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この世界の魔女は空を飛べない  作者: 如月美樹
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 ここ数日のお気に入り伊織のためとあれば、気に食わない者も守ろう。だがはっきり言って、この件はどうでもいい案件だった。別に商業ギルドの職員が魔獣に食われようが、自分にはどうでもいい。

 だがそのことで伊織が疑われるのは嫌だった。

 東門を一気に突っ切る風に、人々が悲鳴を上げるが無視してオーレリアンは外壁の外へと出た。

 風の精霊が飛ばした方向は東の森。東の森は青の魔女の住処だ。そうだと世間一般では遥か昔から言い伝えられてきた。

 東の森には決して入ってはならない。何故なら青の魔女の怒りを買うから。冷酷な青の魔女は何をするのかわからない危険な悪女。

 過去には青の魔女も森に入った人間に罰を与えていたと聞いたが、自分が生まれてからそんな噂も聞かない。果たしてこの伝説級の言い伝えは本当のことなのだろうか?

 魔女は人間より長生きすると言うが、その噂の青の魔女がまだ生きているとは限らない。それとも青の魔女は死なないのだろうか?

 オーレリアンは大体ここからまっすぐに森を突っ切れば、ギルド職員の飛ばされた場所に行き当たるだろうと言う場所まできた。だが先程から考えていることで森の中にいきなり入るのは躊躇する。

 例え自分がSS級の冒険者とはいえ、伝説級の魔女に勝てるのか疑問だ。

 魔女は魔法を使えない。薬を作り、まじないや占いで生計を立てるのが一般的だ。それとも魔女の代表格ともいえる青の魔女は違うのだろうか?

 何もかもが不確かだ。

 その時だった。森から男の悲鳴が聞こえた。

「うわあぁぁぁーっ! 何だ? ここはどこだあぁぁーっ!? 木? 木の上なのかっ?」

 男の声。東の森になど進んで入る人間などいない。この声の持ち主が商業ギルドの職員で間違いないだろう。

 思っていたより道から近いところに飛ばされたようだ。風の精霊もぎりぎり人間の足でも逃げられるか? というような距離に飛ばしたらしい。

「面白がっているな」

 ニヤリと笑みながら、オーレリアンは少しその場に佇む。

「誰かあぁーっ! 助けてくれぇーっ」

 それにしても喧しい。このまま放っておくのもいいかな? などと思ったが、もしまだ青の魔女が健在ならさぞ迷惑だろうと思い、オーレリアンは再び口を開いた。

「青の魔女殿、すまないが森に入らせていただく。あの騒音の元を駆除するのが目的だ。我慢されたし」

 そう告げて一気に森の中に入った。

 その瞬間、さらに男の悲鳴が上がる。

「うわあああぁぁぁーっ!! 魔獣があぁぁぁーっ! 誰か、誰か助けてくれぇぇぇーっ」

 叫びまくるから魔獣が集まって来たらしい。オーレリアンの視線の先に狼の魔獣が七匹ほど一つの木を見上げ、うろうろと徘徊していた。唸り声を上げる個体もいるようだ。

 ただの狼ではないと、どこで判断できるのかは大きさの違いだった。狼の魔獣は四本足で立っていても優に三メートルはある。群れのリーダーともなれば、さらに一メートル大きい。

「ちっ! 叫ぶから集まったのではないか。少しは黙ればいいものを」

 スラリとオーレリアンが剣を抜くと、群れのリーダーがこちらにきついまなざしを向けた。配下のものに指示し、こちらに群れを向かわせる。

 進む速度を変えずに次々と切って倒すオーレリアンに、リーダーも目の色を変えた。

「オ、オーレリアン殿ぉっ! 助けて下されっ」

 狼たちの異変に気付いた職員が、助けを求める声を張り上げる。

 そのことに集中力が切れそうになり、思わず怒鳴り声を上げた。

「少しは黙れぇぇぇーっ!!!!」

 ビクリとその場にいるすべての生き物が動きを止めた。

 オーレリアンの声は威嚇を放っていたようだ。

 狼の魔獣のリーダーも自分では敵わないと考えたのか、咆哮を上げその場を逃げ去った。

 魔獣や獣の気配が周りからなくなったのを確認して、オーレリアンは剣を鞘に納めた。

 どうやら他の魔獣も集まっていたようだ。その数の多さに、さすがのオーレリアンも安堵の息を吐く。

(あの数をこの男のために屠る気はない)

 そんな労力、こんな男のために使いたくはない。

 ここに助けにくるのでさえ、伊織のためでなければ来なかった。

 木の上の男は気を失っているようだった。枝ではなく上の葉の部分に辛うじて引っかかっている状態だ。

 オーレリアンの威嚇で気を失ったのだろう。

 それに下の方は失禁までしていた。気を失っている上に失禁まで。

 オーレリアンの美しい顔が嫌そうに歪む。

「厄介だな」

 トンと木の上へ飛び、男の襟首を掴む。

 その後、東の森を見渡した。

「結構こうしてみると広いものだな」

 感心したようにオーレリアンは声を上げた。

 この広大な森が誰の手も付けられず数千年守られてきた。人間が入らないのなら、獣が住み付くのは当たり前だ。魔獣だって気兼ねなく住むことができる。餌となる対象はこの森ではさぞ多かろう。だから人間が住む街へ来る魔獣や獣は少ないのだと思えた。

「ああ、こうしてはいられない。早く森を出ないと本当に青の魔女に叱られてしまう」

 それに伊織のことも気になる。

 オーレリアンは男の後ろ襟を持ち、木から飛び降りた。片手で背に抱えるようにし、一気に森を出る。森を出た後は地面に引き摺るようにして男を運んだ。

 門を飛び出たオーレリアンを心配して、門兵たちも東へと続く道を注視していたのだろう。商業ギルドの職員を引き摺って歩くオーレリアンの元に数人駆け寄って来てくれた。

「何事ですが? オーレリアン様」

「こいつがイオリちゃんに粗相をしたのだ。怒った風の精霊がこれを飛ばした」

 風の精霊という言葉にトルテは驚愕したが、その後の懸念事項を確認する方が先決だと判断した。

「もしかして……森の中に?」

 トルテの質問にオーレリアンは無言で頷いた。

 顔色を青褪める門兵たちに、オーレリアンはさらに声を出す。

「何もないとは思うが、領主には報告をした方がいいだろう」

「わかりました。おいっ!」

 オーレリアンの話を一緒に聞いていた門兵が一人、トルテの指示で駆け出す。

 これでこの職員の処遇も決まるだろう。この男の評判はこの街ではかなり悪い。何らかの罰が与えられ、改心すればいいのだがとオーレリアンは思った。

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