第四話:王座の下
王国を蝕んでいた血魔剤。
地下闘技場で繰り返される殺戮。
そして、すべての裏側で暗躍する男――帝牙。
一方、炎恩たちはかつての王・戴豪から、葛羅波美地で起きた二年前の出来事を聞かされる。
王座を巡る兄弟の確執。
王国を利用した帝牙の策略。
そして、地下に隠された恐るべき真実。
やがて全国放送によって、飛龍騎士団は「敵」として宣告される。
王座の上に立つ者。
王座の下で蠢く者。
その国を支配しているのは――一体、誰なのか。
「何だって……? あなたが……かつての国王……? おい! 一体どういうことなんだ?!」
炎恩は、信じられないといった表情を浮かべる。
「そうだ……! 聞き間違いではない!」
老人がゆっくりと口を開く。
その隣では、戴豪が黙り込んでいた。
「我々が待ち続けた、その日がついに来た……。あとは……すべてを頼む!」
「何だよ……? 今、一体どういう状況なんだよ! 誰か俺に説明してくれ!」
炎恩は困惑しながら、老人の両肩を掴んだ。
すると――
戴豪がゆっくりと歩み寄ってきた。
⸻
(場面は地下闘技場へ――)
観客たちは、相変わらず歓声を上げていた。
闘技場の舞台では、人生を変えるために挑戦者たちが命を懸けて戦い続けている。
その瞬間――
柵の入口から、突然、炎が噴き上がった。
ドォォォン――!!!
凄まじい爆発音が闘技場全体に響き渡る。
大量の煙が入口から吹き出し、その中から一つの人影が吹き飛ばされてきた。
そして――
爆煙の向こうから姿を現したのは、大量の改造魔鬼兵団だった。
凄まじい衝撃に観客たちは次々と地面へ叩き倒される。
戦っていた挑戦者たちも、この隙に慌てて逃げ出していく。
やがて観客たちが立ち上がり、舞台へ目を向ける。
「これは……?」
「最新のショーか?」
次の瞬間――
闘技場全体から、大きな歓声が巻き起こった。
煙が晴れる。
その中から――
レノがゆっくりと歩いてくる。
「やっぱり……なかなか手強いな……」
レノは口元に流れた血を拭う。
そして――
全身から、先ほどとは比べ物にならないほど強烈な電撃が迸る。
その眼には、恐怖など一切なかった。
「そっちこそ……大人しく言うことを聞けばいいのに!」
そう言い放ったのは――
手に鞭を握り、看守のような服装に身を包んだ一人の女。
九條荊。
次の瞬間――
黄色い雷光が一気に駆け抜ける!
炎を纏った稲妻のように、レノは魔鬼兵団の間を縦横無尽に駆け回る。
一撃。
二撃。
拳。
蹴り。
凄まじい速度と威力の連撃が、改造魔鬼たちを次々と吹き飛ばしていく。
それを見た観客たちは――
さらに興奮した。
「すげぇぇぇ!!」
「もっとやれ!!」
「殺せぇぇぇ!!」
歓声と拍手が闘技場を包み込む。
その一方で、荊は鞭を振るい続ける。
その背後から、さらに大量の魔鬼たちが現れる。
「……やっぱり、あの女が操っているのか……」
レノは高速で移動しながら、冷静に状況を分析する。
「もしあの鞭に当たったら……厄介だな……!」
【人物・能力紹介】
九條荊。
能力――「支配」。
手にした鞭を非人間の生命体――動物や、完全に魔鬼化した存在などに命中させることで、その対象を支配することができる。
支配できる時間は、およそ五分。
ただし、同時に操る生物が多くなるほど、使用者の体力を大きく消耗する。
⸻
「逃げるなぁぁぁ!!」
荊は何度も鞭を振るう。
そして――
手元のスイッチを押した。
改造魔鬼たちの背中に取り付けられた血魔剤の装置が作動する。
ブシュッ――!
強制的に血魔剤が注入される。
「グオオオオオオオオ!!!」
魔鬼たちは一斉に咆哮を上げた。
その身体はさらに膨張し、理性を失ったかのように凶暴化する。
そして――
一斉にレノへ襲い掛かった!
「くっ……!」
激しい衝撃波が周囲へ広がり、観客席まで吹き飛ばす。
「な、何だ……!?」
「これ……本当にショーなのか!?」
「逃げろ!!」
ようやく観客たちは異変に気付いた。
一斉に出口へ向かって走り出す。
しかし――
ガシャン!!!
突然、巨大な柵が次々と降りてくる。
すべての出入口が完全に封鎖された。
「逃げる?」
荊は口元を歪める。
「これ……あなたたちが見たかったんでしょう?」
そして――
病的な笑みを浮かべる。
「せっかくお金を払って入ったんだから……」
「最後まで、ゆっくり楽しんでいってよ!」
「アハハハハハハハハハ!!!」
その狂った笑い声が、闘技場全体に響き渡った。
⸻
レノは再び高速で駆ける。
迫り来る魔鬼たちの攻撃を次々と回避し、わずかな隙を見つけて反撃する。
両手から大量の電撃が迸る。
やがてそれは一本の巨大な雷の槍へと収束していく。
「はぁぁぁぁっ!!」
雷槍が一直線に放たれ、魔鬼たちを次々と貫いていく。
一体。
また一体。
改造魔鬼たちが次々と倒れていく。
しかし――
荊はさらに魔鬼を呼び出していく。
「行け! 行け! 行けぇぇぇ!!」
「役立たずどもがぁぁぁ!!」
レノはその光景を見ながら――
ふと、ある考えに辿り着いた。
「……そうか。」
そして――
足を止める。
全身に、凄まじい電気が集まり始める。
バチバチバチバチッ!!!
周囲にまで電撃が広がっていく。
レノは低く身を沈め――
まるで獲物へ飛び掛かる獣のように、構えた。
次の瞬間――
ドンッ!!!
「……え?」
荊が瞬きをした、その一瞬。
レノは――
すでに目の前にいた。
「賊を捕らえるなら……まず頭を討つ!」
「なっ――!?」
荊は慌てて鞭を振るう。
しかし――
遅い。
レノは一切の隙を与えない。
「轟雷波――連打ッ!!!」
ドドドドドドドドドッ!!!
雷鳴のような拳が、嵐のように荊の身体へ叩き込まれていく。
一撃。
二撃。
三撃。
無数の雷撃を纏った拳が、容赦なく彼女を打ち抜く。
「ぐ……あ……っ!」
身体が麻痺し、荊はその場へ崩れ落ちた。
そして――
彼女が意識を失った瞬間。
「グオオオオオオオオ!!!」
魔鬼たちを支配していた力が消えた。
「……え?」
次の瞬間――
改造魔鬼たちは完全に制御を失った。
敵も味方も関係なく、周囲にいるすべてのものへ襲い掛かっていく。
兵士たちも。
観客たちも。
そして――
自分たちを操っていた荊までも。
「ちょ、ちょっと待って……!」
荊は必死に立ち上がろうとする。
しかし、その目の前に――
巨大な改造魔鬼が立ちはだかった。
「ひっ……!」
身体が震える。
「ま、待って! 私は……!」
「あなたたちの……主人でしょう!?」
ドォォォン!!!
⸻
制御を失った改造魔鬼たちは止まらない。
闘技場を縦横無尽に駆け回り、建物を破壊しながら暴れ続ける。
「助けてぇぇぇぇ!!!」
「扉が開かない!!」
「どけぇぇぇ!!」
「早く逃げろ!!!」
つい先ほどまで歓声に包まれていた闘技場は――
今や、地獄そのものと化していた。
人々は理性を失ったかのように、出口へ殺到する。
しかし――
ドンッ!!!
巨大な魔鬼の拳が、人の群れへ叩き込まれた。
鮮血が観客席へ飛び散る。
「……え?」
一人の男が、呆然とした表情で自分の頬に付着した血を見る。
身体が完全に固まっていた。
ほんの数分前まで――
彼は興奮しながら、手にした賭け券を掲げていた。
「そいつを殺せぇぇ!!」
「もう一回だ!!」
「賭けるぞ! 賭けるぞ!!」
「もっと上乗せしろ!!」
その声は今――
すべて悲鳴へと変わっていた。
「嫌だ……」
「死にたくない……」
「誰か……助けてくれ!!!」
レノが足を止める。
振り返ると――
一人の観客が倒れたまま、必死にレノのズボンを掴んでいた。
「頼む……」
「俺を……助けてくれ……!」
レノは黙って男を見下ろす。
男は震えながら、闘技場の中を指差した。
「あ、あの怪物たち……!」
「お前……あいつらに勝てるんだろ……?」
「だったら……俺たちを助けてくれよ……!」
レノはしばらく黙っていた。
そして――
ゆっくりと闘技場全体を見渡す。
脳裏に浮かんだのは――
先ほどまで内部に閉じ込められていた人々。
無理やり戦わされていた奴隷たち。
そして今――
自分の目の前で逃げ惑っている人々。
つい数分前まで――
彼らの死を、楽しそうに眺めていた人々。
レノは拳を強く握り締める。
「……俺は……」
一瞬、言葉を止める。
「助けられる人は……助ける。」
男の手を、自分の身体からゆっくりと引き剥がす。
「……でも、全員じゃない。」
「……え?」
レノは背を向ける。
「お前たちは……ここがどんな場所なのか、最初から知っていたはずだ。」
男は何も言えない。
「……ただ、自分の身に死が降りかかるまでは……」
レノは一瞬だけ立ち止まる。
「それが……『他人のこと』だと思っていたんだろ。」
そう言い残し――
レノは振り返ることなく、闘技場の奥へと走っていった。
その背後では――
再び、無数の悲鳴が闘技場全体に響き渡っていた。
⸻
「そっちはどうなってる?」
レノは通信機を取り出し、アイヴェルへ連絡する。
「こっちは……あなたのおかげで、あのデカい化け物たちを外へ誘導できたわ……」
アイヴェルは、倒れた兵士の身体に腰を下ろしていた。
その周囲には――
解放された奴隷たち。
「……閉じ込められていた人たちは、全員解放した。」
「よし……!」
レノは頷く。
「今は……まず、みんなをここから逃がすことが先だ!」
⸻
(場面は東北部の森と工場へ――)
「逃がすなぁぁぁ!!」
森の中。
王都から派遣された兵士たちと、マジェシー、カエサル、マンディが激しく交戦していた。
「撃てぇぇぇ!!」
周囲から大量のロケット弾が飛来する。
その瞬間――
カエサルが能力を発動した。
両腕、そして胸部へ紋様が浮かび上がる。
それは徐々に全身を覆い――
巨大な鎧へと変化していく。
ドォォォン!!!
ロケット弾が直撃する。
しかし――
カエサルはその場で攻撃を受け止めた。
【人物・能力紹介】
カエサル。
能力――「鎧」。
身体の一部を極めて硬い鎧へと変化させ、最終的には全身を鎧で覆うことができる。
ただし、鎧が硬くなればなるほど、身体への負担と体力の消耗も大きくなる。
カエサルは背中から巨大な斧を取り出す。
「俺についてこい!!」
そして――
敵陣へ突撃した。
一方、マジェシーは突然マントを翻し、懐から短剣を取り出す。
銃弾を軽やかにかわしながら、木々の間を飛び回る。
そして一瞬の隙を突き――
一人の兵士へ飛び掛かった。
「ぐあっ!」
一瞬で懐へ入り込み、流れるような近接格闘を繰り出す。
急所へ正確に攻撃を叩き込み、兵士を倒す。
そのまま敵の銃を奪い――
「……!」
敵へ向けて一斉射撃。
「す、すごい……!」
マンディは目を輝かせる。
「私と同じで能力を持っていないのに……あんなに凄い戦い方ができるなんて!」
「見惚れてる場合じゃない!」
その瞬間――
マジェシーがマンディの目の前へ瞬時に移動した。
「危ない!」
マジェシーはマンディを抱き寄せ、そのまま大量の銃弾をかわす。
二人はそのまま遮蔽物の裏へ滑り込んだ。
「マジェシーさん……!」
マンディは強い眼差しで彼女を見る。
「私も……いつかマジェシーさんみたいに強くなりたい!」
マジェシーは一瞬だけ呆れた顔をする。
「……はぁ。」
そして――
小さく笑った。
「それ、もう三年も聞いてるんだけど?」
「……えへへ。」
「でも……答えはいつも同じ。」
マジェシーはマンディの肩へ手を置く。
「――あなたなら、できる。」
マンディの瞳が輝く。
「……はい!」
マジェシーは周囲を確認する。
「いい? 次は――」
二人はタイミングを見計らう。
次の瞬間――
ドォォォン!!!
遮蔽物が爆発する。
二人は同時に飛び出し、攻撃をかわす。
マンディは二丁の銃を構える。
そして特殊なレーザーゴーグルを装着。
「ターゲット……ロック!」
森の木々に隠れていた敵兵を正確に捉え――
「撃つ!」
バンッ! バンッ! バンッ!
銃弾が敵を次々と撃ち抜いていく。
一方、マジェシーは敵兵からロケットランチャーを奪い取る。
「これ、借りるわ!」
そして――
敵陣へ向けて、容赦なく砲撃を開始した。
その瞬間――
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――!!!
「……地震!?」
カエサルが異変に気付く。
大地が激しく揺れ始めた。
「な、何だ……!?」
次の瞬間――
地面に巨大な亀裂が走る。
ズズズズズ……!
木々の根が地面から一気に突き出し、巨大な岩が次々とせり上がる。
そして――
森の外周全体が、巨大な岩壁によって完全に囲まれた。
「これは……一体……?」
カエサルは必死に身体を支える。
すると――
目の前に、一人の人影が現れた。
その人物は――
手を大地へ触れている。
「まさか……あいつも魔鬼能力者なのか……?」
カエサルは驚愕する。
「まずい……!」
マンディが周囲をスキャンする。
「私たち……完全に包囲されてる!」
「……あれは……何?」
マジェシーが空を見上げる。
そして――
三人の頭上に――
巨大な黒い影が広がっていった。
空も。
大地も。
すべてを覆い尽くすほどの――
巨大な影が。
⸻
(場面は山洞の内部へ――)
「おい! 爺さん! ちゃんと説明してくれよ!」
炎恩が老人の肩を揺さぶる。
周囲の人々が必死に止めようとする。
「炎恩、落ち着け!」
その時――
戴豪がゆっくりと歩いてきた。
「……二年前。」
炎恩が動きを止める。
振り返る。
戴豪は静かに口を開いた。
「この国は……こんな国ではなかった。」
「二年前……葛羅波美地は、まだ平和だった。」
炎恩は黙って話を聞く。
「すべての始まりは……」
戴豪は拳を握る。
「『帝牙』という男だった。」
「……帝牙?」
炎恩はゆっくりと腰を下ろす。
「詳しく……聞かせてもらえますか?」
老人は小さく息を吐いた。
「我々にも……責任があった。」
炎恩は唾を飲み込む。
そして――
戴豪は、過去を語り始めた。
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(回想――二年前)
「グロボメディ――王都」
太陽の光が王都を照らしている。
大通りでは人々が行き交い、商人たちは声を張り上げ、子供たちは街中を走り回っていた。
今の葛羅波美地とは違う。
かつてこの国には――
笑顔が溢れていた。
⸻
城の中。
「兄上……最近、この国はますます良くなっているようですね。」
窓辺に立ち、街を見下ろす一人の男。
彼は当時の王子の一人。
戴豪の弟――戴維。
「そうだな……」
戴豪は王座に座り、手にした国家報告書へ目を通している。
「葛羅波美地が、この平和をいつまでも守っていけるように――」
「我々王族が、民を守らなければならない。」
弟はしばらく黙っていた。
そして――
「……兄上。」
「ん?」
戴豪が振り返る。
「もし……いつか。」
戴維は静かに口を開く。
「俺も……王になりたいと言ったら?」
戴豪は一瞬、驚いた。
しかし――
「ははは……お前は昔から変わらないな。」
戴豪は笑った。
「王座は、俺たち兄弟が奪い合うためのものじゃない。」
「民が幸せに暮らせるなら……」
「誰が王になったって、同じじゃないか?」
戴維は俯く。
「……そう……ですか。」
彼の顔に笑みが浮かぶ。
しかし――
その笑顔の奥には。
別の感情が隠されていた。
⸻
(数ヶ月後――城・王都)
王座の前。
戴豪は正式に王冠を戴く。
「今日この日より――」
「私は葛羅波美地の国王として、この国土と――」
「すべての民を守ることを誓う!」
「うおおおおおおおおお!!!」
城の外から、人々の歓声が響き渡る。
戴豪は王座の前に立ち、民からの祝福を受けていた。
その群衆の中で――
戴維はただ静かに立っていた。
彼の視線は――
王冠から離れない。
「戴維?」
戴豪が振り返る。
「どうした?」
「何でもありません!」
戴維は顔を上げ、笑顔を作る。
「兄上……ご即位、おめでとうございます!」
「ははは! ありがとう!」
戴豪は歩み寄り、戴維の肩を叩く。
「これからも、一緒に頑張ろう!」
戴維は俯いた。
「……はい。」
しかし――
戴豪が背を向けた瞬間。
戴維の笑顔は消えた。
「一緒に頑張ろう……?」
「ふっ……」
「王座は……一つしかない。」
⸻
(数日後――)
城・会議室。
数名の貴族たちが、国の未来について話し合っていた。
その時――
「皆様!」
突然、聞き慣れない声が響く。
全員が振り返る。
そこには――
華やかな衣装を身に纏い、耳には特徴的な装飾品をつけた一人の男が立っていた。
男は貴族のように優雅に一礼する。
「初めまして!」
「私の名は――帝牙!」
「葛羅波美地が、新たな貿易協力者を探していると聞きましてね。」
一人の貴族が眉をひそめる。
「お前は……我々に何をもたらせる?」
帝牙は笑った。
「もし、ただ金を持ってくるだけなら……そんな理想は、あまりにも小さい!」
帝牙は書類を机の上へ置く。
「大量の資金!」
「武器!」
「そして――葛羅波美地を飛躍的に発展させる技術!」
「私の工場を、この国に進出させていただけるのなら――」
帝牙は口元を吊り上げる。
「この国の可能性は……すべて実現できるでしょう!!!」
貴族たちがざわめき始める。
その少し離れた場所では――
戴維が黙ってその光景を見つめていた。
その時。
帝牙の視線と――
戴維の視線が交わる。
二人は何も言わない。
ただ――
帝牙だけが、意味深な笑みを浮かべた。
⸻
(深夜――)
戴維の部屋。
コンコン。
「……誰だ?」
「私です。」
扉がゆっくり開く。
そこに立っていたのは――
帝牙。
戴維は眉をひそめる。
「何の用だ?」
帝牙は答えない。
そのまま部屋の中へ入り、窓辺へ歩いていく。
そして遠くに広がる王都を眺める。
城壁の内側。
そして――
城壁の外側。
葛羅波美地という国そのものを。
「この街……いや、この国は……美しいですね。」
「ですが――」
帝牙が振り返る。
「実に残念だ。」
「……何?」
「今、王座に座っている男は――」
帝牙は微笑む。
「この国の美しさを……理解していない。」
戴維の表情が変わる。
「……お前は何が言いたい?」
帝牙は笑った。
「もし……あなたなら。」
「葛羅波美地は、もっと素晴らしい国になるかもしれない。」
戴維は黙り込む。
「……俺のことを調べたのか?」
「もちろん!」
帝牙は一枚の書類を取り出す。
「この国の第二王子。」
「王族の血を引き、軍の一部と貴族たちからも、一定の支持を得ている。」
そして――
帝牙は書類をしまう。
「しかし、残念ながら……」
「あなたの兄上は、すでに王座に座っている。」
戴維は拳を握り締める。
「……それで?」
「お前は……何が言いたい?」
帝牙は一歩、近づく。
「では――一つ質問しましょう。」
「もし、いつか……」
「あなたに王になる機会が訪れたとしたら。」
「あなたは……王になりたいですか?」
戴維は長い沈黙の後――
静かに答えた。
「……代償は?」
帝牙は笑う。
「実に簡単ですよ。」
「私の工場を……葛羅波美地へ入れていただきたい。」
戴維は眉をひそめる。
「工場……?」
「そう!」
帝牙は力強く答える。
「私には土地が必要だ。」
「輸送路も必要だ。」
「そして――王室の許可も。」
帝牙は戴維を見る。
「あなたには王座に座る機会が必要。」
「私には……それを実現するための場所が必要。」
戴維は帝牙を睨む。
「……俺を利用するつもりか?」
「いいえ。」
帝牙は笑う。
「これは……『協力』です。」
「私が、あなたに夢見た王座を与える。」
「そしてあなたが、私に必要なものを与える。」
戴維は黙り込む。
帝牙は背を向け、部屋を出ようとする。
しかし――
「……そうそう。」
帝牙が足を止める。
「あなたには、まず……」
ゆっくりと振り返る。
「すべての人間に信じさせる必要がある。」
「あなたの兄上には――」
「もう、王としての資格がないのだと。」
戴維の瞳が僅かに揺れる。
「……兄上を殺せというのか?」
戴維の声には怒りが混じっていた。
「いいえ。」
帝牙は振り返る。
「そんなやり方は……あまりにも粗暴だ。」
そして――
笑う。
「あなた自身の手で……」
「彼から王座を失わせるのです。」
⸻
(数ヶ月後――葛羅波美地・東北部森林)
次々と巨大な工場が建設されていく。
大量の作業員が建設区域へ入っていく。
そして――
王都の城。
一枚。
また一枚。
国王のもとへ大量の書類が届けられる。
「食料価格の上昇……?」
「また……国民が失踪した?」
「国民からの信頼も低下している……」
問題が次々と発生していた。
戴豪は眉をひそめる。
「……なぜ、突然こんなことに……?」
しかし――
彼は知らなかった。
これらの問題は――
突然発生したものではない。
誰かが裏側で――
少しずつ。
少しずつ。
この国を動かしていたのだ。
⸻
(数日後――深夜)
戴豪は一人、書斎にいた。
机の上には大量の調査資料。
「血魔剤……地下取引……失踪者……?」
戴豪の表情が徐々に険しくなる。
「これらの事件……一体、何が繋がっている?」
その時――
書斎の外。
一人の影が静かに立っていた。
――戴維。
彼の手には、一枚の書類が握られている。
「兄上……」
その目から、温かさが消えていく。
「……やはり、調べ始めたか。」
⸻
(数日後――)
王都広場。
大量の国民が集まっていた。
手には布やプラカード。
人々は一斉に声を上げる。
「説明しろ!!」
「なぜ食料がこんなに高くなったんだ!」
「国王は一体何をしている!?」
混乱する群衆の中――
誰かが叫んだ。
「もう国王には、この国を治める力がない!」
「戴維王子に王位を譲れ!」
「戴維王子!!」
「戴維王子!!」
声は次第に大きくなっていく。
その群衆の後方。
戴維は――
ただ静かに、その光景を見つめていた。
そして彼の隣。
影の中に――
帝牙が立っていた。
「見えますか?」
帝牙が小さな声で呟く。
「あと……最後の一歩だけです。」
戴維は答えない。
ただ――
拳をゆっくりと握り締める。
「兄上……」
「これは……あなた自身が招いたことだ。」
⸻
(城・夜)
戴豪は王座の前に立っていた。
その時――
背後から複数の兵士が近づく。
「陛下!」
「王冠をお渡しください!」
戴豪は信じられないという表情で振り返る。
「……お前たち。」
「自分たちが何をしているのか……分かっているのか?」
一人の貴族が前へ出る。
「もちろん分かっています!」
「葛羅波美地の未来のためです!」
戴豪の瞳が揺れる。
「我々は……もう、あなたにこの国を治め続けてほしくはない!」
戴豪はゆっくりと振り返る。
そして――
群衆の後ろに立つ人物を見た。
「……戴維?」
「お前なのか……?」
二人の視線が交わる。
戴維は何も言わない。
ただ、冷たい目で兄を見つめている。
戴豪は一歩。
また一歩。
弟へ近づく。
「なぜ……?」
戴維は俯く。
そして――
「理由なんて……簡単ですよ。」
顔を上げる。
「俺も……王になりたかった。」
「ただ、それだけです。」
戴豪の身体が震える。
「お前は本当に……」
「王座に座れば、国民が幸せになれると思っているのか?」
戴維は兄を見つめる。
「少なくとも……俺はあなたのようにはならない。」
「ただ王座に座って――」
「この国がゆっくり腐っていくのを眺めているだけの王にはな。」
戴豪は目を見開く。
「……違う。」
「本当に腐っているのは……」
戴豪の視線が戴維を越える。
その先――
城の入口に立つ男。
帝牙。
「……この国ではない。」
戴豪の目が鋭くなる。
「……あいつか?」
「すべて……あいつが仕組んだのか?」
帝牙は――
ただ笑った。
狂気すら感じさせる、余裕に満ちた笑み。
次の瞬間――
「国王を捕らえろ!!」
号令と同時に、兵士たちが一斉に戴豪へ襲い掛かった。
「くっ……!」
戴豪は抵抗する。
しかし――
数で押さえ込まれ、武器を奪われる。
そして――
王冠が頭から落ちた。
カラン――
王冠が床へ転がる。
戴維はゆっくりとそれを拾い上げる。
そして――
王座へ歩いていく。
「これからは……」
戴維は王冠を頭へ乗せる。
「すべて……俺のものだ。」
そして――
戴維は王座へ腰を下ろした。
⸻
(事件後――東北部・森林外の工場区域)
巨大な機械が轟音を上げながら稼働している。
赤い液体が巨大な容器へ流れ込む。
運搬。
集積。
配送。
すべてが機械的に行われていた。
そして――
地下。
そこには無数の牢獄が並んでいた。
中には、様々な人間たちが閉じ込められている。
その隣には大量の培養槽。
管が人間や魔鬼の身体へと繋がれ、様々な実験が行われていた。
その光景を見ながら――
帝牙は笑う。
「ついに……」
「この国は完全に私のものになった!」
その背後には――
新たな国王となった戴維。
戴維がゆっくりと歩み寄る。
「約束は……果たしたな。」
帝牙は振り返る。
「ああ、もちろん!」
「ならば……」
帝牙は笑みを浮かべる。
「今度は、あなたが私との約束を果たす番ですよ。」
戴維は巨大な工場を見つめる。
「葛羅波美地……」
帝牙は笑った。
「いいえ。」
「違いますよ。」
「――『我々の』葛羅波美地です。」
⸻
(同時刻――城壁外・地下闘技場)
巨大な鉄門が、ゆっくりと閉じていく。
「殺せぇぇぇ!!」
「賭けるぞ!!」
「もう一回だ!!」
観客たちは狂ったように叫び続ける。
舞台の上では――
今も殺戮が繰り返されている。
そして、その最上階。
そこに――
一人の巨大な男がいた。
体格は極めて大きく、筋骨隆々。
顔には巨大で、乱雑な髭が生えている。
地下世界の人間たちから――
「ヒゲ野郎」と呼ばれる男。
地下闘技場の主人――
ワトルド。
ワトルドは静かに舞台を見下ろしていた。
その手には、一枚の名簿。
「こいつは……ダメだな。」
「弱すぎる。」
ページをめくる。
「こいつも……まだダメだ。」
さらにページをめくる。
その時――
ワトルドの目が止まった。
舞台上。
一人の挑戦者が――
凄まじい力を爆発させ、対戦相手を打ち倒した。
ワトルドの口元がゆっくりと吊り上がる。
「……こいつだ。」
「そいつを連れてこい。」
隣にいた男が驚く。
「ボス……どこへ連れていくんです?」
ワトルドは答えない。
ただ、ゆっくりと名簿を閉じる。
「……お前が知る必要はない。」
そう言って――
ワトルドは部下の肩を軽く叩いた。
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(回想終了――現在・山洞)
炎恩は――
話を聞き終えても、しばらく動かなかった。
瞳孔が何度も揺れる。
身体は怒りと無力感で震えている。
「……そんな……」
「そんなことが……あったのか……!?」
炎恩は歯を食いしばり、拳を握り締める。
戴豪は俯いた。
「私の弟……戴維が王位を手にしてから……」
その声は、徐々に重くなっていく。
「この国は……良くなるどころか……」
「少しずつ……」
「帝牙に……喰われていった。」
「喰われた……?」
炎恩は眉をひそめる。
戴豪は顔を上げた。
「工場など……まだ始まりにすぎない。」
「帝牙が本当に欲しかったものは――」
「葛羅波美地の土地ではない。」
一拍。
「この国の――」
「『人間』と『資源』だ。」
「……何だって?」
炎恩の瞳が大きく見開かれる。
「地下闘技場。」
「失踪者。」
「血魔剤。」
「すべて……同じ一つの事件に繋がっている。」
戴豪は拳を強く握る。
「帝牙は、地下闘技場の主人――ヒゲ野郎、ワトルドと手を組んでいる。」
「お前が聞いたこと……見たこと。」
「闘技場で戦っていた者たちは――」
「単に人生を変えるために戦っていたわけではない。」
「彼らは……『資源』だった。」
炎恩の顔が徐々に険しくなる。
「そして……」
戴豪は続ける。
「最後まで生き残り、特殊な能力を見せた者たちは――」
「工場の地下深くへ送られる。」
「……その先は?」
炎恩の声が震える。
戴豪は静かに答えた。
「人体実験だ。」
炎恩の身体が――
完全に固まる。
「血魔剤の精製……」
「改造魔鬼の実験……」
「人体強化……」
炎恩が勢いよく立ち上がる。
「じゃあ……あいつらは……!」
「そうだ。」
戴豪は目を閉じる。
「彼らは……あの闘技場から、本当の意味で出ることなどなかった。」
「勝利すれば自由になれる……」
「富と栄光を手に入れられる……」
「そんなものは……全部、嘘だった。」
戴豪の声が震える。
「最初から……仕組まれていた。」
「ただ……場所を変えて、苦しみ続けるだけだったんだ。」
山洞の中が――
静寂に包まれる。
炎恩は拳を握り締める。
「……あの野郎……!」
その瞬間――
国全体の放送システムが、一斉に警報を鳴らした。
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(王都・街区)
黒龍とヨギは、少し離れた路地裏へ逃げ込んでいた。
「……私たち、見つかっちゃったみたいですね……!」
ヨギは通信機を操作しながら、他の仲間たちへ何度も連絡を試みる。
「でも……誰とも連絡がつかない!」
黒龍は周囲を警戒する。
「……他のみんなも、何かに巻き込まれているはずだ。」
その時――
警報が鳴り響いた。
黒龍とヨギが同時に顔を上げる。
地下闘技場にいるレノとアイヴェル。
そして――
解放された人々も。
全員が、その音を聞いていた。
やがて――
警報が止む。
葛羅波美地全体が――
一瞬だけ、静寂に包まれる。
そして――
「……ザー……ザー……」
全国放送システムが再び起動する。
王都。
地下闘技場。
城壁の内外。
東北部の森。
そして――
山洞。
すべての人間が、動きを止めた。
炎恩が顔を上げる。
「……放送?」
黒龍が眉をひそめる。
「……王都の放送システムだ。」
レノも足を止める。
そして――
全国へ、声が響き渡る。
⸻
(王都・城――王座)
戴維は王座に座っていた。
頭には王冠。
その表情に笑みはない。
戴維は通信機を手に取る。
そして――
静かに口を開いた。
「葛羅波美地の国民諸君。」
「本日より――」
「我が国は全面的な改革を開始する。」
「軍事。」
「産業。」
「資源。」
「そして――すべてを、新たに統合する。」
戴維の声は、淡々としていた。
「これからの国家の前進を妨げる者は――」
「すべて……敵とみなす。」
⸻
(各地――)
黒龍が顔を上げる。
レノは拳を握り締める。
アイヴェルは空を見つめる。
そして――
救出された奴隷たちは、ただ呆然と放送を聞いていた。
戴維の声は、なおも続く。
「国民の皆さん。」
「王室と――私の決断を信じてほしい。」
そして――
一瞬の間。
「本日をもって――」
「飛龍騎士団を……」
「国家に対する反逆者とみなす。」
放送が――
終了する。
静寂。
戴維は王座に座ったまま、俯く。
そして――
隣に置かれていた通信機を手に取る。
「……言われた通りにやった。」
⸻
一方――
漆黒の部屋。
そこには、一人の男が座っていた。
顔は――
見えない。
ただ、その口元だけが――
ゆっくりと笑う。
帝牙。
「……よくやった。」
通信が――
途切れた。
⸻
(場面は東北部の森へ――)
ドォォォン!!!
煙が晴れる。
そこには――
破壊され尽くした森林。
倒れた木々。
荒れ果てた大地。
その中央に――
ワトルドが立っていた。
そして――
彼の足元。
鉄の鎖に拘束されている三人。
マジェシー。
マンディ。
カエサル。
三人とも身体中に傷を負い――
すでに反撃する力を失っていた。
「くそ……!」
マンディは歯を食いしばる。
「離せ……!」
ワトルドは――
一切、反応しない。
ただ、しゃがみ込む。
そして三人の資料を手に取った。
名簿をめくる。
一枚。
また一枚。
そして――
ワトルドの手が止まる。
口元が――
ゆっくりと吊り上がっていく。
「…………」
一瞬の沈黙。
そして――
「どうやら今回の『素材』は……」
「……実に上物らしいな。」
第四話「王座の下」を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、これまで少しずつ描いてきた「血魔剤」「地下闘技場」「失踪者」「工場」、そして「帝牙」に隠された繋がりが、ついに明らかになりました。
かつて平和だった葛羅波美地。
しかし、その王座の裏側では――二年前から少しずつ、国そのものが蝕まれていた。
そして今回、ついに飛龍騎士団までもが「国家の敵」として宣告されることになります。
ここから物語は、さらに大きく動き始めます。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
次回もぜひよろしくお願いします!




