第九話:崩れ落ちる高壁
第九話「崩れ落ちる高壁」をお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、工場での戦いと王都での出来事が同時に大きく動き始めます。
そしてついに、これまで「壁の外」で起きていた出来事が、「壁の内側」にいる人々の目の前へと突きつけられることになります。
レノが初めて目にする王都の光景。
そして、そこで彼が目にした「人間の違い」。
さらに、ワットドとの戦いもついに王都の中へ——。
ここから物語は、さらに大きく動いていきます。
ぜひ最後までお楽しみください!
(森の外——工場外門前)
ザザ……ザザ……ザザ……
突然、通信機から声が聞こえてきた。
「ヨギさん! 聞こえますか!?」
ヨギは慌てて手に持った通信機へ目を向ける。
「マンディ?! お前たち、全員無事なのか!?」
「うん……今のところは大丈夫! でも——ああっ!!!」
ドォォォン——!!
通信機の向こうから、突然凄まじい爆発音が響き渡った。
ヨギの顔色が変わる。
「マンディ?!」
「ヨギさん……よく聞いて!」
マンディは荒い息を吐きながら叫ぶ。
「ここの状況は……私たちが想像していたより、ずっとひどい!」
ヨギは眉をひそめる。
「一体、何が起きてる!?」
「地下施設を見つけたの……」
マンディが一瞬言葉を止める。
「そこには……たくさんの人が閉じ込められてる!」
ヨギの瞳がわずかに揺れた。
「何……?」
「どうやら、あの人たちは……血魔剤を作るための原料だけじゃない……」
「同時に……改造されるための素材でもあるみたい!」
ドォォォン——!!!
再び、通信機の向こうから轟音が響く。
その直後——
怪物のような咆哮が聞こえた。
マンディは歯を食いしばる。
すると、通信機の向こうからマジェシの声が響いた。
「ヨギ! そっちも遭遇したんだろ!?」
「あの『怪物』たちに!」
ヨギは答えなかった。
ただ、ゆっくりと顔を上げる。
そして——
目の前に広がる光景を睨みつけた。
「この怪物たちは……」
「ヨギさん!」
通信機からマンディの焦った声が響く。
「私たちは今、あの人たちを外へ連れ出してる! でも……カエサルがまだ後ろに残ってる!」
ヨギがハッとする。
「カエサル?」
「そう……」
マンディの声が一瞬途切れる。
遠くから、再び轟音が響いた。
「私たちが逃げる時間を……カエサルが稼いでくれてる!」
ヨギは黙り込んだ。
目の前では、次々と人造の魔鬼が工場から溢れ出している。
ヨギは勢いよく振り返った。
「全員、聞け!」
先ほどまで混乱していた革命軍が、一瞬で静まり返る。
全員の視線がヨギへ集まった。
ヨギは工場から次々と現れる人造の魔鬼を見つめる。
そして、低い声で言った。
「今はまず……中にいる人たちを救い出す!」
全員が息を呑む。
「中にあと何人残っていようが……」
ヨギは拳を強く握りしめた。
「一人でも多く救うんだ!」
「そのために、時間を稼ぐ!」
ヨギは工場を指差す。
「まだ避難できていない人がいる限り……」
「絶対に、こいつらを突破させるな!」
「はい!!」
革命軍の仲間たちは、すぐさま動き始めた。
ヨギの目つきが、さらに鋭くなる。
「全員が外へ避難したら——」
一瞬の間。
「ここを……」
「完全に破壊する!」
「この工場にあるもの、すべて——」
「跡形もなく、ぶっ壊す!!!」
「おおおおおおお!!!」
革命軍と人造の魔鬼が——
ついに激突した!
(そして同時刻——工場最深部)
カエサルは、今も一人で通路の中央に立っていた。
彼の背後には、避難していく人々。
そして彼の前には——
数体の人造の魔鬼が迫っている。
カエサルは口元の血を拭い、斧を強く握りしめた。
「……まだ終わっちゃいねぇ!」
ドォォォン————!!
(壁内——王都街道)
ドォォォン————!!
巨大な雷光が、城壁を勢いよく突き破った!
瓦礫と煙が、一瞬にして街道全体へと広がっていく。
「うわあああああ!!」
「逃げろぉ!!」
「あれは何だ!?」
街を歩いていた人々は、一斉に混乱へ陥った。
そして——
煙の中から、レノが地面へ激しく叩き落とされる。
「ゴホッ……ゴホゴホ……」
レノは地面に手をつき、苦しそうに身体を起こした。
全身を包んでいた雷光は、弱々しく明滅している。
レノはゆっくりと顔を上げた。
目の前に広がっていたのは——
彼が今まで見たことのない光景だった。
綺麗に整備された街道。
華やかな建物。
きちんとした服を着た人々。
壁の外で、すでに戦場と化している世界とは——
まるで別世界だった。
「……ここ……どこだ……?」
(数分前——壁外・闘技場周辺)
ドォォォン————!!
戦場を、凄まじい雷光が駆け巡る!
レノの姿が、一筋の黄色い雷へと変わり——
ワットドの周囲を高速で駆け抜けていく。
左。
右。
そして——上空。
「遅い!」
レノは一瞬で方向を変える。
シュッ——!!
その姿が、ワットドの視界から消えた。
ワットドの両目が鋭く細められる。
だが、警戒を緩めることはなかった。
次の瞬間——
レノはすでにワットドの腹部へ回り込んでいた。
「捕まえた!」
雷光が右拳へ一気に集中する。
「雷神槍!!」
ドォォォン————!!
雷を纏った拳が、ワットドの腹部へ凄まじい勢いで叩き込まれた!
巨大な衝撃波が、一瞬で炸裂する!
しかし——
「……何?」
レノの瞳が大きく見開かれる。
ワットドの身体は——
ほんのわずかに揺れただけだった。
龍鱗には傷一つない。
ひびすら入っていない。
「チッ……」
レノは素早く後退する。
その瞬間——
ゴォォォッ——!!
巨大な龍の翼が大きく羽ばたいた!
凄まじい突風が戦場全体を吹き荒れる。
レノの身体が、強引に押し戻される。
「こいつ……」
ワットドが巨大な口を開く。
次の瞬間——
ドォォォン————!!
灼熱の炎が、一気に吐き出された!
レノは咄嗟に身体を横へ捻る。
炎が身体を掠め、そのまま後方へ突き進む。
ドォォォン——!!
地面が一瞬で吹き飛んだ!
レノは地面を蹴る。
シュッ——!!
再び雷光となって突進する!
しかし——
ワットドが勢いよく振り返った。
巨大な龍翼が再び振り抜かれる。
同時に——
ドォォォン————!!
二発目の炎が口から放たれた!
レノは身体を翻し、紙一重でかわす。
ドォォン——!!
続けざまに炎が戦場を薙ぎ払う。
レノは再び回避する。
ドォォン——!!
さらに一発。
次々と放たれる炎。
戦場全体が、炎と煙に包まれていく。
その中を、レノは高速で駆け抜けていた。
「一体……どうなってる……」
レノは突然、足を止めた。
そして目の前のワットドを睨みつける。
「さっきの一撃……俺の全力だったんだぞ!」
拳が小さく震える。
雷光が再び拳へ集まり始める。
「まさか……」
「龍鱗すら……貫けないなんて……」
ワットドは答えない。
ただ、ゆっくりと巨大な龍の爪を持ち上げる。
その赤い瞳は——
今もレノだけを見据えている。
怒りもない。
焦りもない。
そして——
一切の油断もない。
「……」
レノは歯を食いしばる。
次の瞬間——
シュッ——!!
再び突撃する!
「正面から無理なら……」
レノは一瞬でワットドの背後へ回り込む。
雷光が激しく集束していく。
「後ろからならどうだ!!」
しかし、その瞬間——
ワットドが勢いよく振り返った!
「な——」
レノの瞳が大きく見開かれる。
巨大な龍爪が、すでに目の前まで迫っていた。
ドォォォン————!!
「うわああああああ!!」
レノの身体が龍爪によって猛烈に吹き飛ばされる!
凄まじい力によって、彼の身体は砲弾のように弾き飛ばされた。
ドン! ドン! ドン!!
地面が次々と砕け散る。
「ぐはっ!!」
レノには身体を立て直す時間すらなかった。
「まだ終わってねぇ——!」
ワットドが大きく翼を羽ばたかせる。
ドォォォン————!!
巨大な身体が一瞬でレノへ追いついた。
龍爪が再び振り下ろされる!
レノは咄嗟に両腕を上げて防御するしかなかった。
ドォォォン————!!
凄まじい衝撃が炸裂する!
レノの身体が、そのまま吹き飛ばされる。
口から血が噴き出した。
「うああああああ——!!」
ドォォォォォン————!!
巨大な城壁に、凄まじい亀裂が走った!
そして次の瞬間——
ゴゴゴゴゴゴゴゴ——!!
レノの身体が、そのまま城壁を突き破った。
大量の瓦礫と煙が空高く舞い上がる。
一方、ワットドは城壁の外で停止した。
巨大な龍翼をゆっくりと広げる。
そして——
自分が王都へ叩き込んだレノを見つめる。
「グオオオオオオ——!!」
(現在——)
しかし——
何が起きたのかを知る者は、誰もいなかった。
人々はただ、恐怖に駆られて逃げ惑っている。
「何が起きたんだ!?」
「城壁がどうして破壊された?!」
「王都軍はどこだ!?」
「早く王都軍へ知らせろ!」
レノはゆっくりと立ち上がる。
その時——
「待って!」
聞き覚えのある声が響いた。
レノが振り返る。
そこには——
アイヴェルが、ボロボロになった人々を連れて城門の方から走り込んできていた。
彼女の機械の腕には、戦闘による傷跡がいくつも刻まれている。
そしてその後ろには——
ぼろぼろの服を着た奴隷たち。
中にはまだ手枷を付けた者もいる。
立っていることすらできず、互いに支え合っている者もいた。
「早く! 全員、中へ!」
アイヴェルが叫ぶ。
「止まらないで!」
奴隷たちは必死に走る。
そして——
彼らが本当に壁の内側へ足を踏み入れた瞬間。
街にいた人々が、次第に静まり返っていった。
先ほどまで騒がしかった街道には——
荒い息遣いだけが残る。
何人かの身なりの良い貴族が、眉をひそめた。
「……奴隷?」
「どうして奴隷がここにいる?」
「王都軍は一体何をしているんだ?」
アイヴェルが振り返る。
息を切らしながら、街道の両側に立つ人々を見る。
「待って……話を聞いて! この人たちは——」
「さっさと失せろ!」
冷たく刺すような声が、彼女の言葉を遮った。
アイヴェルは呆然とする。
「……え?」
その貴族は、彼女のことすら見ようとしない。
ただ、彼女の後ろにいる人々を嫌悪するように睨みつける。
「ここはお前たちが来るような場所じゃない!」
アイヴェルの瞳がわずかに揺れる。
「でも、この人たちは——」
「この人たち?」
貴族が鼻で笑った。
「奴隷を引き連れて王都へ押し入っておいて……」
「まだ俺たちに話を聞けと言うのか?」
「……」
アイヴェルはその場に立ち尽くした。
言おうとしていた言葉が——
すべて喉につかえてしまう。
貴族は手を上げる。
そして、彼女の後ろにいる、ぼろぼろで傷だらけの奴隷たちを指差した。
「自分たちの姿を見てみろ!」
「街を汚すだけじゃないか!」
「市民まで怯えさせている!」
「そのうえ、俺たちにこの馬鹿騒ぎの後始末までさせるつもりか!?」
人々の中で、一人の救出された奴隷がゆっくりと俯いた。
誰かが震え始める。
誰かが隣にいる仲間の手を強く握る。
アイヴェルは歯を食いしばった。
「あなたたちは……一体何を言ってるの……」
その声は、とても小さかった。
「この人たちは……ただ、生きたかっただけなのに!」
貴族は一瞬、黙り込んだ。
そして——
「だから、どうした?」
アイヴェルは完全に言葉を失った。
街道にいた人々も、誰一人として立ち上がろうとはしなかった。
誰も彼らの味方をしない。
誰も貴族へ問いたださない。
誰も——
城壁の外で何が起きているのかを気にしない。
まるで目の前にいるこの人々が——
最初から、声を聞く価値すらない存在であるかのように。
レノは、少し離れた場所に立ったまま——
何も言わなかった。
彼は奴隷たちを見つめる。
そして、遠くに立つ、華やかな服を着た人々へ視線を向ける。
その中の一人。
恐怖に怯えた子供が、母親の服を強く握りしめていた。
そして、その小さな足には——
まだ鉄の足枷が付けられている。
レノの瞳が、わずかに揺れた。
彼はふと、壁の外で倒れていった人々を思い出した。
今も戦っている人々。
必死に生きようとしている人々。
そして、もう一度目の前を見る。
『同じ人間なのに……』
『どうして……』
『ただ生まれた場所が違うだけで——』
『生きる権利すら……与えられないんだ?』
「……」
レノはゆっくりと俯く。
拳が、少しずつ強く握り締められていく。
その時——
空から、巨大な風切り音が響いた。
「グオオオオオオ——!!」
全員が一斉に空を見上げる。
城壁の外から——
巨大な黒い影が飛び込んできた!
「な……なんだ、あれは!?」
「怪物?!」
「逃げろおおおおお!!」
巨大な龍翼が空を覆い尽くす。
ワットドが翼を大きく広げ——
そのまま王都の中へ突入してきた!
「グオオオオオオオオ!!」
ドォォォン——!!
巨大な身体が、街道の反対側へ激しく着地する!
口元から、炎がゆっくりと漏れ出している。
街全体が——
一瞬で静寂に包まれた。
次の瞬間——
「ほ……炎を吐く龍だ?!」
「怪物だ! 逃げろおおお!!」
「早く逃げろおおおお!!」
「助けてくれぇぇぇ!!!」
「くそっ! 王都軍は一体何をしてるんだ!?」
人々は完全に恐慌状態へ陥った。
そして——
レノはゆっくりと顔を上げる。
遠くに立つ——
巨大な龍を見つめる。
ワットドがゆっくりと龍の頭を持ち上げる。
その真紅の瞳が——
一瞬でレノを捉えた。
「見つけたぞ……特級素材!」
レノの身体を包む雷光が——
再び輝き始める。
『本当の災厄は、今始まったばかりだ。』
第九話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回はかなり重要な回になりました。
これまで壁の外で繰り広げられていた戦いが、ついに王都の中へと入り込んできました。
そしてレノが初めて目にした、壁の内側の世界。
一見すると平和で豊かに見える王都ですが、その裏側には大きな格差が存在しています。
奴隷たちが必死に生きようとしている一方で、彼らを「自分たちとは違う存在」として扱う人々。
レノがこの光景を見て何を思ったのか。
ここは今後の物語にも大きく関わってくる部分です。
そして最後には、ついにワットドまでもが王都へ侵入。
次回は、この王都でさらに大きな戦いが始まります。
果たしてレノたちは、この状況をどう切り抜けるのか。
次回もぜひお楽しみに!
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!




