第二話 ポンさん
ポンは、大荷物を背負ったラニの姿を認めると、もうそんな時期か、と季節の変わり目を感じ微笑んだ。
「ポンさん、アケビあげる。山でたくさんなっていたんだ。今年は豊作だよ」
「これはまた美味しそうなものを持ってきたな」
「いいや、一番美味しそうなのは持ってきてない。一番いいものは私が食べる。ジャムにする準備だってしている」
「そいつは羨ましいな。俺が一番美味しいアケビを食べられるのはいつやら」
「ここいらにアケビはないから、ポンさんの周りだったらこれが一番美味しいアケビだよ」
「ハハッ、こいつは一本取られたかな」
ポンは目尻にあるシワを歪ませて、イガグリのように頑丈な黒髪を掻き上げた。それはとても柔らかく、秋風を含んだ。
「それで、今回は何を壊したんだ?」
「人聞きの悪い言い方はよしてくれないかな。寿命を迎えたっていってほしい」
アケビのお礼だよとポンは硬い歯を見せて笑う。
「私たちは長生きだから、どんなに道具を丁寧に使ってもすぐに壊れてしまう」
「まあいいじゃないか。こうやって、山を降りてくる理由ができる」
「でも、壊れないに越したことはない。ポンさんがいなくなったらまた直してくれる人を探さないといけなくなるし」
「やめろやめろ、俺はまだ死ぬつもりはないぞ。あと100年は生きるつもりだからな」
「すぐじゃない」
顔色を変えずに答えるラニに、ポンはこれだから魔女はよ、と呆れながらもまた笑った。
よく笑う人だ。
ラニが魔女であることを知っている人は、今生きている中ではポンだけである。少なくともラニはそう記憶している。ポンがもし誰かに言っていたならば、他の人も知っているが、それはラニの知るところではない。それに、ポンは口の硬さでは信頼のおける人であったから、そういう心配もない。
立ち話もなんだから、といつもの挨拶で、ポンはラニを店に招き入れる。
ポンは村で道具屋をしていた。もちろん新品の道具を売ることもあったが、そのほとんどは壊れてしまった農具やら家具やらを修理することばかりであった。そのため、店内に並んだ農具はうっすらと埃をかぶっている。
「ダメだよ、ちゃんと手入れをしてあげないと道具が悲しむ」
「人に振り回されないだけましだ」
「そのために生まれてきたのに」
「そいつは人が決めたことだからな。木は農具になるために生まれたわけじゃない」
農具にした責任はどこにいったのだろう、とラニは考えて言おうとしたけれどやめた。ポンに言ってもどうせまた何かを返してきて、考える羽目になるのがわかっていたからだ。無駄なわけじゃないけれど、そういう気分じゃなかっただけだ。
「どれ、見せてみろ」
ポンは、カウンターの後ろに回ると、自分で作った椅子の上に腰をかけ、短い足を組み、肘をついて、拳の指の背に顔を据えた。それがいつもの格好で、彼がそうやって座って店の風景が出来上がる。ラニは彼の一連の動きに、植物が芽吹き枯れてまた芽吹くまでの流れを見た。
「これ。調剤に使うんだ」
ラニは薬液の中に薬剤を溶かし込む、ツボ型の装置のついた調剤器具をカウンターに置いた。もっとも、壊れてしまってツボ型の部分が分離してしまっていたが。ポンはそれを初めてみた。だからラニに仕組みを尋ねてから、三日だと言った。
ラニのネムロ村滞在期間が三日に決まった。




