第三十二話 王都ライザーノ
「ラニ、あなたたちはなぜ、ライザーノにいくの?」
森を歩き出してから、メーベルは隣を歩くラニに尋ねた。ラニを挟んで向かいにいるカイノには声はおろか、目も向けなかった。
「カイノがその向こうから来たからだよ」
「へえ。じゃあライザーノを経由するわけ?」
「そうだね」
「でも多分大変よ。私も詳しくは知らないけど、出国手続きが大変だって街に来た商人が嘆いてたわ」
「そっか、じゃあ調べないとだね」
「そのあとはどうするの? 戻ってくるの?」
「それはカイノが決めることかな」
ラニはカイノの方に話の矛先を向けたが、メーベルは、そう。と言って話をやめてしまった。
彼女がカイノを避けていることは明らかだった。それから二度同じようにラニは話を仲介しようと試みたが、二度ともカイノに届く前にメーベルが立ち止まってしまったから、ラニは諦めた。
ラニは、これが自分の会話力の低さによるものなのか、メーベルの不機嫌さによるものなのか、どちらがより問題なのか見当がつかなったが、カイノには後者であることは明らかだったから、互いに申し訳ないと思い合っていた。そして互いにその感情だけは間違いなく感じ取っていた。
メーベルもまた、申し訳ないとは思っていたが、自分に感情を押さえつけるような理性がないのを知っていたから、申し訳ないとは思いつつも感情に素直でいた。それ以外の正解を知らなかったからだ。
カイノが目を覚ました日は、昼前の出立であったことと、彼の体調を気遣って、森を抜ける手前で一度夜を明かすことにした。地図上では、そこでやっとライザーノ王都の領地内に入ったことになるが、まだ半分も移動はしてなかった。
三人がライザーノ王城と、城下町を遠巻きに視認したのはそれから二日後のことだった。近づくにつれ、道を通る人と馬の数は増えていって、見えずとも王都の気配を感じていたが、いざその姿を認めると、驚きを露わにしてしまう。
要塞のように重厚な、角ばった作りをしている王城を囲うように広がる城下町の家々は、木の根のが水と栄養を探すように、土地を求めて無造作に広がっている。王都、としての境界はそれより前にある川のところで引かれているようで、仰々しい作りの石橋の前には馬車の列が並んでおり、その間を縫うように銀色の、あの目障りな光がチラチラとこちらの目を刺激している。
「やっと着いたわ」
メーベルは、はあ、と声を出してため息を漏らす。随分山を出ていなかったラニも疲れを感じていたし、唯一の男児であり若いカイノでさえ足の痛みを昨日から引きずって歩いていた。
ようやくの到着であったが、それは同時に三人の中にある不安を奥から引きずり出す。指名手配の件だ。
遠くから見たところ、検問はそこまで厳重ではないようで、馬車一台あたりに長い時間をかけている風ではなかった。大方、荷台に積まれたものと、身分を照会する程度のものだろう、ラニは思った。
一度見えた城下町だったが、その列に並ぶまでには随分とまた歩いた。そしてまだ遠くにある城を見て、この都市の大きさを実感する。
検問の待機列に並ぶ人のうち、馬車に乗っていないのはラニたち三人の他に数人見受けられたが、ほとんどは行商人で、中にはパウルアで取れたものかはわからないが鉄製品の類を載せたものもあって、馬がそれはそれは重そうに引いていた。
列に並んでしばらく、ようやく三人の順番になると、一人の好青年が三人を取り調べる。
背が高く、茶色の髪をとんがり帽子の間から覗かせた、重厚な色合いと生地感の制服に不釣り合いな顔立ちの柔らかい男だった。
「ようこそ、ライザーノ王都へ。お待たせしちゃってすいませんね」
あらすじ
検問所の治安官アナが三人を検問する。その最中一つの石がついたペンダントを取り出す。
次回更新タイトル
第三十三話 検問所と魔女




