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ちょび髭男性が硬貨を一枚机の上に置いたので、伊織はサンドウィッチの包みをおずおずと差し出した。
ちょび髭男性の視線が薬の袋に移る。
「それは薬か?」
「はい。疲労回復と痛み止め、あと風邪薬と傷の塗り薬です」
ちょび髭男性は伊織の言葉に無言で頷き、次の瞬間信じられない言葉を発した。
「疲労回復、痛み止め、塗り薬を五つづつ。あと、風邪薬を一つくれ」
「え……、そ、そんなに多く、いいんですか?」
一瞬驚いたが、一応確認する。
「ああ、いくらだ?」
怒ってるのかと思ったが、そうではなかったようだ。怒っていたら、薬も買おうなんて思わないだろう。
「一つ千ギルなので、一万六千ギルです」
「「「安過ぎるだろっ!!」」」
またも外野からヤジが飛ぶ。
今度は伊織は驚かず薬の使用法を教える。
「飲み薬は必ず水で飲んでください。お酒などで飲むと効果が薄れますので」
「ああ、わかった」
まだ説明は終わっていないので薬は渡さない。
「一日に使用できる量は二回までです。あと塗り薬は一日二、三回の使用で三日ほどで治るかと思います」
ちょび髭男性はそれにも頷いたので、伊織は薬の包みを渡した。
その代わりに紙幣七枚が手に入る。手が震える思いだった。自分が作ったものが売れた喜びに身体が震える。
「あ、ありがとうございます」
「いろいろあるだろうが、頑張れ」
「は、はい」
ちょび髭男性はギルド内にある食事をするところへと戻っていった。
皆が注目する中、伊織のサンドウィッチを食べるようだ。
ちょび髭男性が手に取り一口食べるのを、周りの者たちは固唾を飲んで見守っている。
作った本人である伊織も同じ気持ちだ。
(ああ~、ドキドキする。美味しいって思ってくれるかな?)
「……美味い。こんな味食べたことがないが、美味い」
「ああ、よかった~」
感想を聞いてホッと胸を撫で下ろした。
『何を心配しているのだ。伊織の食事はどれも美味であるぞ』
「ありがとう、タジアム」
ようやく食べ終えたタジアムは、食後のお茶を飲んでいる真っ最中だ。口の周りは相変わらず汚しているので、伊織が拭いてやる。
「ああっ! もうないのか、しまったっ」
他の冒険者たちがきたが、もちろんサンドウィッチはもうない。
「さっきまで猿が食ってたのが余ってたのにっ!」
その台詞を聞いて伊織がタジアムをちろっと見るが、彼は我関せずという感じで茶の入った容器を手にしたまま彼らに背を向けた。
「なあ、あれ今度くる時に作ってきてくれないか? お金もちゃんと渡すし」
「あっ! 俺も」
「俺もっ!」
ちょび髭男性の席のすぐ側に座っていた三人組が伊織に注文してきた。
「え、えと……」
いいのだろうか? 手作り食品を売るのに日本では栄養管理士の資格などがいったはずだが、この世界ではどうなのだろう?
「二種類とも頼みたいんだけど」
グイグイくる冒険者たちに動揺しているとカリーヌがやってくる。
「ちょっとあんたたちっ! イオリちゃんにイチャモンつける気っ!?」
「い、いや違うよ。俺は昼食べていたものを今度くる時に作ってきて欲しいってお願いしてただけだよ」
カリーヌは男をじっとっとした疑いの目で見て、その後伊織を見た。
その目が一瞬で変わったことに冒険者は顔を歪ませたが。
「イオリちゃん、本当? 虐められてない?」
「だ、大丈夫です」
「そう?」
冒険者の男性がまだ伊織の前から立ち去らないので、カリーヌもその場に居続ける。
「あ、あのカリーヌさん」
「何?」
知らないことは聞けばいいのだ。街ごとや国によっても、こういうルールは違うはずである。
「口にするものを販売するのに、資格や許可証などは要りますか?」
「ん~……、要らないはずだと思ったけど。どうして?」
伊織はちらりと立っている男性に目を向けて、もう一度声を出した。
「この方が、私たちがお昼に食べていたものが欲しいと言ってくださって……」
「何? イオリちゃん、本気で作ってあげる気? 生意気にもイオリちゃんが作ったものが食べたいって? 女の子の手作りが?」
凄い勢いで言われて、伊織も仰け反る。
「いや、ハイスの野郎が、この子の作ったものを買って食べて美味いって言うから……さ」
「えっ? ハイスがそう言ったの?」
「うん」
カリーヌは伊織のことをバッと振り向いて両手を合わせた。
「イオリちゃん、今度くる時に私のものもお願いできないかしら」
「あ、資格とかはいらないのであれば……いいですけど」
「わあっ! ありがとうっ! ハイスが美味しいって言うんだもの、間違いなく美味しいのよ」
どうやらあのちょび髭男性はグルメで有名らしい。
ちょび髭男性も立ち上がり、こちらにきて一言。
「俺もまた欲しい。さっきの二倍の量、作ってきてくれないか?」
「あ、……はい」
サンドウィッチだけでもの凄い荷物になりそうだ。伊織はメモにサンドウィッチ五人分と書いた。一人だけ多めと書き足しておく。
「今度くるのは多分、露天市の日になるかと思いますが……大丈夫ですか?」
冒険者たちに決まった家があるのかは知らない。伊織の知っているお話の中の冒険者たちは決まった家などなく、世界を渡り歩き魔獣などを駆除するイメージだ。もちろんギルドのある街で宿を取って休むことはしていたが。
その日まで彼らはこの街に滞在しているのだろうか? それは心配だった。
質問に皆が大丈夫だと頷いてくれたので、伊織も微笑みを浮かべた。
「う……、めちゃ可愛いんですけど」
カリーヌの声に皆も心の中で頷いた。
伊織の方はそんなこと言われ慣れていないので、頬を染めて俯いてしまう。
(((((ああ~……、癒されるぅ)))))
何だかほんわかした空気がギルド内に流れた。




