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この世界の魔女は空を飛べない  作者: 如月美樹
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 昼前に頼まれていた三人組冒険者がサンドウィッチを受け取りに来た。

「イオリちゃんっ! お腹空いた~」

 その声で依頼人だと確認できて、少し笑えた。

 伊織は慌ててサンドウィッチを鞄から出す。

「え……、もしかしてそれ、マジックバッグ?」

「マジ?」

「イオリちゃん、そんな高価なもの持ってるの? いいなぁ~、俺も欲しい」

 やはりマジックバッグは高価なものらしい。

 伊織的には気軽に自分で作れてしまったので、全然高価には思えないが。

 今までの自分ならここで口が滑って『お作りしましょうか?』なんて言ってしまってたかもしれない。でも今日からは違うのだ。伊織は成長したと、自分の腰に両手を当てて胸を張る。

 しかしタジアムの胡乱な目に見詰まられてしまい、しゅんとしながら手を下ろす。

「さて、どこで食べるかな」

「もうギルドの食堂も開いてるんじゃないか?」

「カリーヌは受け取りに来た?」

 冒険者の一人が尋ねてきたので、伊織は首を横に振る。

「まだです。忙しいのかも」

 彼らと一緒にカリーヌもサンドウィッチを頼んだ。忙しいのなら届けに行った方がいいかもしれない。

 マジックバッグを作る時、時間経過無効もかけておいた。温かいご飯なら温かいまま保存できる優れものである。何しろマジックバッグの中は時間は関係なくそのままの状態を保つのだから。

「じゃあ、まだ食堂無理かもな」

「イオリちゃん、ここの後ろ借りてもいい?」

「え……、いいです、けど」

 自分の後ろで食べられるのはちょっと嫌だったので、伊織はお守りを買ってくれる人の席に移った。

「お礼に後でカリーヌさんのを届けるよ。代金は俺が立て替えておくから」

「え? いいんですか? 凄く助かります。ありがとう」

 親切にもそう提案してくれたので、伊織はきちんと礼を告げた。

『伊織、我も腹が空いた』

「じゃあ、食べようか」

 ごそごそとまた鞄を漁り、お昼を取り出す。今日はホットドックだ。マジックバッグに入れているので、フランクフルトはカリッとジューシー。パンも焼いているの温かくふわふわだ。

 カレー味で炒めた細切りのキャベツが今日はアクセントだ。

「タジアム、本当に二本も食べるの? かなり大きいよ? 大丈夫?」

『大丈夫だ。早く寄越せ』

「はいはい」

 タジアムは二本、伊織は一本。あとお茶も持参した。タジアムの分の茶を注いでいる間に、早くも彼は包みを自分で開ける。するとカレーの匂いが辺りに漂った。

 伊織はまだお腹が空いていないと思っていたが、カレーの匂いを感じてお腹がきゅうっとなった。カレーの匂いは食欲を増進させるものなのだ。

『いただきます』

 こういう挨拶は必ずしてくれるので、タジアムは偉いと思う。

 目を瞑り祈るように小さな両手を合わせる姿は、とてつもなく愛らしい。

 ぐりぐりしたくなるが、タジアムはどこか格好をつけたがる性格なのこういう時気軽に触れられないのだ。

「はい、どうぞ」

『ああ』

 テーブルの上にお茶を置いて、さあ自分も食べようと手に取ったはいいが、どこからか強い視線を感じた。伊織が視線を巡らせると、それはすぐ側の冒険者たちから発しているものだと気付いた。

「「「「…………」」」」

 四人でしばらく無言で見詰め合う。その間もタジアムの食事は進む。

「もしかして……それ、美味しくなかったですか?」

 あまりにもじっと見てくるので、心配になってしまった。

「いや、美味しいよ」

「うん、美味しい」

「ああ、……でもそっちの方も気になって。温かそうだし……」

 自分の持っていたホットドックをじっと見詰められる。でも今日はこれ一つしかないので、譲る訳にもいかない。

 もぎもぎと食べるタジアムがちろりと彼らに視線を送る。まだ手がつけられていないタジアムのもう一つのホットドックに、彼らの視線が集中する。

 タジアムは危険を察したのか、まだ手をつけていない方のホットドックを自分の方へ引き寄せる。

「もしかしてそれ、猿の分?」

「どれだけ食いしん坊なんだよ」

「この大きさでこの量を食うって……」

 その先の台詞が聞こえてきそうだ。

 他の人もこの小さな身体のどこに入るのだと思うのかと、伊織は思わずくすりと笑った。

「ああ~、お腹空いたぁ~」

 カリーヌが声を上げながら伊織の元へとくる。お腹を押さえているので、相当腹が空いているのだとわかる。

「あら、何? 貴方たち、こんなところで食べてるの?」

 伊織に迷惑だろうという思いを込めて声に出した台詞だった。

「ギルドの食堂、今日はまだ開いてないんだろう?」

「もう空いてるわよ。今日はちょっと遅くなったけど。毎回露天市の日も開いてるじゃない」

 いまさら何を言っているのだというような顔だ。

「あらイオリちゃんのも美味しそう。半分こしない?」

「いいですよ~」

 開いた方の椅子に遠慮もなくドカリと座るカリーヌに、伊織は微笑んだ。

 背後に男性がいても平気なようだ。そういうの、伊織は凄く気になる性質なのだ。

「何これっ! 美味っ!」

 半分にしたホットドックを、渡した瞬間齧り付いたカリーヌが目を見開く。

「ソーセージが凄くジューシーで、何かこれいろいろ入れてるでしょうっ!? こんなに美味しいの初めてよっ! あとこのパンっ! 凄く柔らかい~。はあぁ~……、幸せの味だわ」

 カリーヌの説明に、冒険者たち三人がごくりと喉を鳴らす。

「おい、猿。これやるから、それと交換しよう。な?」

 タジアムは自分のことを猿と言われたことに腹を立てたのか、完全無視だ。

「なあ……、いいだろう?」

「じゃあ、半分交換」

 様々な提案をするも無視され続ける。

 何だか可哀想になって、伊織が提案した。

「明日持ってきましょうか?」

「「「「本当っ!?」」」」

 何故かその中にカリーヌも入ってしまったようだ。

「でもハイスも欲しいんじゃないかな?」

「じゃあ、あいつの分も」

「大丈夫? イオリちゃん」

 心配そうにする彼らに、伊織は満面の笑顔で応えた。

「はい。承りました」

 そう安易に応えたものの、伊織はタジアムの次に出た言葉に背中に冷や汗を浮かべることになるのだった。

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