ルイトモの助太刀
今回3人称でお届けします。
実は投稿済みの部分も、一部3人称に改筆しつつおります。
ストーリーに変更はございません(´・ω・)
「ワシを地上に出したのは、どんな仕組みじゃ?」
東海道を疾走しながら弥助は息も切らしていない。
今の弥助ならもっと速く走っても問題なかろうが、人の往来が多い東海道で馬より速く駆け抜けるバケモノは、関所も越えられないだろう。
サクヤが彼を人の常識程度の速さで走るように抑えている。その事もあって弥助には随分体力的な余裕がある。
「アレは時空干渉術よ。残念だけど闘気とは関係ないの。」
実のところ弥助が現人神であるならそこまで出来る可能性は高い。だがサクヤには今のところ、その事を教えるつもりは無い。何故ならメ・ン・ド・ウだから!
「時空っちゅうのは何じゃ?」
「面倒くさいから後にして。」
流石に闘気で強化された体力を以てしても、30里を1日で走るペースの中で多次元の原理が理解できるとは思えない。サクヤは弥助に合わせ空を飛びつつ、今後の弥助の育成計画を考えている。
弥助はちょっとの間ムッとしたように黙っていたが、走るだけが退屈なのかまた喋り始める。
「この世がアレほどに不安定なモノとは思いもよらんかった。洞窟と外界が布1枚で繋がっておるようじゃったぞ。ワシらが見えぬ方向がオヌシらには見えとるようだ。」
やはりそれなりに知能が成長している。サクヤはまたしても弥助の変化を確認した思いだった。
「また今度教えてあげるわよ。アンタは先ず闘気の完全な習得を目指して頂戴。」
それとても、もう多くの時間は必要としないだろうが。
弥助は疾走しながらまた何か考え込んでいる。この男はとにかく変わった。
「それよりも歓之助きゅんを助太刀したその後よ。」
「その後とは?」
弥助は惚けたように聞き返してきた。
「惚けんじゃ無いわよ。練兵館の面子を救ったアンタなら、江戸に戻って道場の師範にでもしなけりゃ、それこそ道場の面子ってもんがあるでしょ?」
「ワシはあの龍のバケモンをぶっ殺しに段状窟へ戻る。」
江戸の事など興味はない、と弥助は言い切る。
「今となっては道場に戻ることに意味など......うん?意味など.....ふむ。」
不意に何か思いついたように、弥助はそこで言葉を切った。
「どうしたのさ?」
小高い丘に差し掛かり、左手に海が現れる。
冬の海原は青く黒ずんで、身を切るような水温を視覚化している。
「戻ってみるのも面白いかもな。」
弥助は豪快に意見を翻し、そんな事を笑顔で言った。
笑顔も近頃の彼の変化だ。以前は滅多に見ることが無かった。
「何か考えがあんのね?」
「大した事は考えておらん。ただ江戸にやり残した事があるんじゃ。」
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京都は関所も面倒なので、避けたほうが良い。
サクヤの提案を素直に聞き、弥助は亀山から伊賀を越え大和、堺を走り抜ける。
関所で見せるのは大村藩からの召喚状。浪人の移動は制限も多いが、歓之助が書いてくれた身元保証もあってスムーズに関所は通過できる。
弥助としては夜も走っていけそうな状態だったが、そこはさすがに自重させた。
「其処まで急ぐ必要もないでしょう?」
サクヤは弥助をなだめて夜は休ませる。
富士宮を発って3日目。既に姫路の宿場までたどり着いた。
「このまま行けば10日もかからず肥前まで着けるわよ。相手にする宇野とかいうヤツだって、1月中には戻って来ないでしょうから。」
これほど弥助が先を急ぐのは不思議だった。
不遇な扱いを受けた道場の名誉のために、例え親友の頼みとは言え彼がそこまで入れ込む必要はない。
なんならザマあ!で済ましておけばいい事なのに。
宿場町に入った弥助は、安宿に投宿して部屋で1人酒を飲んでいる。
もちろんサクヤも一緒だが、部屋は弥助1人で帳面に記載した。神料金なんてものは存在しないからだ。
そっけない8畳の部屋。
布団が引かれればそれで終わりの、素泊まりの宿だ。
今1人で飲んでいる酒は、下男に2分銀を握せて買って来させたものである。
サクヤは窓辺に腰かけるような姿勢で、弥助に話しかけている。
「何だってそこまで急ぐのさ?まあ行けって言ったアタシが言うのもなんだけど。」
疑問に思うサクヤに向かって、弥助はさも当然とばかり応える。
「歓ちゃんがヤられたって事は、相当な腕達者てえ事だ。ワシはソイツと腕比べしたいんじゃ。」
それだけだった。まあ聞くまでもなかった。
グイッと酒をあおる弥助。実に1年半ぶりに飲む酒が身体に沁みていく。
「闘気を使って戦うのは絶対ナシよ。分かってるわね?」
目を見張る弥助、当然分かってなかった。
サクヤは呆れ蔑む目で弥助を見る。
「ナゼじゃ?折角覚えたモンを使わない手はあるまい?それに歓ちゃんほどの手練れが、一本も返せんほどの相手じゃぞ?メチャクチャ強い男に決まっとる!」
「相手が強いのは間違いないけど、アンタ自分の成長度合いが分かってないのよね。身体的にもそうなんだけど。背丈が伸びてるのは気付いてる?」
弥助もそれは自覚していた。5尺5寸(約165cm)ほどだった身長は、感覚的に3寸ほど伸びているようだった。胡坐をかいた姿勢も何となく質量が増している。
「腕やら脚の周りも太くはなっとる。」
弥助自身は何やかんやで、身体が倍になったように感じていた。
段状窟が人体に与える影響は、これ程にも大きい。
「膂力が大きくなったし、速さも段違いに上がってるの。これだけで普通の人と戦うのは危険なぐらい。そこに闘気なんぞ持ち込んだら、防具付けてても危険なのよ。」
生身の人間には明らかな過剰戦力だ。
弥助は納得したように頷いた。
確かにいくら強者が出てくるとはいえ、牛鬼みたいな男が出てくるわけではない。
闘気を使っての戦いに慣れてしまったが、対人で使うのは確かにまずいかもしれない。
酔いの回った頭で弥助はそう考え、もうすっかり闘気を使う事にこだわりは無くなった。
身体的な力と技術で、かつての競争相手とどこまで競えるかを想像する。
黙り込んでニヤニヤし出した弥助を見て、サクヤは再び呆れてしまう。
彼女には弥助の頭の中で繰り返される、過剰な模擬戦闘が見えるようだった。
「ちっ、戦闘快楽症が....。」
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安政3年1月9日(1856年2月14日)
弥助たちは順調に肥前大村藩へと到着していた。
富士宮を出て7日、飛脚も腰を抜かすほどの速さである。
門番から取次ぎを受けた剣術指南役、斎藤歓之助も当然混乱した。
「文を出したのが去年の暮....まさかこれほど早く訪ねて来れるはずがない。」
半信半疑で庭から応接の間を覗いてみると、1.5倍にスケールアップした弥助がドシンと端座しているではないか!
「弥っちゃん.....か?いや凄いデカい...何か違うぞ?」
顔は見紛うこと無き親友のそれだが、他の部分で色々違い過ぎる。
「ともあれ放っておくわけにはイカンが。」
偽物とも思えないが、話をしてみて不自然なところがあれば引きとってもらおう。
歓之助はそう考えた。
「失礼いたしまする。」
歓之助は少々イタズラ心を見せ、庭から直に声をかける。
(か、歓之助きゅんきゃわいい....弥助の記憶より相当イイ!)
通常モードで人からは姿が見えないサクヤは、歓之助にビッタリの距離から美顔を堪能していた。
月代青々とした凛々しい姿は、都会的で洗練されている。
少年のあどけなさを大きな目に残しつつ、通った鼻筋や引き締まる口元は賢さが滲み出ている。
(弥助と違い過ぎる....次回はゼヒこれレベルの武芸者を....。)
サクヤはこのまま無理やり歓之助と契約して、浅間神社へ拉致したい衝動に駆られていた。
「おお、歓ちゃんじゃないか!久しいのう!」
弥助は弾けるような声で挨拶する。その姿はまた歓之助に不思議に映る。
(これほど明るい弥っちゃんを見たことは無いが.....。)
偽物疑惑がやや深まるなか、歓之助も表面は笑顔でこれに応じる。
「弥っちゃん!よく来てくれた。随分と早い到着じゃ!」
「ハッハッハ!驚いたか?富士宮から走って7日で着いたぞ!」
(馬鹿ね....自分で人外宣言してどーすんのよ。)
サクヤは頭を抱えたが、弥助は平気なものである。
少々賢くなったとは言っても、常識的な身の振る舞いは伴わなかったようだ。
「富士宮から7日.....?250里(約1000km)はあるのでは?」
驚愕した歓之助は月代の色並みに青ざめる。それは人間に出来ることと思えない。
これはやはり偽物...というかバケモノか?
だとすればこのような巨大化した体にも納得がいく。歓之助の顔が急速に曇っていった。
(警戒されてるわよ!ちょっと弥助!)
サクヤはバタバタと手足を振って弥助に合図を送るが、弥助には見えてるのやらサッパリ応じる様子はない。
(アイツ普段からアタシが見えてるくせに....。無視しやがった。7段目に龍鬼追加したろか.....。)
サクヤは暗い炎を燃やす。
「実はな、今普通じゃない訓練を行っておる。修験道の秘跡での鍛錬じゃ。」
「ほう?それは面白そうだな?」
歓之助は打って変わって話に飛びついた。そこに警戒心の欠片もない。
もともと摩訶不思議なモノの話が大好きな、好奇心強い男なのだ。
(あら?)
弥助の話を素直に信じる歓之助を見て、サクヤはガクリと拍子抜けする。
(いや、ホントの話だけどさ。ふつう信じるそんなの?)
「其処で修行すると神々の恩恵を授かり、膂力が凄まじく成長する。ワシなどおかげで背丈まで伸びてしまったのだ!」
「なるほどなるほど!それで弥っちゃんはそんな大きくなったのか!」
「おうよ!今のワシは昔とは違うぞ~。もしや先生にも一太刀浴びせれるかもしれん。」
「な、なんと!親父殿にも迫るほど強くなったのか!」
一瞬にして無邪気な少年に戻ったような2人。そして話の内容は大人とは思えない。
(.......歓之助きゅんってもしかして?)
「ふむ、そこまで強くなってしまったワシじゃからの、もはや千里の道とてモノともせん。」
「スゴイぞ弥っちゃん!これで宇野のヤロウには勝ったも同然じゃ!」
無邪気にはしゃぐ歓之助のイメージが、サクヤの中で急速にお笑い化していく。
弥助と頭脳レベルが同じだったのか......サクヤはがっくりと肩を落としたのだった。




