああ、今私が遅れる目一杯の優しさはなんだろう。
とにかくこの気持ちが、溢れる感謝が伝わって欲しいから、目一杯笑おう。笑って言おう。
「お帰りなさい、チーターズの皆さん……!!」
そしたら笑って言うんでしょう?
「「「「「 ただいまです!!!! 」」」」」
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超危険任務発生中|
超危険任務発生|
超危険任務発|
超危険任務|
超危険任務か|
超危険任務かい|
超危険任務かいけ|
超危険任務かいけつ|
超危険任務解決|
以上5名。パーティー名『チーターズ』による、超危険任務『レベルアップ:大森林』の解決をここに報ず。
笛果綺 カーラ
在るべき精神を説く、というのはどこかでやりたかったことです。深く考え込んで間が大きく開いてしまったのは恥じるべきですが、可能な限り “主人公たる所以” のようなものを表現できたらなと思いました。




