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タジアムが心配していたように、伊織は疲れて次の日は食事を作る以外は起きられなかった。久し振りに人と会い、話したせいだと思う。
魔女として転生する前も、家族の介護で人との距離を感じていた伊織だ。だから、なおさらだろう。
そして二日後。
何とか復活を遂げた伊織が最初にしたことは、マジックバッグを作ることだった。
暖炉の上の小さなクドナの球の前に立った。
『本当にもう大丈夫なのか?』
タジアムも心配する中、伊織は大きく頷いた。
「大丈夫だって、いわば昨日のは軽い心の筋肉痛みたいなものだよ。街に行って楽しかったのは本当なんだからね」
『ああ、そこは疑ってはおらぬが』
仕方がないというような顔で、タジアムはそれ以上何もいわなかった。
「でもマジックバッグなんて、本当に作る方法とかあるのかな? 持っている人がいるってことは、誰かが作ってるってことだし……あるよね?」
タジアムは話す伊織を見詰めるだけで頷きもしない。多分、彼も知らない情報なのだろう。
「よし、駄目もとだ」
伊織はクドナの球を見詰めた。
「マジックバッグの作り方、教えて」
すると伊織の言葉は光の粒になり、舞い上がって行く。一つの本に吸い込まれ目の前に降りてきた。伊織が手を伸ばすと触れる前にページが捲れる。伊織の頭の中にパラパラ捲れるページと同時に、本の中の情報が入ってきた。
「凄い……本当に作れるんだ。でもまずは鞄を選ばないとね。いつも使っているこの鞄でもいいかな?」
街にも持っていった鞄を伊織は手に取った。
女の子らしい花の刺繍が施されているものだ。
「一度これで作ってみよう。収納はどれくらいにするかな?」
そう考えただけで、鞄の方が待ちきれないというように光ってしまった。
「あ……、できちゃったかも」
『……』
伊織の様子を呆れたように見るタジアム。
ひょんなことから飼い主となってしまったクドナだったが、伊織への過保護が過ぎるように感じた。稀に見る純粋な心の持ち主だったから、クドナが気に入るとは思ってはいたが、これほど傾倒するとは思わなかった。
(まあ、我が手を出したのも悪かったのだが)
心が綺麗だったからタジアムが見えた。それが面白くて悪戯したから、伊織を死なせてしまった。
タジアムが伊織を守るのは義務だ。だがその義務以上に、タジアムも伊織のことを気に入ってしまっている。
『これではクドナのことを責められないな……』
小さな声で呟かれたタジアムの声は、マジックバッグに夢中な伊織には届かなかった。
「タジアムッ! どうしよう……これこの家以上の量を入れられるよっ」
『よかったではないか。何度も作り直すより、初めから大容量のものが作れて便利であろう』
「はっ! そうだね。そうだよね。何度も作り直すより効果的だよね」
単純馬鹿とは伊織のような者をいうのだろう。タジアムは密かにため息を吐いた。
それからの日々。伊織は露天市に持って行くものの制作で日々を過ごした。
薬が少しだけとはいえ売れたので、もしかしたら効いたと評判になってないかな~? とかいう、希望的観念もあるので種類を増やし、量もちょっとだけ増やそうかと考えた。
「一日五十個。……そ、そんなには売れないだろうけど、マジックバッグもあるしね。売り切れてしまったら、せっかく買いに来てくれる人にも悪いしね。うん」
一人納得しながら、丸薬を必死に捏ねて作る。
「薬作り終えたら、今度はお守りの袋も作らなきゃ。当日の朝はお弁当も作らなきゃならないし、結構大変だね。あっ! あと新しい看板も作り直さないと。……寝る暇ないかも。大丈夫かな……私」
家に戻って、露天市が開かれる日まで十日。日々忙しく、充実した時間を過ごした。
そして、その日の当日。
伊織は箒を手に、玄関を出た。
「さあ、行こうか。タジアム」
『ああ』
ぴょんと肩に飛び乗るタジアムに声をかけ、伊織はクリーンライトの街へと向かうのだった。




