↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《人間地獄》  作者: 翔欸
PR
4/14

第四話:王座の下

王国を蝕んでいた血魔剤。

地下闘技場で繰り返される殺戮。

そして、すべての裏側で暗躍する男――帝牙。


一方、炎恩たちはかつての王・戴豪から、葛羅波美地で起きた二年前の出来事を聞かされる。


王座を巡る兄弟の確執。

王国を利用した帝牙の策略。

そして、地下に隠された恐るべき真実。


やがて全国放送によって、飛龍騎士団は「敵」として宣告される。


王座の上に立つ者。

王座の下で蠢く者。


その国を支配しているのは――一体、誰なのか。

「何だって……? あなたが……かつての国王……? おい! 一体どういうことなんだ?!」


炎恩は、信じられないといった表情を浮かべる。


「そうだ……! 聞き間違いではない!」


老人がゆっくりと口を開く。


その隣では、戴豪が黙り込んでいた。


「我々が待ち続けた、その日がついに来た……。あとは……すべてを頼む!」


「何だよ……? 今、一体どういう状況なんだよ! 誰か俺に説明してくれ!」


炎恩は困惑しながら、老人の両肩を掴んだ。


すると――


戴豪がゆっくりと歩み寄ってきた。


⸻


(場面は地下闘技場へ――)


観客たちは、相変わらず歓声を上げていた。


闘技場の舞台では、人生を変えるために挑戦者たちが命を懸けて戦い続けている。


その瞬間――


柵の入口から、突然、炎が噴き上がった。


ドォォォン――!!!


凄まじい爆発音が闘技場全体に響き渡る。


大量の煙が入口から吹き出し、その中から一つの人影が吹き飛ばされてきた。


そして――


爆煙の向こうから姿を現したのは、大量の改造魔鬼兵団だった。


凄まじい衝撃に観客たちは次々と地面へ叩き倒される。


戦っていた挑戦者たちも、この隙に慌てて逃げ出していく。


やがて観客たちが立ち上がり、舞台へ目を向ける。


「これは……?」


「最新のショーか?」


次の瞬間――


闘技場全体から、大きな歓声が巻き起こった。


煙が晴れる。


その中から――


レノがゆっくりと歩いてくる。


「やっぱり……なかなか手強いな……」


レノは口元に流れた血を拭う。


そして――


全身から、先ほどとは比べ物にならないほど強烈な電撃が迸る。


その眼には、恐怖など一切なかった。


「そっちこそ……大人しく言うことを聞けばいいのに!」


そう言い放ったのは――


手に鞭を握り、看守のような服装に身を包んだ一人の女。


九條荊。


次の瞬間――


黄色い雷光が一気に駆け抜ける!


炎を纏った稲妻のように、レノは魔鬼兵団の間を縦横無尽に駆け回る。


一撃。


二撃。


拳。


蹴り。


凄まじい速度と威力の連撃が、改造魔鬼たちを次々と吹き飛ばしていく。


それを見た観客たちは――


さらに興奮した。


「すげぇぇぇ!!」


「もっとやれ!!」


「殺せぇぇぇ!!」


歓声と拍手が闘技場を包み込む。


その一方で、荊は鞭を振るい続ける。


その背後から、さらに大量の魔鬼たちが現れる。


「……やっぱり、あの女が操っているのか……」


レノは高速で移動しながら、冷静に状況を分析する。


「もしあの鞭に当たったら……厄介だな……!」


【人物・能力紹介】


九條荊。


能力――「支配」。


手にした鞭を非人間の生命体――動物や、完全に魔鬼化した存在などに命中させることで、その対象を支配することができる。


支配できる時間は、およそ五分。


ただし、同時に操る生物が多くなるほど、使用者の体力を大きく消耗する。


⸻


「逃げるなぁぁぁ!!」


荊は何度も鞭を振るう。


そして――


手元のスイッチを押した。


改造魔鬼たちの背中に取り付けられた血魔剤の装置が作動する。


ブシュッ――!


強制的に血魔剤が注入される。


「グオオオオオオオオ!!!」


魔鬼たちは一斉に咆哮を上げた。


その身体はさらに膨張し、理性を失ったかのように凶暴化する。


そして――


一斉にレノへ襲い掛かった!


「くっ……!」


激しい衝撃波が周囲へ広がり、観客席まで吹き飛ばす。


「な、何だ……!?」


「これ……本当にショーなのか!?」


「逃げろ!!」


ようやく観客たちは異変に気付いた。


一斉に出口へ向かって走り出す。


しかし――


ガシャン!!!


突然、巨大な柵が次々と降りてくる。


すべての出入口が完全に封鎖された。


「逃げる?」


荊は口元を歪める。


「これ……あなたたちが見たかったんでしょう?」


そして――


病的な笑みを浮かべる。


「せっかくお金を払って入ったんだから……」


「最後まで、ゆっくり楽しんでいってよ!」


「アハハハハハハハハハ!!!」


その狂った笑い声が、闘技場全体に響き渡った。


⸻


レノは再び高速で駆ける。


迫り来る魔鬼たちの攻撃を次々と回避し、わずかな隙を見つけて反撃する。


両手から大量の電撃が迸る。


やがてそれは一本の巨大な雷の槍へと収束していく。


「はぁぁぁぁっ!!」


雷槍が一直線に放たれ、魔鬼たちを次々と貫いていく。


一体。


また一体。


改造魔鬼たちが次々と倒れていく。


しかし――


荊はさらに魔鬼を呼び出していく。


「行け! 行け! 行けぇぇぇ!!」


「役立たずどもがぁぁぁ!!」


レノはその光景を見ながら――


ふと、ある考えに辿り着いた。


「……そうか。」


そして――


足を止める。


全身に、凄まじい電気が集まり始める。


バチバチバチバチッ!!!


周囲にまで電撃が広がっていく。


レノは低く身を沈め――


まるで獲物へ飛び掛かる獣のように、構えた。


次の瞬間――


ドンッ!!!


「……え?」


荊が瞬きをした、その一瞬。


レノは――


すでに目の前にいた。


「賊を捕らえるなら……まず頭を討つ!」


「なっ――!?」


荊は慌てて鞭を振るう。


しかし――


遅い。


レノは一切の隙を与えない。


「轟雷波――連打ッ!!!」


ドドドドドドドドドッ!!!


雷鳴のような拳が、嵐のように荊の身体へ叩き込まれていく。


一撃。


二撃。


三撃。


無数の雷撃を纏った拳が、容赦なく彼女を打ち抜く。


「ぐ……あ……っ!」


身体が麻痺し、荊はその場へ崩れ落ちた。


そして――


彼女が意識を失った瞬間。


「グオオオオオオオオ!!!」


魔鬼たちを支配していた力が消えた。


「……え?」


次の瞬間――


改造魔鬼たちは完全に制御を失った。


敵も味方も関係なく、周囲にいるすべてのものへ襲い掛かっていく。


兵士たちも。


観客たちも。


そして――


自分たちを操っていた荊までも。


「ちょ、ちょっと待って……!」


荊は必死に立ち上がろうとする。


しかし、その目の前に――


巨大な改造魔鬼が立ちはだかった。


「ひっ……!」


身体が震える。


「ま、待って! 私は……!」


「あなたたちの……主人でしょう!?」


ドォォォン!!!


⸻


制御を失った改造魔鬼たちは止まらない。


闘技場を縦横無尽に駆け回り、建物を破壊しながら暴れ続ける。


「助けてぇぇぇぇ!!!」


「扉が開かない!!」


「どけぇぇぇ!!」


「早く逃げろ!!!」


つい先ほどまで歓声に包まれていた闘技場は――


今や、地獄そのものと化していた。


人々は理性を失ったかのように、出口へ殺到する。


しかし――


ドンッ!!!


巨大な魔鬼の拳が、人の群れへ叩き込まれた。


鮮血が観客席へ飛び散る。


「……え?」


一人の男が、呆然とした表情で自分の頬に付着した血を見る。


身体が完全に固まっていた。


ほんの数分前まで――


彼は興奮しながら、手にした賭け券を掲げていた。


「そいつを殺せぇぇ!!」


「もう一回だ!!」


「賭けるぞ! 賭けるぞ!!」


「もっと上乗せしろ!!」


その声は今――


すべて悲鳴へと変わっていた。


「嫌だ……」


「死にたくない……」


「誰か……助けてくれ!!!」


レノが足を止める。


振り返ると――


一人の観客が倒れたまま、必死にレノのズボンを掴んでいた。


「頼む……」


「俺を……助けてくれ……!」


レノは黙って男を見下ろす。


男は震えながら、闘技場の中を指差した。


「あ、あの怪物たち……!」


「お前……あいつらに勝てるんだろ……?」


「だったら……俺たちを助けてくれよ……!」


レノはしばらく黙っていた。


そして――


ゆっくりと闘技場全体を見渡す。


脳裏に浮かんだのは――


先ほどまで内部に閉じ込められていた人々。


無理やり戦わされていた奴隷たち。


そして今――


自分の目の前で逃げ惑っている人々。


つい数分前まで――


彼らの死を、楽しそうに眺めていた人々。


レノは拳を強く握り締める。


「……俺は……」


一瞬、言葉を止める。


「助けられる人は……助ける。」


男の手を、自分の身体からゆっくりと引き剥がす。


「……でも、全員じゃない。」


「……え?」


レノは背を向ける。


「お前たちは……ここがどんな場所なのか、最初から知っていたはずだ。」


男は何も言えない。


「……ただ、自分の身に死が降りかかるまでは……」


レノは一瞬だけ立ち止まる。


「それが……『他人のこと』だと思っていたんだろ。」


そう言い残し――


レノは振り返ることなく、闘技場の奥へと走っていった。


その背後では――


再び、無数の悲鳴が闘技場全体に響き渡っていた。


⸻


「そっちはどうなってる?」


レノは通信機を取り出し、アイヴェルへ連絡する。


「こっちは……あなたのおかげで、あのデカい化け物たちを外へ誘導できたわ……」


アイヴェルは、倒れた兵士の身体に腰を下ろしていた。


その周囲には――


解放された奴隷たち。


「……閉じ込められていた人たちは、全員解放した。」


「よし……!」


レノは頷く。


「今は……まず、みんなをここから逃がすことが先だ!」


⸻


(場面は東北部の森と工場へ――)


「逃がすなぁぁぁ!!」


森の中。


王都から派遣された兵士たちと、マジェシー、カエサル、マンディが激しく交戦していた。


「撃てぇぇぇ!!」


周囲から大量のロケット弾が飛来する。


その瞬間――


カエサルが能力を発動した。


両腕、そして胸部へ紋様が浮かび上がる。


それは徐々に全身を覆い――


巨大な鎧へと変化していく。


ドォォォン!!!


ロケット弾が直撃する。


しかし――


カエサルはその場で攻撃を受け止めた。


【人物・能力紹介】


カエサル。


能力――「鎧」。


身体の一部を極めて硬い鎧へと変化させ、最終的には全身を鎧で覆うことができる。


ただし、鎧が硬くなればなるほど、身体への負担と体力の消耗も大きくなる。


カエサルは背中から巨大な斧を取り出す。


「俺についてこい!!」


そして――


敵陣へ突撃した。


一方、マジェシーは突然マントを翻し、懐から短剣を取り出す。


銃弾を軽やかにかわしながら、木々の間を飛び回る。


そして一瞬の隙を突き――


一人の兵士へ飛び掛かった。


「ぐあっ!」


一瞬で懐へ入り込み、流れるような近接格闘を繰り出す。


急所へ正確に攻撃を叩き込み、兵士を倒す。


そのまま敵の銃を奪い――


「……!」


敵へ向けて一斉射撃。


「す、すごい……!」


マンディは目を輝かせる。


「私と同じで能力を持っていないのに……あんなに凄い戦い方ができるなんて!」


「見惚れてる場合じゃない!」


その瞬間――


マジェシーがマンディの目の前へ瞬時に移動した。


「危ない!」


マジェシーはマンディを抱き寄せ、そのまま大量の銃弾をかわす。


二人はそのまま遮蔽物の裏へ滑り込んだ。


「マジェシーさん……!」


マンディは強い眼差しで彼女を見る。


「私も……いつかマジェシーさんみたいに強くなりたい!」


マジェシーは一瞬だけ呆れた顔をする。


「……はぁ。」


そして――


小さく笑った。


「それ、もう三年も聞いてるんだけど?」


「……えへへ。」


「でも……答えはいつも同じ。」


マジェシーはマンディの肩へ手を置く。


「――あなたなら、できる。」


マンディの瞳が輝く。


「……はい!」


マジェシーは周囲を確認する。


「いい? 次は――」


二人はタイミングを見計らう。


次の瞬間――


ドォォォン!!!


遮蔽物が爆発する。


二人は同時に飛び出し、攻撃をかわす。


マンディは二丁の銃を構える。


そして特殊なレーザーゴーグルを装着。


「ターゲット……ロック!」


森の木々に隠れていた敵兵を正確に捉え――


「撃つ!」


バンッ! バンッ! バンッ!


銃弾が敵を次々と撃ち抜いていく。


一方、マジェシーは敵兵からロケットランチャーを奪い取る。


「これ、借りるわ!」


そして――


敵陣へ向けて、容赦なく砲撃を開始した。


その瞬間――


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――!!!


「……地震!?」


カエサルが異変に気付く。


大地が激しく揺れ始めた。


「な、何だ……!?」


次の瞬間――


地面に巨大な亀裂が走る。


ズズズズズ……!


木々の根が地面から一気に突き出し、巨大な岩が次々とせり上がる。


そして――


森の外周全体が、巨大な岩壁によって完全に囲まれた。


「これは……一体……?」


カエサルは必死に身体を支える。


すると――


目の前に、一人の人影が現れた。


その人物は――


手を大地へ触れている。


「まさか……あいつも魔鬼能力者なのか……?」


カエサルは驚愕する。


「まずい……!」


マンディが周囲をスキャンする。


「私たち……完全に包囲されてる!」


「……あれは……何?」


マジェシーが空を見上げる。


そして――


三人の頭上に――


巨大な黒い影が広がっていった。


空も。


大地も。


すべてを覆い尽くすほどの――


巨大な影が。


⸻


(場面は山洞の内部へ――)


「おい! 爺さん! ちゃんと説明してくれよ!」


炎恩が老人の肩を揺さぶる。


周囲の人々が必死に止めようとする。


「炎恩、落ち着け!」


その時――


戴豪がゆっくりと歩いてきた。


「……二年前。」


炎恩が動きを止める。


振り返る。


戴豪は静かに口を開いた。


「この国は……こんな国ではなかった。」


「二年前……葛羅波美地は、まだ平和だった。」


炎恩は黙って話を聞く。


「すべての始まりは……」


戴豪は拳を握る。


「『帝牙』という男だった。」


「……帝牙?」


炎恩はゆっくりと腰を下ろす。


「詳しく……聞かせてもらえますか?」


老人は小さく息を吐いた。


「我々にも……責任があった。」


炎恩は唾を飲み込む。


そして――


戴豪は、過去を語り始めた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(回想――二年前)


「グロボメディ――王都」


太陽の光が王都を照らしている。


大通りでは人々が行き交い、商人たちは声を張り上げ、子供たちは街中を走り回っていた。


今の葛羅波美地とは違う。


かつてこの国には――


笑顔が溢れていた。


⸻


城の中。


「兄上……最近、この国はますます良くなっているようですね。」


窓辺に立ち、街を見下ろす一人の男。


彼は当時の王子の一人。


戴豪の弟――戴維。


「そうだな……」


戴豪は王座に座り、手にした国家報告書へ目を通している。


「葛羅波美地が、この平和をいつまでも守っていけるように――」


「我々王族が、民を守らなければならない。」


弟はしばらく黙っていた。


そして――


「……兄上。」


「ん?」


戴豪が振り返る。


「もし……いつか。」


戴維は静かに口を開く。


「俺も……王になりたいと言ったら?」


戴豪は一瞬、驚いた。


しかし――


「ははは……お前は昔から変わらないな。」


戴豪は笑った。


「王座は、俺たち兄弟が奪い合うためのものじゃない。」


「民が幸せに暮らせるなら……」


「誰が王になったって、同じじゃないか?」


戴維は俯く。


「……そう……ですか。」


彼の顔に笑みが浮かぶ。


しかし――


その笑顔の奥には。


別の感情が隠されていた。


⸻


(数ヶ月後――城・王都)


王座の前。


戴豪は正式に王冠を戴く。


「今日この日より――」


「私は葛羅波美地の国王として、この国土と――」


「すべての民を守ることを誓う!」


「うおおおおおおおおお!!!」


城の外から、人々の歓声が響き渡る。


戴豪は王座の前に立ち、民からの祝福を受けていた。


その群衆の中で――


戴維はただ静かに立っていた。


彼の視線は――


王冠から離れない。


「戴維?」


戴豪が振り返る。


「どうした?」


「何でもありません!」


戴維は顔を上げ、笑顔を作る。


「兄上……ご即位、おめでとうございます!」


「ははは! ありがとう!」


戴豪は歩み寄り、戴維の肩を叩く。


「これからも、一緒に頑張ろう!」


戴維は俯いた。


「……はい。」


しかし――


戴豪が背を向けた瞬間。


戴維の笑顔は消えた。


「一緒に頑張ろう……?」


「ふっ……」


「王座は……一つしかない。」


⸻


(数日後――)


城・会議室。


数名の貴族たちが、国の未来について話し合っていた。


その時――


「皆様!」


突然、聞き慣れない声が響く。


全員が振り返る。


そこには――


華やかな衣装を身に纏い、耳には特徴的な装飾品をつけた一人の男が立っていた。


男は貴族のように優雅に一礼する。


「初めまして!」


「私の名は――帝牙!」


「葛羅波美地が、新たな貿易協力者を探していると聞きましてね。」


一人の貴族が眉をひそめる。


「お前は……我々に何をもたらせる?」


帝牙は笑った。


「もし、ただ金を持ってくるだけなら……そんな理想は、あまりにも小さい!」


帝牙は書類を机の上へ置く。


「大量の資金!」


「武器!」


「そして――葛羅波美地を飛躍的に発展させる技術!」


「私の工場を、この国に進出させていただけるのなら――」


帝牙は口元を吊り上げる。


「この国の可能性は……すべて実現できるでしょう!!!」


貴族たちがざわめき始める。


その少し離れた場所では――


戴維が黙ってその光景を見つめていた。


その時。


帝牙の視線と――


戴維の視線が交わる。


二人は何も言わない。


ただ――


帝牙だけが、意味深な笑みを浮かべた。


⸻


(深夜――)


戴維の部屋。


コンコン。


「……誰だ?」


「私です。」


扉がゆっくり開く。


そこに立っていたのは――


帝牙。


戴維は眉をひそめる。


「何の用だ?」


帝牙は答えない。


そのまま部屋の中へ入り、窓辺へ歩いていく。


そして遠くに広がる王都を眺める。


城壁の内側。


そして――


城壁の外側。


葛羅波美地という国そのものを。


「この街……いや、この国は……美しいですね。」


「ですが――」


帝牙が振り返る。


「実に残念だ。」


「……何?」


「今、王座に座っている男は――」


帝牙は微笑む。


「この国の美しさを……理解していない。」


戴維の表情が変わる。


「……お前は何が言いたい?」


帝牙は笑った。


「もし……あなたなら。」


「葛羅波美地は、もっと素晴らしい国になるかもしれない。」


戴維は黙り込む。


「……俺のことを調べたのか?」


「もちろん!」


帝牙は一枚の書類を取り出す。


「この国の第二王子。」


「王族の血を引き、軍の一部と貴族たちからも、一定の支持を得ている。」


そして――


帝牙は書類をしまう。


「しかし、残念ながら……」


「あなたの兄上は、すでに王座に座っている。」


戴維は拳を握り締める。


「……それで?」


「お前は……何が言いたい?」


帝牙は一歩、近づく。


「では――一つ質問しましょう。」


「もし、いつか……」


「あなたに王になる機会が訪れたとしたら。」


「あなたは……王になりたいですか?」


戴維は長い沈黙の後――


静かに答えた。


「……代償は?」


帝牙は笑う。


「実に簡単ですよ。」


「私の工場を……葛羅波美地へ入れていただきたい。」


戴維は眉をひそめる。


「工場……?」


「そう!」


帝牙は力強く答える。


「私には土地が必要だ。」


「輸送路も必要だ。」


「そして――王室の許可も。」


帝牙は戴維を見る。


「あなたには王座に座る機会が必要。」


「私には……それを実現するための場所が必要。」


戴維は帝牙を睨む。


「……俺を利用するつもりか?」


「いいえ。」


帝牙は笑う。


「これは……『協力』です。」


「私が、あなたに夢見た王座を与える。」


「そしてあなたが、私に必要なものを与える。」


戴維は黙り込む。


帝牙は背を向け、部屋を出ようとする。


しかし――


「……そうそう。」


帝牙が足を止める。


「あなたには、まず……」


ゆっくりと振り返る。


「すべての人間に信じさせる必要がある。」


「あなたの兄上には――」


「もう、王としての資格がないのだと。」


戴維の瞳が僅かに揺れる。


「……兄上を殺せというのか?」


戴維の声には怒りが混じっていた。


「いいえ。」


帝牙は振り返る。


「そんなやり方は……あまりにも粗暴だ。」


そして――


笑う。


「あなた自身の手で……」


「彼から王座を失わせるのです。」


⸻


(数ヶ月後――葛羅波美地・東北部森林)


次々と巨大な工場が建設されていく。


大量の作業員が建設区域へ入っていく。


そして――


王都の城。


一枚。


また一枚。


国王のもとへ大量の書類が届けられる。


「食料価格の上昇……?」


「また……国民が失踪した?」


「国民からの信頼も低下している……」


問題が次々と発生していた。


戴豪は眉をひそめる。


「……なぜ、突然こんなことに……?」


しかし――


彼は知らなかった。


これらの問題は――


突然発生したものではない。


誰かが裏側で――


少しずつ。


少しずつ。


この国を動かしていたのだ。


⸻


(数日後――深夜)


戴豪は一人、書斎にいた。


机の上には大量の調査資料。


「血魔剤……地下取引……失踪者……?」


戴豪の表情が徐々に険しくなる。


「これらの事件……一体、何が繋がっている?」


その時――


書斎の外。


一人の影が静かに立っていた。


――戴維。


彼の手には、一枚の書類が握られている。


「兄上……」


その目から、温かさが消えていく。


「……やはり、調べ始めたか。」


⸻


(数日後――)


王都広場。


大量の国民が集まっていた。


手には布やプラカード。


人々は一斉に声を上げる。


「説明しろ!!」


「なぜ食料がこんなに高くなったんだ!」


「国王は一体何をしている!?」


混乱する群衆の中――


誰かが叫んだ。


「もう国王には、この国を治める力がない!」


「戴維王子に王位を譲れ!」


「戴維王子!!」


「戴維王子!!」


声は次第に大きくなっていく。


その群衆の後方。


戴維は――


ただ静かに、その光景を見つめていた。


そして彼の隣。


影の中に――


帝牙が立っていた。


「見えますか?」


帝牙が小さな声で呟く。


「あと……最後の一歩だけです。」


戴維は答えない。


ただ――


拳をゆっくりと握り締める。


「兄上……」


「これは……あなた自身が招いたことだ。」


⸻


(城・夜)


戴豪は王座の前に立っていた。


その時――


背後から複数の兵士が近づく。


「陛下!」


「王冠をお渡しください!」


戴豪は信じられないという表情で振り返る。


「……お前たち。」


「自分たちが何をしているのか……分かっているのか?」


一人の貴族が前へ出る。


「もちろん分かっています!」


「葛羅波美地の未来のためです!」


戴豪の瞳が揺れる。


「我々は……もう、あなたにこの国を治め続けてほしくはない!」


戴豪はゆっくりと振り返る。


そして――


群衆の後ろに立つ人物を見た。


「……戴維?」


「お前なのか……?」


二人の視線が交わる。


戴維は何も言わない。


ただ、冷たい目で兄を見つめている。


戴豪は一歩。


また一歩。


弟へ近づく。


「なぜ……?」


戴維は俯く。


そして――


「理由なんて……簡単ですよ。」


顔を上げる。


「俺も……王になりたかった。」


「ただ、それだけです。」


戴豪の身体が震える。


「お前は本当に……」


「王座に座れば、国民が幸せになれると思っているのか?」


戴維は兄を見つめる。


「少なくとも……俺はあなたのようにはならない。」


「ただ王座に座って――」


「この国がゆっくり腐っていくのを眺めているだけの王にはな。」


戴豪は目を見開く。


「……違う。」


「本当に腐っているのは……」


戴豪の視線が戴維を越える。


その先――


城の入口に立つ男。


帝牙。


「……この国ではない。」


戴豪の目が鋭くなる。


「……あいつか?」


「すべて……あいつが仕組んだのか?」


帝牙は――


ただ笑った。


狂気すら感じさせる、余裕に満ちた笑み。


次の瞬間――


「国王を捕らえろ!!」


号令と同時に、兵士たちが一斉に戴豪へ襲い掛かった。


「くっ……!」


戴豪は抵抗する。


しかし――


数で押さえ込まれ、武器を奪われる。


そして――


王冠が頭から落ちた。


カラン――


王冠が床へ転がる。


戴維はゆっくりとそれを拾い上げる。


そして――


王座へ歩いていく。


「これからは……」


戴維は王冠を頭へ乗せる。


「すべて……俺のものだ。」


そして――


戴維は王座へ腰を下ろした。


⸻


(事件後――東北部・森林外の工場区域)


巨大な機械が轟音を上げながら稼働している。


赤い液体が巨大な容器へ流れ込む。


運搬。


集積。


配送。


すべてが機械的に行われていた。


そして――


地下。


そこには無数の牢獄が並んでいた。


中には、様々な人間たちが閉じ込められている。


その隣には大量の培養槽。


管が人間や魔鬼の身体へと繋がれ、様々な実験が行われていた。


その光景を見ながら――


帝牙は笑う。


「ついに……」


「この国は完全に私のものになった!」


その背後には――


新たな国王となった戴維。


戴維がゆっくりと歩み寄る。


「約束は……果たしたな。」


帝牙は振り返る。


「ああ、もちろん!」


「ならば……」


帝牙は笑みを浮かべる。


「今度は、あなたが私との約束を果たす番ですよ。」


戴維は巨大な工場を見つめる。


「葛羅波美地……」


帝牙は笑った。


「いいえ。」


「違いますよ。」


「――『我々の』葛羅波美地です。」


⸻


(同時刻――城壁外・地下闘技場)


巨大な鉄門が、ゆっくりと閉じていく。


「殺せぇぇぇ!!」


「賭けるぞ!!」


「もう一回だ!!」


観客たちは狂ったように叫び続ける。


舞台の上では――


今も殺戮が繰り返されている。


そして、その最上階。


そこに――


一人の巨大な男がいた。


体格は極めて大きく、筋骨隆々。


顔には巨大で、乱雑な髭が生えている。


地下世界の人間たちから――


「ヒゲ野郎」と呼ばれる男。


地下闘技場の主人――


ワトルド。


ワトルドは静かに舞台を見下ろしていた。


その手には、一枚の名簿。


「こいつは……ダメだな。」


「弱すぎる。」


ページをめくる。


「こいつも……まだダメだ。」


さらにページをめくる。


その時――


ワトルドの目が止まった。


舞台上。


一人の挑戦者が――


凄まじい力を爆発させ、対戦相手を打ち倒した。


ワトルドの口元がゆっくりと吊り上がる。


「……こいつだ。」


「そいつを連れてこい。」


隣にいた男が驚く。


「ボス……どこへ連れていくんです?」


ワトルドは答えない。


ただ、ゆっくりと名簿を閉じる。


「……お前が知る必要はない。」


そう言って――


ワトルドは部下の肩を軽く叩いた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(回想終了――現在・山洞)


炎恩は――


話を聞き終えても、しばらく動かなかった。


瞳孔が何度も揺れる。


身体は怒りと無力感で震えている。


「……そんな……」


「そんなことが……あったのか……!?」


炎恩は歯を食いしばり、拳を握り締める。


戴豪は俯いた。


「私の弟……戴維が王位を手にしてから……」


その声は、徐々に重くなっていく。


「この国は……良くなるどころか……」


「少しずつ……」


「帝牙に……喰われていった。」


「喰われた……?」


炎恩は眉をひそめる。


戴豪は顔を上げた。


「工場など……まだ始まりにすぎない。」


「帝牙が本当に欲しかったものは――」


「葛羅波美地の土地ではない。」


一拍。


「この国の――」


「『人間』と『資源』だ。」


「……何だって?」


炎恩の瞳が大きく見開かれる。


「地下闘技場。」


「失踪者。」


「血魔剤。」


「すべて……同じ一つの事件に繋がっている。」


戴豪は拳を強く握る。


「帝牙は、地下闘技場の主人――ヒゲ野郎、ワトルドと手を組んでいる。」


「お前が聞いたこと……見たこと。」


「闘技場で戦っていた者たちは――」


「単に人生を変えるために戦っていたわけではない。」


「彼らは……『資源』だった。」


炎恩の顔が徐々に険しくなる。


「そして……」


戴豪は続ける。


「最後まで生き残り、特殊な能力を見せた者たちは――」


「工場の地下深くへ送られる。」


「……その先は?」


炎恩の声が震える。


戴豪は静かに答えた。


「人体実験だ。」


炎恩の身体が――


完全に固まる。


「血魔剤の精製……」


「改造魔鬼の実験……」


「人体強化……」


炎恩が勢いよく立ち上がる。


「じゃあ……あいつらは……!」


「そうだ。」


戴豪は目を閉じる。


「彼らは……あの闘技場から、本当の意味で出ることなどなかった。」


「勝利すれば自由になれる……」


「富と栄光を手に入れられる……」


「そんなものは……全部、嘘だった。」


戴豪の声が震える。


「最初から……仕組まれていた。」


「ただ……場所を変えて、苦しみ続けるだけだったんだ。」


山洞の中が――


静寂に包まれる。


炎恩は拳を握り締める。


「……あの野郎……!」


その瞬間――


国全体の放送システムが、一斉に警報を鳴らした。


⸻


(王都・街区)


黒龍とヨギは、少し離れた路地裏へ逃げ込んでいた。


「……私たち、見つかっちゃったみたいですね……!」


ヨギは通信機を操作しながら、他の仲間たちへ何度も連絡を試みる。


「でも……誰とも連絡がつかない!」


黒龍は周囲を警戒する。


「……他のみんなも、何かに巻き込まれているはずだ。」


その時――


警報が鳴り響いた。


黒龍とヨギが同時に顔を上げる。


地下闘技場にいるレノとアイヴェル。


そして――


解放された人々も。


全員が、その音を聞いていた。


やがて――


警報が止む。


葛羅波美地全体が――


一瞬だけ、静寂に包まれる。


そして――


「……ザー……ザー……」


全国放送システムが再び起動する。


王都。


地下闘技場。


城壁の内外。


東北部の森。


そして――


山洞。


すべての人間が、動きを止めた。


炎恩が顔を上げる。


「……放送?」


黒龍が眉をひそめる。


「……王都の放送システムだ。」


レノも足を止める。


そして――


全国へ、声が響き渡る。


⸻


(王都・城――王座)


戴維は王座に座っていた。


頭には王冠。


その表情に笑みはない。


戴維は通信機を手に取る。


そして――


静かに口を開いた。


「葛羅波美地の国民諸君。」


「本日より――」


「我が国は全面的な改革を開始する。」


「軍事。」


「産業。」


「資源。」


「そして――すべてを、新たに統合する。」


戴維の声は、淡々としていた。


「これからの国家の前進を妨げる者は――」


「すべて……敵とみなす。」


⸻


(各地――)


黒龍が顔を上げる。


レノは拳を握り締める。


アイヴェルは空を見つめる。


そして――


救出された奴隷たちは、ただ呆然と放送を聞いていた。


戴維の声は、なおも続く。


「国民の皆さん。」


「王室と――私の決断を信じてほしい。」


そして――


一瞬の間。


「本日をもって――」


「飛龍騎士団を……」


「国家に対する反逆者とみなす。」


放送が――


終了する。


静寂。


戴維は王座に座ったまま、俯く。


そして――


隣に置かれていた通信機を手に取る。


「……言われた通りにやった。」


⸻


一方――


漆黒の部屋。


そこには、一人の男が座っていた。


顔は――


見えない。


ただ、その口元だけが――


ゆっくりと笑う。


帝牙。


「……よくやった。」


通信が――


途切れた。


⸻


(場面は東北部の森へ――)


ドォォォン!!!


煙が晴れる。


そこには――


破壊され尽くした森林。


倒れた木々。


荒れ果てた大地。


その中央に――


ワトルドが立っていた。


そして――


彼の足元。


鉄の鎖に拘束されている三人。


マジェシー。


マンディ。


カエサル。


三人とも身体中に傷を負い――


すでに反撃する力を失っていた。


「くそ……!」


マンディは歯を食いしばる。


「離せ……!」


ワトルドは――


一切、反応しない。


ただ、しゃがみ込む。


そして三人の資料を手に取った。


名簿をめくる。


一枚。


また一枚。


そして――


ワトルドの手が止まる。


口元が――


ゆっくりと吊り上がっていく。


「…………」


一瞬の沈黙。


そして――


「どうやら今回の『素材』は……」


「……実に上物らしいな。」

第四話「王座の下」を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回は、これまで少しずつ描いてきた「血魔剤」「地下闘技場」「失踪者」「工場」、そして「帝牙」に隠された繋がりが、ついに明らかになりました。


かつて平和だった葛羅波美地。

しかし、その王座の裏側では――二年前から少しずつ、国そのものが蝕まれていた。


そして今回、ついに飛龍騎士団までもが「国家の敵」として宣告されることになります。


ここから物語は、さらに大きく動き始めます。


最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

次回もぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。