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助太刀の旅立ち

今回は3人の視点が入ります。

最初がサクヤ、、続いて相良の仁吉さん、最後は弥助の視点です。

安政3年1月2日(1856年2月7日)


 神として初詣は留守にする訳にはいかない。

 アタシにも最低限そのくらいの心構えはあった。


 そんな訳で暮れから正月の終わりまで、アタシは神社に居っぱなしで参拝客の願掛けをそれなりに聞いていたのだ。

 相も変わらず恋愛成就の祈願ばっかし。ムカッとくんのはいい年こいた男まで、そんな願いをかけていくことだ。


「自力でなんとかせーよそんなもん....というか(アタシ)にそんな形而下的願望を押し付けんな。」

 でも仕方がないか。もはや誇り高きサムライなどこの国にはいなくなったのだから。

 当然そのような願い事はスルーだがな。


 こんな仕事はサッサと終わらせ、弥助の特訓に付き合ってやりたかった。

 既に7段目に到達した弥助は、急速にレベルが上がる鬼の攻略に苦心していたのだ。


「それでも1年半でここまで来てるのはさすがだよ。」

 恐らくはあと1年も経たぬうちに、全段クリアを達成するだろう。アタシの段状窟(ダンジョン)へ挑戦した探索者の中では、ブッちぎりの最短記録だ。


 もはや完全に闘気(オーラ)を習得した弥助は、足に闘気(オーラ)を溜めては空中を駆け上がり、『念斬撃』を自在に斬撃に交え、対象をすり抜ける『縮地』を操り瞬間移動モドキな戦い方で鬼たちを蹴散らし続けた。


 4段目の『大鬼(オーガ)』、5段目の『狼鬼(ウォーウルフ)』、6段目の『牛鬼(ミノタウルス)』を順調に攻略し、その戦いぶりに磨きをかけ続けてきた。


 戦いの中で進化していくことこそ、今の弥助の強みだと思う。

 戦いの度に新たな神業を出現させていく創造性は、これまで人の真似をし続けてきた弥助とは別人のようだった。


 そんな弥助も7段目では苦戦している。

 富士段状窟(ダンジョン)の名物階層主である『龍鬼(ドラゴナーガ)』シリーズが登場するためだ。

 アタシもなんでこんなバケモノ作ったんだっけ.....?


 よくこんな段状窟(ダンジョン)クリアしたヤツいるよな。他人事じゃないが。


「まあアイツなら何とかするでしょ。なんたって....能力者(ギフテッド)の可能性までありそうな男だし。」


 アタシは再びその疑念を持って弥助を観察していた。

 何と言ってもその習得度合いが早すぎるし、水の闘気(オーラ)との相性の良さがハンパじゃない。

 それに以前の弥助が人の技を見ただけで、自分のモノとしてしまう複製(コピー)能力は、水の闘気(オーラ)の能力だったのかもしれない。


 だとすれば弥助の知能までが上がっている現象も理解できる。

 能力者(ギフテッド)とはつまり『神々に連なる者』であるのだ。頭が良くなるなんて当たり前、何なら神に近い能力を手に入れる可能性だってあり得る。


「そうなったらちょっとした騒ぎよね。この数百年現れてないのだから。」

能力者(ギフテッド)段状窟(ダンジョン)を制覇すれば、それはもはや帰還者(マレビト)レベルではない。神の力を手にした者、現人神(アラヒト)と呼ばれる存在となるのだ。


「やはりアタシって優秀なのよね!いとも簡単に能力者(ギフテッド)を見つけてしまうのだから!」


 あの男ならやってしまうかもしれない。そうなれば確実に時代を動かす男になる。

 デキる女すぎて困るわ~アタシって♪


『弥助先生がご無事でお戻りになりますように.....。』

 その時アタシの耳に、そんな願いが飛び込んできた。


「あら?誰かしらそんな奇特な願掛けを....。」


 弥助の名前がアタシに聞こえてきたのはこれが初めてではないが、多くは『弥助のヤロウがくたばっちまいますように』とか『弥助のクソッタレが二度と清水の土を踏みませんように』とか、わりとネガティブな祈願ばかりだったから。


「ああ、あの子。確か仁吉っていったかしらね。いつも弥助とツルんでた。」


 やっぱり一家には慕われてたのね~。

 うん、あの子なら前にも姿を見せた事があるし、安心するように声をかけとこうかしら。

 なんたって勝手に連れ出して段状窟(ダンジョン)にブッ込んだ責任はあるしね。


 アタシはこっそりと神社を抜け出して、参道口までひとっ跳びすると竹林の陰で姿を現し、何気ない感じを出しながら仁吉に話しかける。


「あ~ら仁吉さんじゃない?ひ・さ・し・ぶ・り♪」


<<<<<<<<<<<<<<<


 参道口の竹林から怪しい声がして、夜鷹でも出てきやがったかと思えばいつぞやの....そう、弥助先生と一緒に茶屋で団子を食ってた....サクヤとかいう女だった。


「こりゃどうも....ええ、サクヤさん?ご無沙汰しておりやんす。」

 相変わらず素っ頓狂な恰好をしていなさる。


 染めも入ってねえ紬らしい袷を着ているが、生地の目が粗くってまるでゴザ着てるみてえだし、丈がつんつるテンでいかにもおかしい。

 髪型も髷にせず顔の左右でおかしな形に結ってあり、正月だってえのに色とりどりの花が結い込んである。


 しかし人目を惹くような途方もない美人だ。先生の情人(いいひと)だったりするんだろうか?


「こいつはいい所でお目にかかりやした。サクヤさんは弥助先生の居所をご承知じゃありやせんか?」

 なるべく失礼のねえように、丁寧にお伺いを立てる。


「あら、弥助さんをお探しなのね?修行に出てるって聞いてるけど。」


「いや、そいつはアッシも承知してるんですがね。」

 仕方ねえ、情人(いいひと)だろうが何だろうが、用事があるもんは伝えなきゃなんねえ。


「実は弥助先生宛に文を受け取ってまして。こんなこたあこれまで無かったもんですから、余程の急用だろうと思うんでさあ。なんでもしサクヤさんが先生の居場所をご存じだったら、お伝え頂けねえモンかと。」


 そう言うとサクヤさんはちょっと妙な顔をした。


「弥助さんが次郎長親分の所で世話になってるなんて、昔の知り合いで知っている人がいるのかしら?」


「そりゃあ仲のいい人には伝えてるかも知れやせんぜ?現にこうして文が届いておりやすし。」

 そう言って懐から文を取り出すと、サクヤさんは興味深そうにしげしげとソイツを眺めている。


「フーンそおねえ。誰から来てるのか教えてもらっていいかしら?」


 そいつは言わねえ約束ですぜ。


「面目ねえ、アッシは字が読めねえんで.....。あ!先生も読めねえや....」


 ああそうだよ、今気づいた。悪いかよ?


<<<<<<<<<<<<<<<


『弥助!ちょっと!はい訓練やめ~休憩!』


 女神(うるせえの)が戻って来た。

「どうした?確か正月で忙しいからしばらく来ないって言ってなかったか?」


 ワシは鍛錬を止めて声のする方角に顔を向ける。


『それどころじゃないの!アタシの歓之助きゅんが大変なのよ!アンタに文が来てて、助太刀に来てほしいって!!』


 むう...それは大変なのかもしれんが...どこから突っ込んでいいか分からん。


「歓ちゃんからワシに文が来とって、それをオノレがナゼ勝手に読んでる?さらに『アタシの』歓之助とはどういう事じゃ?そして最後に『きゅん』とは何じゃ?」


『漏れなくツッコんでんじゃないわよ!アンタどうせ読めないでしょうが!』


 フフフ...そうじゃった。


「それもそうじゃ。手間をかけるが読んでくれるか。」


 そうしてサクヤに読んでもらうと、どうも歓ちゃんはワシが道場を出た後、肥前大村藩に剣術指南役として召し抱えられたらしい。スゲエ!

 ところが先日武者修行に訪れた宇野という剣士に、一方的に叩きのめされてしまったらしい。


 3本勝負で3本取られるという、正に惨敗。

 かくなる上は弥助に助太刀を頼みたいとのことだった。


『宇野なんちゃらは九州を修行して回り、帰りにもう一度立ち寄る事を約束したって。だからそれに間に合うように、弥助には至急来てほしいそうよ。』

「歓ちゃんから3本取るとは中々の腕前、しかも1本も譲らんところなど度胸も相当なものだ。」


『それってどういう意味?』

 サクヤはワシの言葉が良く分からんかった様子だ。


「道場破りというのは命がけよ。敵地に少人数で殴り込むのだから、相手に面子も立たぬほど勝ってしまうと大勢で袋叩きにされる事もある。ひどくなれば殺して口を封じる事もあるんじゃ。」


『.....馬鹿なのね。』


「この場合それは無かったようじゃが、すると今度は歓ちゃん、すなわち練兵館の評判の問題となる。負けたままでは道場の看板に傷が付くし、ヘタを打てば剣術指南のお役を免ぜられる。」


『.....面子だけが問題なのね。』


 サクヤはそう切り捨てるが、それでも歓ちゃんの危機は理解できたようだった。


『まあ...クッダラないとは思うけど、弥助行ってくる?』

「修行は途中じゃが問題ないのか?」

『歓之助きゅんのピンチでしょ?特別に許すわ!後でまた続ければいいし、そもそもアンタ必要な修行はほぼ終えてるから。』


 そうなのか?まだ7段目までしか来とらんが。


『....っていうか過去の大抵の帰還者(マレビト)より強いわよ既に。いいからアタシの歓之助きゅんを救い出してきなさい。』


 サクヤがそう言うと同時に、ワシの目の前の光景がグラリと揺れる。

 かと思うと丁度ワシの背丈と同じくらいの高さで、幾筋もの光が揺れながら差し込んでくる。


『そっから出てきて。』


 サクヤがそっけなくそう言った。

 光の筋に指を差し込んでみると、それは幾束ものサラシの帯のようになっており、手で容易に広げることが出来る。

 ワシは両手でその帯を開き、光の中へ歩みを進めた。



 するとそこは...確かに洞窟の前へ出た。サクヤが手を振って出迎えてくれる。


「見た目かなりばっちい....。」

 サクヤから大量の闘気(オーラ)が降り注ぎ、それが過ぎ去ると少し汚れが落ちているように感じられた。


「なんと...こんな使い方もあるのか...。」


「風呂入ってる暇もないでしょ。さあ、出発しましょ!」

「....オマエもいくの?」

「無論行く。歓之助きゅんに会えるし。ためらう要素なし。」


 こうしてワシの修行は一時中止となり、備前へ向けて助太刀の旅となった。


「アンタ立合いには気を付けなさいよ。これまでの比じゃないほど強くなってんだから!精々相手を殺さないように、十分注意しなさい!」


 え....竹刀剣術で人は死なんじゃろ?いやまさかホントに死なないよな?




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