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魔女の血  作者: 津田ナオキ
第二章 鉱山街パウルア
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第二十話 少女、メーベル

 まだ夕刻の鐘が鳴るには少し早い頃だというのに、街には坑夫らしき男たちが散見された。中には簡易な甲冑を身につけている騎士の姿もあった。そしておしなべて皆忙しなく動き回っている。

 おい、あっちに行ったぞ、すばしっこいやつだ、今度こそ捕まえてやるぞ、と何かを探している様子であった。

 ラニにはその要因に思い当たる節があったが、カイノにはなかった。だからカイノがそれを口にしようとした時、目の前に要因が現れた。


「少し隠して!」

「ちょ、お、おい!」


 茶色い髪を三つ編みで二つ下げた緑目の少女が二人の前に現れた。そのそばかすの少女はカイノから外套をひったくると、それをすっぽりとかぶり二人の間で静かになった。


「おい、お前、何してんの? というか返せよ」


 カイノが声を荒げるが少女は死んだように静かである。ラニは、「メーベル」と思い当たる名前を漏らした。昨日に二人の鉱夫、もう名前を忘れたヒゲの鉱夫が言っていた少女である。

「え、こいつ、ラニ知ってんの?」

「多分。君がメーベル?」


 ラニは身を屈めて外套の中の彼女を覗き込む。頬をつり上げ、犬歯を覗かせ、まるで追い詰められた猫のように彼女は威嚇する。その表情は肯定を表していた。

「お、おい、それ返せって。ていうか、なんで隠れてんだよ」

 カイノは、彼女の小さい手で強いしわが寄るほどに握られた外套を引き剥がそうとする。しかし驚くことに、彼女の手からそれを取り返すことが叶わなかった。


「さっきからうるさいわね、猿顔! 呼び捨てにしないで」


 少女は年相応の甲高い声で叫ぶ。カイノはそれに当てられて表情を強める。


「さ、猿顔?! そっちこそ返せよ盗賊女!」

「懐の小さい男はモテないわよ!」


 少女は右手を振り上げると、そのままカイノの頬を引っ掻いた。本当に猫のようだなとラニは思った。

 痛みと衝撃と驚きでカイノはしりもちをつく。


 一連の行動が周囲の注意を引き、人混みの中の鉱夫の一人が「いたぞ!」と叫ぶと、少女はカイノの外套を被ったまま立ち去る。立ち去り際「軟弱者もね!」とカイノに吐き捨てて、人混みの中に消えていった。

 どうりで探すのが大変なわけだ、とラニは彼女の俊敏性に驚嘆した。


 尻餅をついたまま立ち上がらないカイノに、立った方がいい、汚れるよ、とラニはいった。彼は大通りの泥の上に尻餅をついていた。彼女の言葉に我に帰ると彼は素早く立ち上がって、泥まみれになった尻の部分を首を回してみた。地面には彼の尻の跡がくっきり残っていた。

「なんだよあいつ、ていうか俺の服とられたんだけど。気に入ってたんだけどな」

「彼女が捕まれば、戻ってくるよ」

 今度は誰から見てもわかるように彼は眉を落とした。


 彼の頬には三本の赤い筋が残っており、その真ん中の一本が傷となりそこから血が滲み出ていた。ラニはカバンから適当な布を引っ張り出して彼の頬に当てる。

「帰って傷の手当てしよう、洗濯もしないと」

 するとカイノはラニからその布を奪い取ると、一歩距離をとって自分でできる、と恥じらいを浮かべながら言った。


「そうだね、強くなろうか」

「う、うるせえ!」


 これが彼の初めての同年代、見た目と精神年齢においてだが、同年代の異性との出会いであった。だから、帰るまで彼は口を開かなかった。

あらすじ 

宿につくと、ラニは約束をしていた通り一冊の古い本を取り出す。

次回更新タイトル

第二十一話 魔法の勉強

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