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この世界の魔女は空を飛べない  作者: 如月美樹
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 冒険者ギルドから指定された場所には、依頼していた机と椅子がきちんと設置されていた。

「ここだな」

 そう言って、セルジオはようやく伊織を下ろした。

 ここに来るまでに、結構な視線の数を感じた。やはりセルジオも相当モテるようだ。

「あ、ありがとうございます……」

 セルジオはぐるりと見回して、顎に手を当てた。

「まあ、ここなら対処できるか」

 何が? とはあえて聞かない。

 先日来た時も、そして今日も問題を起こした。騒ぎを今後も起こさないと断言できるほどの勇気はない。何しろ両日とも巻き込まれ感が半端ないのだから。だから多分その対処ということだろうと思う。

「そういえばイオリ。ハイスたちに昼を頼まれていたんじゃないか? 持ってないようだが、忘れたか? あいつら、もの凄く楽しみにしていたんだが……」

「え?」

 ハイスという名にちょっと心当たりがなくて、伊織は小首を傾げる。

 タジアムがツンツンと横の毛を引っ張るので視線を向けると、小さな指を口の上に当てた。

「あ……、ちょび髭さん?」

 うんと頷くタジアムに思い出した。確かそんな名前だったと。

 二人のやり取りをセルジオはじっと見詰める。オーレリアンが言うように、この猿と伊織は言葉を交わせるのかもしれない。

 隠しているようだが、隠し切れていないのが間抜けだ。それがあまりにも伊織らしくて微笑ましくもあるのだが。

 しかしこの猿。あまりにも仕草が人間らしくて、本当に獣なのか? と疑いを持つ。

 いちいち格好付けている様が、少々笑いを誘う。

(見た目は猿なのにな……)

 しかし各地を転々としたセルジオでさえ、肌がこのようにこげ茶色の猿は見たことがない。毛の色も真っ白だ。触ると毛並みが気持ちよさそうではあるが。

「持ってきてますよ。ここに」

 伊織は肩から斜めにかけた鞄をぽんぽんと叩いた。

 セルジオはそれに眉を寄せる。そういえば、今日の露天市に出す商品も伊織は持っていないように見える。

「……五人分だと聞いていたが。ハイスは二倍欲しいとも言っただろう?」

「はい。全部入ってますよ。実は先日街に来た時にカリーヌさんに聞いたのですけど、マジックバッグってあるんですね。それで作ってみたんです。思っていたより簡単でよかったです。買うと高いんですよね? 私、お金あまり持ってないし」

「…………は? 作った?」

 マジックバッグを作ろうと考える者など、普通はいないだろう。何故なら、それは能力の高い魔法使いだけが作れる高性能アイテムだからだ。それも超が付くほど貴重なものだ。普通の者なら一生持つことはできない。

 それをいとも簡単に、この少女は自分で作ったという。

「イオリ、ちょっと話そうか。一回ちゃんと話した方がいい。でないとまたいろいろなことに巻き込まれる」

「え?」

 伊織の肩を掴んで設置されていた椅子に座るように促す。

 伊織は素直に座った。

「お前はいろいろ問題がありそうだ。それにほいほいそんな話、他人に話さない方がいい」

 セルジオの話を聞いて、また何かやらかしてしまったと思った。今度は何をやらかしてしまったのか自分では見当もつかない。

 この世界にマジックバッグがあるということは作れる人間がいると言うことだ。

 それに東の森の家にもそのような本があった。

 だがらこれは問題ないはず。多分……。

 心配になってタジアムに確認するように視線を向ける。

 タジアムは真剣な顔で、セルジオを睨み付けるように見ていた。

「待て待て、俺は別にこいつをどうこうする気はない。だがこのままではいけないとは、お前も思ってるんだろう?」

 その台詞は伊織に向けているものではない。どうやらセルジオはタジアムに向けて言っているようだった。

(もしかしてタジアムが普通の猿じゃないって……ばれた?)

 急に不安になってきた。

 伊織は無意識に箒に手を伸ばしたが、セルジオに先に取られてしまう。

「カリーヌに聞いたが、これで空を飛べるって? 空を飛べる人間……いやイオリは魔女か。そんな魔女はこの世にはいない」

「……っ」

 セルジオの言葉に伊織の心臓がバクバクと鳴りまくる。もしかしたら肩に乗っているタジアムならこの音が聞こえているのかもしれないと思うほどに、酷いものだった。

 タジアムが心配して、頬に身を寄せてくれた。風の精霊もセルジオとの間に集まってくる。

「お前は普通の魔女じゃない。そう自覚した方がいい。自覚しないと、またいろいろなことに巻き込まれるぞ。イオリはそんなこと望んでいないのだろう?」

 伊織は無意識に首を縦に振っていた。

「まだ気付いている者は少ない。不用意な言葉は控えろ」

 これは親切で言っているのだろうか? それとも伊織のことを利用したいと考えているのだろうか?

 混乱する頭では、はっきりと判別できない。

「オーレリアンはそれに気付いてても、お前に構うんだろうな。厄介なだけなのにな」

 そう告げてセルジオは大きな手を伊織の頭に載せて撫でた。

(忠告されているだけ? もしかして心配されている?)

 ボケっとそう考えていると、先程話題になったハンスがやってきた。今日も立派な髭はきちんと整えられている。

 伊織の視線を受けて、はにかむようにハンスは笑んだ。

「ギルドで声をかけそびれた。ギルド長、おはようございます」

「ああ、おはよう」

 他に昼の弁当を頼んだ人は、まだ来てないようだ。

 伊織は慌てて鞄の中に手を突っ込み、包みを二つ取り出した。

「あの、これ」

「ああ、すまないな」

 ハンスは紙幣を伊織に渡し、弁当を受け取った。

「長かった……。この十日」

 待ち遠しかったというような言葉に、伊織の緊張も僅かに溶ける。

「イオリ、後できちんと話そうな。今夜はうちに泊まれ」

「え……、嫌です」

「嫌じゃねぇよ」

 セルジオの大きな手に頭をぐりぐりとされる。髪がぐしゃぐしゃになってしまった。

 タジアムが慌てて整えてくれる。

「小さな騎士だな」

 タジアムのおでこを指で弾き、セルジオは豪快に笑いながら去って行った。

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