第七話 魔法の発動2
ラニは、全身に血を巡らせる。魔女の血、不老不死の血、穢れたものの血、そう言われる私たちの全て。得体の知れない力が拍動によって、指先まで押し出されて力のない血がその根元へと帰還する。そうして、身体中を一つに繋げる。
魔女が魔女であることは、人が人であるように、その全てにおいて魔女でなければならないと、母は言った。
魔法が発動する。
大きく息を吸った。鼻腔は熱がこもり、咽頭に届く血の匂いにむせそうになる。魔女の記憶が血の匂いとなって脳と頭蓋の間を満たす。そして、この感覚にいつも説明のつかない高揚を感じる。
私はやはり、魔女だ。この血が私を魔女たらしめている。
男たちは、彼女の中の変化に気づかない。彼らの知覚ではこの血に気づくことができない。バタバタと、あたりにいた鳥のうち数羽が血に怯えて飛び去る。数羽は留まったままだ。
ラニはゆっくりと立ち上がり、男たちの男の手に握られた本をゆっくりと引き抜く。彼らは気づかない。彼らの知覚では気づくことができない。彼らは、本の代わりに本の存在の履歴を掴んだままだ。本はいとも容易くラニの手元に戻った。
ラニが息を吐くと、血の匂いが鼻腔を通り抜ける。カイノの目を見た時に感じた匂いと同じ匂いが抜けていく。
彼らには本の情報の更新を知覚できなかった。まだ手の中にあると考えている、感じている、見えている、触っている。しかし本はその場所をラニの手の中に変えている。彼らがその情報を理解するのは、おそらく明日だ。もし、遠い血縁にでも魔女がいるのなら日が暮れる頃には気づくかも知れないが。
ラニは全ての荷物を抱えてその場を離れる。その場に居残ろうが、立ち去ろうが、騒ぎ立てようが殴り掛かろうが、彼らはその情報を受容することができないのだが、ただ単に男たちの前にいることに気分を害するため立ち去る。どこに行くあてもないが、行くあてもないからこそ、いつもどこかに行くのがラニであった。
ご飯でも食べよう。うんと美味しいもの、血が充たせるもの。しかし、ネムロ村にそんなものはあるのだろうか。美味しいご飯が食べられる場所がわかる魔法でもあればいいのに、とラニはぼやいた。
「じゃあね」
「ああ、じゃあな」




