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魔女の血  作者: 津田ナオキ
第二章 鉱山街パウルア
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第二十七話 Get out of Pawula

 宿に戻ると、ラニが珍しく心配そうな顔で事の詳細を尋ねてきた。その表情に一抹の邪心を噛み潰し、見たものをつぶさに話した。

 それを聞いて合点がいったのか、ラニはなるほど、そうか。と言って、そのままカイノに荷物を片付けるように指示をした。明日発つことにしたから、明日の朝までに荷物をまとめておいて。

 カイノはラニの急な指示に疑問を感じたが、窓の外を睨む彼女の目の鋭さが、何か考えがあってのことだとカイノに伝えていた。その日の夜はラニに早く床につくように言われ、腕の傷を処置してから二人とも酒場がまだ賑やかなうちに眠りについた。


 次の日は、雨を含ませた雨雲がしばらくは降らせないでいようと決めたらしく、ご機嫌斜めな空が遠くまで続いた。

 ラニが目を覚ますと、机の上に点々としていた荷物はすっかりなくなっており、固く閉じられた鞄がベッドのそばに置いてあった。ラニが起きると、しばらくしてカイノも目覚めた。目覚めてまもないカイノに、街を発つ前にシスターに挨拶しにいこうと提案し、まだ目覚めたばかりの街に出た。


「探してるものは見つかったのか?」

 まだ肩紐の良い位置が見つからないのか、何度も身をよじらせながらカイノは尋ねる。

「ううん。でも、ここには多分ない」

 ラニは遠くの鉱山を見据えてそう言った。


 それから教会に着くまでカイノは口を開かなかった。いや、正しくは口を開かないラニを気遣って、カイノは静かに横を歩いた。

 教会に着くまで天気は二人を気遣って雨を降らさなかったが、教会に入ると堰を切ったように雨粒を漏らし始めた。


 朝早くの来訪にもかかわらず、いつもの砕けた笑顔でシスターは二人を出迎える。カイノの背負った荷物に目をやって、「今日発つのですか?」と言って、外を見た。

「あいにくの天気ですね。どうぞ雨宿りして行ってください」

「ありがとう。あと、シスター、メーベルはいる?」

「メーベルですか? おりますよ、先程目覚めて自室におります。呼びましょうか?」

「ううん、大丈夫」


 意図のわからない質問にシスターは困惑の表情を浮かべ、それはカイノにも映る。

「お二人がここにいらっしゃるようになって、彼女も落ち着いてきましたよ。こうしてここで朝を過ごすのが当たり前になるなど、思いもしませんでした」

 シスターは、祭壇右手の扉の方に視線をやる。カイノのおかげだね。

 ラニは小さな笑みを投げかけ、カイノは照れ臭そうに、俺は何もしてない、と声色を硬くする。

 その声に応じるように奥の扉が開いて、メーベルが不機嫌な顔を覗かせる。

「メーベル、ラニさん達が出発の挨拶に来てくれましたよ」

 その言葉に彼女の緑の目が微かに揺らいだように感じたが、暗い室内ではその微かな動きを捉えることはできなかった。

「そう」


 彼女はそう素っ気なく呟いたまま開いた口で、何かをそのまま言おうとした時、全員の意識が市中に響き渡る轟音にからめとられる。


 カンカンカンカン


 鋭く早く打ち鳴らされる鐘の音は、街から離れたこの教会の中にも耳をつんざくように響く。

 徐々に早くなる鐘の音に、その場にいた全員の拍動が呼応し早まっていく。


「な、何よ!」


 いち早く声を上げたのはメーベルで、それに続くようにシスターとカイノが異音に対して反応を口にする。ラニは何も言わずに、窓際に寄り小窓から鉱山の方に視線を送る。


 土砂降りの中鐘の音を響かせる街は、今にも混乱を産み落とそうとして泣き叫んでいるような狂気と不穏さを孕んでいた。すぐそばに歩み寄ったシスターがラニに告げる。

「この鐘の音は鉱山で何か事故が起きたことを意味するものです」

「そう、やっぱり。シスター、メーベルを奥に隠して」

「もしかして、メーベルが?」

「ううん。でも、街の人がそれを落ち着いて聞いてくれるかわからない」

「わ、わかりました。メーベル、着いてきなさい」

 シスターは困惑しているメーベルを呼びつけると、そのまま手を引いて奥に連れて行った。


「ラニ、これってもしかして」

 カイノもラニと同じ推測をしているようで、「うん、昨日のことだろうね。杞憂に過ぎればいいと思っていたけれど」ラニの続けた言葉に、カイノは昨日の夜からの行動は、彼女がこの事態を予期してのことであったのだと初めて理解するとともに、彼女の洞察力に驚嘆の意を漏らす。

「よくわかったな」

「昨日、カイノが帰り着く前に誰かが魔法を使ったのを感じた。おそらくこれはその人の仕業だろうね」


「てことは、事故じゃないのか?」

「うん、人為的なもの。おそらくは、この鉱山を止めるための工作か何か」

「誰がそんなことを……」

「分からない。多分外の人間じゃないかな」


 そして何より厄介なのが、とラニは続けた。

「まず間違いなく、この事態を引き起こした犯人としてメーベルの名前が上がる」

 ラニの言葉を受けて、カイノはしばらく考えた。

 鉱山の事故が起きて、犯人を断定するまでの流れを何度も頭の中で繰り返し、その回数だけメーベルが犯人だと断定されるであろう事態に納得させられた。


「メーベルははやってない!」

「うん、わかってる。これはおそらく魔女仕業だ、それか技巧師。でもね、もう時期街の人たちがここに来ると思う。彼らはそれを聞かないだろうね。だから、相手、お願いしてもいい?」


 私よりもきっと得意だから、とラニはカイノの肩を叩く。

ラニに頼られた。カイノの顔に浮かんでいた不安は、それだけで消えてしまった。

「ああ、任せて」

「私がなんとかする方法を考える。だからそれまで時間を稼いでほしい」

「おう!」

あらすじ

間も無く、街の人々が教会の前に大きな影をつくる。

その真ん中に立っていたのは、デンダだった。

次回更新タイトル

第二十八話 カイノ、覚醒 前編

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